【人間椅子連載】ナザレス通信Vol.59「カメムシ」

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昨年の秋頃、自分の住んでいる地域でカメムシが大発生しました。奴らは網戸とガラス窓の隙間からも侵入してくるので、家の中でも結構な数がのそのそ歩いていました。一番厄介だったのは、洗濯物にひっついて潜んでいる知能犯です。夕方に取り込むことを知っているのだとしたら凄い本能です。Tシャツを着たら背中に違和感が、ということが度々ありました。風呂のお湯で死なれた時も大変でした。何とも言えない嫌な香りのアロマ風呂になっていたのです。希有な体験なので浸かりましたが、石川五右衛門のようにじわじわと熱湯に苦しんで死んだ怨念のような邪悪な臭気に包まれ、効能のない硫黄の温泉みたいな心地であまりおすすめできません。

冬になってすっかり姿を消したと思いきや、春の陽気とともに、わらわらと出没し始めました。何と奴らは家の中で冬眠していたのです。一体どこで寝ていたのかとても気になります。これは停滞していたバンドが忘れた頃に良いアルバムを発表して勢いを取り戻すのに似ています。KISSの「Psycho Circus」とか、AEROSMITHの「Permanent Vacation」とか、SLADEの「The Amazing Kamikaze Syndrome」とか、YESの「90125」とか、いろいろです。時間の経過とともにメンバーや曲調が変わっていたりしますが、好きなバンドが続けてくれて、たまにでも盛り上がってくれるのはとても嬉しいことです。

PINK FROYDも70年代に「Meddle」「The Dark Side Of The Moon」「Wish You Were Here」と立て続けに歴史的な名盤を発表した後、Roger Watersの色ばかりが強い「Animals」で少し足踏みしますが、その二年後、またもや歴史的名盤「The Wall」を発表して世間の度肝を抜きます。やはりRoger Waters色は強いのですが、要所要所でDavid Gilmourの恐ろしく音の良い、凄まじいばかりのギターソロが顔を出し、バンドの形を保ってバランスが取れています。このアルバム最大の目玉は、二人共作の「Comfortably Numb」です。AメロをRoger watersが、BメロをDavid Gilmourが歌っているのですが、後に対立して解散することを考えると涙なしでは聴けません。そしてこの状況を嘆くかのような泣きのギターソロが絶品です。この4年後に「The Final Cut」というアルバムで解散するのですが、この作品はもはや完全にRoger Watersのソロと言ってもいいような内容で、そこにバンドである意味を聴く事はできません。「The Wall」は危険な状況で模索したからこそ生まれた奇跡的な名盤のような気がします。


今、家の中にはカメムシの死体がごろごろしています。冬眠から醒めたのはいいものの、どこから入ってきたのか忘れてしまって外に出られず力尽きた模様です。最期の花火を打ち上げて解散するバンドのようです。その点、人間椅子は安心です。ずっと大きな盛り上がりを見せずにここまで来たからです。これからも爆発的に売れる事無く、長く続けていきたいと思います。

今回のマイベストテープ~レコーディングが終わり久々に聴いた他人の曲

A1.Parchman Farm / CACTUS
A2.Dissident Aggressor / JUDAS PRIEST
A3.Hollywood Nights / BOB SEGER
A4.Union City Blue / BLONDIE
A5.Surrender / CHEAP TRICK
B1.A Kind Of Magic / QUEEN
B2.Kissin' Time / KISS
B3.Tarot Woman / RAINBOW
B4.No Remorse / METALLICA
B5.Behind The Wall Of Sleep / BLACK SABBATH


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