【インタビュー】yaiko(矢井田瞳)、一点の曇りもないBeginning

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矢井田瞳が“yaiko”名義でミニアルバム『Beginning』をリリースする。新曲「いつまでも続くブルー」に加えて、自身が選曲した代表曲のリアレンジ3曲が収録された作品だ。柔らかさと力強さ、ポップさと深みが同居した全編アコースティックギターを基調としたサウンドで、2020年にデビュー20周年を迎える彼女ならではの佳作に仕上がっている。

生まれ変わった代表曲とともに収録された新曲は、勢いで突っ走れた10代~20代前半のような歌詞ではなく、“THE等身大”な歌詞が綴られてるものであるという。今のyaikoが放つ“Beginning”とはどういうものか、話を聞いた。


──新曲「いつまでも続くブルー」は爽やかなメロディを持った楽曲なのですが、歌詞には逡巡や戸惑い、もっと言えば悔恨といったものが垣間見えますよね。出だしから「あの日描いた夢の中に あの日描いた夢はなくて」ですから、ちょっと衝撃的でしたよ。

yaiko:ああ、そうですね(笑)。久しぶりに新曲を出すことになって、この曲を書く時に誰かの背中を押せるような曲を書きたいなと思ったんですよね。来年デビュー20周年を迎えるにあたって過去を丁寧に振り返るような作業も同時に行なっていたんですけれども、(だからと言って)気持ちを若作りするような曲は作りたくないなと思ったんです。夢や希望だけで、勢いだけで突っ走れた10代、20代前半のような歌詞ではなく、“THE等身大”な歌詞を書きたいなと思って。同年代の友達に聞くとやっぱりすべて順風満帆な人なんていなくて。私たちがちょうどそういうことが出てくる年代なんでしょうけど(苦笑)、何回も裏切られたりしながらでも「それでもやっぱりコレがやりたい」とか「何度でも立ち上がりたい」という人に向けて書きたいと。

──前向きなものを書きたいという思いはあったものの、前向き100%になってしまうと、今歌うべきものとしてはリアリティがない…そんな感じでしょうか?

yaiko:そうですね。これは今回の作品に限らず毎回そうなんですけど、嘘は書きたくないというか。「夢は絶対に叶う」って歌ってもらうことも大事なんですけど、(現実的には)叶わないことも多くて。でも、「そこへ向かう道の途中で何か楽しいことがあるかも?」という歌だったら私は書けると思うんです(笑)。「絶対に叶うよ!」とはもう言えないですよ(笑)。

──「先回り諦めた そんな自分にもう戻らない」「これはレースじゃないし/そもそもゴールなんて無い」とも歌われてますよね。THE等身大というキーワードがありましたが、歌詞には自身をどこまで重ねていらっしゃるんでしょうか。

yaiko:「いつまでも続くブルー」に関しては自分のフィルターをすごく通っていて、自分の言葉がそのまま出ているところが多いかなと思いますね。恋愛の曲ではなく、人生という見えないゴールに向かって走っているというテーマだったので、私自身のことをそのまま歌っても(そこに)自分を重ねてくれる人も多いかなという願いを込めた感じです。

──ここまでのアーティストとしての足跡から出てきた歌詞でもあるんですね。

yaiko:ありますね。曲作りをしていて、完成に向かって走るんですけど、それが終わったあと、「じゃあ、次の曲作りを…」とか「次はライブだ」とか考えると、これはずっと続くんだなと(笑)。ただ、それでもやりたい気持ちが大事だったり、そこに目を向けられる自分でいなければいけないことに気付いたり、そういうことも思ったんです。で、きっとそれってどの立場でも同じというか。私にはいろんな職業の友達が多くて、専業主婦の人もいるんですけど、どの立場でも同じ考えに辿り着くのかなと。

──子育て中の主婦の人であれば、子供を寝かしつけたからといって、そこで仕事が終わりではないですもんね(笑)。

yaiko:そうなんです(笑)。これは私が曲を書く時に気を付けていることなんですが、自分自身のことを掘り下げる時は、包み隠さずにきちんと掘り下げることで、より広く外の人と繋がれるようなイメージがあるんです。

──それでは、「先回り諦めた そんな自分にもう戻らない」というのはどんな風に解釈すればよろしいのでしょうか。

yaiko:デビュー当時はそれこそ何も知らないからこそできたこと/突っ走れたこと、あとは経験していないからこそ失敗できたこととかたくさんあるけど、やっぱりいろいろ経験すると「これをやるときっと上手くいかないから止めよう」と思ったりするし、そんな自分がいたことに気付いて、そういった歌詞を書いたんですよね。

──なるほど。デビューから10年目くらいまではすさまじく濃い期間でしたよね。

yaiko:濃かったですねぇ(笑)。

──その時の経験があったからこそ、導き出された歌詞であるわけですね。

yaiko:はい。今の私には(デビュー当時と)同じことはできないと思います。でも、忙しかったからこそ、生まれた曲も感情もたくさんあるので、あの時にしかできない大切な時間を過ごさせてもらったと感謝してますね。

──インディーズデビューの時は10代でしたか?

yaiko:19歳とか20歳だったと思います。

──そこからすぐにメジャーデビューして人気に火が付きましたし、海外でもライブをしてましたよね?あの渦中はどうだったんだろうと、今さらながらに心配したくらいで(笑)。

yaiko:ははは(笑)。全然客観視できてなかったですよ。自分が今どういう状況に置かれているかがまったく見れてなかった。デビューして1~2年はまだ大学生だったので、親から「卒業はしてね」って言葉では言われなかったですけど、すごいプレッシャーがあったし(笑)、私も卒業したかったので、月~金曜は大阪で大学へ行って土~日曜は東京で仕事という。で、どちらも頑張りたいと思っていたし、若さで乗り切りたい!みたいな感じだったので(笑)、「売れてきた」とか「こんなに多くの人に聴いてもらえてる」といった感覚は本当になくて、自分の中で精一杯頑張れることをやりたいと。私は音楽的なバックボーンがあってデビューしたわけではなかったんです。

──そうなんですか?

yaiko:もちろんギターで曲を作ることは好きだったんですけど、中学生の頃からずっとバンド組んでましたみたいなことはなかったんで、デビューしてから出会った身近なミュージシャンが皆、私の先生みたいな感じだったんですね。教えてもらうことがたくさんあって、彼らが教えてくれることに必死に着いていきたいと思いながら、「でも、できない…一生懸命、練習しなくちゃ。あと、学校の勉強もしなくちゃ」みたいな感じで過ぎていったという(笑)。

──メジャー1stアルバム『daiya-monde』がチャート1位を獲得し、デビューの翌年には大阪ドーム公演を行なって、その翌年には東京ドーム公演を実現させています。あの頃も目の前にあるものを一生懸命にやっている感じでしたか?

yaiko:基本的にはそういう感じだったんですけど、不安や恐怖ももちろん同居していました。「本当に期待に応えられるかな?」とか、「今回は大丈夫なんだろうか?」とか、毎回プレッシャーがなかったかと言ったら嘘になるんですけど、それでもなかなかできる経験ではないと思っていたので、ありがたいという気持ちでしたね。

──「いつまでも続くブルー」の歌詞「あの日描いた夢」になぞらえると、それまでに思い描いていたことがデビューしてから実現したのでしょうか?

yaiko:ああ…私自身、そこが不思議なんですけど、「○○みたいになりたい」というものがなかったので、リッキー・リー・ジョーンズが好きなんですけど、それは彼女の音楽に向かう姿勢や声が好きだったりで、彼女になりたいということではなかったんです。○○みたいな服を着て…ということもなかったし、それは今もないんですよね(笑)。

──その時々で自身がやりたいと思ったものを表現していたと?

yaiko:そうですね。自分自身が極端になりがちな人間であることが分かっているので、ジャンルをひとつ決めてそればかり聴いていると、それ以外を聴かなくなっちゃうんです。なので、常にアンテナを広げておきたいというか、開きっぱなしにしておきたいところがあって(笑)。ジャンルも関係なく、カッコいいと思えるものがあればそれを採り入れたいし…という姿勢ではありますね、ずっと。

──そもそも「あの日描いた夢」は具体的なものではなかったので、その時々でやるべきことをやってきたという。

yaiko:……19年前のことなので、あの頃の自分の気持ちをはっきりと思い出せなくて(苦笑)。まぁ、頑張って思い出そうとすると、やっぱり必死に走ってたというイメージですね。

──変な質問ですけど、あの超多忙なスケジュールの中で、精神状態はキープできていたのしょうか。

yaiko:あ、そこはありがたいことに、大学に通っていたので、そこにも私の生活があって、大学の友達はまったく変わらなかったんですよね。私がCDを出そうが何しようが、普通の友達の感覚で。それは今もそうですけど、調子に乗る暇はなかったというか(笑)。

──そうでしたか。でも、それは大きなことですよね。

yaiko:うん、すごくありがたいです。

──突然、売れたアーティストが人間不信になったりすることもなくはない業界ですから。

yaiko:私は友人に恵まれましたよね。

──月~金曜は大阪、土~日曜は東京という生活はそりゃあ大変ではあったことでしょうけど、その生活だったから「Life’s Like a Love Song」の歌詞を引用すれば「ココロと体を強く」いられたということでしょうか?

yaiko:強くいられたはずなんですけど、身体が疲れると気持ちが疲れることもあって、そんな時にきっと「Life’s Like a Love Song」ができたんでしょうね。

──そうでしたか。「Life’s Like a Love Song」には「貴方を想い 歌ってゆこう」という初期衝動を確認するかのような歌詞もあります。弱さが出てきそうな時に想いを歌に託したようなところがあるんですね。

yaiko:そうですね。私、日常生活で思った負のことを上手に表現できないというか(苦笑)、あんまり口にしないタイプなので、嫌なことがあっても溜めちゃうんですけど、私には音楽があるから、「醜い感情」みたいなものを音楽に入れ込んでそれが作品になると、すごく昇華された気持ちになるというか。スッとして、また新たな気持ちで歩める…みたいな感覚はありますね。

──上から物を言うようで恐縮ですが、それは素晴らしいことじゃないですかね。さっきもチラッと言いましたけど、アーティストの中には負の要素を溜め込んで爆発させてしまうような方もいますし、それを音楽に取り込んだとしてもすごくダウナーなものが出てきてしまう人もいます。でも、yaikoさんの場合はそれをポップに昇華させているじゃないですか?

yaiko:そう(=ダウナーなものに)なりかけた時期もあったと思います。だけど、ある時フッと気付いたんですよね。それって、自分にとっても誰にとっても音楽にとっても、可能性を狭めているだけだって。とことんダウナーな曲も世の中にあっていいと思うんです。それによって誰かが救われるかもしれない。でも、私はとにかく自分の可能性とか、もしかしたら私がこの人生でできることに蓋をするのはよくないなと思って。ちょっと恥ずかしい感情…嫉妬とか憎しみとかもそのまま吐き出すようにはしてます。

──基本的に前向きな人間なんですね。

yaiko:そうかもしれないですね。幼い頃から何かを作ることが好きで。母は裁縫が好きだったんですけど、街中でかわいい洋服を見かけると「これ、買って」じゃなくて「これ、作って」と言ってたんですね。で、母が家で作ってくれて。そういう姿を見ていたので、針と糸を使えるようになって自分でも作ってみると、スッキリするんですよね(笑)。何ででしょう(笑)。何か既成じゃないものをこの世で作るとすごくスッキリするんですよ、きっと(笑)。それが今、曲作りに変わっている感じですね。

──なるほど。yaikoさんにとっての音楽とは裁縫に近いものであるわけですか。型をとって縫って…という。

yaiko:そうですね(笑)。ただ、デビュー当時は自分の型だけだったんですけど、4~5年経つと自分の限界を感じることもあって、そういう時に身近なミュージシャンに相談したら、「じゃあ、他の誰かとやればいいじゃん」って言葉に救われたりとか、実際にいろんな人とコラボすると、ホント音楽には正解がないので、かけ合わせ方によっては無限大に希望を見せてくれたりとか。

──前向きな意味で「ゴールなんて無い」わけですね。

yaiko:そうです。めっちゃ前向きなんです。


──今回のミニアルバムは、名義を矢井田瞳からyaikoに変え、過去の楽曲のリアレンジも収録されていますから、仕切り直しというかRestartやReborn、あるいはRebootといったニュアンスに近いと思いきや、『Beginning』=始まりというタイトルが付けらました。これも前向きな意味で捉えればいいでしょうか?

yaiko:もう、一点の曇りもなく、前向きでスパーンとした言葉を探していて、今仰ったRebootやRestartも自分のPCに打ち込んで見てみたんですけど、例えばReboot=再起動だと、言葉自体は前向きなものですけど、再起動って何か不具合があって再起動するわけじゃないですか(笑)? そんな風に考えている内にBeginningという言葉が思い浮かんで。ちょっとストレート過ぎるかなとも思ったんですけど、その言葉のストレートさが持つ強さに賭けて『Beginning』と。一点の曇りもない感じがいいなと思ったんです。あと、来年20周年イヤーが始めるんですけれども、そこに向けて走る時にReboot=再起動というタイトルだと、これまでを一回なかったことにして…というイメージもあるんですけど、これまでに出会った人、これまでに経験してきたこと、これまでに鳴らした音楽、それがあるからこそ今があってそこから未来に繋げられるという感覚がすごくあったので。『Beginning』というタイトルではあるけれども、過去19年間を含めたBeginningですね。

──その『Beginning』には、新曲「いつまでも続くブルー」の他、過去の楽曲が3曲収録されていますが、これはどういう基準で選曲を?

yaiko:『Beginning』というミニアルバム自体、原点回帰の意味合いがあったので、そうなると、まず私のスタート地点でもあるインディーズデビュー曲の「How?」は入れたいなと。あと、19年間活動してきて、今のところの私の名刺代わり的なのかなと思ったのが「My Sweet Darlin’」。そして、20年間ライブをやってきて、ライブでお客さんが育ててくれた曲だなという印象が一番濃いのが「Life’s like love song」なので、この3曲になりました。

──いずれもドラムレスでアコースティックアレンジが施されていますが、これはどういう経緯なんですか?

yaiko:2015年に初めて弾き語りツアー(<矢井田瞳 弾き語りTOUR2015~ヤイダヒトリ~>)をやらせてもらって、そこから何度かやらせてもらってるんですけど、最初はめちゃくちゃ孤独を感じたし、怖かったんです。でも、いざ(弾き語りスタイルでツアーを)廻ってみると、まだまだアコギと歌には可能性があるなって思えたし、自由度も高いなと思ったし、改めてアコースティックギターと私というスタイルを掘り下げたいなと思っていたところに、takatakaのお二人のサウンドに出会って。彼らのライブを見ていると、ギターのボディを叩いてパーカッションみたいに使ったり、足元にはいろんな音が出るエフェクターがたくさんあったりして、「ここに私が入ったらもっともっと楽しいことが起こりそう」と思って(笑)。それがきっかけですね。

──今回収録された「How?」は少しサイケデリックサウンドっぽいところがあって、アコースティックギターでもこういうサウンドが作れるんだなと思いましたし、オリジナルの「Life’s like love song」にもサイケな感じはありますから、曲は違うものの、サウンドにyaikoさんらしさが宿っているなと感じたところではあります。

yaiko:うんうん…「How?」は曲自体がギシギシしたものを持っているので、アコースティックでやるとは言え、曲の持っている雰囲気はそのまま引き継いで。takatakaのお二人もちょっと(ギターの音を)歪ませて、エフェクティブなものをやってもらった感じでしたね。

──いい意味での変化を最も感じたのが「My Sweet Darlin’」で。メロディは大きく変わってないですけど、ポップなアップチューンである原曲から、今回のバージョンはブルージーな雰囲気を漂わせていますよね? 随分と深みを増した感じです。

yaiko:うれしいです。この曲のリアレンジは、正直言って相当プレッシャーがあって、ハードル高いなぁって感じていたというか(笑)。

──皆がよく知ってる楽曲ですからね。

yaiko:うん。サウンドプロデュースにGAKUさんが入ってくれたんですけれども、GAKUさんとtakatakaのお二人と私とでリハスタに入って。「My Sweet Darlin’」って少なく見積もっても2千回くらいは歌ってるんですよ。だから、私の中にこびりついた固定概念がすごくあるんです。まずそれを外さないといけないと思ったし、GAKUさんにお願いしたのは、過去の楽曲のイメージを壊しつつ、ずっと聴いてくれてきたファンの人の期待を裏切らないものでありつつ、新しく生まれ変わらせて、未来を感じられるサウンドにしたいと。それは「テンポをゆったりとしてバラードにしました」とか「クラシック調にしました」「ボサノバ調にしました」とか、そういうことではないものを…そういうリクエストをしまして(笑)。

──そのリクエストもかなりハードルが高かったですね(笑)。

yaiko:(笑)。でもGAKUさんが原曲の「My Sweet Darlin’」のアレンジを脱がせて、曲自体が持っている強さを、また別の強さに生まれ変わらせた…みたいな感覚がありましたね。なので、すごくうれしかったです。「サビは♪ザンザンザザザン♪って感じでやってみて」って言われてやってみてハマった時は、もうめちゃめちゃうれしかった。「これだっ!」って。ただのセルフカバーにしたくなかったんで。

取材・文:帆苅智之
編集:BARKS編集部

yaiko ミニアルバム『Beginning』


2019年8月14日(水)発売
■限定盤(CD+DVD)
ZLCP-0381 ¥2,037+税
※2枚組/デジパック仕様

■通常盤(CD)
ZLCP-0382  ¥1,389+税

[CD]全4曲収録(限定・通常共通)
1. いつまでも続くブルー
2. My Sweet Darlin’
3. How?
4. Life's like a love song

[DVD]
・My Sweet Darlin’ (Music Video)
・How? (Music Video)
・yaiko's interview

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