【対談】BAROQUE × ACID ANDROID、時代と表現と音楽「受け継ぎながら繋がっていく」

ツイート

■Macが出てきた時が
■いちばん衝撃でしたね──yukihiro

──機材好きなところもおふたりに共通していると思うのですが、普段の楽曲制作は、現在はPC上でやることが多いんですか?

圭:最近はそうですね。でもリズムマシーンも好きなので入手して使ったりもしていましたよ。ただ、シールドをつなぎ変えたりするのが大変なので、今は、それら機材の音を全部PCに録って活用しています(笑)。

──圭さんの世代でも、すでに自分が曲を作りはじめた頃とは、使用する機材や作り方もだいぶ変化しているのでは?

圭:違いますね。僕は10代の終わりくらいで初めてMacを買って。そこで初めて“パソコンで音楽を作る”ことができるようになったんです。その前はMTRでしたからね。yukihiroさんは、昔、打ち込みとかは何でやっていたんですか?

▲ローランドMC-500MK II

yukihiro:最初は、ローランドのMC-500MK IIという片側にテンキーがあって、レジみたいな形をしたシーケンサーなんですけど、それで始めましたね。

圭:それって何か音源が入ってるんですか?

yukihiro:シーケンサー機能しかないもので、MC-500MK IIでサンプラーを鳴らすという感じでしたね。だから、ひたすらテンキーで数値を打ち込むんですよ。音符の長さも音程も数字。当時、そういうことをやっている人たちとは数字の会話をしていた感じでした。

圭:それって、慣れるまでめちゃくちゃ大変じゃないですか?

yukihiro:最初は数値を紙に書き起こしたりしてましたね。その頃はまだ、写真に撮っておくことも簡単じゃなかったので(笑)。撮ったら現像しに行かないといけない時代だったから。でもアナログシンセとかもそうでしたよ。

圭:確かに、設定を保存できないですもんね。

yukihiro:写真を撮るにしても、シンセを4分割して撮って、それを貼り合わせた一枚のシートを見ながら設定を再現して同じ音を出そうとするんだけど。でも絶対同じ音にはならない(笑)。

──シーケンスが出てきたときは衝撃でしたか?

yukihiro:僕はMacが出てきた時がいちばん衝撃でしたね。“すごい! 画面があるよ”って(笑)。

──MC-500MK IIの表示画面は、とても画面と呼べるサイズではないですもんね。

yukihiro:Macも最初は白黒画面でしたけど、それがカラーになったときは、RECボタンが赤く表示されるわけですよ。それだけで“今、レコーディングしてるのがわかる!”というくらいの衝撃を受けました(笑)。

圭:Macの画面が白黒だったのって、いつぐらいですか?

yukihiro:1990年代初頭かな。

圭:ということは、yukihiroさんがMacを導入したのって相当早いですよね。

yukihiro:僕が初めて買ったのは、Ⅱci(1989年9月末発売)という機種でした。

▲ACID ANDROID

圭:当時から打ち込み用のソフトがあったんですか?

yukihiro:Performerを使ってた。Ⅱciの頃に、最初のPro toolsができたんだけどサンプラー程度のものでしたね。そういう変遷も経験してきました。

圭:当時からPCを使っていたっていうのは、ミュージシャンの中でも早かったんじゃないですか?

yukihiro:そういうのを好きなエンジニアさんの横にいられたのは大きかったですね。その人が新しいもの好きだったから、いろんなものが集まってきたんですよ。メーカーもその人にテストしてもらうとか。それでいろいろなものを触ることができたんです。

圭:今は、めちゃくちゃ便利になったじゃないですか。コンピューター1台で完結できますよね。でも、逆に失われたものってあると思いますか?

yukihiro:うーん、それは多分あんまりないと思う。その人の感じ方じゃないかな。昔、ハードウェアを積んでいた人も、今はコンピューター1台でやっちゃうよっていう人もいるし。それがその人にとって、今の自分の音楽に対する正解なんだと思う。僕はいまだにハードウェアが好きだから、ハードウェアを使ってるけど、だからといってMac1台でやっちゃう人に対して、失ったものがあるとは思わない。やりたいことに対して沿っているのであればいいんじゃないかな。

圭:そうなんですね。

──圭さんが最初にPCを導入した時は、“作曲の可能性が広がったぞ”という感触がありましたか?

圭:サンプリングみたいなこともMacがスタートだったので。ブレイクビーツを作ることとかも、そこで初めてできるようになった感じでしたね。ただ、ないものねだりの憧れはあるんですよ。今でもハードウェアのサンプラーを使っている人がいっぱいいるじゃないですか。ハードウェアの音の良さや存在感も確実にあって、そこを通ってきてないからこそ知りたいっていうのはあるんです。

──なるほど。黎明期への憧れというか。

圭:世代なのか、やっぱりPCの方が早いなって、戻ってしまったりはするんですけどね。ちょっと観点が変わっちゃいますけど、今はPC上で音楽を作れるから、一流のスタジオを経験したことはないけど、プロミュージシャンとして活動している人もたくさんいるじゃないですか。でも、知らないのは損しかないんじゃないかなって思うんです。さっきyukihiroさんがおっしゃったみたいに、自分のスタイルで選んでいくことって大事だと思うんですね。でも、それを知って選んでいる人と、最初から選べない人とでは違うと思うんです。なるべく、一回自分で体験したり、本物の音を聴いて選びたいと思ってるんですよね。

◆対談【4】へ
◆対談【2】へ戻る
この記事をツイート

この記事の関連情報