WOWOW『クイーン Music Video Collection』、50本超のMVでたどる革新の歴史

6月22日の土曜日は、クイーン・ファンがテレビの前に釘付けになる日となりそうだ。この日、WOWOWでは、この伝説的ロック・バンドに関するスペシャル・プログラム3本が一挙放映される。6月11日付の記事では、そのうちの1本、バンドの結成40周年を記念して2011年に製作された長編ドキュメンタリー作品『クイーン ～デイズ・オブ・アワー・ライブス　輝ける栄光の日々-PART 1/PART 2』について紹介したが、これ以外にも『フレディー・マーキュリー アントールド・ストーリー』、そして『クイーン Music Video Collection』という見逃し厳禁なプログラムが用意されている。

『フレディー・マーキュリー アントールド・ストーリー』については機会を改めてご紹介することにして、今回は『クイーン Music Video Collection』について。そのものズバリの番組タイトルから内容についてはお察しいただけるはずだが、これは音楽そのもののみならず映像の分野においても常に先駆的存在だったクイーンの歴史を、50本以上にも及ぶミュージック・ビデオを通じて味わい尽くそうというもの。もちろん、すべて楽曲プロモーションのために制作されたミュージック・ビデオであるだけに、未公開映像などに匹敵するような希少価値の伴うものはあまりない。が、1本1本のビデオ制作についてもまったく手を抜くことのなかった彼らのユニークなミュージック・ビデオを、これだけの本数まとまった形で、しかも3時間半以上にわたって堪能できる機会というのは、なかなか得がたいものである。


何よりも革新的だったのは、やはり「ボヘミアン・ラプソディ」の映像ということになるだろう。それ以前のイギリスの音楽シーンにおいては、3分程度のコンパクトな楽曲をシングルとしてリリースし、唯一にして最大の影響力を持つ音楽番組『トップ・オブ・ザ・ポップス』に出演してそれを演奏すること（映画『ボヘミアン・ラプソディ』のなかでも描かれている通り、原則としてリップシンクだったりするわけだが）が、最上級のプロモーションだといえた。それ以外にはラジオでかけてもらうしかなかったが、6分にも及ぶ楽曲を電波に乗せることに積極的な放送関係者もまたほぼ皆無に等しかったのだ。

しかし「ボヘミアン・ラプソディ」は、短いサイズに編集されることのないままリリースされ、クイーンの代名詞ともいえる大ヒット曲となった。彼らが宣伝活動のためにこの曲をテレビで“口パクと当てぶり”で披露した、という話は聞いたことがない。彼らはそうした不本意な形で自分たちの音楽を届けることを避けるためにも、自らのコンセプトに則ったミュージック・ビデオでこの楽曲の世界観を自分たちのイメージ通りに大衆に伝えたのだ。もちろんそれ以前にも、音楽の世界においてミュージック・ビデオというものは存在していた。が、当時、クイーンのこの楽曲ほどその有効さを実証した例は、他になかったのではないだろうか。そして以降、ミュージック・ビデオ制作はロック・ミュージックの分野でも当たり前の常識となり、80年代のアメリカでは、そうしたビデオばかりが流れるMTVが人気を博すことになった。

今回の『クイーン Music Video Collection』では、その「ボヘミアン・ラプソディ」はもちろんのこと、それ以前の映像も、そしてそれ以降に制作された豊富な映像のなかからも紹介されることになる。この場で放送予定楽曲のタイトルを列挙していくことも可能だが、それは彼らのシングル・ディスコグラフィにほぼ等しく、また、同時に“この曲の映像もあったの？”と感じさせられるようなものも含まれているので、この場での具体的な公表は控えておきたい。


去る3月には歴史的ライヴ映像3本を一挙放映したWOWOW。今回のスペシャル・プログラム3本についてもそうだが、まさかテレビの前でこんなにじっくりとクイーンを堪能できる日が訪れようとは。さまざまな変遷を見届けてきた長年のファンの皆さんはもちろん、映画を入口としながらこのバンドに興味を抱き、往年のクイーンを原体験できなかったことを悔やんでいる人たち、クイーンに関することをひとつでも多く知りたいという人たちにとっても、いずれも見逃すわけにはいかないだろう。

文◎増田勇一