【レビュー】スピッツ、ニュー・アルバム『見っけ』最速全曲レビュー

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こんな視聴会は初めて来た。広い会場には椅子と机、前方にはゆったり座れるソファが置かれ、後方には美味しそうな軽食、ドリンク、バンドのロゴを入れたオリジナルスイーツなどがテーブルいっぱいに並ぶ。NHK連続テレビ小説「なつぞら」ですっかりお馴染み、十勝産のスイーツもある。まるでちょっとしたパーティーのような、スピッツの16作目のオリジナル・アルバム『見っけ』の視聴会。開演前には、デビュー当時からのディレクター・竹内修氏によるアルバム制作秘話も聞けた。デビュー30周年を超え、メンバー全員が50代となり、新鮮な気持ちで取り組んだというニュー・アルバム。気になる中身について、最速試聴レビューをお届けする。

ジャカジャーン! 豪快に鳴り響くパワーコードに、キラキラ光るシンセを添えた、1曲目「見っけ」はどこまでも明るく突き抜ける骨太なロックンロール。ファンタジーの香りいっぱいの歌詞と、サビの美しいファルセットを目指して上昇し続けるメロディを持つ、スピッツのアルバム史上屈指のワクワク感溢れるオープニング。掴みはOKだ。2曲目には早くも、「なつぞら」主題歌「優しいあの子」が登場して、目を閉じ聴いていると十勝の美しい風景が鮮やかに浮かぶ。草野マサムネが現地取材を重ねて書き上げたという、大らなかカントリー風味と北海道を織り込んだ歌詞とのマッチングは最高だ。


ファニーなタイトルの「ありがとさん」は、予想に反して非常にヘヴィな重低音を効かせたスロー/ミドル・チューン。オアシスあたりのラウドなロック・バラードを思わせる、音圧の強さと物憂げに下降するメロディにぐっと引き込まれる。「ラジオデイズ」は、ドラムス崎山が大活躍するパワフルなエイトビート・チューンで、(たぶん)三輪テツヤの荒々しいピック・スクラッチといい、パンキッシュで勢いたっぷりの曲調といい、まるでバンドを始めたての高校生のよう。タイトルはやはりウディ・アレンの映画から取ったのだろうか? 間奏にチューニング・ノイズを入れる小技も効いている。「花と虫」は手数の多いドラミング、グリッターな音色のギター、勢いあるロックンロールにスピッツらしいメランコリックなメロディを乗せた、聴けば聴くほどじわじわ来るタイプの1曲。良きライブ・チューンになるだろう。

ロックンロール・タイムはここで一息、柔らかく沈み込むミドル・チューン「ブービー」の登場だ。草野マサムネの生々しいブレス音から始まり、歌とエレクトリック・ギターのみの前半から、バンドがそっと寄り添う後半へ。メロディはとことん切なくもの悲しく、ピアノの間奏も泣きたくなるほどメランコリック。それでいてリズムがシャキッと立っていて、泣きながら笑顔を作っているような不思議な曲。と思えば「快速」は再びゴリゴリのエイトビートで、タイトル通りに君の住む街を目指して突っ走る、快速電車のように爽やかに疾走するロック・チューン。田村明浩のルート弾き一徹のベースに痺れる。

8曲目のタイトル「YM71D」って何だ。よくわからないが、曲としてはスピッツにはちょっと珍しいファンキーなノリで、エレクトリック・ギターもベースもひたすらグルーヴィー。メロディはかなり暗めだがアレンジの面白さで一気に聴かせる、聴くほどに沁みるスルメ系と見た。「はぐれ狼」は、またもや激しいリフとかっこいいキメを連発する、引き締まったロック・チューン。詞と曲そのものはやや暗めでシンプルだが、4人が作り出す生き生きとしたバンド感が最高で、これぞ30年選手の貫禄と言っていい。がらりとムードを変え、フルートの音色をイントロにフィーチャーした「まがった僕のしっぽ」は三拍子のゆったりとした、しかしどこかに鋭いトゲを隠したようなミドル・チューン。中盤、突如ギアを上げてロカビリー風の高速ビートを奏で、また三拍子に戻ってくる劇的なアレンジは、これまでのスピッツにはなかった新境地。アルバムの中でも最もチャレンジングな1曲だろう。

今作で唯一、柔らかいアコースティック・ギターと草野マサムネの歌だけで始まるのが「初夏の日」。中盤から登場するバンド・サウンドも非常に繊細で、切ないメロディとシンプルなフォーク・ロック的なアレンジがよく似合う。そして最後を締めくくるの、まるで初期のザ・フーを思わせる豪快ラウドなロックンロール「ヤマブキ」。どこを切ってもパワフルで攻撃的で、でもスピッツの曲だから痛くはない。ジャカジャーン!と、王道ロックンロールなエンディングも爽快のひとこと。30年経って、50代になって、こんな音を鳴らしてくるとは。天晴なりスピッツ。

骨太、ラウド、若々しく、バンドらしく、装飾は最小限、まっすぐに届くロックンロール。元気ハツラツなロック・アルバムを引っ提げた、全国ツアーは11月から来年7月まで続く。どんどんパワフルになり続ける、スピッツは子犬じゃなくてモンスターか?

取材・文●宮本英夫

リリース情報

ニューアルバム『見っけ』
2019年10月9日(水)リリース
【初回限定盤】(SHM-CD+Blu-ray) UPCH-7518 \5,280+税
【初回限定盤】(SHM-CD+DVD)UPCH-7519 \4,780+税
【通常盤】(CDのみ)UPCH-2194 \3,000+税
【アナログ盤】(1LP+7inch・完全受注限定生産盤)UPJH-9080 \3,980+税

【初回限定盤】【SHM-CD<DISC 1>収録楽曲】
01.見っけ
02.優しいあの子
03.ありがとさん
04.ラジオデイズ
05.花と虫
06.ブービー
07.快速
08.YM71D
09.はぐれ狼
10.まがった僕のしっぽ
11.初夏の日
12.ヤマブキ
Bonus Track: ブランケット
【Blu-ray, DVD<DISC 2>収録内容】
・ありがとさん -Music Video-
・優しいあの子 -Music Video-
・見っけ -Music Video-
・オフショットムービー in FRANCE

【通常盤】
【CD 収録楽曲】
01.見っけ
02.優しいあの子
03.ありがとさん
04.ラジオデイズ
05.花と虫
06.ブービー
07.快速
08.YM71D
09.はぐれ狼
10.まがった僕のしっぽ
11.初夏の日
12.ヤマブキ

【アナログ盤】
【DISC 1】(12inch)
(SIDE A)
01.見っけ
02.しいあの子
03.ありがとさん
04.ラジオデイズ
05.花と虫
06.ブービー
(SIDE B)
01.快速
02.YM71D
03.はぐれ狼
04.まがった僕のしっぽ
05.初夏の日
06.ヤマブキ
【DISC 2】(7inch)
(SIDE A)
1.ブランケット

ライブ・イベント情報

SPITZ JAMBOREE TOUR 2019-2020 “MIKKE”
2019年
11月30日(土)  静岡エコパアリーナ
12月05日(木)  武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナ
12月07日(土)  武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナ
12月08日(日)  武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナ
12月12日(木)  横浜アリーナ
12月14日(土)  横浜アリーナ
12月15日(日)  横浜アリーナ
12月27日(金)  マリンメッセ福岡
12月28日(土)  マリンメッセ福岡
2020年
01月18日(土)  大阪城ホール
01月19日(日)  大阪城ホール
01月28日(火)  大阪城ホール
01月29日(水)  大阪城ホール
03月28日(土)  YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)
03月31日(火)  高崎芸術劇場
04月07日(火)  米子コンベンションセンター・BiG SHiP
04月09日(木)  広島文化学園HBGホール
04月10日(金)  広島文化学園HBGホール
04月14日(火)  宇都宮市文化会館
04月18日(土)  和歌山県民文化会館 大ホール
04月19日(日)  姫路市文化センター 大ホール
04月21日(火)  レクザムホール・大ホール(香川県県民ホール)
04月28日(火)  市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
04月30日(木)  大分iichikoグランシアタ
05月05日(火・祝)名古屋国際会議場センチュリーホール
05月06日(水・振)名古屋国際会議場センチュリーホール
05月08日(金)  名古屋国際会議場センチュリーホール
05月12日(火)  金沢歌劇座
05月14日(木)  新潟県民会館
05月19日(火)  札幌文化芸術劇場hitaru
05月20日(水)  札幌文化芸術劇場hitaru
05月26日(火)  仙台サンプラザホール
05月27日(水)  仙台サンプラザホール
06月01日(月)  沖縄コンベンションセンター劇場棟
06月02日(火)  沖縄コンベンションセンター劇場棟
06月07日(日)  松山市民会館・大ホール
06月08日(月)  高知県立県民文化ホール・オレンジホール
06月12日(金)  山形県総合文化芸術館
06月14日(日)  リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
06月21日(日)  帯広市民文化ホール大ホール
06月23日(火)  コーチャンフォー釧路文化ホール
06月29日(月)  大宮ソニックシティホール
06月30日(火)  大宮ソニックシティホール
07月05日(日)  福井フェニックスプラザ
07月06日(月)  滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 大ホール
07月08日(水)  岡山市民会館
07月14日(火)  三重県文化会館大ホール
07月16日(木)  長良川国際会議場メインホール
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