【ロングレポート】<FUJI ROCK '19>、広がりとアイデンティティ

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前日のご褒美のように晴れた3日目。FIELD OF HEAVENの初っ端をつとめた渋さ知らズオーケストラのステージは、頭上に広がる青空のように懐が広いパフォーマンスだった。ステージにはいろんな人達がいる。バラバラの服装に身を包んだミュージシャンたち、派手な出で立ちで自由に踊るダンサー、脚立の上には着ぐるみ姿の人がいたり、怪しい舞踏家の身体表現にも目を奪われた。“渾然一体”の最高峰を目の当たりにし、オーケストラの意味を理解した。MC等をする渡部真一はふんどし&はっぴ姿で、高らかにこんなことも叫んだ。「ここは夢の国なんかじゃない、お前たちの日常だ! お前たちが選び、ここに来たんだ!」と。特に前日の雨を乗り越えたこの日には刺さる言葉だし、もっと広い意味でも、いろんな障壁やしがらみを乗り越えてフジロックに辿り着いた自分たちを称えた瞬間だった。ライブ終わりに物販コーナーに人々が押しかけたのも無理はないほど、渋さ知らズオーケストラ7年ぶりのフジロックは情熱的だった。ちなみに、そのステージ後に、筆者が移動しようとしていたら、まったくの他人が「まとめて捨てましょうか」と手にしていた空コップを自身のゴミ袋に入れてくれたことがこの三日間でいちばん衝撃だった。





この日も、「世界の音楽を紹介する」というフジロックの使命は実行された。イタリアパンク界のBANDA BASSOTTIが胸を熱くさせ、生のサルサにノる若い観客もいたINTERACTIVOが続けて登場したWHITE STAGEには、このあと韓国のバンド、HYUKOHが登場した。思慮深い楽曲や演奏の実力はもとより、この時代にロックバンドの可能性を信じ切っている彼らを、やっと苗場の皆さんに観てもらえた。そして、暗くヘヴィなステージを貫き、ラストナンバーの「ロープ」で突然雨が降り出すというドラマを作り上げてしまったKOHHののち、ライブパフォーマンスに定評のあるVINCE STAPLESでは、そのラップのスキルに驚愕した。


▲VINCE STAPLES


今年はマナーの問題や悪天に関する言及も多かったが、やはり、フジロックはたくさんのきっかけが散らばる宝物だらけの空間だ。土曜日のRED MARQUEEに出演したずっと真夜中でいいのに。も、YouTube発信のニューカマーとして異彩を放った。

また、フジロックにおけるキッカケと言えば、GYPSY AVALONの「アトミック・カフェ」(80年代から継承される反核・脱原発イベント)で、今年のテーマには「沖縄」と「自主規制」を掲げ、3日目には玉城デニー沖縄県知事が登場し非常に多くの人を集めた。紫の追っかけをやっていたといったロック好きとしてのエピソードを交えながら、辺野古基地建設など沖縄を巡る問題について強く訴えかけ、同じくトークにも登場したORANGE RANGEのYOHと共に「見張り塔からずっと」の演奏・歌唱などもおこなった。

▲GYPSY AVALON


筆者にとって今回のフジロックのベストアクトのひとつが、FIELD OF HEAVENの大トリを飾ったKHRUANGBINである。Father John Mistyが前座に指名したという経歴や、3月の初来日公演の盛況ぶりも知っていたが、メロウでノスタルジックなサウンドと、浮世離れした3人のルックスが完璧で本当に天国を作り上げた。夢見心地でHEAVENから下山すると、WHITE STAGEではJAMES BLAKE、GREEN STAGEではTHE CUREが、オーディエンスの一人ひとりに届ける深遠な音楽を響かせていて、フジロックは底なしだと改めて思った。


▲KHRUANGBIN



▲THE CURE




▲JAMES BLAKE


だが、まだまだフジロックは終わらない。深夜のRED MARQUEEでは、懐かしさと旬を届けたNight Tempoから、トリをつとめた石野卓球まで、たくさんの人が集った。なお、前夜祭一発目のDJは電気グルーヴ「富士山」で、先ごろ公開された今年のフジロックのアフタームービーでも「虹」がフィーチャートラックとして使用され、どんな言葉よりもメッセージを受け取った。精神が宿るフェスであるフジロックの気高さを感じた。


▲TAKKYU ISHINO



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次回は2020年。他の夏フェス同様に東京オリンピックの影響はあるとSMASH日高氏は語ったが、フジロックは8月に時期をずらして無事に開催されることが今年度の退場ゲートで明らかになり、安堵した人も多かったはずだ。

より一層、世界から注目を集めるだろう。日本を代表するフェスとして、マナー問題も改善されることに期待しながら、また最高の3日間を心待ちにしたい。

取材・文◎堺 涼子(BARKS)



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