【ライブレポート】上杉昇「いくら叩かれても気にしないで、自分の表現をしていく」

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上杉昇が2018年にリリースしたアルバム『The Mortal』は、日本の古語を使った歌詞と先鋭的なエレクトロニカ・サウンドを融合させ、現代日本が抱える違和感のようなものをあぶり出した意欲作だった。本作に伴うライブツアーは、生ギターとピアノを従えたアコースティック・ツアーと、ギター、キーボード、ドラムにマニピュレーターを加えた編成でのエレクトリック・ツアーという2種類の形態で展開。2019年夏からはニュー・シングル「防空壕」(12月4日に全国リリース)をコンセプトに据えたアコースティック・ツアーを行ない、10~12月には同じく「防空壕」をコンセプトとしたミクスチャー・ツアーを東名阪+仙台の4カ所で敢行した。

今回のミクスチャー・ツアーも編成的には前回のエレクトリック・ツアーと変わらないのだが、それでは何が“MIXTURE”だったのか? 12月1日に東京・下北沢GARDENで行なわれたファイナル公演は、その答えを、演奏やサウンド・アプローチ、選曲、歌やパフォーマンス、MCなどすべての要素から感じ取ることのできるものだった。

この日は第1部が生ギターとピアノによるアコースティック・パート、第2部がドラムとマニピュレーターを加えたミクスチャー・パートという構成。スクリーンに戦闘機のモノクロ映像が投影されるなか、平田崇(G)と森美夏(Key)、続いて上杉もランタンを手に登場。まずは「Blindman's Buff」と「赤い花咲く頃には」をじっくりと聴かせた。al.ni.co時代の「Prayer」に続く4曲目はじゃがたらの「TANGO」。アルバム『L.O.G』(2004年)ではグランジ調で、シングル「棘と吹雪と」(2017年)ではボサノバ調で同曲をカバーしていた上杉だが、今回はギターとピアノでシンプルに。この日は会場の中央にセンターステージが設けられており、イントロが始まると上杉は客席の真ん中辺りにあるそこまでゆっくり歩き、歌いながら歌詞の内容に合わせて天を指さしたりしゃがみ込んだり。もともとメロディというより“語り”っぽいところもある曲だけに、シアトリカルなパフォーマンスがとても興味深い時間となった。


第1部で、シングル「防空壕」のカップリングにもなっている「愚か者よ」(萩原健一のカバー)を含む7曲を濃く深く演奏した後は、いよいよ第2部がスタート。Great3のメンバーである白根賢一による歯切れの良いドラムと、横山和俊が打ち出す刺激的なシーケンスが加わり、平田もアコギからエレキに持ち替えて、グッと音圧がアップ。上杉のアクションもロック・ボーカリストとしてのスイッチが入り、ツアータイトルでもある新曲「防空壕」では上杉とオーディエンスのヘドバンの応酬が起きた。先のアコースティック・ツアーでもいち早く演奏されていたが、やはりこういうロック・チューンはガツンとアタックの効いたバンドアレンジだと文句なしに本領を発揮する。歪んだギターのリフにスクラッチ音が絡む最新型のハードロック、迫力あるガナり系ボイスで観客を圧倒する上杉も流石だ。そして次のMCでは「最近、違和感を覚えるのがコンプライアンス」と語り、表現の不自由展についてや、尾崎豊の「15の夜」が歌詞として不適切だと言われる最近の風潮に疑問を呈すると同時に「俺は、いくら叩かれても気にしないで、自分の表現をしていきます」と意思表明した。

そして「ここからは全力で行きます。覚悟はいいか!」と怒濤のアグレッシブ・ゾーンがスタート。アルバムよりさらにダンサブルなビートに生まれ変わった「桜舞い錯乱」「絶望」では会場にジャンプの波が広がり、そのエネルギーのまま突入した「I am A Pig」ではメンバー全員のロック魂が炸裂。これは前回のエレクトリック・ツアーでも演奏された2wo(ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードとナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーによるユニット)のカバーで、上杉による日本語詞バージョンなのだが、オルタナ・テイストのボーカルといい、クールかつヘビーな演奏といい、このバンドにハマりまくっている。ロブ・ハルフォードといえば超絶ハイトーンシャウトでメタルゴッドの座に君臨する名ボーカリストだが、FIGHTや2woなどフレキシブルに時代の音を採り入れ続けるチャレンジャーでもある。もともとメタルやハードロックにルーツを持ちつつ、インダストリアルやエレクトロニカを吸収してより刺激的な表現を追求している上杉には、強いシンパシーを感じるアーティストのひとりなのかもしれない。

そして先程の“コンプライアンス”の話がストレートに反映されていると感じたのが、続けて放たれた新曲だった。SNS画面やスマホを破壊する映像が目まぐるしく映し出されるスクリーンをバックに、ギターのリフをメインに据えたヘビーなロックが展開される。“電波を与えられた猿”“憂さ晴らし”といったアイロニカルな歌詞が刺さる、強烈な楽曲だ。


2019年春にライブ会場限定で販売開始されたシングル「火山灰」、そして「青き前夜」と比較的スローなナンバーで呼吸を整え、本編ラストはまたしても新曲。これは夏に急逝したスタッフのために書いた楽曲とのことで、MCで上杉は次のように思いを語った。「自分が唯一悩みとか愚痴を言えるスタッフでした。彼女なりに尽くしてくれてたのに、それに対してお礼のひとつも言えなかったことが悔やまれます。自分は一介の歌唄いでしかないので、歌を作って唄うことで恩返しをしようと思いました。この曲を天国の彼女に捧げたいと思います」。その言葉どおり、大切な人を失う悲しさと、失って初めて気づく、目に見えない、かけがえのないものについて歌った壮大なナンバーだった。演奏が終わった瞬間、上杉はいつになく力強い声で「サンキュー!」と叫んだが、その一言には亡くなったスタッフへの感謝、オーディエンスへの感謝、関わる人たちと出会えたことへの感謝、いろんな感謝が込められていたようだった。

アンコールでは、ノーハット、ノー眼鏡というレアな姿で登場。上杉がソロとは別に活動を続けているロックバンド/猫騙の代表曲「I Don't Care」を演奏したのだが、この時のステージアクションがロックボーカリストの王道という感じで実にカッコ良かった。腰までの長髪を前後に振り、大きくヘッドバンギング。ものすごい迫力だ。そして2曲目はWANDS時代の「Secret Night ~It's my treat~」…さすがにこの曲ではイントロのリフがほんの数音弾き出されただけで、オーディエンスは大喜び。さすがソールドアウトのチケットをゲットした精鋭たちである。上杉はこの曲をセンターステージで観客に囲まれながら熱唱し、サビは会場一丸となってのシンガロング。手を伸ばせば届く距離で声を、エネルギーをぶつけ合うという、この上なく一体感のある幸せなフィニッシュとなった。


かねがね、ソロでは歌うことを追求し、バンドではアンサンブルのカッコよさを表現したいと語っていた上杉だが、この日のライブは上杉のソロ名義でありながら各メンバーの個性も際立ち、バンドらしいシナジーやスリルもたっぷり味わうことができた。今の彼にはソロとバンドの線引きすら必要ないほど自由に歌えているということなのかもしれないが、アーティストとしてのスタンスもいろいろな視点が融合してきているように感じられた。ライブの構成に関しても、アコースティックとエレクトリックが一本のライブの中でミックスされていることから、おのずとボーカルスタイルも唱歌とロックボーカルの2本柱となる。この日のセットリストで歌われた楽曲のテーマは、先人へのリスペクトや日本人であることの誇り、世の中の理不尽に対する怒り、別れの悲しみなど多岐にわたるが、歌いたいと思ったことを自由に、自分なりのレシピでブレンドしていくのがミクスチャーの面白さでもある。今の上杉昇の志向や今後の音楽性、さらに人間性の一面までもが垣間見られるような聴き応えのあるライブだった。

取材・文◎舟見佳子
撮影◎朝岡英輔


最新シングル「防空壕」

2019.12.4発売
OPCD-1192 1,300円(Tax in)
1.防空壕
2.愚か者よ
2018年にリリースした12年ぶりのソロ・アルバム『The Mortal』、今春ライブ会場限定の形で放ったシングル「火山灰」、その後にライブDVDをはさみ、早くもリリースされるニュー・シングル。前作と同様にレコーディング・プロデュースはL'Arc~en~Cielとのコラボレーションで知られる岡野ハジメ。カップリングは萩原健一の「愚か者よ」をカバー収録。

<SHOW WESUGI MIXTURE TOUR 2020 防空壕 and 上杉昇 2020 第1弾DISK爆音試聴トークライブ+先行販売+サイン会>

3月7日(土)新潟:GOLDEN PIGS RED STAGE[LIVE]
OPEN16:30 START17:00
3月8日(日)群馬:高崎SLOW TIME cafe[TALK]
OPEN17:30 START18:00
3月14日(土)北海道:函館あうん堂ホール[TALK]
OPEN16:30 START17:00
3月15日(日)北海道:札幌COLONY[LIVE]
OPEN17:30 START18:00
4月4日(土)福岡:博多the voodoo lounge[LIVE]
OPEN16:30 START17:00
4月5日(日)山口:周南rise[TALK]
OPEN16:30 START17:00
4月18日(土)東京:新宿ReNY[LIVE]
OPEN16:30 START17:00
5月2日(土)大阪:梅田TRAD[LIVE]
OPEN16:30 START17:00
5月3日(日)三重:松坂ROCKERS CLUB[TALK]
OPEN17:30 START18:00
5月4日(月祝)長野:ROSEBERY CAFE[TALK]
OPEN18:30 START19:00
5月8日(金)愛知:名古屋SPADE BOX[TALK]
OPEN19:00 START19:30

TICKET
[LIVE]前売¥5,000・当日¥5,500(税込/オールスタンディング/別途要ドリンク代)
[TALK]前売¥2,000・当日¥2,500(税込/全自由/別途要CD代、ドリンク代。会場限定ポストカード付)
※[LIVE][TALK]ともに未就学児入場不可
eプラスプレオーダー:12月17日(火)21:00?12月22日(日)23:59
一般発売:1月11日(土)10:00
[問]ネクストロード TEL 03-5114-7444(平日14~18時)
http://nextroad-p.com
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