【ライブレポート】androp、温かみと一体感に溢れた良質な空気感で大いに盛りあがったツアーファイナル@代官山UNIT

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andropが<one-man live tour 2019“daily”>"と銘打ったツアーを5月15日から6月22日にかけておこなった。2018年12月に『daily』をリリース後かなりの時間が経ってからアルバム・ツアーを行うというレアな展開になったのは、アルバムを制作していた当時はツアーを行う予定がなかったからだという。しかし『daily』と「Koi」(2019年2月)の2作を披露する場を作りたいという気持ちが高まりツアーが実現した。つまり今回の【one-man live tour 2019 “daily”】は、andropの強い思いのもとに開催されたツアーだったわけだ。ツアーを行うことがアナウンスされると各会場のチケットが即時ソールドアウトとなったことからは、andropのファンもツアーを望んでいたことがうかがえる。ツアー・ファイナルを飾った東京 代官山UNIT公演も多数のファンが来場し、フロアの最後方までビッシリとオーディエンスで埋まった状態で、華々しく行われた。


暗転した場内に穏やかなオープニングSEが流れ、andropのメンバー達がステージに登場。客席から熱い歓声と拍手が沸き起こり、ライブは繊細さと温かみに溢れた「Blue Nude」から始まった。しっとりとした楽曲をオープニングに持ってきて、瞬く間に深みのある世界を構築する辺りは実に見事。落ち着いた幕開けでいながら肩透かしを食らった感覚は微塵もなく、オープニングからステージに強く惹き込まれた。

「Blue Nude」で場内をandropの世界に染めた彼らは、打ち込みを思わせる質感のドラムとシンセベースによる無機質なリズム・セクションとエモーショナルなボーカル/ギターのマッチングを活かした「For you」や、肉感的なグルーブを押し出したダンサブル・チューンの「MirrorDance」、ブラック・ミュージック感が香るオシャレな「Saturday Night Apollo」などをプレイ。多彩さを見せながらどんどん世界観を深めていく流れは観応えがあるし、演奏力の高いバンドならではのタイトなサウンドもさすがだ。オーディエンスの反応も上々で、笑顔を浮かべ、リズムに合わせて軽やかに身体を揺らすオーディエンスの姿からは、彼らがandropの音世界に浸る喜びを全身で味わっていることが伝わってきた。


4曲を聴かせたところで、内澤が「こんばんは、andropです」と挨拶。「今日は雨の中<one-man live tour 2019“daily”>にきていただいて、ありがとうございます。いいサタデーにしたいですね。雨とかも忘れてね。今日はフロアがギュッとなっていて、周りに具合の悪い人とかが出るかもしれないので、もしそんな人がいたら声をかけてあげたりして、助け合ってほしい。みんなで楽しいサタデーナイトにできればと思っているので、よろしくお願いします」


優しさに溢れた内澤の言葉に続けて、しなやかなグルーヴや佐藤のテイスティーなギター・ソロをフィーチュアした「Proust」、ファルセットを織り交ぜた内澤の黒っぽいボーカルとバウンズ・ビートの組み合わせが心地好い「Radio」が演奏された。2曲ともにブラック・コンテンポラリーに通じる洗練感を活かしたナンバー。そう書くと流行りのシティポップをイメージするかもしれないが、andropは違う。彼らはグルーヴィーなサウンドと抒情的なメロディー、ウォームなボーカルなどを融合させて、独自のポップネスを生み出している。トレンドを採り入れつつ流行には乗らないというスタンスも多くのリスナーがandropを支持し、篤い信頼を寄せている要因になっていることは間違いないだろう。


ライブ中盤では、無機質な音像から始まって柔らかみのあるサウンドへと移行するスロー・チューンの「Canvas」や、穏やかな「Youth」、明るい光が射している情景を思わせる「Singer」などを披露。andropのライブを観ると、彼らが楽曲によってサウンドのテクスチャーを変えるのが抜群に上手いことがよくわかる。生ベースとシンベを自在に操る前田と、ループのようなドラムを生身で叩くことができる伊藤を軸に、スクエアなEDMテイストと生々しいバンド感を曲によって(楽曲によっては1曲の中でも)使い分けることに目と耳を奪われた。メンバーがやっていることはマニアックなのに、仕上がりは良質なポップスというギャップが本当に楽しかったし、andropの個性といえる“人力エレクトロ感”が楽曲に独自の洗練感をプラスしていることも印象的だった。


心に深く染みるバラードの「Hikari」でさらに世界観を深めた後ライブは後半に入り、キャッチーな「Prism」や、アッパーな「Voice」「Yeah! Yeah! Yeah!」などが演奏された。気持ちを引き上げるサウンドにオーディエンスの熱気も高まり、客席からは合唱が沸き起こる。「Koi」リリース時にBARKSで行ったインタビューでメンバー達は、“今回のツアーは聴かせるライブになると思う”と語っていたが、じっくり聴かせるだけで終わらせずに華やかなシーンを創る辺りは心憎い。代官山UNITの場内は温かみと一体感に溢れた良質な空気感で、大いに盛りあがった。


その後は本編のラストソングとして、「Koi」をプレイ。多彩な楽曲でオーディエンスの様々な感情を喚起させたライブをエモーショナルなバラードで締め括るというのも実にいい。効果的な流れが決まって、「Koi」を聴かせてステージからメンバーが去った後の場内は心地好い余韻で満たされていた。

今回のライブを観て強く感じたことは、『daily』と「Koi」をライブでも届けたいというメンバー達の想いは、本心かつ純真なものだったんだな…ということだった。ライブで再現するのが容易ではない2作を良い形で聴かせたのはさすがだし、彼らが生粋のライブバンドであることは「Koi」を演奏する前に内澤が語った「ライブをやるたびに、ステージに立てているのは当たり前じゃないんだなと思います。みんなが来てくれるお陰でライブはできるわけだし、今日この瞬間を一緒に共有できるというのがどれだけ奇跡的なことかということを、ライブをするたびに感じる。それは、今日もかみ締めています。生きていると辛いことや悲しいことが沢山あるけど、僕はこういう瞬間があるから生きていて良かったなと思うことができる」という言葉や、本当にその場でダブル・アンコールに応えることを決めて「Hana」を披露したことなどからも伝わってきた。


そんなメンバー達の想いにふさわしく、彼らのライブは観応えがあって楽しめた。個性的な手法を活かして、他では味わえない上質な音楽を創造している現在の彼らは本当に魅力的な存在だ。今回の公演も装飾や演出などは一切なく、純粋に音楽だけでオーディエンスにカタルシスを与えたことに圧倒された。ここにきてさらに深化を進めているandropだけに、今後の彼らにも多いに注目していきたいと思う。

取材・文●村上孝之
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