【連載】フルカワユタカはこう語った 第27回『平成最後の』

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1978年、昭和53年生まれ、満41、数えで42歳、本厄。

◆フルカワユタカ 画像

2018年末にひいた風邪を、1月2月そして今月3月と、つい先日まで治ったりぶり返したりを繰り返し、2019年の幕開けは中々にしんどいものだった。

僕はあまり病院とか薬とかが好きじゃない。つまるところ病院という場所は病の巣窟だと思っているので、“もしかして、人食いバクテリアではないか?” (本コラム第13回『日々はノンフィクション』参照)くらいの症状が出なければ行かないし、基本的に漢方薬以外は体には毒だと思っているので、処方された薬を飲みきることもまずない。

そんな僕が年末の風邪に関してはきちんと病院へ行き、処方された薬を飲みきり、年明けにぶり返したのでもう一度診察を受け、そこでさらに追加された薬もちゃんと飲み、キャンペーン先の大阪で体調を崩した際も面倒くさがらずに病院へ行き、それでもなんだか全快しないので、本来迷信の類いはあまり信じないのだけれども、念のためにと厄払いにも行った……のは、全国ツアーとアルバム制作という絶対に外せない僕的な一大事が待ち構えていたからだ。



体のだるさやら熱やらは1月中に治まったのだが、いざツアーが始まると喉を使っているため、なかなか咳が治らない。ツアー以外の日もデモ作りで一日中歌ってしまっているのでなおさらだ。この咳というのがライブには大敵で、まずはもちろん喉に悪い。咳が出る時はきちんとした発声の真逆、喉を思いっきりしめつけるのでライブ後の声帯の疲労度が尋常じゃない。それに歌唱中やMC中に咳き込みたくなって我慢することに集中力を持っていかれるのも辛い。熱なんてのはライブで汗かいたりすると案外下がったりするもんだが、咳は歌えば歌うほど悪くなる。本当にタチが悪い。

最近、僕の歌は”神懸かって”(自称!!)調子良かったから乗り切れたが、いや、だからこそ咳がなければもっと良かったなとも思うのだが、とにかく10本目となる3月10日の郡山まで約2ヶ月、本当に大変だった。

ところが不思議なもので郡山が終わり、次の金沢まで2週間空くということが分かり、その上、アルバム用の曲が出揃ったら嘘のように咳が止まった。病は気から、絹ごし豆腐メンタル本領発揮といったところか。心配かけたスタッフやらサポートメンバーには申し訳ないところだが、まあ治ったから良しとしていただきたい。



その“気から病”の一因となっていたアルバム制作。そもそも、今、回っている全国ツアーは実はそのアルバムのツアーになるはずだった。2018年6月に出した「ドナルドとウォルター」(2018年6月発表シングル / the band apartの原昌和との共作)、これにユウタ (HAWAIIAN6の安野勇太)とハヤシ君 (POLYSICSのハヤシヒロユキ)との共作を混ぜて4枚目のアルバムを出し、それを引っさげて全国ツアーを回るはずだったが、共作時の高いモチベーションとのギャップが埋められず、「クジャクとドラゴン」を作り終わったあとは全く曲を書けずに(正確には書かずに、か?)いた。

「だって曲がないもんはしょうがないじゃないの」──フルカワ
「いや、だからそれやったらアルバムの発売を遅らせればええやん、シングルは予算的にも採算合わんし」──ニューレコーズ
「だからそれじゃ駄目なんだってば、全国ツアーをやるんだから。やっぱり新曲を持ってツアーを回りたいじゃない。きっとみんなだって聴きたいよ、新曲」──フルカワ
「それはそっちの都合やん……、てゆうか、そもそも制作会議でアルバム出すって言ったのはフルカワで……」──ニューレコーズ
「ああ、言ったよ! あの時は出せると思ったんだもの! でも曲がないの! 書く気も起きないの!」──フルカワ
「いや、だからそれは俺は知ら……」──ニューレコーズ
「新曲を引っさげてツアーがしたいの!」──フルカワ

もちろん、コラム用に幾分か誇張はしておりますが、京都府は亀岡市出身、ニューレコーズディレクターの山口タカヒロ氏とは概ねこのような雰囲気のやりとりがございました。結果、このまるで当たり屋のような言い分で押し切って、CD不況のご時世にシングルという非合理的な物を出させていただきまして、現在全国ツアーも無事回らせていただいております。表題のふた曲「インサイドアウトとアップサイドダウン」(feat.ハヤシヒロユキ)、「クジャクとドラゴン」(feat.安野勇太)の会場での反響もすこぶるよろしく、氏に対しては感謝の気持ちいっぱいでございます。



要するに現段階で既に予定を“押している”4thアルバム。いくらタカヒロがお人好しだとはいえ(失敬!)、これ以上こんな当たり屋のような真似は通用しまい……だし、僕としても去年のコラボシリーズで感じた自分の伸びしろがまだ実感として残っている今、形にしたい。と思えば思うほどそれがまたプレッシャーというか、そんな高い山登らなくていいのに、もはや遭難したがっているかのようにすら見えるマゾヒズム。

なんとなくリフを思いつく、なんとなくメロディーを思いつく、もう少し踏み込めばその先に何かあるだろうが、凡庸だと決めつけてポイッと捨てる日々。いや、実際メロディーもリフも凡庸なのだ。

20年もやっていれば毛穴という毛穴からメロディーもギターリフも出し切っていて、「miracle」とか「transient」とか「CRAZY」の時のような出会いを待っているのが、そもそも無理筋というもの。だからこそコラボして感じたアレンジやら手法やらの伸びしろを使うべきで、例えば「ドナルドとウォルター」のカップリングのアコースティックアレンジのように(アレはまさにマーちゃん(原昌和)の影響であり、その作業は今まで感じたことのない楽しさがあった) ハーモニーを組み立てる面白さに向かえば良いのだが、20年かけてこびりついた頑固な”ダイヤの原石信仰”というスタートラインを変えられない。気づけばギターを置いてお酒を飲み始める始末。“この本を読み終わったら曲を書こう” “今日は気分転換に楽器は触らないでおこう” “映画を見たらなにかインスパイアを受けるかもしれない”──結果、1月中に自分に架したノルマは4曲だったのだが、ツアーが始まるまでに出来たデモはたったの1曲。そして“咳”。

1978年、昭和53年生まれ、満41、数えで42歳、本厄。まずい、まずい、本当にまずいぞぉ。



1月末にユウタと大阪、名古屋とアコースティックツアーを回った。ツアー中、いろんな話をしたが、ユウタもまたアルバムの作曲が進んでないということだった。「そろそろ、一日一曲作戦だな」──本当にどうしょうもない曲やアイデアでも、とにかく一日一曲は必ず形にするというユウタの奥の手らしい。とにかく作る。そのうちに良い物が出てくる、はず。ユウタはユウタで僕と違う理由ではあるが、上がってこない作曲モチベーションの作り方を一生懸命模索していた。

僕は「曲作るヤツって偉いよね」って言ってみた。言いたくても普段は言えないし、言わない。実は別に偉くも何ともないってことを知っているからだ。さらに僕は「曲作んないヤツには分かんないよね」と愚痴ってみた。そんなことはない。みんな分かってくれている。だから作らないことにイライラするし、良い物を作れば本気で喜んでくれる。

僕はもうバンドじゃないから、実際にはありもしない不平不満話だったが、旅の間結構そんな話をユウタとした。段々と体の中の悪いガスが抜けていくような気がした。「ああ、ユウタも俺と一緒で、頑張ってるし、頑張れてないし、頑張って頑張ろうとしてるんだ」──井上陽水の「傘がない」のカバーが、別にそんな曲でもないのに油断すると泣いてしまいそうなくらい、本当に素晴らしかった。

東京に戻った僕は、自分用にカスタマイズした“三日で一曲作戦”に打って出た。なんだか良く分からないギターのカッティングから作り始めた曲で、そのしょうもなさに何度も心折れそうになったけど、“とにかく形にするんだ”って粘りまくったら、すこぶるカッコいい曲になってビックリした。「future funk」って不遜な仮タイトルをつけてしまったくらいだ。

というわけで、ファンの皆様どうかご安心下さい。3月半ばの現在、咳がやんだくだりで記述しました通り、アルバム用の楽曲は無事整ってございます。タカヒロ氏をはじめとしたスタッフも絶賛。僕も自信満々。「ドナルド」「インサイド」「クジャク」にも先のアルバム『yesterday today tomorrow』にも勝ることはあれど劣らぬ楽曲達が揃いました。とはいえ、ここからいよいよ作詞の苦悩が始まるということで、そこも是非どなたかと共有しつつ、程よく苦しみながら、刻々と迫る録音の日程に滑り込めればと。

それにいたしましても、かように身勝手に、好き好んで悩みわめいた末の作品、言ってしまえば、“ただの個人的な記録物”を心待ちにしてくださる方々がいて、その方々に乗っかってまた好き好んで悩みわめきちらすという、ファン以外からすればはた迷惑な存在ではございますが、ファン以外からはまあどう思われても構わないというのが我々作り手の本音であり、申し訳ないことに、つまるところ大変幸せなのであります。

1978年、昭和53年生まれ、満41、数えで42歳、本厄。

あと少しで平成も終わり、なにがし元年が始まりますが、今年も何卒よろしくお願い致します。

■<フルカワユタカ ワンマンツアー「ロックスターとエレキギター」>

▼2019年 ※終了している公演は割愛
3月22日(金) 石川・金沢vanvanV4
4月13日(土) 大阪・梅田シャングリラ
4月14日(日) 愛知・APOLLO BASE
4月21日(日) 東京・WWW
ツアーファイナル・ゲスト:原昌和 (the band apart)、ハヤシヒロユキ (POLYSICS)
▼チケット
¥3,990(税込) オールスタンディング/整理番号付
※3歳以上、チケット必要
※各公演ごとに、ドリンク代別途必要
一般発売日 12月8日(土)

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