【ライブレポート】上杉昇「歌を唄うのは、自分が生きている価値を見つけること」

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2018年に12年ぶりとなるソロ・アルバム『The Mortal』をリリースし、これまでになく精力的な活動を展開している上杉昇が、<アコースティック・ツアー2019防空壕>のファイナル公演を10月5日に岡山MO:GLAで行なった。

ロックとエレクトロニカの融合をテーマの一つとして制作された『The Mortal』に伴うライブは、アコースティック・ツアーとエレクトリック・ツアーという2種類の形態で行なわれ、2019年に入ってからはエレクトリック・ツアーの後半戦を行なったほか、5月には会場限定のシングル「火山灰」をリリース。また、野外でのイベントや中国の上海、北京、成都、杭州などでの音楽イベントにも出演するなどフットワーク軽くライブ活動をしていたが、いよいよ新作タイトル“防空壕”を冠したフェーズのスタートだ。今回のアコースティック・ツアーは、熊本・兵庫・富山・岡山のライブハウスを回るもので、“今まで演奏したことのない地域を中心に”という思いでセレクトしたのだという。


岡山MO:GLAは地下にあるライブハウスで、隠れ家感のある作りといい薄暗さといい“防空壕”の雰囲気にぴったり。開演時刻を過ぎたころ、ステージと客席の照明がさらに落ちてほぼ真っ暗になったなか、ギタリストの平田崇とキーボードなどを担当する森美夏、そして上杉がキャンドル揺らめくランタンを手にしてステージへ登場した。1曲目は「SUBZERO」、続いてal.ni.coの「Blindman's Buff」。オルタナ感あふれる粗野なギターと、もの哀しい鍵盤ハモニカやグロッケンの響きがなんともいえない切なさを醸し出す。ボーカルも極力エフェクトをかけない音作りで、声の細かいニュアンスや感情もはっきり伝わるというか、かなりむき出しな状態。誤魔化しが利かないぶん、よりパーフェクトな歌唱が求められるわけだが、この日の上杉の歌はオープニングから最後まで本当にすごかった。MCの「いつも以上に気合いが入ってます。心ごとぶつかっていこうと思うので、心ごと受け止めてください」という言葉通り、気持ちの入り方も声のハリツヤや表現力も驚くほどのレベルだった。

続くMCでは「赤い花咲く頃には」のモチーフである人間魚雷について説明し「日本人はこの国を守ろうという気持ちが強かった。そういう先人のことを忘れたくなかったので歌にしました」と語って、『The Mortal』収録曲から「赤い花咲く頃には」ほか4曲を演奏。タイトル曲「The Mortal」でのボーカルは特に素晴らしく、力を抜いて抑え気味に歌うパートから、ちょっと声を張るとナチュラルなゲインが加わる音色の変化、ちりめんビブラートやクリーンなハイトーン、ガナリ系シャウトなどを自在に入れ込む様は見事としか言いようがない。技術的なことや表現方法はもちろん本人の努力によるものだが、楽器としての喉がこれだけ素晴らしい表現力を発揮できるのは、神様からの贈り物と言っても良いのではないかと思う。


中盤のカバー曲パートも興味深かった。「自分の音楽の入り口はハードロックやヘヴィメタルだったので、そんな曲があってもいいんじゃないかと。できる時にやっておかないと後悔すると思うので、今はヘヴィなアルバムを作ってます」と近況を報告し、「メタルと言えば、このバンドなしには語れない」とメタリカの「ナッシング・エルス・マターズ」という哀愁漂うミディアム・ナンバーをドラマチックに演奏した。続いては萩原健一の「愚か者よ」(ちなみに近藤真彦のバージョンでは「愚か者」というタイトルとなる)をスローにアレンジして披露。多くのアーティストがカバーしている名曲だが、この日はスパニッシュ風味のギターに乗せて人生の光と影をにじませるような歌を披露した。また、戸川純の「諦念プシガンガ」は、オリジナルはフォルクローレっぽいミディアムだが、このツアーでは森美夏のフルートと2人のコーラスを活かした良い雰囲気の仕上がりに。続くヤプーズの「赤い戦車」は、オリジナルだと戸川純のエキセントリックな歌唱と打ち込みサウンドが際立つ楽曲だが、この日のバージョンではナチュラルなアコースティック・サウンドと上杉の人間くさいボーカルによって、より歌詞の世界観がリアルさを増していた。こうしたカバー4曲からも、彼のルーツや今の温度感をはじめ、MCにあった「歌を唄うのは、自分が生きている価値を見つけること」という信念が透けて見えたような気がする。


「ちょっと真面目な話をすると、ここまで生きていると、生きるということは別れることなんだろうなと。別れを受け容れなければならない運命のもとに俺たちは生かされているんだということを、最近は思います。それが歌詞にどう反映されるかはまだわからないですけど、そんな気持ちを持ちながら歌を作ってます」と語り、ツアー・タイトルでもある新曲「防空壕」を演奏。迫力あるピアノとパワフルなストロークのアコギで奏でられたこの曲は、“防空壕の 黒の中では 灯りを消して 息を呑む”などの緊迫感にあふれたワードが印象的でダイナミックなナンバー。上杉の本領発揮ともいえるロックな新曲にいち早く触れられた観客は、大きな拍手で喜びを表現していた。また、ジーン・クラークのカバー曲「With Tomorrow」、クリス・コーネルの楽曲に上杉が日本語詞を乗せた「The Promise」(会場限定販売シングル「火山灰」に収録)、猫騙の「Long and Winding Road」とハートウォーミングかつ力強いロック・チューンが続き、本編ラストは「FROZEN WORLD」だった。「俺が作った曲の中ではけっこう間口の広い曲なんじゃないかと思っていて。フィギュアスケートとかに使われたら似合うかななんて思ってます」との曲紹介もあったが、確かに氷の世界を表現した美しいこの曲はアイススケートの場面もイメージ豊かに彩ることができるだろうと思った。

アンコールでは「知ってる人は一緒に唄ってもらえたら嬉しいと思います」と、WANDSの「Same Side」を演奏。サビでは上杉がオーディエンスにマイクを向け、客席はもちろん大合唱となった。それを見届けた彼は“みんなの気持ちを受け取った”と言わんばかりに自分の左胸を叩き、満足げな笑顔で「サンキュー、また会おう!」とステージを後にした。

終演後のSEでは、つい先程アコースティック・アレンジで演奏された「防空壕」のスタジオ・バージョンが流れたが、こちらはラウドでインダストリアルなサウンドが実にカッコいいヘヴィなアレンジだった。現在レコーディングしているという新曲たちがどのような方向に向かっているのか、大いに期待させる“ニュー・シット”であることは確かだ。


ライブ中に上杉が「バンド形態というか、ヘヴィサウンドのライブを行なう予定でおります。いろいろ考えていることがあるので楽しみに待っていてください」と予告した次のツアーは、早くも10月27日の大阪バナナホールからスタートし、12月1日の東京・下北沢GARDENまでの全4本を駆け抜ける。昨年秋から今年春にかけて、ドラム・ギター・キーボード・マニピュレーター・VJという編成で行なわれた前回のライブには<ELECTRIC TOUR>というタイトルが冠されていたが、次のツアーは<MIXTURE TOUR 2019 防空壕>と名付けられ、12月4日に全国発売となるシングル「防空壕」も先行販売されるという。エレクトリックとミクスチャーではサウンド・アレンジがどのように変わるのか、上杉のボーカル・アプローチがどんなメタモルフォーゼを遂げるのか、楽しみに待ちたい。

文:舟見佳子
撮影:加藤正憲(2019.9.1 神戸チキンジョージ公演)

SHOW WESUGI MIXTURE TOUR 2019 防空壕

10月27日(日)大阪:梅田バナナホール
11月4日(月祝)愛知:名古屋SPADE BOX
11月17日(日)宮城:仙台enn 3rd
12月1日(日)東京:下北沢GARDEN

上杉昇2019 第3弾DISC爆音試聴トークライブ+先行販売+サイン会

10月26日(土)滋賀:野洲BARI-HARI
11月3日(日)静岡:浜松カフェアオゾラ
11月16日(土)栃木:宇都宮カフェインクブルー
[問]ネクストロード TEL03-5114-7444(平日14:00~18:00)http://nextroad-p.com

NEW SINGLE「防空壕」(C/W 愚か者よ)

OPCD-1192 ¥1,300(TAX in)
10月26日(土)ライブ&イベント会場先行発売開始
12月4日(水)全国リリース
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