【インタビュー】KISS最後の日本上陸「このラスト・チャンスを逃してほしくない」

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いよいよ10日後、12月8日にセビオアリーナ仙台で幕を開けるKISSのジャパン・ツアー。<END OF THE ROAD WORLD TOUR>の一環として行なわれる全5公演に及ぶ今回のツアーについては、それに先駆けてこの11月に組まれていたオーストラリア/ニュージーランド・ツアーが、開催目前になってポール・スタンレーの急病により中止となり、その病状について「最低でも2週間の療養が必要とされる模様」などと報じられていたため、ファンの間でも「日本公演に支障はないのか?」「ポールに無理をして欲しくない」といった声が飛び交っていた。

そんなさなかの11月22日、今やKISSでのメンバー歴も17年になるギタリストのトミー・セイヤーと、短時間ながら電話で話をする機会を得た。ここでは、その際のやり取りを交えながら、KISSの最新情報をお伝えすることにしよう。


▲Photo by Igor Vidyashev

電話の向こうのトミーは、バンドの現在の拠点であるロサンゼルスではなくオレゴンに滞在しているという。トミーがオレゴン州ポートランド出身であること、彼にとっての最初のバンド、ブラック・アンド・ブルーがそこで結成されている事実をご存知の読者もいることだろう。そのことを指摘すると、彼は「いろいろと詳しいね」と言って笑いながら、「ただ、今回は実家を訪ねているわけではないんだ。実はこちらの海岸沿いに別宅があって、今はそこで過ごしている。カリフォルニアとはまたちょっと違った、とても景色のいいところでね」と穏やかな口調で語り始めた。しかし今、まず彼に訊かなければならないのは、彼自身の個人生活の話ではなく、ポールに関してのことだ。日本のファンの間にも彼の体調を心配する声が多いことを告げると、彼は次のように答えてくれた。

「世界中のファンに心配をかけてしまい、申し訳なく思っているよ。ただ、もう問題ないはずだ。ポールは大丈夫だよ。彼は悪性のインフルエンザにかかり、しかも喉を傷めてしまい、実のところ一時は喋ることもままならないような状態にあった。だけど、おかげさまで順調に回復しているし、ジャパン・ツアーは計画通り実施することになっている。今回、オーストラリアとニュージーランドのファンには悲しい思いをさせてしまい、とても申し訳なく思っている。ポール不在の状態のまま、鮫のために演奏する機会があったとはいえ(笑)、ツアーを楽しみにしてくれていた人たちの期待を裏切ることになってしまったからね。俺自身、とても残念だ。ただ、とにかくポールはもう健康上の問題を抱えてはいないし、日本へは万全の状態で行けるはずだ」

トミーはきっぱりとした口調でこう言い切った。とはいえ、これはポールだけの問題ではない。去る9月には、尿路結石を患っていたジーン・シモンズが医療処置を要する状態に陥り、北米ツアー終盤に組まれていた西海岸地区での3公演が急遽、来年3月に延期されるという出来事もあった。また、去る10月上旬に筆者がエリック・シンガーの電話取材(インタビュー記事は、現在発売中のBURRN!誌12月号に掲載)を行なった際には、「さすがに連夜のライヴというのはラクじゃない。俺も今や61歳だし、若い頃のようなわけにはいかない。ジーンに限らず、みんな休みが必要だった」などと、ツアー活動による肉体的負担の大きさを認める発言もめずらしく飛び出していた。

トミーも同様に、そうした負担を感じているのだろうか? そう尋ねると、彼は「幸い、俺自身はそこまで消耗してはいない。なにしろこのバンドでは最年少のメンバーでもあるからね」と言って笑う。1960年11月7日生まれの彼は、先頃、59歳になったばかりだ。確かに70歳のジーン、67歳のポールに比べればずっと若い。しかし彼ですら、日本で言えば来年には還暦を迎えることになるのだ。


▲Photo by Igor Vidyashev

「実際、今回のツアーではすでに100公演近くを経てきたし、それなりに自分のなかで疲労が蓄積されているはずではある。ご存知の通りKISSのショウは、ステージに立って演奏するだけのものではないからね。しかし俺自身は今のところそうした問題は抱えていないし、まだまだ大丈夫そうだ(笑)。むしろ、だからこそみんなを引っ張っていかなきゃ、という気持ちになっているよ。それに、とにかく今回のツアーでは、過去最高のライヴ・パフォーマンスが披露できているという実感が自分のなかにもあってね。それが毎回のステージに向かう自分の士気を高めてくれている。だから日本でもベストのショウをお見せするよ」

トミーがKISSの一員としてステージに立つようになったのは2002年のことだが、彼にはそれ以前、このバンドのツアー・マネージャーを務めたり、『KISSTORY』のような関連書籍や映像作品の制作を手掛けたりしてきた過去もある。「さらにもっと前は、純粋にKISSのファンだったよ」と語る彼は、このバンドのギタリストとしてのヴィジョンのみならず、ファンとして、裏方仕事を任されてきた人間としての視点も持ち合わせているのだ。

「そうした俺の目から見ても、今回のツアーは史上最高だと思う。セットリストもベスト中のベストと言えるものを用意して、それを磨きあげてきたつもりだ。たとえばその土地ならではのヒット・シングルなどがある場合は、それを意識した選曲をすべきだろうけども、日本は初期のうちからKISSを認めていた国のひとつだし、アメリカのファンと感覚的な違いはないはずだよね? 特定の時代の曲だけが支持されている、ということもないはずだ。もしも「この曲をやれば日本のファンはかならず喜んでくれる」というものがあるならば、喜んでそれを演奏するけども、そういう特例的な曲というのは何かあるかい?」

トミーの側から逆質問されてしまった僕は、ここで個人的に聴きたいレア曲をリクエストするのではなく、「聴きたい曲はたくさんありますが、日本のファンは欧米でのショウと落差のないものを望んでいるはずだし、そうした意味では曲目を大きく変える必要はないと思いますよ」と答えた。トミー自身もその回答に納得したようで、次のように発言を続けている。


▲Photo by Igor Vidyashev

「アメリカに生まれ育ったKISSファンとして少年期を過ごしてきた俺にとっては、日本で撮られたKISSの写真というのは、当時からとても神秘的なものとして目に映っていた。大好きなバンドが未知の国の人々を熱狂させているという現実に、すごく興奮させられたものだよ。だから最初から俺にとって日本は特別な国だったし、今でも「ツアーであちこちの国を訪れているなかで、いちばん気に入っているのは?」と訊かれれば、迷わず日本だと答えることになるんだ。日本の文化、日本の人々やその振る舞いがとても好きだし、リスペクトを感じている。実は日本食も好きだしね(笑)」

ちなみに彼のお気に入りは、刺身、うどん、天麩羅だそうだ。「前回のジャパン・ツアー(2015年)では初めて仙台でのライヴを実現させることができたし、今回は盛岡を初めて訪れることになる。そうやって、大好きな国の未知の街を訪ねることができるのも嬉しいことだ」と彼は喜びを口にする。また、仙台や盛岡、名古屋の公演会場は東京ドームや京セラドーム大阪ほどの大規模会場ではないが、そこにも彼らはフルセットを持ち込むつもりだという。

「もちろん会場のサイズによってステージの設置の仕方、レイアウトの仕方などは変えなければならなくなる。だけど今回も、持って行けるものすべてを日本に持ち込むことになっているし、どこの会場でもフル・スケールのKISSショウをお見せすることを約束するよ」

そしてもうひとつ気になるのは、この最終ワールド・ツアーが2021年7月まで続くことがすでに認められていて、KISSのオフィシャル・サイトのトップページでもその日に向けてのカウントダウンが進んでいるなか、本当に日本公演は今回が最後になるのか、ということ。すでに2020年については北米ツアーや欧州の大型フェスを巡演する公演スケジュールが約70本も公表されているだけに、今後、アンコール・ツアー的にさらなる日本公演が組まれる可能性は低いと言わざるを得ない。そんな話をぶつけてみると、トミーは次のように答え、日本のファンへのメッセージを発信していた。


▲Photo by Igor Vidyashev

「キミの指摘通り、この最終ツアーは今から約19ヵ月後には完全に終了することになる。その先のストーリーはまったくわからない。もちろんKISSという存在は永遠のものだと信じているし、俺自身、物語を引き継いでいくための貢献は惜しまないつもりだ。ただ、とにかく言っておきたいのは、これがラスト・チャンスだということ。これまで長きにわたりKISSを支持し続けてきてくれた日本のファンには本当に心から感謝しているし、今回ようやくKISSのライヴを体験できる機会が巡ってきた人たちも大歓迎したい。そして俺はどちらのファンにも、このラスト・チャンスを逃してほしくない」

トミーは力強く、そう語った。筆者自身も、まったく同じ想いだ。

取材・文:増田勇一

◆<END OF THE ROAD WORLD TOUR>日本ツアーオフィシャルサイト
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