S・カレル&T・シャラメ『ビューティフル・ボーイ』、音楽から読み解く父と子の物語

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ドラッグ依存に苦しむ若者と彼を支える家族の物語をジョン・レノンやティム・バックリィ、ニルヴァーナ、シガー・ロスらの楽曲に乗せて描いた映画『ビューティフル・ボーイ』が、まもなく日本公開を迎える。

◆『ビューティフル・ボーイ』予告編、画像

本作の原作となったのは、作家/ジャーナリストのデヴィッド・シェフと、薬物依存症を克服し現在は脚本家としても活躍するニック・シェフが、それぞれの視点で再生までの軌跡を綴った2冊の回顧録だ。依存症再発を繰り返し破滅の道を突き進む息子ニックを『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメ、彼を信じ支え続けた父親デヴィッドをスティーヴ・カレルが演じている。

デヴィッド・シェフはジャーナリストとしてニューヨーク・タイムズ紙やワイアード誌、ローリング・ストーン誌などに寄稿し、プレイボーイ誌でジョン・レノンの生前最後のロング・インタビューも担当した人物。ジョンの名曲に通じるタイトルを掲げた原作『Beautiful Boy: A Father's Journey Through His Son's Addiction』でも、音楽を通した父子の繋がりがいくつも描かれる。

全編でブルーグラス・ミュージックが鳴り響く『オーバー・ザ・ブルースカイ』、ソウルワックスが音楽を手がけた『ベルヒカ』などの作品で知られるフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン監督がメガホンをとった本作では、原作に登場するナンバーからサンファの書き下ろしによる新曲まで、年代やジャンルを超えてセレクトされた名曲の数々が物語に彩りを添えている。

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目を閉じて。怖がらないで。モンスターは逃げていった。パパがついてるよ。スティーヴ・カレル演じるデヴィッド・シェフが幼い息子のニックに歌って聴かせる「Beautiful Boy」は、1980年の12月に凶弾に倒れたジョン・レノンがその一ヶ月前、生前最後に発表したアルバム『Double Fantasy』の収録曲であり、オノ・ヨーコとの間に生まれた、当時5歳の息子ショーンに宛てて書かれたものだ。まだ駆け出しだった頃に雑誌『プレイボーイ』でジョンにロング・インタビューを行ったデヴィッドにとっても、それはきっと思い入れの深い曲だったに違いないが、音楽ライターである彼の回顧録を原作としているだけあって、本作のサウンドトラックはそのほとんどが既発曲だけで構成されており、物語を紐解く重要なヒントになっている。

たとえばデヴィッドが幼い頃のニックとドライヴするシーンでカー・ステレオから流れるのは、90年代を代表するグランジ・ロック・バンドのニルヴァーナ。ヘロイン中毒に苦しんでいたフロントマンのカート・コバーンは、60年代から活躍するシンガー・ソングライター、ニール・ヤングの歌詞から引用した“色褪せていくよりは燃え尽きたい”という遺書を残して自殺しているが、デヴィッドと2人目の妻カレンの結婚式のシーンで流れるのが、そのニール・ヤングの「Heart Of Gold」だというのがなんとも皮肉だ。

父親と息子が心を通わせるシーンで、年齢的にはニール・ヤングと同世代でありながら、時代を超えて愛されたデヴィッド・ボウイの「Sound and Vision」が流れるのも象徴的だが、基本的に本作で使われているのはニックの視点で、彼が劇中の年齢の時に聴いていたと思われる楽曲が中心となっている。その多くは“ポスト・ロック”と呼ばれるインストゥルメンタルのギター・ロック(モグワイ)やアンビエント・ノイズ(パン・ソニック)、テクノ(エイフェックス・ツイン)などであり、歌詞のメッセージというよりは、ドラッグによるバッド・トリップや、ハイになった状態を表現するために使われていると言っていいだろう(ニックを理解するためにドラッグを試してみたデヴィッドが爆音で聴くのが、60年代にドラッグ・カルチャーと繋がりの深かったジョン・コルトレーンのジャズだというのも、世代間のギャップを上手く表現している)。

そんな中で例外とも言えるのが、親子がサーフィンをするシーンで流れる「Song To The Siren」という曲だ。美しい歌声で船乗りを誘い、海の底に沈めるギリシア神話の人魚セイレーンをモチーフにしたこの曲を歌ったティム・バックリィは、ヘロインのオーバードースによって28歳の若さでこの世を去っているが、その忘れ形見であるシンガーのジェフ・バックリィもまた、30歳の若さで溺死を遂げている。映画の後半、ニックと海へ入ろうとする義理の弟ジャスパーを母親のカレンが止めるシーンがあるが、ニックも自分を止めてくれる実の母親が側にいれば、ドラッグに溺れずに済んだのだろうか。

そして映画のラストを飾るのが、UKの新世代R&Bシンガー、サンファが本作のために書き下ろした新曲「Treasure」だ。大切な“宝物”のために、過去を清算して立ち直ることを誓うこの曲は、言わばニックの世代の若者が書いた、「Beautiful Boy」へのアンサー・ソングなのかもしれない。エヴリシング──世界中のすべての言葉を集めても伝えきれない家族への想いを埋めてくれるのが、本作を彩る音楽なのだ。

文◎清水祐也

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『ビューティフル・ボーイ』は、4月12日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国の劇場で公開される。

『ビューティフル・ボーイ』

2019年4月12日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開
監督:フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン (『オーバー・ザ・ブルースカイ』アカデミー賞外国語映画賞ノミネート)
脚本:フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン/ルーク・デイヴィス (『LION/ライオン ~25年目のただいま~』)
出演:スティーヴ・カレル、ティモシー・シャラメ
製作:PLAN B (『ムーンライト』『それでも夜は明ける』) (C) 2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ/朝日新聞社 配給:ファントム・フィルム
【2018/アメリカ/120分/ビスタサイズ/R-15】 原題:Beautiful Boy beautifulboy-movie.jp

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