【インタビュー】ASKA「これほど聴いてもらいたい曲は久しぶり」10年ぶり新作CDへ至る旅路

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なんとなく出すだけではない。10年ぶりならこれぐらいのものを出さないと。そんなパワーを全てにおいて感じる最新シングル「歌になりたい/Breath of Bless〜すべてのアスリートたちへ」を発売したばかりのASKAに話を聞いた。

◆ASKA 画像



■新しく僕を見つけた人がどこをさかのぼって聴いても
■「なんだ、前からこうじゃん」と思ってもらえるものを作り続ける


──まずは表題曲の「歌になりたい」が圧倒的でした。アイスランドで撮影されたMVが神がかってて、鳥肌がたちました。

ASKA:ありがとうございます。景色が壮大でしたからね。ベースになってる場所があるでしょ? あそこだけで1曲通してもいいぐらい壮大な場所でしたね。景色のパワーがとにかくすごかった。過去にオーストラリアでMVを撮ったときに観た「地平線」と「太陽」。その後、アフリカでも同じような気持ちになりましたが、今回のは、その2つとは別の感覚でしたね。太陽がとっても大きくて、滲みながらもクッキリとしていて。すごく近くに感じましたね。

──いまはMVをスマホで撮っちゃう人もいるような時代のなか、今回のアイスランドロケはきっと経費度外視で撮られている訳ですよね?(笑)

ASKA:はい(笑)。今回はそこまでやろうと。それぐらいの気持ちでこの楽曲に向き合ってたから、お金のことはまず置いておいて(笑)。監督から海外ロケの話が出てきたときは、最初、フィンランドが候補地だったんです。最終的にアイスランドになったという経緯でしたね。僕のなかでイメージができないまま「行きましょう」と返事をしたんです。

──なんでそうまでやろうと思ったんですか?

ASKA:自分の作品のなかで、これほど世の中に聴いてもらいたいと思った曲は久しぶりでした。「UNI-VERSE」という楽曲を出したときも自分がいままで作ってきた楽曲のなかの“最高傑作”だと伝えましたね。あの時と、同じような感覚になってます。

──その、手応えというのは作曲している段階からあった訳ですか?

ASKA:ありましたね。きっと聴く人がこのように感じてくれるだろうなっていうのが、明確にありました。

──つまり、作り手と聞き手、両方の手応えが分かるということですか?

ASKA:みんなそうでしょう?もちろん自分がやりたいことは最優先です。だけど、それがマニアックになってしまってはダメだと思うんです。なぜなら“ポップス”だから。僕は。

──ASKAさんのなかでポップスであることを意識し出したのはいつ頃だったんですか?

ASKA:僕はずっとですよ。昔はね、「万里の河」がヒットしたが為に「万里の河」っぽい路線の曲じゃないと上け入れられない時期がありました。その呪縛から解かれたのがレコード会社移籍でした。移籍後の1曲めが「モーニングムーン」でした。ちょうどその少し前に、音楽業界にコンピューターが現れた頃でした。

──ASKAさんはたしか、Macも誰よりも先に飛びついて買っちゃったんですよね?

ASKA:コンピューターが出てきたとき、これを取り入れる人と取り入れない人でふるいにかけられるだろうなと思いましたね。いち早く取り入れてデモを作るようになって。『Z=One(ゾーン)』というアルバムから、音作りやアレンジに参加するようになったんですが、その頃から自分がやりたいこととリスナーが何を求めているのかを意識したかな。自分の中に初めて生まれたプロ意識だったかもしれませんね。喜んでもらってこその「喜び」ですからね。その上で、自分のやりたいことを充実させる。この比率は、今でもずっと続いています。

──そこの“柔軟性”があってポップス制作には大事であると。

ASKA:僕らは最初、大学4年生のときにデビューしたので、当時はなんにも分からなかった。音楽業界もまだミュージックビジネスって言葉もない時代でね。そこからいろんな経緯を経て。音楽業界もアナログからデジタルへ移行しました。今後もデジタルは続きますから、ある意味アナログとデジタルの真ん中の「紀元」を経験したんですね。そういう意味では、しばらくWスタンダード状態でしたから、両方を知っていると、いろんな考え方に柔軟なんです。いまの若い人は“J-POP”という枠のなかできっちり音作りをしているけど、僕はそれを聴くと、国内しか見てない楽曲だなと感じてしまうときがあります。

──ASKAさん、そんなこと思ってたんですね。

ASKA:どうせ作るなら、ワールドワイドな楽曲を作っていくべきだなと感じています。いまのJ-POPというのは日本における一つの音楽の形なんだろうけど、そこから今後誰が抜けてくるのかなって、ふと思ったりもしますね。

──なるほど。いまの話を聞いて、今回の「歌になりたい」、「Breath of Bless〜すべてのアスリートたちへ」をはじめ、ASKAさんの楽曲が壮大で大陸的なのはワールドワイドな視点が根底にあるからなんだなというのが分かりました。その意識を持ちながらも、オーディエンスが聴いてどう思うかも考えてらっしゃる。

ASKA:ずっと前からそうですよ。僕だけじゃなく、言わないだけでみんなそうだと思いますよ。例えば、今回のシングルが世の中が受け入れてくれるシングルヒットになったとしたら、新しく僕の音楽を知った人が「なんだ、前からこういうことをやってたんだ?」と思ってくれるものを常に作ろうと思ってるだけかな。

──新しいリスナーが過去の作品をさかのぼって聴いても、同じ感動が得られるものを作っていく。

ASKA:そうですね。これは前に経験したことなんですが、ポニーキャニオン時代に、一時期アルバム6〜7枚がベスト100のランキングに何週も入り続けた時代があったんです。そのリスナーの方々の意見というのが「なんだ、前から(こういうことを)やってたんじゃん!」というものだった。そういう経験をしてるからね。さっき、今回はすごい手応えを感じたっていったけど、楽曲を作る手法はまったく変わってないから。新しく僕を見つけた人がどこをさかのぼって聴いても「なんだ、前からこうじゃん」と思ってもらえるものを作り続ける。そこは譲れないところかな。

▲「歌になりたい/Breath of Bless〜すべてのアスリートたちへ」

──カッコいい。では再び楽曲の話に戻りますけど。「これはきた」という手応えはどのタイミングで感じたんですか?

ASKA:曲を作るときは楽曲を構築することに精一杯なんですよ。この曲は、まずAメロは言葉のないメロディーをフランクに歌って。フランクに歌ってるからこそサビはしっかりとしたメロディーがないとダメだと思ったんです。それをするにあたって、「no no darlin'」という曲で、女性コーラスがサビになるとリードボーカルに変わり、それに合わせて僕がフェイクするという手法を用いたんですが、それを久しぶりにやってみようと思って。それを“ラララ〜”でやってみたらすごくうまくいったんです。それで、歌詞を書くためには、その仮歌が入った曲を今度はこの曲はどんな世界観なんだって冷静に聴いていく。そのときに、ふと思いついたのが楳図かずおさんの『漂流教室』でした。だけど、『漂流教室』の漫画のあるシーンを歌っただけだと、ただの作文になってしまいますよね? 歌詞にするためには、どこか1つがシンクロしてるところがあればいいと思ってるんです。

──ほぉー。

ASKA:「SAY YES」がドラマ(『101回目のプロポーズ』)の主題歌になったとき、こんな感じで作ってくださいとドラマの台本が送られてきたんですが、僕はそれを読みませんでした。じつは(笑)。マネージャーが読んで、こんな感じだったというあらすじを聴いて「了解。もうそれ以上はいいよ」と。そして「SAY YES」を作りました。「YAH YAH YAH」(ドラマ『振り向けば奴がいる』主題歌)のときも一緒でしたね。

──あの大ヒット曲たちはそんな作り方で作っていったと。

ASKA:内容を全部知らなくても、どう感じたかだけを聴いて自分が作れば、どこかがクロスする。その一瞬クロスが、実はいちばん強い。ですのでドラマの内容は、あまり知りたくないですね。ただ、今回のテーマになっています『漂流教室』は、内容を全て知っているわけです。歌詞を書く上で、やらなかったことは「読み直さない」ということでした。ま、でも、登場人物の名前まで覚えているわけですから、その一瞬のクロスをどこに求めるかでしたね。

──いまは、例えばアニメの主題歌なんかはその原作、台本、映像まで見て歌詞をそちらによせていく人が多いんですよ。

ASKA:僕は違いましたね。元々『101回目のプロポーズ』の結末は「SAY NO」だったんですね。武田鉄矢さん演じるモテない男の純愛が儚くも打ち砕かれるストーリーだったようです。ところが、ドラマの視聴者から「SAY YES」というタイトルだったこともあってドラマをハッピーエンドで終わらせてくれという意見がどんどん寄せられて、それを脚本家が「SAY YES」に書き換えたという裏話を、聞かせてくれました。

──原作の方を歌が変えてしまった。って、そんなことあるんですか?

ASKA:どうでしょうね(笑)。なので今回も、敢えて原作の内容に寄り添わない楽曲になるよう意識しました。

──では、ASKAさんのなかで「歌になりたい」の歌詞と『漂流教室』のクロスポイントはどこになるんですか?

ASKA:この漫画が最後に言いたいことはなんだろう。それだけを考えましたね。漫画の最後は、未来に撒かれた種だと自分たちで判断して、高松翔君たちは現代への帰還を諦める。僕の中に生まれたテーマは「ずっと僕らは命の中にいる」でした。

──それが“ずっと僕らは命の中にいる”“時を超えても命の中にいる”という一節なんですね。では、この流れでもう少し歌詞について聞かせてください。“もし僕にもし君に役目があるのなら”というフレーズがありますが。ASKAさんは人生のなかで自分の役目というものを考えたことはありますか?

ASKA:これは1回いってしまってるんだけど、20年前に、自分は歌を歌うためだけに生まれてきたのではないと公言したことがあって。いまもどこかにそれはあります。なんか、これだけではないと思っているんですよね、自分の役目は。歌を歌うということを通して世の中の人に知ってもらって、その上で、この先になにかやることがあるんじゃないかと思ってます。それがなんなのかはまだよく分からないんですけどね。

──続いて“どうして僕らは愛を求めながら寂しい方へと歩んでいくだんろう”というところなんですが。ここでいう寂しい方へというのはどういうことなんですか?

ASKA:人は悲しい方へは歩いていかない。寂しさ=せつなさだったりしますよね?人ってせつなさにはみんな共感する。せつなさにすごく胸を打たれますよね? 悲しみには胸は打たれませんよね?悲しみには拒絶と同情しかない。でも、せつなさには人は“寄り添う”でしょ? だから寂しいっていう言葉を使ったんです。

──深い。ASKAさんがブログで語ってて話題になった光GENJIの「パラダイス銀河」の“しゃかりきコロンブス”。このワードに意味があるんだというのもあのブログを読んで知って、衝撃を受けましたからね。

ASKA:光GENJIがその意味を知ったのもずっと後でしたからね。意味は説明せず、彼らは、なにも分からずに歌ってたんです。書いた当時は20代でしたが、たまたま僕はその言葉を知っていました。

──ASKAさんの人生は“たまたま”をよく引き寄せますよね。この「歌になりたい」を昨年“パリ木の十字架少年合唱団”とコラボしたのも。

ASKA:あれもたまたまです(笑)。この曲の歌詞ができたと同時にあの話をいただいたんです。

──今作では女性シンガーの方が歌ってらっしゃって。あれは天使が宇宙を包み込むようなイメージですか?

ASKA:そうですね。

──オープニングのイントロでもそのようなものを感じましたが。この曲のアレンジのポイントはどんなところだったんでしょうか。

ASKA:Aメロができた後にイントロを作ったんですが、複雑なことはしたくないなと思って。すーっと音が伸びるなかにきらめきのある音が加われば、それで十分だと。それだけでいいなと思っていました。あとはアコースティックギターのカッティングと、そのリズムを失わないエレキ。曲のなかの共通音となるコードをずっと鳴らす。歌い始めにシンセのパットはあるけど、音はいたってシンプルにした。そのほうが、より歌詞が伝わっていきますからね。

──あのシンセがMVのアイスランドの広大な景色にぴったりはまってますよね。

ASKA:楽曲を完成させた僕には、あのアイスランドは見えていませんでした。楽曲を聴いた監督から「土地自体に力がある場所でやりたい」といわれたときは、正直、ピンとこなかったんです。だから僕は監督を信じて行っただけなんですが、アイスランドに着いて、あの大地を見たときに全部が見えました。そこのど真ん中で自分が何をすればいいのかが。


──そのなかで、ジャケットにもなった石に耳を傾けるシーンが生まれたんですね。

ASKA:あれ、面白かったんですよ。監督が「ASKAさん、そこの岩のところで…」っていったとき「ちょっと待って!ここで岩に耳をつけさせてくれないかな」なんてやり取りがあったんですよ。監督もまったく同じことを考えていたんですね。この岩を見たとき、2人が同時に、大地の音を聞く、ということを考えたようです。

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