【インタビュー】安室奈美恵「In Two」の作者が示した、世界基準の作品作り

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今回で第三回目となった「NexTone Award 2019」で見事Gold Medalを受賞した作品は、安室奈美恵の「In Two」であった。

「In Two」は、安室奈美恵のアルバム『Finally』、及びDVD「namie amuro Final Tour 2018 ~Finally~ (東京ドーム最終公演+25周年沖縄ライブ+福岡ヤフオク!ドーム公演)」に収録されている楽曲で、これらのセールスの好調ぶりが受賞への要因のひとつになったという。

「NexTone Award」は音楽著作権管理事業者のNexTone(ネクストーン)が主催するアワードで、このGold Medalは、人的な評論や人気に基づく選出ではなく、NexToneにおける前年1月~12月の著作権使用料分配額最上位の著作者/音楽出版社に与えられる。いわば全国のオーディエンスから最も愛された作品とでも言うべきもので、そのクリエイター/著作者が讃えられる賞なのだ。

安室奈美恵「In Two」は、Kenichi Anraku・sorano・Ryo Ito・Adam Kapitという4名のクリエイターのコーライティングによって制作された楽曲である。見事「NexTone Award 2019」Gold Medalを獲得した彼らから、代表となるRyo Itoに話を聞いた。


──「In Two」はいわゆる共作による作品ですが、今やコーライティングによる楽曲制作はトレンドですよね。

Ryo Ito:コーライティング(co-writing)といって何人かのクリエイターと集まって、もう10年以上作品作りをしています。当時、日本人のクリエイターの楽曲のクオリティが、アメリカとかヨーロッパに追いつかないという現実を目の当たりにしていたので。

──10年ほど前の話ですか?

Ryo Ito:はい。当時ジャニーズエンターテイメントでA&Rをやってたんです。アーティストのケアから宣伝まで、戦略も含めてアーティストを売っていく仕事なんですが、まずKinKi Kidsを担当し、その後NEWSがデビューする際にスウェーデンのクリエイターと交流する機会を得たんです。

──素晴らしい作曲家がいっぱいいる国ですね。

Ryo Ito:そうですね。実際に会ってみると、みんな何人かが集まって共作していたんです。数人のクリエイターが一緒に曲を作っていて、ときにはアーティストも一緒になって曲を作る作業をしていて、曲を聴いたらクオリティがめちゃくちゃ高い。日本人はみんなひとりでパソコンに向かって作っていて、その曲をディレクターやA&Rに送って返事を待つという状況だったので、「なるほどこんな風にやっているのか」「これ、日本でもやりたいな」と思ったのが最初なんです。

──それがコーライティングなんですね。

Ryo Ito:音楽プロデューサーの山口哲一さんと「コーライティングの教科書」っていう本まで作って、日本人に「もっとコーライティングをしようよ」って旗振りをしたんです。ジャニーズエンターテイメントを退社してからはずっとコーライティングで曲を作り広める作業をしてきました。権利の分配はどうするんだとか、いろんな問題も起こるので、その辺の仕組みも本に書いて「これが世界水準のコーライティングですよ」ってディレクションしてきた感じですね。

──もともとクリエイターは我が強い人が多いでしょうから、共作自体難しいことなのでは?という印象もあります。

Ryo Ito:難しいですね。全部自分ひとりで作りたいって人は多いです。たしかにひとりで作ると、その人のクリエイティビティを濃く作品に反映できます。そうやってひとりでずっと作ってきて、活躍してきたクリエイターの方に限ってなかなか受け入れてくれないです。

──分かる気がします(笑)。

Ryo Ito:CDがたくさん売れていた時代に成功した人たちはコーライティングをやってこなかったので、共作しづらいのは実感します。でも一緒にやりましょうって声はかけていますよ。トラックだけとかメロディだけとか歌詞だけでもいいし、彼らが持っているいいところを引き出して、若いトラックメーカーのエッセンスが加わることが大切だなって思っているので。「喧嘩していいよ」ってみんなに言っていますし、我が強いのであれば思っていることはちゃんと言うべきだし、自分を過小評価すべきでないし。言いたいことを言い、相手のこともちゃんと評価してあげることが大切で、そこでぶつかり合うことで生まれるケミストリーがあるんです。そこで生まれるものはどうしてもひとりでは作れないものなんですね。誰にも得手不得手があって「トラックめちゃくちゃカッコいいんだけどメロディがなあ」とか「コードはすごくいいけどトラックが上手く作れない」とか、お互いの弱点を補うようにケミストリーできれば、クオリティはめちゃくちゃ高くなる。

──なるほど。


Ryo Ito:それこそ「In Two」もそうなんですけど、ダンスミュージックで使われている音源って、海外ものがすごく多いんです。LAで作っている一流のプロが作った曲はクオリティがめちゃくちゃ高いから。だけど、ようやくここ数年で日本人も負けないクオリティで作れるようになったと実感しているんです。安室さんに歌ってもらえたのもコーライティングの成果が出てきた証なんだと思います。

──それでGold Medalの受賞ですもんね。説得力があります。

Ryo Ito:クリエイターが評価されることってなかなかないので、とても嬉しいですよ。クリエイターも増えたしパラレルキャリアでやられている方も多いので、「あの作家/あのクリエイターの曲を使いたい」って思ってもらえるように、みんなで力を合わせて海外作品にも負けないクオリティのものを作っていきたいですね。だからこうやって賞をいただいて評価されるのはとてもありがたいです。しかもNexToneに評価されるってめちゃくちゃかっこいいじゃないですか(笑)。

──「In Two」は、どのように制作していった作品ですか?

Ryo Ito:メロディ/トラック/サウンド面では、軸となるのは「カッコよい洋楽的なダンスミュージックであること」ですけど、同時にJ-POPでもあるので、カッコいいトラックにキャッチーなメロディを乗せることになります。メロディの部分がすごく大切なんですけど、かといってJ-POPすぎると安室さんのカッコいい部分が出しづらくなってしまう。安室さんの場合、洋楽的なダンスミュージックとカラオケで歌うキャッチーなメロディの境目がめちゃくちゃ難しいんです。

──安室奈美恵の曲って、とてもマニアックなものからキャッチーなものまでありますよね。

Ryo Ito:ご本人がマニアックなサウンドも好きということもありますし、アーティストイメージという点でも唯一無二ですよね。とにかくカッコいい女性で憧れである安室奈美恵のブランドに沿った作品じゃないとダメなんだと思います。

──薄っぺらいポップスなんか歌ってほしくないし。

Ryo Ito:絶対歌わないですからね(笑)。歌詞に関しても、女性として強い、みんなが憧れる女性像ですから、決して弱音は吐かない、芯のある女性像を描きたいです。彼女のライブも拝見してイメージを膨らませ、安室奈美恵の世界観に少しでも近づくように勉強を重ねてきた感じです。

──自分たちの作品が採用されて、安室奈美恵の歌が乗ると嬉しさもひとしおでしょうね。

Ryo Ito:やっぱり安室さんが歌うとこうなるよねっていう感動があります。それをライブで観てミュージックビデオが作られて、「なるほど、こうなるのか」って思う。サウンドだけじゃないひとつの完成型として「世の中にはこうやって出されていくんだなあ」って確認できて満足できる瞬間ですよね。


──自身で「In Two」を分析・評価すれば、どんな曲と表現できますか?

Ryo Ito:スクエアに打たれるドラムに対して上物はきらびやかに鳴っていますが、でもベースとかのサウンドに違和感を持たせている感じですよね。その上キャッチーなものが乗っているわけではないので、とてもゴリゴリな方向に振った重たい楽曲だと思います。決してシングルA面になるような曲ではないと思っていますよ(笑)。

──そんなゴリゴリの曲が金賞受賞だなんて、最高じゃないですか(笑)。

Ryo Ito:驚きました(笑)。キャッチーではないので、ファンの方からどういう評価を受けるのかなとも思いましたし。

──売れ線に寄った作品ではない。

Ryo Ito:昔から安室さんが好きという人たちからは「In Two」を高く評価してもらっていたので、あそこまで振り切ってやる安室さんも好きなんじゃないかなって思うんです。キャッチーでカラオケで歌いやすいものだけじゃなくてね。一般的に英語の歌詞の場合は、日本でもわかりやすい英語にするんです。「I love you, baby」みたいにね。でも実は「In Two」の歌詞はすごく哲学的で奥行きがあるもので、普通に読むと分かりづらい詞なんです。奥深い詞が乗った尖った作品だけど「安室ちゃんだからできるんだよね」という評価につながっていく。

──そういう英語の詞が日本でヒットするなんて、なかなか考えられないですね。

Ryo Ito:もちろんA&Rの方とも議論を重ねましたよ。「もっと分かりやすいほうがいいのか」「これはこれでいいのか」と。非常に詩的な歌詞なので、英文法的にどうかという点もあるのですが、「そもそも詞に正解はない」という結論に至りました。

──表現に正解はないですからね。

Ryo Ito:そうです。黒を白と言ってもいいんです。黒が白に見えて黒が白であると定義するのが詩の世界なので、それは「合っている/間違っている」ではない。

──日和った作品でないということですね。

Ryo Ito:それを表現する安室さんと安室さんチームが素晴らしいなと思います。

──貴重なお話をありがとうございました。受賞おめでとうございます。来年も楽しみにしています。

Ryo Ito:この作品に関わった方々あっての受賞です。ありがとうございました。この年が「日本のコーライティング元年だった」と言われれば嬉しいですね。

撮影:鳥居洋介、BARKS編集部
取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也


Gold Medal
作品名:「In Two」(安室奈美恵)
著作者:作詞・作曲 Kenichi Anraku、sorano、Ryo Ito、Adam Kapit(*)
音楽出版社:エイベックス・ミュージック・パブリッシング株式会社
(*)NexTone非管理著作者

Ryo Ito
マゴノダイマデ・プロダクション代表/プロデューサー。千葉県生まれ。Berklee College of Music卒業。帰国後、Johnny’s Entertainmentに入社。近藤真彦、少年隊、Kinki Kidsの音楽ディレクターを経て、2004年にメジャーデビューしたNEWSのプロデューサーになる。2005年には修二と彰の『青春アミーゴ』をミリオンセラーに導き、その後も山下智久のソロシングル『抱いてセニョリータ』のヒット、テゴマスのジャニーズ初の海外デビューを仕掛けた。2009年に株式会社マゴノダイマデ・プロダクションを設立後は作家家としても活動。「ここにいたこと (AKB48)」「走れ!Bicycle (乃木坂46)」「HOPE(安室奈美恵)」の作曲者。リリックラボを主催し、山口ゼミの副塾長も務める。

リリックラボ
https://www.facebook.com/lyric.laboratory/
山口ゼミ
http://tcpl.jp/openschool/yamaguchi.html
著書『作詞力(リットーミュージック)』
https://www.amazon.co.jp/dp/4845625377/%E3%80%80
著書『コーライティングの教科書(リットーミュージック)』
https://www.amazon.co.jp/dp/4845625881/

◆NexTone Award 2019サイト

安室奈美恵ベストアルバム『Finally』

■CD3枚組+DVD
(スマプラミュージック&ムービー対応)
品番:AVC1-99058~60/B
価格:¥4,644(税込)¥4,300(税抜)
※初回BOXスリーブ仕様

■CD3枚組+Blu-ray
(スマプラミュージック&ムービー対応)
品番:AVC1-99061~3/B
価格:¥5,184(税込) ¥4,800(税込)
※初回BOXスリーブ仕様

■CD3枚組
(スマプラミュージック対応)
品番:AVC1-99064~6
価格:¥3,780(税込) ¥3,500(税込)
※初回BOXスリーブ仕様

【収録内容】 ※01.~39. = New Recording
CD
Disc1
01. ミスターU.S.A.
02. 愛してマスカット
03. PARADISE TRAIN
04. TRY ME ~私を信じて~
05. 太陽のSEASON
06. Body Feels EXIT
07. Chase the Chance
08. Don't wanna cry
09. You're my sunshine
10. SWEET 19 BLUES
11. a walk in the park
12. CAN YOU CELEBRATE?
13. How to be a Girl
14. I HAVE NEVER SEEN
15. RESPECT the POWER OF LOVE
16. NEVER END

Disc2
17. Say the word
18. I WILL
19. SO CRAZY
20. GIRL TALK
21. WANT ME, WANT ME
22. CAN'T SLEEP, CAN'T EAT, I'M SICK
23. Baby Don't Cry
24. FUNKY TOWN
25. NEW LOOK
26. ROCK STEADY
27. WHAT A FEELING
28. Dr.
29. Break It
30. Get Myself Back
31. Fight Together
32. Tempest
33. Sit! Stay! Wait! Down!
34. Love Story

Disc3
35. arigatou
36. Damage
37. Big Boys Cry
38. Contrail
39. TSUKI
40. Red Carpet/コーセー ESPRIQUE TVCM ソング
41. Mint/関西テレビ・フジテレビ系火曜22時連続ドラマ「僕のヤバイ妻」主題歌
42. Hero/NHKリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック放送テーマソング
43. Dear Diary/映画『デスノート Light up the NEW world』主題歌
44. Fighter/映画『デスノート Light up the NEW world』劇中歌
45. Christmas Wish/セブン-イレブン・ジャパン Magical Christmas イメージソング
46. Just You and I/日本テレビ系水曜ドラマ「母になる」主題歌
47. Hope/フジテレビ系アニメ「ONE PIECE」主題歌
48. In Two
49. How do you feel now?/NTTドコモ 25th Anniversary CMソング
50. Showtime/TBS系 火曜ドラマ「監獄のお姫さま」主題歌
51. Do It For Love/Hulu CMソング
52. Finally/日本テレビ系「NEWS ZERO」テーマ曲
全52曲収録

DVD・Blu-ray
Red Carpet
Mint
Hero
Dear Diary
Fighter
Christmas Wish
Just You and I
In Two
How do you feel now?
Showtime
Do It For Love
Finally
全12曲収録
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