【インタビュー】キズ、来夢「僕が死にました」(後編)

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■ファンにはどうせ全てバレる。だから自然体でいる

──昔、インタビューでも「好きになるからファンレターは送ってくれるな」と言ってましたね。

来夢:あぁ、それは変わった点かも! 今はファンレターをめっちゃ読んでます。これは言っときたいことだった。「傷痕」の時にはファンレターは読んでないし、読んでもサッとしか読んでない。だって「こういう来夢さんが好きです」と言われたら、自分ではその自分がかっこいいと思っていなくても、言われた自分を演じちゃうから。でも「こういう来夢さんがかっこいいです」と言われてその通りになっちゃう自分は、果たして自分と言えるのかと疑問に思いません? だからファンレターは送ってこないで欲しいと言っていました。でも今は大丈夫。だって何を言われても自然体でいられるから。

──大きな変化ですね。

来夢:今はけっこう読んじゃってるわー。楽しいですよ。「こんなこと考えてるんだ」と分かったり、「俺は違うと思うけどな」と思ったり。受け取るところは受け取るけど、受け取れない言葉は受け取らないようになれたんです。この差は大きいですね。昔の僕は変に全部を受け取っちゃって、背負ってしまっていたんですよ。少し器用になったのかな。

──受け取らないという選択肢ができたんですね。

来夢:「この言葉は違うな」と思っても、それに対して怒ることもなくなりました。これがファンに対して求めるものがなくなった、ということの現れでもありますね。

──「ファンレターは受付中」状態になりましたね。

来夢:いや、別に無理して書いてこなくていいわ(笑)。もらったからには読まないといけないじゃないですか。でも、だからといって「書くな」なんてひどいことは言わん。でもね、読むには時間がかかるんですよ(笑)。ほら、読む時間あったら、曲書けるんじゃね?とか思うけど、そんなことは言えんし(笑)。書くんだったら自分なりの芯の突いた言葉を書いて欲しいですね。

──「ファンレターは自分の言葉で書いてくれば受け付ける」状態なんですね(笑)。

来夢:いや、何を求めてるんだ、そんなこと求めちゃいかんわ(笑)。どうせやるんだったらっていう話ですね、これは。

──これは来夢さんの優しさなんですかね?
来夢:いや、これは優しさだとは思わないですね。これは、気まぐれ。これが優しさだったら、僕は昔から優しかったはずです(笑)。

──ファンの方との関係は変わってきていると感じますか?

来夢:んーどうなんでしょうね。でも、どうせファンには全てバレるんですよ。ファンレターに「来夢さん、本当は優しいですよね」と書かれていたことがあったんです。手紙は書くなとか散々ひどいことを言っていても、それでも愛を感じてついてきてくれる人がいるんですよね。だから、取り繕うことなく自然体でいようと思えたんです。

──ファンの方は鋭いですね。

来夢:うちのファンは騙せないですよ。それは曲も活動も発言もそうです。だから隠すことはもうやめました。それが「自然体でいる」という言葉につながっているかもしれないですね。

──「自然体でいる」という姿勢も、いきなり出てきたわけではないですよね。自然体でいたいという欲求はどのように培われたのでしょうか?

来夢:ずっと嘘が嫌いなんですよ。僕の中では嘘をつくことが嘘なんじゃなくて、「隠すこと」が嘘なんですよ。例えば歌詞に対しても、汚い部分があるならそれも詰め込んじゃえば嘘じゃないのに、綺麗なことだけを歌うから嘘になるんです。例えば「黒い雨」であれば、「愛している」だけを歌って綺麗な言葉だけを並べていたとしたら、それは僕にとって嘘なんですよ。

──キズはファンの方に対して、嘘は決して歌わないんですね。

来夢:そこだけは譲れないですね。

──この流れで、ファンの方に何か伝えておきたいことはありますか?

来夢:えー? まぁ、どうせ頼むんだったらですけど、だらしないとこも含めて僕だから、僕のことを好きと言ってくれるのであれば、自然体の僕を好きであって欲しいです。酒飲んで潰れて、ダメになってる僕も全部好きになって欲しい。ちゃんとだらしない部分も持っている人間だからこそ、キズの歌詞が書けるんだと思う。

▲「黒い雨」通常盤ジャケット

■「痛み」を探しているとその裏には必ず愛がある
■分かった振りをするのが一番の罪

──ここまで聞いていても、来夢さん、変わりましたね。

来夢:今まで気にしていた色々な部分がどうでも良くなりましたね。ここはこういう自分を見せたいとか、こういう歌い方で表現したいとか、言い出したらきりがない程に。

──何に関心が向くようになったのでしょうか?

来夢:キズとして、音楽として、世界に関心があるんですよ。世界に行きたいと思っちゃいました。でもそれは、「ビジネス的に拡大しよう」ということではなくて。国や地域の政治や歴史を知ることで分かる「痛み」に関心があるんです。知れば、自分が歌うことや歌詞がもっと広げられると思う。

──痛みがあるかどうかが、来夢さんの関心事になるか否かの基準になるんですか?

来夢:というよりも、痛みを探しているとその裏には必ず愛があるんですよ。汚いものやどろっとしたもの、もやっとしたものを探していると、自然に愛を求めるようになって、両面を見れるようになるんです。愛だけを探しに行こうとしたら、痛みや汚い部分を見ないじゃないですか。それは隠していることと同義だから、僕の中では嘘になるんですよ。

──「痛みの裏には愛が、愛の裏には痛みがある」という考えはどのように行き着いたのでしょうか?

来夢:いろいろな国で「歴史の地雷」を踏んでしまったからかな。日本人が踏み入れちゃいけない場所に知らずに踏み入って石やライターを投げられたり、瓶で殴られたりもしました。身をもって国の痛みを経験しているから調べるようになったんです。そしたら「自分はなんてとんでもないことをしていたのか」と分かるんですよ。

──殴られたりしたら避けることもできまが、それでもさらに知ろうとしたんですね。

来夢:「なんでいけなかったんだろう」と遡って考えてみると、瓶で殴られたとかの小さな話が、それこそ「黒い雨」のように規模の大きな日本と世界の歴史的な話に繋がることもある。無知な事は罪だと思いましたね。

──「黒い雨」は、「BLACK RAIN」として英詞にもなりましたね。

来夢:そもそもこの歌は世界に伝えたかった。英語は話せるのに、僕は今まで英詞で歌ったことはなかったんですよ。本当に難しかった(笑)。

──「黒い雨」で「愛している」と歌っているので、「BLACK RAIN」でも「I love you」となるのかと思ったんですけど、違うんですね。

来夢:僕が「I love you」って歌ったら、気持ち悪くないですか(笑)? 最初は歌おうかなと思ったんですけど、照れ臭くて。だから「I treasure you girl」になりました。

──来夢さんも照れ隠しするんですね。

来夢:「I love you」は「愛してる」より抵抗あります(笑)

──インタビューでしか味わえない、この来夢さんの雰囲気をファンにも伝えたいです(笑)。ちなみに僕は、来夢さんが白服限定GIGのMCで「苦しいでしょ」と話した時、温かい気持ちを感じました。

来夢:「銃声」の前のMCですよね。何も打ち合わせしてなかったから「銃声」に関して思ったことをただ話しました。あの瞬間がバンドとしても初合わせ状態です。曲がなかなか始まらないし、何か話せというような空気でしたしね(笑)その時も話したんですけど、人の痛みは分からないし、分かってあげられない。だから分かった振りをするのが一番の罪なんだ、と伝えたかったんです。人の痛みに対して「自分と似たような痛みだ」とも思っちゃいけない。でも、空気としては優しい感じになっちゃいましたね。なんでだろ。別に優しいことを言おうとしたわけじゃなかったけど。

──なんだか来夢さんらしい。

来夢:もう言い残すことはないな。他に聞きたいことあります? ちょっと優しすぎましたかね(笑)。

──敵のくだりを増やして調整しますか(笑)?

来夢:敵はもういいすわー(笑)。

──味方はどうですか?

来夢:味方のことももういいすわー(笑)。

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