【インタビュー】J、11thアルバム『Limitless』完成「だから誰にも止められないんです」

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■ロックバンド、ベーシスト、すべてにおいて
■テーゼに対してアンチだったわけなんです

──しかし思うんですよ。ここまでそぎ落とされた音を聴くと、作っている段階で“何かを足し忘れてないか?”と疑いを持つこともあるんじゃないか、と。具体的に言えば「Ghost」とか、ものすごく空間が多いじゃないですか。普通はここに何かを足したくなりがちだと思うんです。

J:確かにね。でも……たとえば今回、ヒントになっていたもののひとつにTHE WHITE STRIPESとかがあって。あとは最近、開演前のBGMとかにも良く使ってるSLEIGH BELLSとか。あの音、ドラムなんかは打ち込みなんでしょうけど、音数は少ないのに全然ペラペラには聴こえないじゃないですか。全然アリだよな、と思ったんです。THE RACONTEURSまで行っちゃうと、やっぱり普通にバンド編成でいろんなメンバーがいるから肉厚な感じにもなるんだけど、THE WHITE STRIPESなんかだと“このままの状態でいいの?”と思えるような音作りなのに、聴いていて胸が躍りますよね。熱くなれるというか。

──同じジャック・ホワイトが絡んでいるとはいえ、THE RACONTEURSとTHE WHITE STRIPESとではだいぶ違いますよね。さきほど話に出たTHE BLACK KEYSとか、ROYAL BLOODにしてもそうですけど、生々しいバンドサウンドの良さと、デスクトップで作る面白さをうまく掛け合わせている人たちがいます。ただ、Jさんの音楽はそうした方法論を借用したものではなく、そういうものを作る人たちがそもそも好きだったものに近いように思うんです。

J:嬉しいですね、その言葉は。実際、ROYAL BLOODとかも聴いていて“ああ、これでいいんだよね?”と思わされる部分があるし、もっと言うと、そんなふうに思わせないぐらい自然に聴こえるじゃないですか。本来は何かが足りないくらいであるはずなんだけど、音の構築の仕方、世界観の見せ方ひとつで、まだまだやれることがある。ああいった人たちの音を聴いていると、すごくそう思わされるんですよね。

──ROYAL BLOODはギタリスト不在で、THE BLACK KEYSはベーシスト不在。ただ、そこで変則的な編成を前面に押し出しているわけじゃない。Jさんの場合も、べつにいびつな音を目指しているわけではないはずで。

J:そうですね。そういう、今の時代の際(きわ)の部分にいるようなバンドたちと、たとえばシンプルさという意味ではAC/DCや、ZZ TOPや……そうしたバンドたちとが自分のなかでは繋がるんですよ。一緒に聴こえるというか、同列に並べられるんです、違和感なく。そこから感じられるのは、いい意味での変わらない強さというか、軸がある強さというか。実はみんな、1950年代、1960年代に作られたエレクトリックギターやベースを相変わらず使ってたりするわけじゃないですか。そのフォーマットって、まるで変わってないわけですよね。だけど刺激的なものはどんどん生まれてきてるという現実がある。それって面白くないですか? 車だって電化製品だってどんどん変わり続けてきたなかで、楽器は何も変わってないんですよ。なのに新しくて刺激的な音楽を鳴らしているわけで。

──ええ。変な話、発展の度合いからすれば、今頃はギターやベースが弦の張られていないものになっていてもおかしくないはずですよね。

J:全然おかしくない。もっと長いのやもっと短いのがあってもいいはずだし。だけど現実にはそのフォーマットは何も変わらないままで、なおかつロックミュージックというものの熱はどんどん熱くなっていってる。もしかしたら、そのフォーマットというのはそもそも変わらないものなのかもしれないけども、そこからまだまだ次々と新しい面白い熱が生まれ続けてる。それってすごいよな、と思うことがあって。そういう意味でも、そうした音の本質みたいなものを、自分自身は掴みたいと思うわけです。

──音の本質を見極めて突き詰めていく。フェンダー社と新たに契約を交わしたことも、そうしたことと無関係ではないんじゃないですか?

J:そうかもしれないですね。今回、今までずーっと一緒にベースを作ってきたブランド“ESP”を卒業して、フェンダーと契約したわけですけど、自分自身、ESPでずーっと自分のスタイルを追求してきて、いろんな記録も刻んできたし、彼らと一緒に熱い想いのなかで作り上げてきたサウンドというものがあるわけですよね。ただ、ちょうど20周年の時にマリア像の柄のベースを作った時にふと感じたんです。“俺、ここでやれることがもうないな”って。ネガティヴな意味ではなく、むしろ“出来上がったんだな”と自覚させられたんです。その時点でもう、変えるべき要素がなかったというか。

──Jさんなりのスタンダードがその時点で完成されていた、ということですね?

J:うん。自分自身でもそれを求めて、僕のスタイルってどういうものなんだろうと探し続けてたわけです。音もそうだし、楽器の形もそう。いろんな意味で、Jというベーシストの世界を作ろうとしてたわけです。で、長い時間をかけてそれがひとつ出来上がったんだな、ということを実感できた。その時に、その音はもうこうしてここに存在してるんだから、次に行かなきゃ、と思ったんです。そうやって、ESPと作り上げたサウンドを永遠のものにしていくのも僕の役目なんだろうな、と。で、そこから先へ、と思った時に、世の中にいくつものカッコいい音が存在するなかで、自分の身体のなかに引っかかってるものがひとつだけあった。それは、自分が聴いてきた音楽のなかにいつも存在していたフェンダーの楽器の音色だったんですよね。そこで、今までやってきたことを全部自分のなかに引き連れて、フェンダーというブランドの伝統の中に入っていけたなら、自分なりにその伝統的なサウンドを乗りこなしていくことができるんじゃないかな、と考えたんです。つまり僕にとってそれは、乗りこなしたいサウンドのひとつだった、というか。

──いつか行きたい場所ではあったはずだと思うんです。だけどもこれまで追求し続けてきたことをやり切ったという感覚になれるまでは、そこに行くべきじゃないというような気持ちもどこかにあったんじゃないですか?

J:というよりも、もしかしたら僕って、いちばん遠回りをしてきたんじゃないかとも思うんですよ。絶対的なもの、というのに対して。ロックバンド、ベーシスト、すべてにおいてテーゼに対してアンチだったわけなんです、多分僕は(笑)。だからこそLUNA SEAが生まれたし、そこでの活動があったわけだし、自分なりのベーススタイルというものも出来上がっていった。どんどんどんどん遠回りをしながら活動をしてきたなかで見えたもの、感じてることがあるからこそ、その絶対的なものと向き合う時に、自分の感覚をもって挑んでいける。そう思える今があるわけなんです。

──伝統的に正しいとされている道をそのまま歩むことなく遠回りを重ねてきたそのプロセスこそが、自分を作ってきた。そういうことですよね?

J:そうかもしれないな、と。ただ、そこについては無意識だったんですよ。自分の目に見える景気について、ああだったらいいのに、こうだったらいいのに、実はこうじゃないんだけど、みたいに感じながらトライしてきたことがすべて血となり肉となってきた人間なので。やはりそこに行き着いた意味合いというのが、ちょっと違うと思うんですよね。だからこそ、ここから先に求めるものというのも当然のように存在していて。なにしろ、とんでもない猛者たちが名を連ねているわけじゃないですか、フェンダーといえば。まさにレジェンドと呼ぶべきベーシストたちが。そのなかに自分自身がエントリーされるなんて、やっぱり光栄なことだし。その領域に自分自身のまま入っていき、タッグを組んで楽器を作れる、音を作れるなんてことがあるなら、それはすごく最高なことだなと思う。ただ、そんなことが起こり得るのは、今までがあったからこそなんですよ。

──ええ。それが結果的に遠回りなのか近道だったのかはよくわかりません。ただ、たとえば憧れた誰かと同じ楽器を手に入れ、同じ環境で演奏すれば、確かにその人に近付こうとするうえで話は早いかもしれないけども、そこで自分自身というものがないと、さきほどの言葉にもあったように、その楽器や音を乗りこなすことができないわけですよね。

J:うん。それに実際、いちばんそういうことを避けてたんですよね、僕は。正直、プレシジョンベースの音がいちばん嫌いだった(笑)。

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