【インタビュー】クランベリーズ、「これは悲しいアルバムじゃない」

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■ 彼女は新しいチャプターを始めようとしていたんだ

── ドロレスの存在がクランベリーズというバンドを唯一無二の存在にしていたと思います。彼女との出会いはきっと、かなり印象的だったのではと想像しますが、どんな出会いだったのでしょうか?

ノエル:初めて彼女に会って、歌うところを見たとき、「どうしてまだバンドに入ってなかったんだ?!」って思ったよ。本当に素晴らしい声をしてたんだから。彼女は無口でシャイで、実はものすごくおもしろい人なんだけど、はじめはそこがわからなかった。本当に口数が少なかったんだ。言うべきことは言うけど、バンドを始めてしばらく経って、一緒にいる時間が長くなって、お互いをよく知るようになってからやっと、彼女には別の面があることがわかったくらいで。はじめの頃は本当に楽しかったよ。いろいろうまくいかないことがあっても、ジョークにして笑い合ってたし、落ち込んだりはしなかった。リハーサル・ルームから出て、ライヴをやれるようになっただけでも僕達にはすごく大きな意味があったから。


── その時、このバンドは絶対成功できるという予感はありましたか?

ノエル:いや、まったく。ファースト・アルバムの最初のデモを作ったとき、いい曲がそろってたわけじゃないし、でもレコーディングしたかったから、スタジオ入りできるようにお金を貯めて、週末にデモを作った。それは自分達のためのものだったというか、ただ友達や家族に聴かせたりしていただけで、それ以上のことができるほどいいものかどうかわからなかったんだ(笑)。そこからどうすればいいかもよくわからなかったし、僕達としてはデモを作れたことが嬉しくて、満足だった。でもそれから、もっといろんな人に聴いてもらううちに、どこかに送ってみた方がいいって言われるようになって。だから僕達自身は、これは絶対売れるとか思ってたわけじゃなくて、ただ音楽をやれてることが幸せだった。たぶん、バンドがうまくいくようになって誰よりも驚いてたのは僕達自身だったと思うよ。

── 『イン・ジ・エンド』について聞かせてください。『サムシング・エルス』のツアーのリハーサルの時から、「新曲を作ったら、素晴らしいものになる」という予感があったそうですが、代表曲をオーケストラと再レコーディングした『サムシング・エルス』を作ったことをきっかけにバンドの中に新しい化学反応が生まれたということなのでしょうか?

ノエル:うん、あのアルバムをレコーディングしたとき、こういうこともできるんだとわかって、そして昔の曲をいろいろもう一度演奏してみて、改めて新しい曲を書いて新しいアルバムを作れる自信がわいてきたんだ。それからツアーのリハーサルをやるようになって、新しい曲を作ったらいいものができそうだって話をするようになった。それで新曲を作る計画を具体的に立てるようになって、ツアーの最初の日に始まった感じだった。今作に入っている「ア・プレイス・アイ・ノウ」という曲が、最初にできたんだよ。そうやって始まって、そこからまたしばらく停止していたけど、5月にツアーが終わって、6月に曲作りを本格的に始めるようになったんだ。

── その時のバンドの状態、メンバーの気持ちはどんな感じでしたか?

ノエル:ドロレスはすごくエキサイトしていた。スタジオ入りするのをすごく楽しみにしていたんだ。曲が一通りそろって、彼女が亡くなる前のクリスマスに、彼女からそろそろレコーディングしようって電話があった。彼女はもう数日後くらいに始めたいって感じだったんだけど、あの時点では、マイクとファーガルはまだひとつも曲を聴いていなかったんだ。まずは僕が曲を作って、それから2人に聴いてもらうっていうのがいつものやり方だったから。時期もクリスマスでスタジオが取りにくいだろうし、2人もまだ曲を聴けてないし、それでレコーディングを始めるのは少し先送りすることにして、クリスマスの後でスタジオを取ろうということになった。そういう計画だったんだ。結局それは実現しなかったわけだけど。その時できていた曲について、2人に向けて話し始めたのは1月になってからだった。僕達はツアーやレコーディングをしていないとき、つまりバンドが活動状態じゃないときは、あまり顔を合わせないことが多かった。それぞれの生活があって、みんな家庭があるわけで、そうやってしばらく離れてから、またアルバムを作ってツアーを始めて、長い間一緒に過ごすっていう感じだったんだ。

── 新作の多彩な楽曲の数々は、いろいろな可能性を試しながら曲作りに取り組んだことを想像させますが、その時は、どんなアルバムにしたいと考えていたのでしょうか?

ノエル:僕達はこれまでもずっと、自然にまかせてアルバムを作っていくことが多かった。曲作りをするときは、自分の周りで起きていることの影響を受けて、吸収する感じで、無意識のうちにそれが曲に表われてくるんだ。歌詞の面で言えば、このアルバムはドロレスが終えようとしていたことがテーマになっているんだと思う。彼女は離婚したりして、いろいろあったけど、そのすべてを乗り越えていた。そういう段階が終わりに来ていたということで、彼女はそこから新しいチャプターを始めようとしていたんだ。だから今作の曲のテーマには、そういうことが多いんだと思う。残念なことに、それが今となっては現在のバンドの状態に置き換えられるようになってしまった。今作の曲はバンドの終わりについて書かれているように見えるだろうけど、実際は、彼女の人生のそういう時期の終わりとして捉えられるはずだったんだ。そしてこのアルバムは、これがクランベリーズの次のアルバムになるんだと思って作り始めていたもので、クランベリーズの最後のアルバムになるとは思いもよらなかった。でも結果的に、アルバムのテーマからして、そういうふうに見られることになるんだろうけど。

── ドロレスの歌はデモとは思えないほど素晴らしいですが、これまでもアルバムを作るにあたっては、毎回、世の中に発表できるクオリティのデモを作っていたんですか?

ノエル:うん、そうしようと努力していた。アルバムを作るのにデモを使ったのは今回が初めてだったわけじゃないんだ。最初に曲をやってみたときの瞬間を捉えたいから。後になってそこに立ち返って、そのときのフィーリングを得るためにもう一度やってみようとすることもあったけど、結局は最初にやったものを使うこともあった。だからそういう意味では、珍しいことじゃなかったんだ。でもこれまでと違ったのは、手元にあるものでどうにか作り上げなきゃいけないという状況だったこと。だから強さが足りないと思うところは使うのをやめて、アルバムからはずした。ドロレスがいたらもっと付け加えていい曲にできただろうけど、そのままでは足りないという曲もあった。たとえばドロレスがコーラスを加えたり、ヴァースをもうひとつ増やしたりとか、歌詞はできていたけど歌われていなかったハーモニーとか、それができていたら完成した曲もあったけど、できなかったから、人に聴かせることはしなかった。彼女に対してそれはしたくなかったから。つまり、いいものにできないのなら、忘れてしまおうと。でも実際、今作を聴けば分かってもらえる通り、彼女のデモのヴォーカルはすごく強力だった。というか、曲が十分に強力だと確信できてからは、ヴォーカルのことは心配しなくてよかったんだ。だって、彼女は強力なシンガーで、素晴らしくないデモだったらそもそも送ってこないはずだと分かっていたからね。

── そうしてデモのヴォーカルのみを使った今回のアルバムを聴いて、彼女はどう言ったと思いますか?

ノエル:彼女ならきっと、「すごくいいから、次のアルバムでもまたやってみよう」って言ったんじゃないかな。彼女はスタジオに入り浸って何度も何度もやり直すっていうのはあんまり好きじゃなかったから。それよりも、スタジオにやって来て、「3テイクやるから、そこから気に入ったやつを使ってよ。私は帰るから」っていう感じだったんだよ。そういうのが好きなやり方だったんだ。だから彼女が家で録ってきたデモを僕達が使うっていうのは、すごく喜んでくれただろうと思う。正直言って、基準に満たないようなものを僕達が使うことはしないって、彼女は分かってくれていたはずだから。

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