【連載】フルカワユタカはこう語った 第31回『使命』

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▲宮田岳(黒猫チェルシー)、井上司(fox capture plan)と

「これまでツアー中に、ベースとドラムが一斉に代わることなんてなかったもんな」

◆フルカワユタカ 画像

7月に出したアルバム『epoch』の全国ツアーは各地盛況のまま半分を折り返し、いよいよ佳境といったところの仙台公演。そのリハーサル中、僕は西川口以来2週間ぶりに合流したガッちゃんこと宮田岳(黒猫チェルシー)とつかっちゃんこと井上司(fox capture plan)とのアンサンブルにいささか戸惑っていた。無論二人には何の問題も無く、それどころか西川口からさらに楽曲を体に入れてきてくれていて頼もしい限りだったのだが、ここまで前半7本一緒に演奏してきたウニちゃん(雲丹亀卓人)と鈴木浩之とで作ってきた楽曲の解釈やテンポ感や抑揚とかそういったものが、当たり前だが微妙に、箇所によっては大きく違っていたからだった。

例えばカウントから違う曲もある。たったハイハット4発の違いなのだが、“あれ?この曲なんだっけ?”と、それは本当に一瞬の迷いではあったのだが3時間後に開演する本番に向かって、決して油断の出来ない迷いだった。


▲雲丹亀卓人、鈴木浩之(THE KEBABS)と

事実、これまでツアー中にサポートメンバーがこんなに丸ごと入れ替わったことは無かった。6年前の<『emotion』ツアー>のときに村田シゲとウニちゃんの出入りはあったが当時は新井君がいる4人体制だったし、何より事務所に所属せず諸々を自分でやっていたツアーでもあったので、そういったライブの細部に対して敏感になる余裕も無かったのだろう。

スタジオリハ、会場でのリハ、そして本番、ウニちゃんとキングと恐らく20回以上通してきたセットリストには三人で作ったクセ、言い換えるならグルーヴがしっかりとあり、ソレは各会場でお客さんや、なんならステージ上の僕達を楽しませてきた“武器”だったが、今は少しだけ自分をナーバスにするものに変わっていた。ではこの“たった”数日での熟成ですらこのように影響を及ぼすのであれば、バンドのように超熟成されたものでは一体どうなってしまうのか。


2年前、スタジオコーストでDoping Pandaはその日限りの復活を果たしたのだが、実はこの時、コースト前に一度だけ三人でリハーサルに入っていた。事前に何をやろうとか決めていなかった僕たちが約6年ぶりに合わせた曲は特段の理由もなく何故か「The way to you」だった。2年も前のことなので、そのリハーサルにどんな細かい感想を抱いていたかまでは覚えてはいない。マネージャーにサラッと「やはりドーパンだったよ」と言った気もするし、何も言わなかったような気もする。とりあえずドラマみたく体中の血が逆流するほどの感激で震えたなんてことは無かった。が、かといってちっとも感動をしていなかったわけでもなかった。あまりにも当たり前のものがあまりにも呆気なく鳴ってしまったことに、実を言えば僕は素直に感動していた。口にはしなかったが、恐らくこれは2人も一緒だったのではないだろうか。

演奏をシメ、少し間を置いてからタロティーのスラップで始まる「GAME」、それから僕のアルペジオで始まる「CRAZY」をやって、僕らは楽器を一旦置いて話し始めた。スタジオは2時間とってあったのだが、僕たちはその3曲だけ演奏して話し込んだ。随分長く喋っていたと思うが、その間誰も「次に何をやろうか」と切り出したりはしなかった。何かそれはとても正しいことのような気が僕はしていた。世間話のオチが着いたところで、もう一度さっきの3曲をやろうということになった。何も示し合わせてはいなかったが僕らはその3曲をつなげて演奏した。その並びでやったことがかつてあったのかもしれないとても、自然なワンセクションとしてその3曲は流れていった。「じゃあ、本番もこれで」──そう言って決まったのがあの日のコーストのセットリストだ。2時間のスタジオで僕たちはたったの3曲をふた回し演奏しただけだった。

リハスタでは無事だった僕の血は本番のステージで逆流しまくった。ステージ上手に陣取っている自分。ハヤトのコーラスが聞こえてくる。横を向けばタロティーが不器用に笑っていて、どしゃ降りの歓声が会場を揺らしている。考えてみれば当然のことだったけど、会場があってオーディエンスがいて、僕たちは初めてそこでドーパンとして一夜限りの復活を果たした。正直、大木伸夫に促されてやったおかわりの「Transient Happiness」以外はほとんど覚えていない。今、僕の当時の記憶となっているのは後から見た同録の映像である。


仙台公演の後、その映像を久しぶりに見返してみた。改めて見ても、6年ぶりに、しかも何をやったか覚えていないくらい舞い上がってて、恐らく三人ともそうだったに違いないのに、テンポ感も音色もまさしくドーパンだった。それを見ながら、バンド解散後のソロ活動というものが、僕に限らずほとんどの人にとっていかに容易ではないかが少し分かった気がした。

だって3人だけの事じゃないんだもの。オーディエンスも一緒になって作りあげたバンドに関する全ての既成事実と対峙しなければならないんだもの。歴史という分厚い壁の向こうに“今”を届けなきゃいけない。それはあまりにも手強い。あの頃より歌もギターも響いてても、それでも敵わないかもしれないものを相手にしてるんだから。


▲<フルカワユタカ ワンマンツアー「epoch」>10月27日(日)@宮城・仙台space Zero

“都合”とは良くいくだけのものではないようで、結局、仙台では本番中に何度か微妙な迷いが生じることとなった。では仙台のライブはダメだったのか?実際はそうではない。「本人がリミッターを外してイケイケのときって、案外スタッフの印象は悪かったりするんだよね。『今日、ユタカさんテンション高めでしたね』……えっそれだけ!?みたいな」──とアンコール前にこのような趣旨のMCをしたのだが、この日、僕はツアーでも1〜2を争うほどの熱いパフォーマンスをみせた。もちろん、リズム隊と上手くハマッてこないからとやけっぱちになってたわけではない。むしろ途中からはそういったナーバスな部分に対する意識がどんどん小さくなっていって、それに反比例して自分がライブハウスと溶けていくような感覚があった。

一体どういうことなのか。要するに僕は仙台のオーディエンスに“のせられた”のである。例えばクラッシックなどであれば、オーディエンスから与えられる物は静寂だけだ。最終的に演奏が静寂以上の価値を生んだ時、それは拍手や歓声へと変わり、演者に降り注がれる。もしかするとアコースティックライブはそれに近いかもしれない。だがロックバンドにおける演者とオーディエンスの関係は全く違う。僕たちはライブを通してオーディエンスと呼応しあうのだ。感動の出口は演奏の最後のみにあるわけではなく瞬間瞬間に訪れるシーン1枚ずつに用意されている。しかもその感動は僕たちが一方的に生み出すものではなくて、時としてフロアからもたらされるのである。スタジオコーストのあの時のように。

あの夜、僕は地鳴りのような歓声に記憶が飛んでしまうほど感動していた。多少の思い込みもあるとは思うが、映像では心無しか声もギターも”フルカワユタカ”の時よりも鳴っている気さえした。ほとんど覚えていないのにも関わらずだ。もちろんコーストの話は極端な例で、仙台でそこまでのことが起こったわけではないのだが、間違いなく僕は仙台のオーディエンスにのせられ、ツアー屈指のパフォーマンスをするに至ったのだ。なんなら少し飛ばしすぎたかしらと懸念したほどだったのだが(故に前述のMC)、スタッフやサポートメンバーの評価は上々だったし、なによりもフロアの反応に、その日の出来がしっかりと現れていた。


▲<フルカワユタカ ワンマンツアー「epoch」>11月03日(日)@福岡・福岡Queblick

この点において僕に架されている使命があり、僕はこのツアーでそれに気づいた。僕はやはりみんなが立つ、そのフロアを埋めなければいけないのだ、と。6年前の<『emotion』ツアー>では殆どの箇所で客入りが厳しく、また雑務も同時にこなしていくというなかで、サポートメンバーに無理をして付き合ってもらっている様な、お客に応援されている様な気持ちになって、僕はもちろん精一杯歌いギターを弾いていたつもりだったのだが、きっと内容が良くなかったのだろう。あれは確か誕生日の夜だったはずだが、浜松公演の後、メジャーデビュー前から一緒に仕事をしてきた名古屋のイベンターさんに「今のフルカワさんは色々後ろ向きすぎる」という趣旨の説教をされた。悔しかった。

遡ればドーパンの時のZeppツアー、それから最後のツアーの時も僕は真後ろを向いたまま旅をしていたかもしれない。背伸びした会場であれ、自分の人気不足であれ、理由はなんであれ、もちろん興行を切った以上は、たとえお客が1人でも全力でロックスターをみせるべきだと僕は思うし、実際そうしてきたつもりだ。が、一度僕は、Zepp大阪公演の直前にファンの同情を誘うような内容のブログを書いた。その時は確かに少しチケットが動いたが、もちろんそんなものが続くわけがなかったし、そもそも僕だってそんなことわかっていた。僕はあの時、ファンを試してしまった。これも僕の“全力”なんだと自分に言い聞かせていた。

「反省はしても後悔はしない」というのが僕の生き方なのだが、あの時の後悔はいまだに大きな瘡蓋として僕の胸の中に残っている。一度上げてしまった会場規模は下げられないんだ、Zeppの次は武道館、そしたらホールツアーをして、果ては東京ドーム。と、それが使命だと勘違いしていたのかもしれない。そんなもの僕の使命でもなんでもなかった。


▲<フルカワユタカ ワンマンツアー「epoch」>11月03日(日)@福岡・福岡Queblick

見栄なんかはらなくていい。きちんとスタッフと話し合いながら活動を決めて、良い曲を書いて、素敵なバンドメンバーといい演奏をすること、その為に一生懸命準備をすること、毎日ライブのことを考える事。これこそが僕に架されている唯一の使命だ。本当に単純で、そうやって人生さえかければ「人前で演奏をする」という僕の世界で一番大事な宝物はどこにも逃げて行かないのだと<『epoch』ツアー>が現在進行形で僕に教えてくれいる。

<Road to the YELLOW FUNK TOUR>の時、もうこれがドーパンの最後のツアーなのかもなと思ったし、実際にそうなってしまった。<『emotion』ツアー>の後、僕はもうツアーを一生できないのではと途方に暮れた。だから頭を下げて事務所に戻ったわけだったが、年間2本くらいしかライブができない日々が続き、本当に苦しかった。

もうすぐ<『epoch』ツアー>が終わり、いずれまた僕は新しいツアーと巡り合う。それが終わればその次の、それが終わればまたその次の。全てのツアーを一生懸命作る。知らない間に過去に見た事の無い景色をみんなと一緒に見れるようになっているかもしれない。でも今の僕にそれはあまり重要な事ではなく、今の僕に大事なことはとにかく週末の大阪と名古屋を成功させる事。つかっちゃんとガッちゃんといいグルーヴを作って、いいライブして、ロックスターすげーなカッコいいなーってみんなを感動させる事。プロとして。



▲<中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2019>9月28日(土)@岐阜県・中津川公園内特設ステージ

同期のバンド達が大きな箱を埋めてみせたり、いまだにフェスで大きいステージを任されたりしているなか、僕のはこんな素朴な自慢で大変申し訳ないんですが、今回ツアーのチケット、ソロのキャリア史上一番売れてるんですって。言い方が悪いですかね、一番多くの人に観て頂いてるんですって今回。もちろん、どっこも売り切っちゃあいませんし、彼らと比べたらこんな事を報告すること自体が恥ずかしい限りなんですけど、僕は純粋にそれが嬉しくて、よせばいいのに各地で自慢げにMCしちゃってる始末で。いやぁ、お恥ずかしい。

それとね、今回からバンド時代からずうっとやってた事前に券売状況を聞くっていうのをやめたんです。売れてないことを「あーだ、こーだ」って悩んだって、結局やることは同じですもんね。ってので聞くのをやめたんですけど、心のどこかで「もう僕はどこに行ったって大丈夫だ」って思ってたからのような気もするんですよ。

とにかく、人生で今が一番、音楽が楽しい気がしてるんです、僕。登ったら下ることを身を以て知っているせいでしょうか、余計かもしれませんが、ちょっと不安になるくらい音楽が楽しいんです。

■<フルカワユタカ ワンマンツアー「epoch」>

※終了した公演は割愛
11月09日(土) 大阪・梅田Shangri-La
open18:00 / start18:30
11月10日(日) 愛知・名古屋APOLLO BASE
open16:30 / start17:00
11月16日(土) 東京・渋谷TSUTAYA O-WEST
open17:30 / start18:00
▼チケット
4,200円(税込/Drink別)



■4thアルバム『epoch』(エポック)』

2019年7月3日(水)発売
NIW147 / 3,056円(+税)
01. コトバとオト feat.Base Ball Bear
02. ゲッコウとオドリコ
03. クジャクとドラゴン feat.安野勇太(HAWAIIAN6)
04. コーラとアメスピ
05. セイギとミカタ
06. インサイドアウトとアップサイドダウン feat.ハヤシヒロユキ(POLYSICS)
07. ボトルとサイダー
08. デストラクションとクリエイション ※Guest:岸本亮(fox capture plan)
09. ドナルドとウォルター feat.原昌和(the band apart)
10. ロックスターとエレキギター


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