【インタビュー】鳴ル銅鑼、異形の傑作と呼ぶにふさわしくすべてを飲み込んだニューアルバム『和モノ』

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■前と同じものばかりになったらアルバムを出す理由がなくなる
■それが解散の日だねと言っています


──このアルバムは、第一印象として演奏力がすごく上がったと思っていて、特にファンキーで粘っこい感じのグルーヴの出し方がかっこいいなとすごく思いましたね。

三輪:嬉しいです。アルバムごとに新しいノリを覚えて“よし、できるようになった”って思うと、次はまた新しいことをやらされるから、“俺たちずっと練習しなきゃいけないね”って言われます(笑)。でもバンドってそういうものでしょう。僕がどんどん新しいことをやりたいというよりは、元々やれることは全部やりたくて、技術の向上と共にやれる内容が増えて来たから、バンドが成長している証拠。前と同じものばかりになったら、アルバムを出す理由がなくなるから、それが解散の日だねと言っています。続いてるということは昨日より良くなっているということで、もっと良くなると思いますよ。

──たとえば1曲目「新世界」みたいな、王道オルタナ・ロック・バラードというのかな。こういう壮大な感じも、今までなかった気がする。

三輪:これはルーツで言ったらレディオヘッドです。仮タイトルが「BENDS」だったんですよ。イントロでどうしてもギターのチョーキングを使いたかったんです。ゆっくりと長いノリでブレイクの少ない大きな曲を作りたかったんです。日本にはそういうノリの曲が少ないと思うので。ギターロックに寄るんじゃなくて、もっと適当な感じというか、参考にしてるのは奥田民生さん。あれぐらいゆったりとした大きな隙間の多いノリを作りたかったんです。音楽で自由ということを象徴したくて。“僕等、何処へでも行ける”って歌詞にもありますけど。

──これは自由宣言でしょう。アンセム。

三輪:メンバーからは、“三輪和也の当たり前節”と言われていました(笑)。和也の当たり前だけを歌ってるって。人から同情されるのも嫌だし、かといって病気を盾にするのもおかしい、誰のせいでも誰のためでもなく自分のために今を生きましょうという曲です。

──ミュージック・ビデオを作った「奴隷」は何を歌っているんだろう。

三輪:「奴隷」は…暗い曲だという印象を受けやすいんですけど、あれは反逆の歌で、“立ち上がれ”ということなんです。僕たちはみんな社会のヒエラルキーの中で飼い慣らされて、知らない間に常識が植え付けられる。まるで育てられた奴隷のような生活かもしれないけど、実はそれはいつでも変えることができる。なぜ自分を奴隷だと思ってしまうかというと、それを脱却したいと思うからであって、精神的な奴隷のままで終わりたくはないから。どんな苦しい目に遭っても自分は自分の足で立つ意義を見出したいという決意表明の曲です。いろんなものに不安があって、僕はボロボロになるし、間違ったことも言うだろうし、だけど“散らせど枯らせど殺せない/屍の海の中”という歌詞のように、何回も自分のことを捨ててきて、“その屍は海の中にあって、もう死ぬ体なんて残ってないし、この体でてっぺんまで登ります”という意味です。僕の中ではポジティブな曲で、“なめんな”ってことではあるんですけど。


──そうそう。「奴隷」から「文句-修羅編-」「イケスカナイ」まで、だいたいアルバムの前半は“なめんな”っていう曲ばかりでしょ。

三輪:そうですね(笑)。根がヤンキーなので、しょうがないかもしれない。なめられるとか馬鹿にされることが一番嫌いなんで。人に下に見られるのも人を下に見るのも嫌。ハードコア畑で育ってしまったので、リスペクトがない人間関係が作れないんです。そこに対する不満がいっぱいあって、それが歌詞になるんだと思います。気に入らないことが多いんでしょうね。ただ自分の悪いところもダメなところもわかって言ってるし、悪いことをやったことも後ろ指をさされたこともない奴に言われる筋合いはないというだけのことです。

──そして後半はね、もう愛の歌ばっかり。「愛を喰らわせたい」が特にそうだけど、この人愛のことばかり考えてるんだなってすごい思った。

三輪:僕は愛というものが最高のエネルギーだと思っています。プラトンの「饗宴」にあるんですけど、エロースというものは、人が努力して見につける全ての技術よりも上の、全ての原動力がエロースであるということ。愛は自分を永遠にする唯一の方法で、愛情を持つことによって、この肉体を抜け出して人の中で永遠に生きることができる。愛なしでは必ず破滅すると僕は信じています。誰かと交わること、承認されることが最大の欲求になるし、人は人と交わることが絶対条件だと思います。僕はそこにコンプレックスも抱いていて、一人で孤独でいたら傷つかずに済むのに、傷ついても人と交わりたいという無限ループの中にいる。嫌だけど求めてしまう。愛とか夢とか目に見えない感情はいつもそうです。触れることはできないけど捨てることもできない。だから崇高なんだとずっと思っていて、僕は愛を永遠のテーマだと思っています。男女の愛だけじゃなくて、エロースというものを生涯のテーマとして書き続けると思います。だから12曲あったら、半分ぐらいは愛のことです。だって一番の疑問ですもん。

──「愛を喰らわせたい」はすごくいい曲。エロースの問題を詩的でロマンチックな男女のラブ・ストーリーに落とし込んでいる。

三輪:これは恥ずかしいぐらい自分のままですね。一切の綺麗ごとなしのラブソングです。こんな男はダメですよということです。

──めちゃめちゃめんどくさい男(笑)。勝手だし。“君を傷つけないとは言わない/離さない”って、どっちだよって(笑)。

三輪:嘘でも“君を傷つけない”と言うべきですよね(笑)。でもそれもわかった上で、僕が恋をした時に相手に与えられるものは誠意しかないと思うんですよ。僕は自分のことが嫌いで、人より秀でた何かがあるとは思っていない。そういう人間が人に与えられるものは屈託のない誠意しかない。だから“傷つけないよ”という嘘さえもつかないという話なんです。絶対に傷つけるし、でも絶対に君のことを離さないし、“誰も追いつけないよ”と思うけど、“今だけは君だけに捧げたい”。僕は君以外にも触るだろうし、でも好きという気持ちに嘘はつかないから“全身全霊の愛を”とまっすぐに歌う、それだけの歌なんです。けっこうクズ野郎なんですけど。

──いやー、超リアルでしょ。

三輪:ほんとリアルな歌で、こういう男っていると思うんです。悪いことやっちゃったから隠そうじゃなくて、謝って怒られて、また悪いことしちゃって、また怒られて。それが誠意だと僕は思うので。隠し事ができるほど僕はかっこよくないから、隠し事はしないという誠意だけは持って帰ってほしいという歌です。

──これは曲調もJ-POPだし、すごいキャッチー。ビデオとか作って、広まってほしいな。

三輪:元々バンドのためというよりは、弾き語りで作っていた曲で、それを3人に聴かせたら意外と共感しちゃって。僕はもうちょっと3人はかっこいい奴だと思ってたんですけど、同じクズ野郎だったという(笑)。3人が“この気持ちめっちゃわかる”とか言うから“わかるなよ!”と言って(笑)。じゃあバンドでやろうかという話になりました。でもこの曲が好きということは、けっこうクズなんですね。

──クズだよ(笑)。いいじゃん。

三輪:でもそれをわかってる人はクズじゃないと思う。立ち振る舞いがわかってるから。わかってない奴が怖いですよね。ありがとうございます、嬉しいです。


──そして最後の12曲目に「漂着」がある。

三輪:これは書きたいものはあったんですけど漠然としていて、レコーディングぎりぎりになって歌詞ができました。ぼやっとした中に答えを見つけるのがこの曲の表現なんだろうなと思って「漂着」というタイトルにして、ぼやっとしたまま曲にしました。明確に“これです”という提示はないんですけど。

──これは良い歌詞ですよ。深い愛を歌っていると思うし、“僕は自由を待っていた/君は宇宙を知っていた”とかすごくグッとくる。ぼやっとしてるけどいろんな解釈ができるようになっている。

三輪:それが詩だと思うんです。100人いたら100人違うことを思えるのが詩だと思うし、どういう受け取り方をされても正しいと思います。“僕らは僕らを赦す為に一つになるんだろう”という言葉を、どういう捉え方をされても、僕の思っている通りだと思います。言葉がその人のものになれば認められた証拠だと思うので。これを聴いているとかっこいいとか、応援したいとかじゃなくて、“これは私の曲だ”と思える曲が理想の音楽だと思います。僕も勝手にそう思っている曲があるし、このアルバムの曲が一つでも誰かにとってのそういう曲になればいいし、そのためにやっていますという感じです。

──全12曲、楽しんでくださいみなさん。そしてツアーも楽しみにしています。出演するメンツがかなり良くて、Yellow Studs、The Cheserasera、CIVILIAN、真空ホロウ、Brian the Sun、LUNKHEAD、LAMP IN TERRENとか。

三輪:僕らの好きなバンドを呼ばせてもらいました。かっこいいバンドばかりだし、僕らも自分たちのビジョンがある人たちとやりたいと思っています。もう疲れたので、いい加減な感じの付き合い方は(笑)。もう28歳で、打ち上げの会話とかも“おまえらまたその会話か?”みたいな、特に話すこともないので、話すことがある人たちを呼びました。ライブが終わったあとに、音楽じゃなくても人としてちゃんと話せる人とやらせてもらいます。

──令和を作るために。

三輪:そうですね。みんなで一緒になって。物事を悪くしようと思う人は誰もいないし、良くしようと思っているはずなので。良い時代にしようとか、大それたことは思ってないですけどね。僕らが楽でいられるように、楽しく平和にやろうという感じです。

取材・文●宮本英夫


リリース情報

3rd Album『和モノ』
発売日 : 2019年7月3日(水)
品番:KAJP-001
価格2,222円+税
【収録楽曲】
01. 新世界
02. 奴隷
03. 幻
04. 浮世絶ツ絵空
05. 文句 -修羅編-
06. イケスカナイ
07. ASOBI
08. 春ヨ然らば
09. 愛を喰らわせたい
10. 熱帯夜
11. 絡繰
12. 漂着

「和モノ」ストリーミング・配信リリースは下記リンクから
◆https://lnk.to/Wamono

ライブ・イベント情報

<鳴ル銅鑼“和モノノ化ケモノ”ツアー>
7月12日(金) 京都・京都GROWLY w/ LAMP IN TERREN
7月17日(水)岐阜・柳ヶ瀬ants w/ Brian the Sun
8月30日(金) 宮城・仙台enn 2nd w/ CIVILIAN、真空ホロウ
8月31日(土) 栃木・HEAVEN’S ROCK宇都宮2/3
w/ CIVILIAN、真空ホロウ
9月14日(土) 愛知・名古屋ElectricLadyLand
w/ The Cheserasera、Brian the Sun
9月28日(土) 大阪・心斎橋JANUS
w/ Yellow Studs、LUNKHEAD
【ツアーファイナルワンマン】
10月11日(金) 東京・キネマ倶楽部

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