【インタビュー】KEN ISHII「音楽を取り巻く環境に対する学びは終わらない。そういう意味で終わりのない旅なんです」

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KEN ISHII名義では前作より13年ぶりとなるアルバム『Mobius Strip』をリリースした。「自分の好きなものを好きなように作ったらこうなった」という作品は、これまで以上にKEN ISHIIらしい内容と言っていいだろう。“メビウスの輪”と名付けられたこのアルバムには、彼のいろいろな思いが詰まっているようだ。そんなKEN ISHIIに話を聞いた。

■それほど間を開けずに
■新しいトライを幾つかしていきたい

──前作から13年ぶりとなりますが、今リリースする意味は?

KEN ISHII 出したくなかったわけでないけど……音楽業界、特にダンスミュージックのシーンではCD出してどうとか、アルバムを積極的に出してどうとか、そういうムードがなくなってきたのはご存知の通り。継続的にアルバムをリリースしているアーティストもホントに少なくなってきた。ひとつは単純にCDが売れない、アルバムというフォーマット自体が必要とされているのか、という問題もある。ダンスミュージックのDJだったらトラック単位で、十分という考えもあるし……実際にファンもアルバムのようなバラエティに富んだものより、このアーティストのこの曲が欲しいというのも分かる。そういうもろもろの課題があってどうしたものかなと思っているうちに、意外と時が過ぎてしまった。

それにサイドプロジェクトをはじめとした、横のつながりのあるレーベルやアーティストから曲を出して欲しいと言われれば、それに応えるようにそのときそのときのトレンドに合わせたものを作ってリリースしてきたわけ。そういうことをやっていると、自分の本当の意味でのオリジナル作品を出さないまま、時間が経ってしまった。もしかしてアルバムしか見てない人はずーっと休んでたんじゃないかと思うかもしれないね、結構忙しくやってたんだけど(笑)。

いわゆる自分のアーティスト性やクリエティビティをひとつのアルバムにまとめて出すというところまで、なかなか行かなかった。頭の中でどうしたらいいかということは考えていて、それがこの3年くらいでやっとまとまったと。

曲を作る中で、人が思っていることやトレンドとは別に、自分が作りたいものはこういうものなんだって自然とわかってきた。そうやってアルバムとしての音楽の部分が固まってきたところで、MVやアートワークをしっかりと作ったり、ひとつのパッケージとして完成させてくれる、レーベルと一緒に仕事が出来たこともタイミングがよかったと思う。

──今回のアルバムは、今のトレンドにバッチリ乗った音にしようとか、そういう感じではない?ご自身の集大成的な作品にしようという意味合いは?

KEN ISHII そういう意味では狙いはまったくなくて、自分の好きなものを好きなように作ったらこうなった感じ。あとは自分の作りたいものも一方向じゃなくて、それぞれ形や色は違うけど、これらが全部自分の色だよ、とすべての要素を入れ込みたかった。そういう意味では集大成的と言えるかもしれないね。

──個人的な印象で恐縮ですが、「攻めてない感じ」、「余裕がある感じ」がしました。それがISHIIさんの言う、自分の作りたい感じにつながるのかなと……。

KEN ISHII 今回は、ホントに自分が好きなシンセやソフトを試していって、好きな音が出てきて、それを核に膨らませていく、そんな自分が好きで得意なパターンで作ってみた感じかな。限られた才能の中で、自分の持っているものをフルに生かした感じかな。多分新しいトライはこれから……今回リリースできたことで、自分自身アルバムを作るというメンタルに帰ってきてるから、それほど間を開けずに新しいトライを幾つかしていきたい。そういう意味でいうと今回の作品は、今の自分をはっきり観せる、そんなアルバムなのかな。


──ある程度の年齢になってくると原点回帰的なものとか、温故知新的なものを作りたくなる瞬間もあると思います。ISHIIさんはそういう思いはないですか?

KEN ISHII 自分が曲作りをしていて、やった!と思う瞬間って、面白い音ができたときとか、フレーズができたときとか、そういうところだったりもするんです。それって学生のときに曲作りを始めて、“ああ、いい曲できた”ってときと同じ気持ちなんだよね。商業的に売れたからやった!じゃなくて、自分が思っている音が出せてうれしい。今回そういう気持ちで作った感じ。もともと自分が好きなパターン、自分が喜ぶパターン、そういうのがあって、それを感じながら作ったんだ。

──そういう変わらない気持ちの一方で、25年のキャリアの中で変化したことはありますか?

KEN ISHII 曲作りを楽しみたいという幹の部分は変わらないんだけど、エンジニアリングやプログラミングに関しては、新しい、今のやり方になってる。制作の面では常にアップデートしているんで、そこが変化している部分だね。

クラブや会場の音響も以前より良くなって、昔だったら出なかったような音が出るようになってきている。だからその分ローエンドに関してはすごく時間かかっていたりするんですよ。音楽を取り巻く環境に対する学びは終わらないわけ。そういう意味で終わりのない旅なんです。


■今回はあくまでも自分のアルバムで
■どうしても一緒にやってもらいたい人に声をかけた

──そんな中、ジェフ・ミルズ、DOSEM、GO HIYAMAをコラボ相手に選んだ理由はありますか?

KEN ISHII 初期のパイオニアとしてのジェフ・ミルズは偉大だけど、この10年は常に新しいチャレンジをしていて、その姿勢がかっこいいなと思っていて。今のテクノのスタイルを作った人というポジション的にはそんなことやる必要はないはずなのに、どんどんチャレンジしてストップしない。

彼って自分のプロジェクト以外に、他のアーティストとコラボしたことは、ほとんどないのよ。思いつかないでしょ?リミックスさえまったくと言っていい程やらない。そもそもそういうのをやらない人だから、オレのアルバムに引っ張り出せたってことだけで光栄(笑)。

──DOSEMに関しては?

KEN ISHII 10年以上前かな、彼がデビュー間もないころから知っていて。テクネイジアからすごい奴がいるぞと紹介されて。その後いくつかイベントで一緒になることがあって話したら、彼が学生のときに、スペインでオレがよくプレイしてたクラブに毎回遊びに来てて大ファンだと。スペイン・カタルーニャ州ジローナってとこなんだけど、「あなたはジローナではレジェンドですから」っていきなり言ってきて(笑)。「あなたと、スヴェン・ヴァスとアレクサンダー・コワルスキーがレジェンドなんだ」と。その序列もよくわかんなかったけど(笑)。オレのアルバムも全部聴いてるって熱く話してくれて。

今でこそメロディ中心のハウスっぽい作品が多いけど、当時はデトロイトテクノの進化系みたいなトラックで、昔ながらのテクノ的な良さを持っている。今回こういう機会があるから何かできないかと言ったら二つ返事でOKをもらって。DOSEMは国内でも何回か一緒にやってるし、この前もやったし、来週はジローナで一緒だし。縁もあって、いい付き合いをしてるよ。

──GO HIYAMAは意外でしたが、いかがですか?

KEN ISHII HIYAMAくんは昔から知っているけど、ここ数年の彼のアート系の仕事の曲がすごく好きで。テクノトラックもひねりまくっているし、そういうのを聴いているとシンプルにこういう曲が作りたいなって思って一緒にやるしかないなと。HIYAMAくんとの曲はテクノのフォーマットにハマらないものをやりたいし、そういうのをアルバムに入れたいから、ぜひ一緒にやってくれと。彼のオリジナリティと自分の要素がいいバランスになって、すごく好きな曲になったかな。

──もっといろんな人とコラボしようという考えはありませんでしたか?

KEN ISHII 今回はあくまでも自分のアルバムで、自分の気持ちとしてどうしても一緒にやってもらいたい人だけに声をかけたんだ。

──日本でレコードデビューしてから25周年。25年間も第一線で活躍できる理由は?

KEN ISHII まあ、第一線かどうかはさておき(笑)、それほど心がけとかないんだよね。目の前にあるものをしっかりやることかな……。ひとつひとつをしっかりやっていくことが積み重ねにつながるよね。そもそも昔から将来何になりたいとか全く考えたことがないから(笑)。

──音楽は生き物で、例えばテクノシーンに元気があるとき、ないときもありますよね?

KEN ISHII 上がり下がりはもちろんあるけど、まず諦めないこと。あとオレは、どこまで行っても音楽が好きで楽しい。綺麗事じゃなく、音楽を作るのが楽しいんだ。たとえその作品が売れなくても、プレイしていてお客さんがあまりいなくとも、そのお客さんたちが盛り上がってくれることが楽しい。その思いはずーっとある。その楽しさ=続いてるってことなんだろうね。自分では第一線かは分からないけど、音楽に対して興味がズーッと続いている。

それ以外は特別なことはやってないけど、あとは真面目な話、周りにいるスタッフが優秀なおかげはあるよね。人生で二度スポットを浴びることってそんなになくて、最初に出てきたときが一番で、その後アーティストを続けていくにあたって、実力はもちろんだけど、話し合える仲間/スタッフがいることが重要だと思う。仲間やスタッフ達と常に冷静に話し合っていく……それが一番リアルなところだと思うな。



『Mobius Strip』

2019年11月27日(水)リリース
【完全生産限定盤 Type A】7インチサイズハードカバー仕様 3枚組 折込ポスター付 UMA-9130~9132 定価 ¥4,600+税
【完全生産限定盤 Type B】7インチサイズハードカバー仕様 2枚組 折込ポスター付 UMA-8130~8131 定価 ¥3,300+税

*Type A, B共通*
<CD>
1.Bells of New Life
2.Chaos Theory
3.Take No Prisoners (Album Mix) with Jeff Mills
4.Vector 1
5.Green Flash (Album Mix) with Dosem
6.Silent Disorder with Go Hiyama
7.Prism
8.Vector 2
9.Skew Lines
10.Polygraph
11.Quantum Teleportation with Jeff Mills
12.Vector 3
13.Like A Star At Dawn

<CD-EXTRA>
・ボーナストラック1曲
・ボーナス映像
・KI Mobius Strip オリジナルフォント(Mac,Windows,Unix対応 OpenType PS)

*Type Aのみ*
<7インチアナログレコード>[クリアヴァイナル仕様]
・ボーナストラック2曲

◆KEN ISHII オフィシャルサイト
◆アルバム 特設サイト(U/M/A/A)
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