【インタビュー】井出靖「僕が見てきた日本のロック等を、自分たちのスタイルで表現できないか」

ツイート

井出靖率いるバンド・プロジェクト「THE MILLION IMAGE ORCHESTRA」が発足してからちょうど1年が経過した。今年の2月に初のワンマンライブを代官山のUNITで開催して以降、活躍の場を広げている。9月7日〜8日にかけて福岡で開催された<Sunset Live 2019>にも、2日目のビーチステージのヘッドライナーとして出演した。第1線級のアーティストが20名以上も集まったスーパーバンドであるから、このような新人バンドにありきたりな表現は当たらないかもしれない。けれども、井出を筆頭とした“達人たち”は、この手探りな状況を楽しんでいるようだ。来る10月2日に同じくUNITで開催されるワンマンライブを前に、井出を含めたバンドのメンバー4人(高木完、荏開津広、田中知之)に話を聞いた。


■ダブ的な引き算の方法論って
■みんな持っているんじゃないかな

──<Sunset Live 2019>では、同時間帯のタイムテーブルでSIRUPやSKY-HIに挟まれる形でしたが、いつもと違う客層にアピールすることが出来たのではないでしょうか?

井出靖(以下、井出)今回の<Sunset>は、いつもと少し変えてきたよね。

田中知之(以下、田中)もう27回もやっているイベントなんですけど、いつもの客層は僕らのワンマンライブと似ていて。良い意味でもっとルーディと言いますか。今回は確かに若いオーディエンスも多かったですね。

井出 でもブッキングされた段階では僕らに他の出演者の情報は入ってこないから、意図的に違う客層にアピールしようしたわけじゃないんです。「どのフェスに出たいか」ってメンバー内で協議しているときに、<Sunset>がいいねって話になって。特に(高木)完ちゃんなんか福岡に行きたがったよね(笑)。

──あのメンツがいっぺんに福岡に集まるというのは、相当な調整力が必要だったとのではと思います。

井出 誰も遅刻しなかったのが凄かったよね。

高木完(以下、高木) 前乗りする人もいたね。ちゃんと集まるもんだなと思いましたよ。

田中 全員が全員じゃないですけど、みんな結構筋金入りのルードボーイなので(笑)。

井出 富山から来る人とかもいたんですよ。だから本当にみんな<Sunset>にかける意気込みは高かったと思います。


──THE MILLION IMAGE ORCHESTRAではダブが強めに出ているような印象がありますが、今改めてダブをやることはコンセプトとしてあるのでしょうか?

井出 そう? 実は僕の中で特定のコンセプトを設けているつもりはないんです。特に示し合わせたこともなくて、各々が楽器をダブしているってだけで……そうでもない?(他のメンバーに向けて)

高木 まぁでも受け手側がダブだと解釈すればダブでいいんじゃない?

井出 その通りだよね(笑)。ジャンル的な縛りはまったくないんです。

荏開津広(以下、E) ストリートやレベルミュージックの感覚をバックグラウンドに持ったアーティストが、このバンドには多いような気がします。

井出 テクノにしろハウスにしろ、ダブ的な引き算の方法論ってみんな持っているんじゃないかな。それがジャンルとして統一感があるように見えているのかも。

高木 レゲエもダブも超基本として最初に通るね。

田中 そもそも、このバンドの人たちは出自も全然違いますし。でも一緒にいて違和感がまるでない(笑)。

井出 本当にないよね! こんなにいっぱい人間がいると何か揉めるでしょ? それが全くない。打ち上げとかみんなすごく楽しそうだもん(笑)。レゲエを生業にしている人もラテンを生業にしている人も、それぞれちゃんと話が出来ているんです。


■何か具体的なゴールがあるわけでもないし
■ざっくりとした“一番良い形”を目指しています

──このプロジェクトを通して初めて会った人っていらっしゃるんですか?

田中 僕なんかは大半の方がそうですよ。

井出 田中君が参加したのは2回目のライブからだっけ? 今度のUNITで4回目か……1年でライブを4回演ってきたけど、このメンバーで4回もやるの、結構すごいと思わない?

──1年のうちにフェスを4回やるみたいな話ですよね。

高木 本当にそうなんですよ。俺、<Sunset>はフェス内フェスだと思ってたもん。井出君がフェスやライブで見てきたものを、「こうだったらいいな」みたいな形で具現化しているのがこのバンドなんじゃないかな。

──メンバーの出自が違うことで、それぞれが補完しあっている状況なのでしょうか?

井出 補完というか、誰も主役じゃないって意識はあります。何か具体的なゴールがあるわけでもないし、ざっくりとした“一番良い形”を目指しています。最初は意外な組み合わせのように見えても、実際に組んでみるとものすごくしっくり来るというか。(屋敷)豪太と椎野(恭一)のツインドラムは絶対に実現したかったんですが、その最たる例がこの組み合わせですね。

田中 ただ僕は、根源的なところに共通点が何もないように見えて、実は日本のロックがそこにあるなと思うんですよ。以前、僕らDOMMUNEに出させてもらったことがあって、あの時に「このバンドの根っこはダブじゃないな」って思ったんです。井出さんのDJ、オープニング矢沢永吉でしたし。井出さんのトークでもどんどん日本のロックがルーツにあることが明らかになっていった。

井出 うん。僕は13歳ぐらいのころからフェスに行ってたんですが、そこで見た日本のロックをライブで表現できないかなとはずっと思っている。だからさっき完ちゃんが言った「フェス内フェス」っていうのは本当にその通り。

荏開津 キャロルの解散コンサートとか、井出さん行ってますもんね。僕はポエトリーリーディングで少し参加させてもらうぐらいなんですけど、舞台袖で見ていても「これは井出さんが感じてきたものだな」って分かる。歴史が可視化されてゆくというか……。

井出 その意味では、このプロジェクトはこのメンバーじゃないと出来ないかもしれない。みんな実際にシーンで活躍してきた人たちだから、リアルがあるんです。今回はそういうものがより明確に伝わるように、細かく設計していくつもりです。


──今回も前回同様、開場した瞬間からUNIT内のどこかしらでパフォーマンスが行われるんでしょうか?

井出 UNICEが改装されて“B1FLAT”になったので、そこをフードエリアにしようかなと。そこで田中君に18時〜19時半まで回してもらって、塚本(功)くんと奇妙(礼太郎)くんにもミニライブをやってもらいます。UNITが開くのは19時からで、30分ぐらい永田一直くんに日本の曲をかけてもらいます。で、それをバックに僕たちがステージ上に出ていくっていう。ライブが終わってからもアフターショーで2時ぐらいまでイベントは続きます。

──すごくお得なイベントですね。

高木 そうだね(笑)。これだけいろんな人が集まって、長いこと音楽聴けて、ご飯もおいしい。

井出 やっぱり楽しみ方としてフェス的なところは意識してますね。

田中 写真家や映像作家も出演者としてラインナップされてますから、総体的なんですよ。画期的だと思います。あと、すごい部活っぽいですよね。

井出 そうそう(笑)。

田中 もちろん良い意味ですよ? 僕個人としても他のイベントとは違う感覚で出てますね。

荏開津 DJを始めたばかりのころみたいなね!

高木 でもそれは年長者が多いからだろ(笑)?

田中 確かにほかのイベントに出させてもらっても、ほとんど年下ですね。

荏開津 で、さらにレンジを拡大するためにPUNPEEが出ると。

井出 彼は今回僕の後輩として、つまり板橋区のホームボーイとして出ますからね。部活感の延長線上にあるというか。もちろん彼の音楽が素晴らしいことも重要ですけど、それ以上にそういう緩い繋がりも大事にしたいなと。

田中 井出さんの後輩のラッパーがたまたまPUNPEEだったっていうだけですよ。

──後から入ってくるアーティストは難しさを感じることはないのでしょうか?

井出 そこはかなり細かく設計しています。ひとりひとりがちゃんと輝く場所を作ろうとしているので、そのアーティストに合わせたプログラムを作ります。

荏開津 みんなに等しく無茶ぶりしてきますもんね(笑)。

田中 いや、このメンツに無茶言えるの井出さんだけですよ!

井出 だって、多少は無茶言わないとさ……。バンドとして上がっていかないじゃない?

田中 前回のUNITワンマンライブ、6月に音源化されたんですけど、僕らあれに関しては盤になるの知りませんでしたからね。本人を前に言いますけど、ひどい話ですよ!

高木 それこそ昔の日本のロックみたいだよな(笑)。

荏開津 やっぱりね、レベルミュージックやストリートカルチャーがルーツにある人たちって、譜面で音楽やってない場合が多いんですよ。このバンドを考える上では、そういう井出さんの暴挙も必要だと思います。


──井出さんとしてはいつぐらいからライブ盤をLPでリリースしようと考えてらっしゃったんですか?

井出 最初からですね。

一同 (笑)。

井出 いや、合議制だと成立しないんだって(笑)! 前もって「このライブ、音源化します」って言ったらみんな絶対作りこんでくるし、いろいろと意見も出てくるでしょ。そうなるとあの作品は完成しなかった。

荏開津 僕は井出さんと20代のころから仲良くさせていただているんですけど、昔から“プロデュースすること”には執着されていた気がします。それもかなり根源的なところから作りこんでいくんですよね。

──具体的にはどういうところに執着されるんでしょうか?

荏開津 「場」から考えるところはあるんじゃないですか。音楽があって、食べ物があって、場が出来てゆくっていう。それが自然な形で成立するんですけど、実はものすごく計算されているっていう。

──場を演出するという意味ではまさしくDJ的な感覚ですね。

田中 DJでありプロデューサーであるというところで、色々な角度から見られるんですよね。だからパーティでありながらショーな側面がある。ミリオンを「ライブバンドです」って言い切るのはエポックメイキングな発明だと思います。

井出 メディアが活字にはしづらいだろうけどね(笑)。でも「新しくて楽しいことやってんな」ぐらいには思われたいです。それから大事なこと言い忘れてたんだけど、平日の夜に遊べるってことを知ってほしい。今度のワンマンは水曜日ですが、1週間のド真ん中に夜中まで400人ぐらいの人たちが遊べる場所があるってことが、もっと普通になればいいと思います。


YASUSHI IDE PRESENTS THE MILLION IMAGE ORCHESTRA<WELCOME TO THE MILLION IMAGE SHOW>

2019年10月2日(水)
代官山UNIT&B1Flat&SALOON
OPEN 18:00 START 19:30
ADV:5,000円(ドリンク代別)
LIVE:
YASUSHI IDE PRESENTS THE MILLION IMAGE ORCHESTRA
内田勘太郎/大森南朋/奇妙礼太郎/曽我部恵一/高木完/PUNPEE/藤本一馬/紫垣徹(THE SKA FLAMES)/石井マサユキ(TICA)/塚本功/延原達治(THE SKA FLAMES)/AKIHIRO/Watusi(COOLDFEET)/穴井仁吉(TH eROCKERS)/屋敷豪太/椎野恭一/外池満広/及川浩志/西岡ヒデロー/石川道久(THE SKA FLAMES)/icchie(YOSSY LITTLE NOISE WEAVER)/巽朗(Speak No Evil)/元晴 (MORE THE MAN / Speak No Evil)/SARO(Conguero Tres Hoofers)/冷牟田竜之(MORE THE MAN)/荏開津 広/今里(STRUGGLE FOR PRIDE)/田中知之(FPM)/永田一直/DJ YAS/井出靖

映像:
Alec Soth/danmala/DAN MONICK/Geoff McFetridge/nathaniel Russell/信藤三雄/中野裕之/高橋恭司/高木康行/内藤啓介/KENNICAM/VIDEOTAPEMUSIC

FOOD:
アベクミコ/お好みたまちゃん/キッチン☆ボルベール/ケニーズタコス/その場しのぎの酒場

DRINK:
アヒルストア/ナジャ/QUIET LODGE
DRINK担当:
藤巻一巨 GRAPE REPUBLIC

◆Grand Gallery オフィシャルサイト
◆Grand Gallery STORE
この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス