【インタビュー】シンプリー・レッド、新作『Blue Eyed Soul』に振りまいた“妖精の粉”

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1980年代より活躍し、これまでリリースしたアルバムのトータル・セールスは6000万枚を誇る英国マンチェスター発のシンプリー・レッドが、通算12作目となるアルバム『Blue Eyed Soul』をリリースした。ロンドンにあるBritish Grove Studiosにて、プロデューサーには長年のコラボレーターであるアンディ・ライト(他にジェフ・ベックやユーリズミックスなども手がける)を迎え制作されたアルバムについて、フロントマンのミック・ハックネルに語ってもらった。


――このアルバムが生まれるきっかけは、何だったのですか?

ミック・ハックネル:普段はほとんど身体を動かさず、自宅では大半は料理や犬の散歩をしたりテレビを見たりして過ごしているんだけれど、その合間に曲のアイデアが浮かんできたから、様々な文や言葉をリストになるくらい大量に書き留めるようになって、それが個々の曲になっていったんだ。最初に取りかかったのは「Thinking Of You」で、メロディーは自ら歌ったものを携帯電話に録音した。構成が固まったら、プロデューサーで良き友人のアンディ・ライトにアカペラのまま送って聞かせた。そこから一緒に作り上げていったって感じだね。どの曲でも、様々なパートを歌ってみせた。「Thinking Of You」でいえば、ベース・ライン、ホーンの部分、そしてギター。すべてを携帯に録音しておいたから、バンドとスタジオに入ったときには僕のなかでアレンジは決まっていた。

──レコーディングは順調でしたか?

ミック・ハックネル:レコーディングは昔ながらのやり方でやったよ。ブースに入って演奏前にカウントを出した。ワン、ツー、スリー、フォー、(バーン!)って具合にね。あとは何テイクで仕上げるかの問題で、1960~1970年代初期にはバンドはこうやってレコードを作っていたんだ。ヴォーカルはほとんどライヴで1テイクのみ。部分的に修正するとしても、全体的な過程からしてスタジオでのライヴ・アルバムといっていい。

――アルバム制作で最も楽しんだことは?

ミック・ハックネル:細部へのこだわりかな。曲作りの最初から、アレンジだけでなく歌詞や諸々を曲としてまとめる作業、ミキシングも楽しんだよ。ミキシングは機材をセットしてもらって自宅で行ったんだ。作品には“妖精の粉”を撒いたような効果が欲しいんだ。それがマジカルなレコーディングを創出するんだ。1950~1960年代にはコンプレッションを使って、ほぼ偶然の賜物のサウンドを生み出していた。専門家じゃないからコンプレッションが何なのか実際に理解している人ばかりじゃないし、ミュージシャンでさえコンプレッションに対して腰が引けてる人が少なくない。音源を“潰して”しまうと思っているんだね。でもそうじゃない。適切に圧縮すれば音の迫力が増すんだ。だから1960年代にはよく使われた。質の悪いラジオからでも直に響く大きな音を出したかったからね。でも、コンプレッションをかけたら、細かい部分を若干再アレンジしなければならない。場合によってはある音が前に出て他の音が目立たなくなることがあるから。だから、オーヴァーダブした音や元の音を丁寧に思い出して「タンバリンの音が消えてるから戻そう」だとか細かい部分を調整する必要がある。僕の大好きな曲には、明言しがたい雰囲気があるんだ。「Strawberry Fields Forever」や「Life On Mars」には音だけじゃないきらめきがある…いわゆる“妖精の粉”だね。だから明言しがたい音のマジックを創出するために、ミキシングであの雰囲気を得ようとするんだよ。


――このアルバムで成し遂げたかったのはどういうものですか?

ミック・ハックネル:僕にはふたつの目的があって、ひとつは自分の声にこだわって力を注ぐこと。もっと声の表現を膨らませたいんだ。一般的に僕はソウル・シンガーとみなされていると思う。僕は青い目をしているからブルー・アイド・ソウル・シンガーだね。だからこそ声にはこだわりたかった。声の存在感を際立たせ、ディストーションや様々なアレンジを加えて、高揚感のあるドラマチックなものに仕上げたい。そしてもうひとつは、バンドがどんな曲を演奏したいか?だね。どんな音楽なら毎晩楽しんで演奏できるのか?大概はノリが良くてリズムに合わせて頭を振れるような曲だよね。観客が望むものと同じだよ。自分が目指すべき方向性がわかったから、今作はアップテンポでグルーヴのあるアルバムになったんだ。ただ、曲順に関しては、まるで表面と裏面の両面があるレコードみたいな編成になってしまったな。「Ring That Bell」でB面が始まるような感覚なんだ。こればかりは世代の問題だから仕方がないよ(笑)。いまだに曲順をレコードのA面B面の感覚でとらえてしまうから、今回のアルバムはそんなふうに仕上がっているよ。

――取り立て気に入っている曲はありますか?

ミック・ハックネル:「Ring That Bell」が好きだね。グルーヴ感がいいんだ。アルバムの後半の曲が気に入っているから、いわゆるB面のほうが好きってやつかな。「Ring That Bell」で始まって、次の「Bad Boots」から最後まで。とはいえ、言うまでもなく曲はどれも我が子のようなものだし、どれもその曲なりの良さがある。当然、自分が作ったんだから、思い入れもある。それぞれに違った意味合いや思い出がね。


――あなたにとってブルー・アイド・ソウルはどんなものなのでしょう。

ミック・ハックネル:20世紀の音楽の歴史は、いわゆるブルー・アイド・ソウルなしには語れない。それが1920年代初めにビング・クロスビーで始まろうが、あるいはフランク・シナトラやエルヴィスであろうが、実際に青い目じゃなくてもロバート・プラントからミック・ジャガーまでみんなアフリカ系アメリカ人の音楽に多大なる影響を受けている。20世紀の音楽への最大の貢献はアフリカ系アメリカ人の音楽じゃないかな。エルヴィス、シナトラ、ツェッペリン、ビートルズ、ストーンズら全員に絶大な影響を与えんだから。僕が何か新しいことをしているわけではなく、既にあったものにならってきたにすぎなくて、イギリス人である僕らにできたことといえば、アメリカ人にはままならなかった意外な展開を引き起こしたことじゃないかな。白人アメリカ人にブルースを広めたのはザ・ローリング・ストーンズだよ。すぐそばにあったのに、ストーンズに教わるまで彼らは知らなかった。そこからボー・ディドリー、マディ・ウォーターズらが知られるようになっていった。僕らは1962年からアフリカ系アメリカ人の音楽にずっと敬意をもち続けているし、自分も、彼らの素晴らしい音楽と多大な貢献が僕らのカルチャーに与えた影響を深く理解しているイギリスの後進のアーティストのひとりだと感じている。世界のカルチャーに彼らがどれほど偉大な影響を与えてきたか、いくら力説しても足りないよ。

――あなたにとってシンプリ―・レッドのハイライトといえば?

ミック・ハックネル:自分のキャリアで印象的なのはその一貫性(一貫した成功)だね。特定の瞬間をひとつ選ぶのは難しい。もちろん『Holding Back The Years』がアメリカでNo.1になったときはもの凄く興奮したよ。当時マンチェスターの台所付きのワンルームを間借りしていて、アメリカでNo.1になったと電話をもらったときは信じられなかったな。それから『A New Flame』でNo.1になり、ニュー・アルバムはいくつも1位になった。そして忘れもしない大成功を収めた『Stars』はイギリスで2年連続売り上げ枚数No.1を記録した。シングル「Fairground」でも1位を獲得して、初めて制作したインディーズ・アルバム『Home』も2年連続で世界で最も売れたインディーズ・アルバムになった。こうした出来事からひとつだけ選ぶのは難しいけど、結局「Holding Back The Years」につきるのかもしれない。初めての経験だったし、ある意味、他とは何もかも違っていたからね。父と暮らしたマンチェスター、デントンの実家でギターを抱えた僕は、たった3つのコードしか弾けなかった。「Holding Back The Years」の冒頭のコードを見つけて作曲したあの瞬間は今でも覚えているよ。それがどれだけ僕の人生に大きなインパクトを及ぼしたかを考えるんだ。失業手当を4年間受けながらモスサイドに住み、泥棒に入られ、週25ポンドでしのいでいた生活から、あれのおかげで僕は抜け出すことができた。あの頃の自分は永遠に成層圏の彼方だよ。あれが自分にとって最も重要だったかな。

――家族を持ったことが、あなたにどんな変化をもたらせましたか?

ミック・ハックネル:完全に変化を遂げたと思うね。母親が家を出た3歳のときから娘のロミィが生まれるまで、自分は実質的に家族というものを知らなかった。母親というレフリーがいないから、10代の頃は顔をあわせれば父親と衝突してばかりいて、20歳を超えるまで関係を修復できなかった。ひとつ屋根の下に男2人だけの暮らしがどういうものなのか、世間にはなかなか理解されにくいんだよ。今は犬を含めれば3人の女子に囲まれている。そういうことを、たいていの人は当たり前の事に思うだろうけれど、僕は家族を手にしたことがなかったから、日々学ぶことばかりで自分も変化する必要があった。すべての経験が変化そのものなんだよ。


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