【CDレビュー】aikoの20年分の“愛しさ”に、心地良い後味。初のシングル・コレクション『aikoの詩。』

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aikoという音楽を一言で言い表すことは出来ない。
J-POP、J-ROCK、スウィング、ジャズ、ソウル、ブルース、ワルツ、コサック、フォーク、モータウンサウンド。その全てを網羅した上で独特のメロディラインを個性とし、特徴的なロングトーンで聴き手の心を掴んで離さない。それが、“aikoというジャンル”なのだ。そのジャンルは徐々に確立されていったものではなく、aikoの感性そのものであり、誰かが真似しようとして真似できるフレーズやメロディではない。

◆『aikoの詩。』関連画像&映像

今回、ジャケットには、幼少期に撮影された幼いaikoがピアノを演奏する姿が在るのだが、きっとaikoの感性はこの頃から研ぎ澄まされていたに違いない。


▲シングル・コレクション『aikoの詩。』ジャケット
◆『aikoの詩。』特設ページ(Amazon)

もちろん、並大抵ではない産みの努力はあるのだろうが、それは、“創ろう”とする苦しみではなく、まさしく“産み出す”苦しみなのではないかと思う。創るのではなく、もともと彼女の中に在るものを産み出す苦しみである。だからこそ聴き手は、aikoから生み出された楽曲たちに“aikoそのもの”を感じるのだろう。

6月5日(水)に発売される、aikoのシングル・コレクションとなる4枚組アルバム『aikoの詩。』は、1998年にリリースされたメジャー1stシングル「あした」から、2018年にリリースされた38thシングル「ストロー」までの38枚のシングル作品の両A面シングルを含む表題曲を網羅した全42曲に加え、カップリング曲を含む4枚組。aikoはこれまでも2011年にベストアルバム『まとめⅠ』、『まとめⅡ』をリリースしているが、シングル集は今作が初となる。

シングルだけでこの作品数とは、さすが20年の歴史。その歴史の1つ1つの作品に“aikoらしさ”を感じることができる瞬間だ。全てを聴き終えた素直な感想としては、心地良さしか残っていないという印象。自分の人生の中に深く刻まれることになる本を読み終えたときのような、そんな心地良い読後感にも似た後味が胸に残る。

収録曲の順番は時系列ではなく、aiko自身の手で全4枚の曲順決めが行われている。Disc.1からDisc.4まで全56曲をサラッと聴けてしまうのは、なんとも素晴らしいことだ。“ちょっと今はこの曲聴く気分じゃないから飛ばそうかな”という曲が1曲もないことに驚かされる。むしろ、次の曲のイントロが始まる瞬間、“あ、これ聴きたかった〜!”と、毎曲ごとに思えるのが不思議だ。飽きることなく聴き続けられるのは、音楽的な原理をしっかりと理解し、追求した上で、緻密に作り上げられていくaiko独自の音楽的センスによるものだろう。

まずDisc.1では、1998年の7月にリリースされたデビューシングル曲「あした」に目が留まる。本楽曲は小森田実(現:コモリタミノル)が作・編曲を手掛けており、aikoの曲としては、本人以外が作曲をした唯一の曲でもあったため、こうしてシングル集として並べて聴き返すと他の楽曲たちとは少し質感が違っており、70年代のユーロやゴシック色が臭うその聴き心地も、バンドサウンドを基盤に置きながらもアコースティックな印象の強いaikoのイメージとは相反する楽曲であったと感じさせられるのは、その後自身が確立していったことを証明する“aiko節”の絶対的なポテンシャルを感じる。

そしてaikoというシンガーソングライターの地位を、確実なものとして押し上げた人気曲「カブトムシ」(Disc.3収録)「ボーイフレンド」(Disc.2収録)といった初期曲は、今も古さを感じさせない。今作は特にリリース順に並べられていないことから、“新旧のaiko”をまんべんなく楽しむことが出来るのがいい。だからこそ、より“aikoという感性”を感じさせてくれるのだ。どの時代にも、一聴してaikoだと感じさせる“待ってました!”の心を掴むフレーズが存在するのである。きっとaikoは天才だ。生まれもっての。

aikoといえば、メロディラインももちろんのこと、歌詞に惹かれるリスナーも多い。実に、その表現力に至っては脱帽だ。よくもまぁ、ここまで人間の感情の動きをリアルに言葉として形に起こし、歌詞という短いドラマの中に落とし込めるものだと感心する。

一部の人気曲をひもとくと、ストーカー的行動をする彼女を描いたMVが話題となった「プラマイ」(Disc.1収録)の歌詞では、ポップな楽曲に載せて歌われることで、止めることのできない愛しさがより胸を掻き毟り、「ストロー」(Disc.1収録)の歌詞では、緊張感のあった関係性が、“パジャマのままでお味噌汁”という言葉一つで、いつの間にかその距離を縮めていたことが巧みに示されている。aikoはいったい“愛しさ”を表す表現の形を、何通りもっているのだろう? やはりaikoは天才であるに違いない。

ほっこりする様な愛の形もあれば、真っ直ぐな愛の形もあれば、中には、歪な愛の形もある。彼女が歌詞として描き出す感情の数々は、受け取り手によって刺さり方が様々であるだろう。聴くときの心情によっても、聴く場所によっても、聴く時間によっても。そして、男子にとっても、女子にとっても、何歳であるかも、異なる数だけ、きっと刺さり方は違うだろう。aikoの描く歌詞は、ときに露骨過ぎるほど素直な表現もあり、思わす歌詞を見返して驚くこともあるのだが、“aikoだからいい”のだ。不思議と。その全てが、“aikoだからいい”のである。

ナチュラルで柔らかな印象のaikoだが、実は芯の強い女性であると私は思う。自分に厳しく人にはとことん優しいaikoは、MCではよく包み隠さず心の中の想いをぶちまけるのだが、その想いは、aikoの書く歌詞同様に“分かる分かる!”と納得することばかりなのだ。そんな屈託の無いaikoの描く歌詞だからこそ、その“分かる分かる!”に聴き手は引き込まれていくのだろう。

初回盤限定付属のDisc.5には、『aiko はじめてのスタジオライブ』と題されたDVDが付くのだが、目の前で精一杯動いて歌うaikoを目の当たりにしながら彼女の歌を聴くと、今以上にaikoを好きになるというのは絶対であることから、ライブ未体験という方は、是非とも動くaikoの魅力を堪能してほしい。

メジャーデビューから20年。変わらぬ想いを描き続けてきたaikoは、ここから先もきっと、ますますいろんな“愛しさ”を曲と歌に変え、“aikoだからいい”を届け続けてくれることだろう。まずはaikoの20年と向き合い、じっくりと時間をかけて噛み締めて頂きたい。そして。aikoという魅力が本当に特別であることを知ってほしい。

文◎武市尚子


aiko シングル・コレクション『aikoの詩。』

2019年6月5日(水)発売
■初回限定盤 (4CD+DVD) PCCA-15020X
カラートレイ仕様/価格:4,000円+税
■通常盤(4CD) PCCA-15020
価格:3,500円+税

Disc.1
1.花火
2.KissHug
3.かばん
4.星のない世界
5.夢見る隙間
6.初恋
7.シアワセ
8.花風
9.ずっと
10.あした
11.雲は白リンゴは赤
12プラマイ
13.戻れない明日
14.ストロー

Disc.2
1.えりあし
2.二人
3.もっと
4.今度までには
5.恋をしたのは
6.桜の時
7.向かいあわせ
8.milk
9.4月の雨
10.ロージー
11.キラキラ
12.ホーム
13.嘆きのキス
14.ボーイフレンド

Disc.3
1.あたしの向こう
2.ナキ・ムシ
3.予告
4.蝶々結び
5.スター
6.あなたと握手
7.アンドロメダ
8.横顔
9.恋のスーパーボール
10.おやすみなさい
11.君の隣
12.三国駅
13.Loveletter
14.カブトムシ

Disc.4
1.未来を拾いに
2.陽と陰
3.こんぺいとう
4.Do you think about me?
5.キスでおこして
6.そんな話
7.前ならえ。
8.どろぼう
9.テレビゲーム
10.ぬけがら
11.I’m feeling blue
12.ココア
13.舌打ち
14.甘い絨毯

<初回限定仕様盤>
Disc5 「aiko はじめてのスタジオライブ」DVD
1.ドライヤー
2.冷凍便
3.雨は止む
4.大切な人

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