【インタビュー】Kotaro Saito、圧倒的な音楽情報量とメロディメイカーとしての非凡な才能を誇る新進気鋭のアーティスト

ツイート

■楽曲ができるためのすごく大事な要素として
■植物や料理や写真とか自分の趣味がある


──料理の楽しさとか観葉植物の面白さとか柔らかい話題も発信している。本当に文章力がある。文筆家として…。

Saito:そんな、文筆家というほどでもないですよ。書くのが好きなだけで、あれでお金をもらおうなんて今はあんまり思わないです。僕は料理が好きで植物を育てるのが好きでその一環として書くことが好きなだけ。ただ、人に興味を持ってもらうことは常に考えているので、作品を出すこと、聴いてもらうこと、マネタイズできること、noteがそれの呼び水になることは意識しています。どうやったら自分らしさを世の中に知ってもらえるか?という、それの一環ですね。楽曲は僕の一番大事なものであって、その楽曲ができるためのすごく大事な要素として、植物や料理や写真とか自分の趣味がある。それをnoteというメディアを使って発信しているということです。



──はい。なるほど。

Saito:そこには一応、自分の中にストーリーがあるつもりです。そのストーリーをいちいち体系立てて考えるクセは、やっぱり博報堂の5年間で培われたのかなと思いますね。企業の課題や世の中の課題を見つけて、どういう戦略を立てて戦っていくのか、結果をどう分析するか、それは広告の仕事で培ったことなのかなと思います。それが根底にある中で、自分がコンテンツホルダーとして、曲を出していくのはどういうやり方がいいのかな?と考えた時に、仲間のアドバイスもあって“noteって流行ってるし、齊藤さん書くの好きだし、いいんじゃない?”と言われて、文章は苦手ではないし、書いてみようと思った矢先に、Spotifyのプレイリストに入ったので。

──すごいタイミング。

Saito:今もそうですけど、僕はSNSにすごい数のフォロワーがいるわけでもないし、それでも僕の曲に触れてもらえて、興味を持ってもらえる発信のやり方ってなんだろう?と考えた時に、僕は曲で勝負するのであって方法論で勝負するわけじゃない。じゃあ方法論をメディアコンテンツにしちゃえと思った。“こういうことを書いたら、きっとたくさんシェアしてくれる。そこに僕の曲を貼りまくったら、せめて知ってはくれるだろう”と思って、それで聴いてもらえたかどうかの検証はしていないけど、そうやって僕のコンテンツが発信力のある人に伝播していけば、僕にフォロワーがいなくても、バイラルするだろうと思ってやったら、実際バイラル・チャートに入った。良かったなと思いましたね。

──非常に論理的です。

Saito:うまくいく種が一個できた時に、半日ぐらいものすごく必死で考えて思いついたのがそれだったんです。ブランディングとか考えず“とにかくこの小さな火を消さないようにするにはどうしたらいいんだろう?”と考えた結果、書くしかないと思って書きました。これは初めて言うかもしれない。

──すごく戦略的だけど、実はかなり必死というか。

Saito:その場で必死で考えたことの連続ですよ(笑)。ただ、必死で考えるスピードを人より速めるために、常日頃いろいろ考えているというのはあるかもしれない。とにかく、火種が起こった瞬間の初期衝動が一番大事だと思います。特にSNSとか、火が付いたあとは消えるのも速いので、それを消えないようにしていくやり方をその都度考えていくしかない。ちょっと火が付いたこの曲に集中投下して、サブミッション・メディアを使おうかとか、海外の人に聴いてもらうために、お金かかるけどここのプレイリスターに突っ込もうかとか必死で考えましたよ。回収なんて考えず、売れたらお金は入って来るし、仕事もいくらでも来るんだと信じて、今やるしかないという感覚でやっていますね。それは今もそうです。投資こそが最速の成長手段だと思っています。


――なるほど。

Saito:今の作業環境もそうで、決して贅沢にお金を使える状況ではないですけど、音楽が出てくる環境を整えることが一番重要だろうと思ったので、生き方と暮らし方にはすごくこだわっています。それと、食べるものがモチベーションと健康をすごく左右することがわかったので、なるべく自分が納得できるものを食べようと思うようになりましたね。時間がかかるし面倒なんだけど、何事も丁寧にやると、その一音を出した時に自分の中でOKを出しやすくなるんですよ。何年か前から「クオリティ・オブ・ライフ」と言われていますけど、まさにそういうことなのかなと。毎朝起きたら植物に霧吹きして部屋の掃除をして、ちょっとしたことをなるべく丁寧にやる。朝も早めに起きて、やること全部やって、ご飯作って食べて、コーヒーをドリップして“よし、仕事しよう”と言って始める。その一発目の出音はすごくいいんですよ。

──ああ。やっぱり。

Saito:実際それはCMの仕事でもすごく効果が出ていて、リテイクが減りました。そういうヴァイヴスで作った音楽は、監督さんやクライアントの方に“いいね”と言ってもらえることが増えた。この1年で僕が得たものは、すごく本質的なことだろうと思うし、今後の人生でも大事にしていきたいと思っています。ストレスがすごくかかる世の中だと思うからこそ、なるべく自分はノンストレスな方法をチョイスして、たとえて言うなら平飼いの卵みたいなもので、自由な環境で生まれ落ちた卵はすごく重くて殻が固くてプリッとしてる。それを食べた時の感動を僕の音楽を聴いた時に感じてもらえるような音作りができたら幸せだなと思います。…すごい観念的な話ばっかりしちゃいましたね。

──いや。とても大事なことですよ。齊藤さんの音楽作りの真ん中にあるもの。

Saito:そう、それがコアにあるからこそ出会いがある。出会いはチャンスになる。結局、出会いが曲を作ることになると思うし、その曲がきっかけでまた出会いがあって…という連続性で今が出来上がっている。年末ぐらいまでの計画は当然頭の中にあるけれど、それもある一瞬を機にアップデートされて、全然違うことをやるかもしれない。その都度一番いいチョイスをしていこうと思います。


■ライフスタイルをブーストする音楽をやりたいと今は思っています
■人の暮らしや生活空間を絵だとすると、それを音楽でどうやって彩るか


──現状、齊藤さんがオリジナル曲を届けるターゲットというと、それこそ「Midnight Chill」のように、くつろぎや安らぎのシーンがメインになってきますか。

Saito:そうですね、僕自身が音楽を聴きたくなるのは心を休めたい時が多いから、総まとめするとチルなのかもしれない。でもその中に、サイコな一面を持っているところもあるんです。狂気的というか。たとえば「Memento」という曲は、内山肇さんとエンジニアの鎌田岳彦さんと一緒に本当に楽しく作ったんですけど。

──あれはカオスな曲でした。

Saito:あれは僕の本質の一面なんです。「Brainstorm」もそうだし、ああいう一面もあるんだけど、今音楽を聴くのは自分が癒されたいとか気持ちよくなりたい瞬間が多いので、チルという方向にまとまっているのかもしれない。たとえば6月に出した「Reason」も、チルではないかもしれないけれど、都会の雑踏の中で、ふっと空を見上げたくなるような曲だと思っていて、癒しはあるのかな?と。


──「Reason」は、歌っているMAYUMIさんの声質もあるでしょうね。天から降り注ぐような美しいハイトーン。

Saito:チルというか、何かを考える、アイディアをまとめる、自分を振り返る、そういう時に僕の曲を聴いてくれれば嬉しいなと思ったりします。あと「Offshore」「Blue」「Cactus」とかは、夏のドライブだったり、みんなで騒いでいる時にかけてもらって気持ちいいものだと思うし、人の生活に溶け込んで、人の生活を彩る音楽でありたいです。“ブーストする”という言い方を僕はするんですけど。

──ブースト=押し上げる、高める。いいですね。

Saito:ライフスタイルをブーストする音楽をやりたいなと、今は思っています。それは映像演出でやってきたことと一緒だと思うし、人の暮らしや生活空間を絵だとすると、それを音楽でどうやって彩るか。

──それはもう、単なるチルではない。暮らしと、心の豊かさに直結してくる。

Saito:そのためには自分自身が豊かじゃないと。それはお金以上に、メンタルの豊かさですね。僕は今、すごく心が豊かな仲間と一緒に音楽を作っているので、その魅力を伝えていく代弁者でありたいというか、ハブなんだと思います。

──ハブ=中継地点。なるほど。

Saito:もちろん自分発信でいろいろやってきて、行動力は人よりある自信はありますけど、それは僕の周りに魅力的なものがあってのことなので。自分が魅力を感じるものを写実するというスタイルなのかもしれない。一緒に料理をやっている4人仲間がいて、CM音楽の先輩の内山肇さん、藤田哲司さんと、THE XXXXXXというバンドで活動している内田朝陽さん。みんな料理がすごく上手で、しかも料理とそれぞれの音楽性が完全に一致している。その人たちと料理の話をしているだけで“こういう音楽作ってみよう”と思えたりする環境が今はすごく楽しいです。そういう生活の中からいろんな音ができていくので、すごく幸せですね。作っている瞬間がこれだけピュアだと、きっと音楽にもパワーがあるんじゃないか?と。

──そうだと思います。

Saito:何のストレスもなく育った野菜やお肉と同じ感覚だと思います。僕はここ数年アナログシンセにハマっていますけど、朝陽さんはこの間、日本にまだ7台しか入っていないと言われているMoog Oneという楽器を買ったんですよ。それをスタジオで試してみると、すっごい宇宙的な音がする。朝陽さんの持ってるギターも素晴らしいヴィンテージのジャズマスターで、いなたく、それでいてハッピーなサウンドは彼の人となりを表している。肇さんと藤田さんはだいぶ年上ですけど感覚がすごく若いんです。“今はこういう時代だよね”ということをものすごく語るし、この間藤田さんと、ビリー・アイリッシュとファレルの話をしながら、80年代のD・トレインの話をしたりとか、いろんなことをクロスオーバーしてしゃべれる仲間が多くて、それが自分の音楽人生を豊かにしてくれている。仲間ってすごく大事なんですよ。しかも年上の大ベテランたち相手に「仲間」と呼ばせてもらえる環境もありがたいし、そういう方々と音楽を作っていくために頑張ろうと思っています。…すみません無駄話で。

──とんでもない。音楽家として、何よりも大事なことを語ってもらえたと思います。

Saito:今日は、わりと本音でしゃべっています。これが掲載される時には、「こんなことしゃべっちゃった」って、それぞれの関係各者に了解を取ろうと思いますけど(笑)。ぜひみなさんの名前を載せていただけると嬉しいです。

取材・文●宮本英夫


◆インタビュー(1)へ戻る
この記事をツイート

この記事の関連情報