【インタビュー】アレクシス・フレンチ「人々を感動させる、それが最も力強いモチベーション」

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──作曲には、あなたの経験が反映されるのですか? それとも何にインスパイアされて曲にするのでしょう?

フレンチ:人々を感動させる、それが最も力強いモチベーションだ。

──最初は歌詞がないピアノの曲で自分の想いを伝えるのは難しいのではと思ったのですが、もしかしたらピアノは一番シンプルでダイレクトに人々の心に触れることができるのかもしれません。あなたは演奏でどうやって自分の感情を表現していますか?

フレンチ:いいとこ突いてるね。ピアノ自体が心を揺さぶる楽器だ。交響楽団のような大きなフォースの中で、ピアノは感情をダイレクトに伝える役を担っている。だから、SpotifyやApple Musicみたいなプラットフォームで人気のリストの1つがソロ・ピアノなんだと思う。僕はほかの方法でも自分の感情を表現したいと思っているけど、ピアノのソロほど美しく感動的なものはない。

──あなたの音楽で最も重要な要素は?

フレンチ:リリシズム ──メロディだね。それにスペース。

──アーティストはよく「境界線を押し広げたい」「壁を壊したい」と言いますが、あなたはクラシック音楽のどんな壁を壊したいと思っていますか?

フレンチ:境界線、バリア、何と呼ぶんであれ……、人によってその観念は違うのだろうけど、突き詰めれば、多分、マーケットなんだと思う。ジャンル分けされ、リスナーが限定されてしまうのを打破したいんじゃないかな。僕の場合は、自分に正直であり、音楽を通じ正直でダイレクトにコミュニケーションを取ることが大事だ。僕は壁を壊すことを目標にはしていない。自分に正直であり続け、シンプルな音で自分を表現していきたい。

(C) David Nelson

──最新アルバム『エヴォリューション』はコンセプト・アルバムと言えますか? もしそうなら、そこにあるテーマは?

フレンチ:僕自身はコンセプト・アルバムとは表さないけど、様々に解釈されるのは構わない。征服、勝利、喪失、失敗など人類が辿ってきた道、人生がテーマになってる。このタイトルを付けたのは娘だったんだ。このテーマについて話したとき、彼女が思いついた。コンセプト・アルバムではないけど、人間というもの、そして人間の感情が根底にある。

──当然のこと、それぞれの曲にタイトルがありますが、タイトルは後から付けるものですか? それともタイトルに関するイメージが先にあって、それから曲を作っていく?

フレンチ:いい質問だね。後に来ることもあるし、先にタイトルがあって、後でそれが相応しくないと思ったら変えることもある。いまは、『One Thing』ってタイトルを念頭にアルバムを作っているけど、出来上がったもの次第では変えるかもしれない。

──ピアノの曲は、それがどんなに美しいものでも、単なるバックグラウンド・ミュージックになってしまうこともあります。あなたの音楽がバックグラウンド・ミュージックにならないのは何故だと思いますか? 先ほど重要だと言っていたメロディのためでしょうか?

フレンチ:そうかもしれない。でも、僕の音楽には……、公演でエリック・サティの話をしてたことがあるんだけど、彼は生活の中に溶け込む音楽を作ろうとしていた。僕は、音楽が食事を引き立てるものだったり、パーティーを盛り上げるものだったり、お店のバックグラウンドになっていたとしても侮辱的だとは思わない。現代のミュージシャンは、自分の音楽がどのような形で普及しようとも受け入れるべきだと思う。お高くとまるべきじゃない。とくにクラシック・ミュージックはそうなりがちだけど(笑)。人々が僕の音楽を体験してくれるなら、僕はそれがどんな形であっても構わない。



▲<live image 19 dix-neuf>より

──今回、日本では<ライブ・イマージュ>に出演しますね。

フレンチ:リハーサルの時点ですごくエキサイティングだった。様々なアーティスト、様々なジャンルの音楽……、それに表現の仕方がとてもモダンだ。だから、参加できて光栄に思う。それに、音楽の面だけでなく、日本式のプロモーションやプレゼンテーションが興味深かった。コンセプトが気に入った。とくに企画のディテールが素晴らしい。僕は人生においてディテールにこだわっているんだ。妻なら知ってるけど、僕は年中、“詳細、詳細、詳細”って言ってる(笑)。牛乳買ってきてって言われたら、“何本? どんなタイプ? どの銘柄?”って果てしなく質問をする。“パン? どんなパン?”って感じだよ(笑)。

──詳細が気になるのであれば、コンサートで即興でプレイするのは好きではない?

フレンチ:そんなことないよ、コンサートではいつも即興でプレイしている。でも、その方法は念入りに考えている。マジック・ショウみたいなものだって思うんだ。オーディエンスと即興のやり取りはあっても、マジックの見せ方は念入りに計画されている。例えば、この前の公演では一列目にいる人たちの名前を聞いて、そこから曲を作った。新聞を持ってきてもらい、その見出しから作ることもある。オーディエンスは劇場のような雰囲気が好きなんだ。観客のひざで子供が眠っていて、その子のために即興で曲を作ったこともある。起きたときには曲ができていて、子供はその曲で目覚めたんだ。僕にとっては、即興であれ、それをどう提示するかが大事なんだ。

──「Bluebird」のビデオでは娘さんと共演しましたね。

フレンチ:そう。彼女は自分のやっていること(バレエ/ダンス)が成功するよう、ものすごく専念している。だから、僕は彼女を応援しているんだ。でも、アーティストとして生きていくのは大変だとも言い聞かせてる。ミュージシャンになりたいと言ってる息子にもね。まずは誰にも負けないくらい頑張って、行動を起こし、あとは一歩引いて連絡があるのを待つようにってアドバイスしている。



──私はあのビデオを見て、あなたは一体いくつなんだろうって思いました。父と娘には見えませんでした。

フレンチ:ハハハ。

──若いピアニストたちにもアドバイスをいただけますか?

フレンチ:ピアノと同時に、違う楽器も習いなさい。そうすれば、オーケストラを理解できる。ヴァイオリン、フルート、なんであれ……。それと、たくさんの音楽を聴くように。若いときの自分にアドバイスするとしたら、練習し過ぎるなって言うかな。もっと頭の中で練習するようにって。いまの僕はそうしてるんだ。そのほうが深く掘り下げられる。昔の僕のように、1日10~12時間ピアノに向かっているピアニストは多いと思う。でも、そうすると人生の別のモーメントを逃してしまう。

──これまでのキャリアでのハイライトは?

フレンチ:そうだな……、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開かれた<Classic Brit>(クラシック音楽のアワーズ)で娘と共演したこと。あれは、素晴らしかった。娘が踊って、ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラとも共演し、南アフリカ出身のPretty Yende(ソプラノ歌手)も参加した。娘は本当に素晴らしかった。スタンディング・オベーションが巻き起こり、娘は泣き出してた。



──ロイヤル・アルバート・ホールでパフォーマンスし、アルバムはNo.1を獲得し、あなたの音楽に合わせ踊る人たちが現れたいま、究極の目標は?

フレンチ:突き詰めれば、自分のやってることをやり続けるってことだけど……、アカデミー賞でプレイしたいって思ってるんだ。僕はサイキックじゃないけど、夢で見たものが現実に起きることがあるんだよ。小さなことだけどね。宝くじに当たるとこだったらいいのにって思うけど(笑)。それで、アカデミー賞で自分がパフォーマンスしているのが見えたんだ。どうしてかわからないけど、葉巻を吸ってた。だから、現実になったら、僕は葉巻を吸いながら演奏するよ(笑)。


Ako Suzuki

アレクシス・フレンチ『エヴォリューション』|『Evolution』


2018年10月24日(水)発売
SICP-31208 ¥2,500+税
※高品質BSCD2
※日本のみのボーナストラック3曲収録
【収録曲】
1. 目覚め/Reborn
2. 待ち焦がれて/At Last
3. 哀しみのモーメンツ/Moments
4. ブルーバード~愛のテーマ/Bluebird
5. 明日への詩(うた)/Tomorrow Song
6. ためいき/Exhale
7. 流れるままに/Flow and Begin Again
8. 赦し/Forgiven
9. 迷宮の世界/Where Worlds Collide
10. 息をひそめて/Waiting to Breathe
11. 希望の滝/Waterfalls
12. ラスト・ポスト(未来へ)/The Last Post (Evolution)
13. 願い / Wishing +
14. 砂の上の足跡 / Footprints In The Sand +
15. ラビリンス / Labyrinth +
(+:日本のみのボーナストラック)


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