【インタビュー】J「これが本当のプレシジョンベースの音なのか」【BARKS編集長 烏丸哲也の令和 楽器探訪Vol.004】

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30年近くにわたって愛用してきたESPのJオリジナルモデルTVBから、愛機をフェンダーのプレシジョンベースへ持ち替えたJは、何を考え、何を思い、そして何を求めてその決断を下したのか。

アーティストモデルのベースとして世界No.1の販売数を誇るという実績もさることながら、TVBのサウンドは硬質でクリアながらエッジの立ったラウドな歪成分も叩き出すという、理想的な極上サウンドを誇るものでもあった。右足にフィットするような縦型コンターをボディバックに施すという大胆な仕様を持つオリジナルなベースから一変、ロックベースの大基本と言うべきプレベに白羽の矢を立てた、その真意とは。


──愛用ベースがESPからフェンダーに換わりましたが、手応えはいかがですか?

J:バンドを始めてからここに来るまで、自分自身の音を探し続けて「俺のサウンドってこうなんだ」「俺のスタイルってこうなんだ」というものをESPというブランドとずっと作り上げてきてね、ここ最近のいろんな節目を迎えたときに、今までやってきた活動を含め、自分自身を見つめ直すタイミングがあったわけです。

──ええ。

J:ESPをプレイしているとね、例えばリハーサルでスタッフさんが「はい」って渡してくれるベースは、寸分狂わない僕のサウンドが出る。いつの日かそれが普通になって、いつの日かそれが当たり前になって、それがいつの日か僕のものになっていった。でね、何と言うかな…自分を見つめたときに「あ、なんか俺、できたんだな」って思った瞬間が有ったんです。マリア柄のベース(J-TVB-V-Maria)を作ったときに。それで、「俺、次行かなきゃ」って思ったんですよね。

──Jさんらしいですね。

J:「こいつをもっといい音にしていくのはどうしたらいいだろう」ってずっとやってきたんだけど、出来上がったこの場所まで辿り着くと「これから先に変化させて行くこと」=「どんどんナチュラルじゃなくなっていくこと」のような気がしたんです。楽器って、形と材…すべてが複合したものがその響きになっているわけで、こいつはこれ以上いじっても、どんどんイビツになっていくだけというか窮屈になっていくだけだと思って。

──わかる気がします。

J:そして、「最高じゃん、いいじゃん」って思った瞬間に「この音はずっとここに存在しているわけだから、この音を永遠のものにするのも俺の役目なんだろうな」って思っちゃったんですよね。

──到達すると更なる次へ向かってしまう…アーティストの性ですね(笑)。

J:「じゃあ、次って何?」と思ったとき、世の中に存在する良い音の中でも、ずっと自分自身が聴いてきたロックミュージックに存在していた「フェンダーの楽器」というサウンドがあった。今まで王道を避けてきた自分がいるわけだけど、「そいつを今、自分なりに乗りこなしてみたい」という想いになったんです。「絶対的にいい音」っていうのはこの世の中にいくつも存在するわけで。

──王道を避けてきたJが、王道ど真ん中と対峙するんですね。

J:そうですね、本当に王道を通ってこなかった。だからこそ、見えてるもの・感じられるものをまといながら「その伝統とタッグを組めたとしたら面白いんじゃないか」って思ったんですよね。当然、プライベートではいろんなフェンダーを弾いてきているし、いわゆるヴィンテージも弾いてきたけど、どれもが自分としては「良い音なんだけど…」という感覚だったんです。ただね、フェンダーのマスタービルダーが作るベースからは、ジャズベースにしろプレシジョンベースにしろ、時代を前に推し進めている感覚を感じたんですよ。

──レイドバックしていない?

J:してない。僕もね1964年のジャズベースが素晴らしいとか、ヴィンテージのプレベがいいとか、そういうのを手にして「ワオ!」なんて言える機会もあったりもしたけど…でもね、冷静に見ると「果たしてほんと?」みたいな(笑)。

──いや、ほんとでしょ(笑)。素晴らしいヴィンテージは素晴らしいもの。

J:素晴らしいものは…ね。たださ、「僕らは、他の素晴らしいものをまだ弾いたことないんじゃない?」って思うわけなんです。「現代でもっといい音するやついっぱいあるはずだぜ?」って。ある意味、ヴィンテージなんてクソじじぃなんだから。(笑)

──そうですけど(笑)。

J:いるでしょ?歳だけとって偉そうにしてる人(笑)。同じく、古いだけで値段ばっか高くてさ、決して良い音ではないものが沢山ある。みんな、そろそろはっきり言ったほうが良いよ(笑)。

──(笑)

J:飾っておくためじゃなくてさ、即戦力になるような、自分の気持ちをサウンドに変えてくれる楽器を探すとなると、やっぱりなかなか見つからないですよ。そんな中で、フェンダーのマスタービルダーが作った楽器を弾いたとき「すごいな」と思ったの。今回僕がお願いしたグレッグ(・フェスラー)が作ったやつを弾いたんだけど、「楽器ってこんなに鳴るの?」って。「もう絶対この人に作ってもらいたい」って思った。


──作り上げてきたこれまでのJサウンドを失う怖さはありませんでしたか?

J:それ、みんなに言われるんですけど、なかったんですよね。

──オーディエンスの立場からすると、「Jのベースの音が変わっちゃうのは嫌だな」とも思いましたけど。

J:ESPとやってた頃の気持ちが中途半端だったら、そういう気持ちになっていたかもしれないですね。やり続けてきてひとつの答えを自分自身の中で出せたという自負があったからこそ、その先に進んでいくことができたのかな。恐れも不安も感傷的な思いもなく、そのサウンドは積み重ねた先にあったものだから。

──それは健全ですね。

J:そうなんです。でもいろんなことを当然考えましたよ。それによって傷つけてしまう人はいないか、と。長年にわたっていろんなつながりがありますから。

──簡単じゃないでしょう。

J:はい。答えを出すところまで行き着くには、すごく時間もかかりました。気持ちの上でも自分自身を何度も確かめるというか、「お前、軽々しく決めたことじゃないよね?」と、自分の中の本質として、ぶれないものであることを確認しないといけないし、それが責任だとも思うし。

──確かに、ブレているようだったら換えないで欲しいとも思います。

J:そうですよね。欲しけりゃ自分で買えばいいんですから(笑)、それだけの話なんですよ。だけどエレクトリック・ベースのルーツであるフェンダーのど真ん中に行って、海外の数々の猛者たちがエントリーされている中に自分も入っていったときに、「さあ、お前はロックできるのか?」ということ。天下一武道会じゃないけど、凄いベーシストがいるそんな中にエントリーされるのは光栄だし、そこからまた自分なりのサウンドを作っていくことができると確信が持てたから。

──Jモデルのプレベには、どんなリクエストをしたんですか?

J:フェンダーのベースって年代によって形状も材も違うんです。その中で、アッシュ・ボディとメイプル・ネックのワンピースというマッチングから出てくるサウンドが自分の理想に近かった。そのスペックは1957年以前のものなんですけど、それ以降のアルダーだと自分のイメージしているローの感じとは違うんですよね。

──なるほど。

J:個体差はありますが、ちょっと甘くなっちゃうというか…指引きとかピック弾きのスタイルの違いもあるでしょうし、感覚的なものも含めてですけどね。そういえば、LUNA SEAのレコーディングでSUGIZOと「なんか俺、最近アッシュ+メイプルのベースが多くなってきたんだよね」って話をしていたら「それって多分、レオ・フェンダーがやりたかったことだよね」って言っててね。フェンダーが一番最初に作ったギター/ベースってアッシュボディにメイプルネックでしょ?

──ストラトもテレもプレベも、スワンプアッシュ材にワンピースメイプルネックですね。

J:その後、レオがG&Lに移ったときも、そのマッチングで作っているでしょう?「ああ、そうか」なんて、気付きもあったりしてね、あと、僕はピック弾きで4弦を多用するから、テンションを稼ぐためにリバースヘッドをオーダーした点かな。

──ベースに合わせて、自分が変わらなくちゃいけなくなるようなことはありませんでしたか?

J:ひとつだけ怖かったのが、ネックの握りでした。プレシジョンベースは太くてジャズベは細いので、その間を指定したんです。自分にとってはジャズベだと細すぎてプレベだと平べったすぎるし、手が大きいのでちょっと厚みが欲しいとシェイプに関して結構言ったんですね。でもそこは感覚的なもので人が作るものだから、「多少違っても自分がアジャストしていけばいいかな」って思っていたんですけど、出来上がったものはドンズバだった。弾いたときもね…何て言ったらいいんですかね、自分自身が聴いてきたプレシジョンベースの音じゃなかったんですよ。「なんだこれ、これが本当のプレシジョンベースの音なのか」って。

──それは素晴らしい。

J:張力が素晴らしくて右手なんか力要らないですよ。弾力があって自然とフレーズが出てくるような感じでね。オーダーするときは結構うるさく言ったから、「あれ怒った?」「本気出しちゃった?」みたいな出来ですよ(笑)。フェンダーの良かった時も迷走した歴史も知っているビルダー達は、僕らのようなリアルタイムを知らない人間にもフェンダーという楽器を伝えてくれるわけで、できあがってきたものは「ひとつの回答」のような気がしました。「お前、これを使って弾きこなせるのか?」と。少しゾクッとしましたけどね。このベースはまさに自分の理想ですよ。

──早くJモデルのプレベが発売されないかな。

J:近い将来、そういったことにもなっていくんじゃないのかなって思っています。機会があったらぜひみんなにも弾いてみてもらえたら嬉しいです。でも実は僕、プレベの音が大っ嫌いだったんですよ。

──だからこそ王道を避けてきたんですよね?

J:なんていうか、バシャバシャしてる感じというか、…わかります?

──わかります。スペクターとは間逆な感じ。

J:そう、そうなんです。でもこの歳になって、僕が聴いてきたプレシジョンベース音というのは、本当は違ったんじゃないかという経験をさせてもらった。それってすごいことですよね。LUNA SEAでスティーヴ・リリー・ホワイトと仕事をしているということも凄すぎて笑っちゃうみたいに。

──今になってそんなサプライズがやってくるなんて、って感じ。

J:本当に。特に僕なんか「U2『WAR』を聴いてなかったら音楽なんかやってなかったでしょ」っていうくらいですから。それを作ったプロデューサー、そんな人と今一緒に音楽を作り合っているっていうことで気付きや発見もありますし、ベースに関してもこのタイミングでこの経験ができているから、僕というフィルターを通してまた新たな答えを、今の日本のロックシーンとか音楽をやりたいと思っているみんなに届けていきたいなって思うんですよね。

──新たなJモデルとなったフェンダープレベには「Wake Up! Mother Fucker」の文字はないんですか?

J:ボディーの裏に描いてありますよ、手書きで。その辺はぶれませんよ(笑)。

──これからも活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。

ライブ写真:Maciej Kucia(AVGVST)
取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也


■J 11thフルアルバム『Limitless』

2019年7月24日(水) リリース

▲通常盤

【CD+スマプラミュージック】CTCR-14969 ¥3,000 (税別)
【CD+DVD / Blu-ray+スマプラミュージック&ムービー】
DVD:CTCR-14967/B Blu-ray:CTCR-14968/B ¥8,000 (税別)
※DVD/Blu-rayには「Now And Forever」と「新曲」のMUSIC VIDEOに加え、<F.C.Pyro.NIGHT vol.16 新宿BLAZE公演>の模様を収録
※初回生産分は限定スリーヴ仕様

▲SPECIAL盤

【SPECIAL SET (CD+DVD/Blu-ray+スマプラ, PHOTO BOOK)】
DVD:CTCR-14965/B Blu-ray:CTCR-14966/B ¥10,000(税別)
※上記CD+DVD/Blu-ray+スマプラミュージック&ムービー仕様に加え、<J LIVE TOUR 2019 -Voyage 2019->初日のEX THEATER ROPPONGI公演ライヴショットを中心とした全80ページの写真集を付属した豪華スペシャルパッケージ
※初回生産限定
※三方背ケース仕様

【F.C.Pyro.限定 SPECIAL SET】
DVD:CTC1-14970/B Blu-ray:CTC1-14971/B ¥10,800(税込)
※上記SPECIAL SETのパッケージにシリアルナンバープレートが装着されたJオフィシャルファンクラブ“F.C.Pyro.”限定バージョン
※初回生産限定

▼CD
01. the Beginning
02. Now And Forever
03. at Midnight
04. Don’t Let Me Down
05. Ghost
06. Love Song
07. Falling Star
08. Come Alive
09. Can’t Get Enough
10. Fever
11. Fly Again

▼DVD / Blu-ray
<LIVE:F.C.Pyro.NIGHT vol.16 -at SHINJUKU BLAZE 2019.05.05->
01. Now And Forever
02. Go Charge
03. PYROMANIA
04. alone
05. CHAMPAGNE GOLD SUPER MARKET
06. ACROSS THE NIGHT
07. RECKLESS
08. break
09. BUT YOU SAID I'M USELESS
10. Feel Your Blaze
11. TONIGHT
12. BURN OUT
<BONUS MOVIE>
MAKING OF F.C.Pyro.NIGHT vol.16 - at SHINJUKU BLAZE 2019.05.05-
<MUSIC VIDEO>
・Now And Forever
・Love Song

■夏の全国ツアー<J LIVE TOUR 2019 -THE BEGINNING->

7月06日(土) 岡山IMAGE
7月07日(日) 福岡DRUM Be-1
7月13日(土) 金沢AZ
7月15日(月祝) 仙台darwin
7月21日(日) 札幌cube garden
7月27日(土) 大阪BIGCAT
7月28日(日) 名古屋CLUB QUATTRO
8月11日(日祝) マイナビBLITZ赤坂
8月12日(月祝) マイナビBLITZ赤坂 ※ファンクラブ会員限定
▼チケット
¥5,300(税込 / ドリンク代別)
一般発売:5月24日(土)~

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