【インタビュー】kobore「まだスタート地点に立ってない新しい自分がようやく書けた曲たちが詰まった1枚」

ツイート

2019年1月に1stフルアルバム『零になって』をリリースして、それに伴う全国ツアーのファイナルとなった渋谷CLUB QUATTROをソールドアウトさせたkobore。この夏は<ROCK IN JAPAN 2019><MONSTER baSH 2019>等の大型フェスに初出演を果たすなど、着々とその知名度を広めている。そんな中、8月21日(水)にリリースされた1st EP『音楽の行方』は、ヴォーカル・ギターの佐藤赳が「5曲全部がカップリングみたいな感じの1枚」と語るほど、なんともリラックスしたマインドで作られたようだ。その真意はどこにあるのか? 佐藤赳(Vo.Gt)田中そら(Ba)に話を訊いた。

■自分が作った曲が誰にどんな風に届くのかな?
■それを知りたくて『音楽の行方』というタイトルにした


――まず、前作の1stフルアルバム『零になって』発売以降に行われた全国22か所のツアーについて、振り返ってもらえますか。

佐藤赳(Vo.Gt):フルアルバムのツアーということもあって、45分ステージという、自分たちからすると結構慣れない感じの日が続いて。いつも30分ぐらいのライヴをやっていた自分たちからすると、その45分間でどうやって熱を持ってお客さんに見せるのかということに重点を置いていました。その中で、いつもやっている曲をやらないでフルアルバムの曲を入れたりすることに、自分の中にちょっとした違和感があったりもしました。逆に、「この曲を入れたらこういう風になるんだ」っていうこともあったり。フルアルバム自体、キャリア初めてのことになるので、色々な発見ができたツアーだったという印象があります。強めな曲ばかりだと45分間もたないので、バラードを入れたりとか。お客さんのことを考えられるようになったというか、自分たち主体じゃなくてみんなで空気を作って行くという発想に変わったし、お客さんへの見せ方が成長したツアーだったんじゃないかなと思います。

田中そら(Ba):初めての長尺で45分間のステージで2マン、3マンをやって、ツアーファイナルの渋谷CLUB QUATTROも僕たちには最大のキャパだったので、しっかり埋めたいという気持ちがありました。1本1本のライヴでどれだけ全国からお客さんを呼べるかっていうことがかかってるなっていう気持ちがあったし、1本1本のライヴが本当に大事でした。その気持ちでファイナルを迎えて、ソールドアウトにもできたので、今までで一番良いツアーだったと思います。

――そうした1本1本大事にしてきたツアーの中で、セットリストや演出などをどうやって変えて行ったのでしょうか?

佐藤:考える優先順位が自分の中にあって、それがセットリストなのか自分たちなのかというのが、毎回違うというか。ツアーの間に色んなイベントも入っていたので、そこに慣れていくというところにやっと食い込めたのかなって。余裕というよりは、順応していく作業が難しかったです。

――この夏は、大きなフェスにも出演されていますが、そこから得られたものってありますか。

佐藤:“遠くに歌う”っていうことですね。より多くの人に届ける意識で歌えるようになったと思います。ライヴハウスとは違うので、目の前にいるお客さんを含めて遠くに飛ばさないといけないですし、(野外でも)唯一、風に飛ばされないのが自分のヴォーカルとドラムの音なので。やっぱり、ギターやベースって音が大きければ大きいほど風に流されて行っちゃうので、パッと一体感が出る音が遠くまで届かないんですけど、じゃあ何が届くのかって言ったら、自分の声なんです。フェスに出るようになって、もっと自分のヴォーカルに魅力を持たせないといけないという意識は芽生えました。自分たちのことをまったく知らないお客さんに向けて歌うというイメージがあるので、そこがフェスに出るようになって変わったところですね。

田中:音に関して言うと、フェスのときはリハーサルで外音のチェックができないので、そこは完全にPAさんに任せて、中の音をどれだけ自分がやりやすいようにできるかを考えてはいます。フェスって、数あるアーティストの中から好きなアーティストを見るのはもちろん、興味本位でたくさん見ることもできるじゃないですか。自分はそういうシチュエーションがすごく好きなんです。そういう人たちを驚かせたいなっていう気持ちはあります。


――新作の『音楽の行方』にはとてもメッセージ性を感じますが、そうしたライヴ経験が反映されている部分はあるのでしょうか。

佐藤:いや、むしろライヴをしていない、日常に寄り添った部分が多くて。頑張っている友だちや、自分が過ごしている日常を素敵に表現したいなと思って作った曲だったりとか、ライヴのエッセンスというよりは、自分が日々生きてる日常、見ているもの、出会った人なんかを表に出している1枚だと思っています。

――『音楽の行方』というタイトルはどんな意図があってつけたのでしょうか。

佐藤:まずジャケットが実家のベランダなんです。そこで自分が作っている曲がこれから世に出て誰の手に届いて、どんな風に受け取られるんだろうかっていう興味というか。自分が作った曲が誰にどんな風に届くのかな?ということを知りたくて単純にそのまま『音楽の行方』というタイトルにしました。

――自分の曲がどんな風に届いているのか知りたい、というのはライヴで目の前にいるお客さんから得る反応とは全然違うものということですか?

佐藤:ライヴと音源って全然別物だと思っているんです。やっぱりライヴは特殊で、音源は普段通りのイメージが強くて。そこの違いを言葉にするのは難しいんですけど。CDって、ライヴと違って直接的ではないから、誰が手に取ってどんな受け止め方をしているのかというのは、実際に聴いた人じゃないとわからないし、自分が考えていなかった受け取り方をされたりとか。そういうのってすごく面白いなと思って。

――今回のEPはご自分たちの中でどういう位置ふけになりましたか?

佐藤:1つのスタートとして。そういえばEPって出していないし、“1stEP”ってスタートを切った感じがあるなと思ったんです。

田中:また1つの分岐点だなと思っているんです。去年と今年とだと、大きいフェスに出させてもらったこともそうですけど、全然違っていて。去年は自分たちで色々頑張ってきたんですけど、今年はまわりの人たちにも期待されて応援されている面もあって。全国のラジオ局でパワープレイに選出してもらったりとか、挨拶回りも色んなところに行くんですけど、行くたびに規模が大きくなっていたりとか。それだけ色んな人の期待値も上がってるので、このEPを聴いてくれた人からどう思われているのか、すごく気になります。僕らからしても新鮮な作品になっていると思うので。僕たちは、「熱いライヴなんだけどバラードも持っている稀有なバンドだよね」って言われたりするんですけど、今回はバラードを入れていない初めての作品なんです。それがどう広がって行くのか気になります。


▲佐藤赳(Vo.Gt)

――そのバラードが入っていない、というところがEPというサイズならではなんじゃないでしょうか。

田中:そうですね、アルバムだったら絶対入れますから。

――新鮮な作品になったというのは、佐藤さんが歌う内容にも表れていますか。

田中:今までは、色んな曲ごとに並んでいる感じだったんですけど、今作の曲には一貫性がある。日常のことや背景を歌っていて、ストーリー性があって最終的には5曲で1つの曲みたいになっていると僕は感じているんです。5曲まとめて楽しんでもらえる1枚なんじゃないかなと思います。

――歌の世界観についてメンバー間で話したりはしないですか?

佐藤:ああ~しないですね。それぞれがどう受け取るかは自由なので。

田中:歌詞に関しては、他のメンバー3人はリスナーと一緒です。それぞれ感じ方も違うし、曲への思い入れ、好きな曲も違うと思います。


▲田中そら(Ba)

――では、田中さんが好きな曲を挙げると?

田中:「ミディオーカー」がすごく好きです。

――5曲の中でちょっとテイストが違う曲ですよね。

佐藤:そうですね、常軌を逸した感じというか(笑)。

田中:たぶん、この曲がそれぞれメンバーが一番考え込んだんじゃないかと思うんですけど、曲としては一番何気なく聴けるというか、気負わなくていい感じがします。僕は、普段聴く曲がわりと重たいテーマのものが多くて、結構覚悟をして聴くんです。椎名林檎さんとか。「この曲を聴くからには、昔の恋人を思い出すんだぞ」みたいに思って聴くんです(笑)。でもこの曲は、良い意味で何気なく再生ボタンを押せる曲で、聴いていてずっと気持ちいいんですよね。深くハマるというよりは、長くじっくり聴けるというか。10年後、20年後でも聴きたいときにポンって再生ボタンを押せるんじゃないかなって思います。この曲をちゃんと綺麗な音で聴きたいがために、良いイヤホンを買ったんですよ(笑)。それぐらい好きな曲です。

――かなり思い入れがあるんですね。ご自分のベースプレイとしてはいかがですか?

田中:曲調とかテンポも平坦なので、何通りもやり方があったんです。でも最終的には、ちょっと抑え気味にしました。ゆっくりしたテンポだからこそ、目立つところもあるのかなって思ったので、自分を出したいところ、動くようなフレーズは見えるようにしました。

――全体的に柔らかい演奏ですよね。

田中:そうですね、すごく柔らかいです。ギターのリフもすごく良いですし、それぞれのフレーズが凝っているんです。ちゃんと聴くと、ドラムのバスもギターのリフのリズムに合わせて打ってるんです。そういうところも聴いていて面白い、発見が色々ある曲です。

――「ミディオーカー」とは、どんな意味なんですか。

佐藤:「平坦なことを好む人」みたいな意味で、結構良い意味では使われないみたいです。「普通なやつ」とか。

――ちょっとディスってる感じの言葉?

佐藤:そうそう、ディスってる感じで「おまえ、普通だな」みたいな感じですね。でも、「それでもいいでしょ」っていう皮肉も込めてつけました。この言葉を悪い意味で使っちゃいけないわけじゃないし、日本語で歌詞をつければそれも良い意味に変わるでしょって、結構皮肉を込めています。たぶん、「ミディオーカー」という言葉を知らない人も多いと思うんですけど、曲を聴いて、この曲の中では良い意味なんだなって感じてもらえたら。

◆インタビュー(2)へ
この記事をツイート

この記事の関連情報