【インタビュー】島キクジロウ、パンクロッカーがなぜ弁護士に?「相手が国だろうが大企業だろうが戦える」

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■音楽は練習しても前に進んでるのかわからない
■だけど、勉強は頑張れば100%前に進むから

──当時のイギリスには貧富の差があって簡単に上にいけない社会構造だった。そういう部分もパンクが生まれた背景のひとつにあったようですが、島さんはそういうことも踏まえた上でクラッシュにのめり込んだのでしょうか?

島:そうでもないですけどね。音楽とファッションと直感。好きなアーティストに関してはインタビューを読んで、カッコいいなって。ローリング・ストーンズのキース・リチャーズも知的なことをサラッと言うじゃないですか? ジョン・レノンもそうですけど、ロックの反抗的な部分とちょっとした知性とユーモアにグッときてましたね。

──アメリカよりイギリスのロックですか?

島:圧倒的にそうですね。アメリカも中には好きなアーティストがいるぐらいで。子供のときは意識して分けて聴いてないからあとで気づくんだけど。わかりやすい例だとラモーンズはそんなに好きになれない。テレヴィジョンとかイギー・ポップはいいんだけどね。

──ニューウェーブ感というか? モッズを描いた映画『さらば青春の光』にグッときた世代ですよね?

島:もろに。後にロンドンでも見る機会があったんですけど、やっぱり全然興奮が違いましたね。The WHOの映画『ザ・キッズ・アー・オールライト』もロンドンで見ました。

──島さん自身の今日のファッションもモッズ系スーツでUKを感じさせます。そんなロック一筋の人生を歩んできて、司法試験受けるために猛勉強されたわけですね?

島:やるって決めたら時間もないし、早くスタートラインに立ちたいから日本でいちばん勉強する受験生になろうって。睡眠時間2時間でがんばるとかじゃなくて6時間睡眠は死守して毎日勉強する。電車に乗るときも絶対にひとりで20分の移動中に判例を何個覚えるとか。音楽って死ぬほど練習しても前に進んでるのか後ろに下がってるのかわからないけど、勉強は頑張れば100%前に進むから。こんなに楽なことない。ストレスゼロですよ。

──勉強ができる人は寝ているってよく言いますけど、脳が働かなくなって効率が落ちるから?

島:そう。眠いのに勉強したって意味ない。脳みそが元気じゃないとね。僕はね、中学のときから記憶力が悪かったんですよ。だから同じことを何度も繰り返して、常識を上げていくっていうやり方をするしかなかった。ほかの人が「この問題、3回もやったよ」っていうところを僕は最低7回はやる。「この科目はこの参考書」って決めたら、その本だけ勉強する。ほかの本に変えても基本的に情報は変わらないし、何度も読めばだんだん頭に入ってくるじゃない?

──学生時代から勉強が苦にならないタイプだったんですか?

島:僕は中高一貫校だったんですよ。中学のときは東大確実って言われてたんだけど、高校でバンド始めてアッという間に250番ぐらい成績が下がって(笑)。高校3年の学祭が終わってから頑張って成績戻しましたけどね。ただ、僕の場合はさっきも言ったように東京に行くことが目的だったから、大学は入れればどこでもいいかなって。

──なるほど。司法試験の勉強をしているうちに、“これ面白い”みたいな発見もありましたか?

島:もちろん。いちばんは憲法です。最初は普通の人より知識がなかったんだけど、最初の授業で“憲法LOVE”になっちゃって(笑)。最高なのは憲法13条。「すべて国民は個人として尊重される」っていう。個の尊厳なんですけど、個人は集団の中で犠牲になる必要もないし、埋没もしない。国民ひとりひとりの存在に意味がある。いま出ている改憲案には「すべて国民は人として尊重される」って書いてあるんですよ。そんなの当たり前なんだから憲法に書く必要ないですよね。大事なのは人という種類じゃなくて、個人。僕、小学校のときから岡林信康の「私たちの望むものは」っていう曲の“私たちが望むものは社会のための私ではなく 私たちのための社会なのだ”っていう歌詞が大好きだったんですよ。勉強してて、“これ憲法に書いてあったんだ”って衝撃を受けたし、そういうふうに憲法ってひとりひとりの人間に対する愛に溢れてるんですよね。

──感覚として“これ、知ってた!”という。

島:憲法のスピリット自体はわかったみたいな。そこから勉強とするというよりは、憲法に関係する本を新書を含めて楽しんで読むっていう方法に切り替えたんですね。“こういう方法もあるんだ”、“憲法を使うとこういうことができるんだ”とか。たとえば憲法訴訟の事例集を読んで“こういう可能性があるんだ”とか。あとは“行政法”っていう科目があって、ほとんどの受験生が苦手なんだけど、行政を相手にどういう訴訟の仕方ができるのか?っていう内容で、それこそ自分がやりたかったことと近くて、受験勉強は楽しかった。

──弁護士になられた年齢は?

島:48歳。42歳で司法試験の学校に入学して、3年間勉強して、1回試験に落ちたんですけど、2回目で合格して。そのあと高知で1年間修習して、2010年の12月に弁護士登録。年明けて1月には日本の電力会社にCO2を減らすよう呼びかけていく“シロクマ弁護団”に誘われて入ったんだけど、その2ヶ月後に福島で原発事故が起こって、当然のようにそっちに飛び込んでいった。いざ始めてみるとエネルギー問題って、「この電気の作り方は危ないからやめようよ」っていう話じゃなくて社会構造や経済構造そのものなんだってことがわかって。これはライフワークにするのにふさわしいなと思って、ずっと取り組んでるんですけどね。

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