柴那典が分析、2020年代は「ロックの再定義」の時代に?

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2010年代は、ロックにとってどんなディケイドだったのか。そして2020年代はどんな時代が待ち構えているのか?

さまざまな論点があるが、筆者としては「2010年代の最大のトピックは“ロックスターの復活”だった」と言ってしまっていいのではないか?と考えている。

ただ、そう言われて「え? そうなの?」と違和感を覚える人もいるかもしれない。

というのも、2010年代はロックに逆風が吹いていた時代だったから。セールス面においては間違いなくそうだった。特にアメリカにおいては顕著だ。2017年にはヒップホップ/R&Bの売り上げが初めてロックを超え、音楽マーケット全体のトップシェアに立ったことも報じられた。ロックというジャンルは、もはやポップ・ミュージックのメインストリームではなくなった。

『Billboard』が先日発表した2010年代ヒットチャートの結果もそのことを証明している。アルバムチャートのトップ3はアデル『21』、テイラー・スウィフト『1989』、エド・シーラン『÷(Divide)』。上位にはドレイク『Views』やケンドリック・ラマー『DAMN.』などラッパーたちの作品が並ぶ。TOP20にランクインしたロックバンドのアルバムは、7位のイマジン・ドラゴンズ『Night Visions』と12位のトゥエンティ・ワン・パイロッツ『Blurryface』の2枚のみだ。



つまり、10年間の全米チャートを合計して明確に「売れていた」と言えるロックバンドは、イマジン・ドラゴンズとトゥエンティ・ワン・パイロッツくらいだったわけだ。さらに言えば、セールスと評価が伴った形で世界中に受け入れられたバンドは、『Babel』と『Sigh No more』の2作が上記のチャートで26位と27位にランクインし、2013年にはグラミー賞の最優秀アルバム賞を授賞したマムフォード&サンズくらいだった、と言っても過言ではない。

では、この10年間のロックシーンに何が起こっていたのか。

2010年代前半で目立ったのは、北米のインディーシーンの活発な動きだった。アーケイド・ファイア『The Suburbs』やヴァンパイア・ウィークエンド『Modern Vampires of the City』など、リスナーからの高い評価を集めセールス的にも成功を収める充実作が相次いで発表された。2010年代とは、こうしたバンドたちが牽引する、思慮深くインテリジェンスな「インディーロックの時代」だったとも言える。



ただ、こうしたシーンの趨勢が変動するひとつの分水嶺になったのが2010年代中盤の動きだ。ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』、ビヨンセ『Lemonade』、フランク・オーシャン『Blonde』など、ヒップホップ/R&B分野での重要作が相次いでリリースされ、高い評価を集めた。これらのアーティストが大きな存在感と影響力を持ったのは、単なるセールス面だけでなく社会に与えるインパクトの大きさが飛び抜けていたからでもある。

その一方で、2010年代後半に入ると、ロックバンドの潮流は「スタイルとしての成熟」に向かっていった。大御所のベテランバンドたちが存在感を放ち続ける一方、注目と評価を集めるニューカマーも、1960年代や1970年代のブルースやロックンロールの方法論を今に蘇らせるようなタイプのバンドが中心になった。2016年度のグラミー賞で最優秀ロックアルバムを受賞したケイジ・ジ・エレファントや、2018年度に同じくグラミー賞の最優秀ロックアルバムを受賞したグレタ・ヴァン・フリートがその代表だ。おそらく、2020年代も「音楽ジャンルとしてのロック」の未来は、彼らのようなバンドが切り拓いていくだろう。



しかし、筆者が考えるのは「マインドとしてのロック」についてだ。わかりやすく言うと、破天荒で、豪快で、ハチャメチャで、常識や社会のルールにはとらわれない、生き様としてのロックスターのあり方について、である。

かつてはそれを体現するカリスマがきら星のごとく時代を彩っていた。ザ・ローリング・ストーンズ、エアロスミス、レッド・ツェッペリン、ガンズ・アンド・ローゼズ、オアシス…。数々のスターがメディアを騒がせ、音楽だけでなく、その振る舞いや言動の数々が伝説的エピソードとなっていった。しかしそういうタイプのロックアイコンは、長らくシーンにおいては不在だった。

しかし、2010年代後半に、久々に「ロックスター」が復活した。そう痛感したのがポスト・マローンの登場だった。

現状、アメリカのラジオやヒットチャートやグラミー賞などのカテゴリ分けでは、ポスト・マローンの音楽は必ずしも「ロック」というジャンルに括られているわけではない。しかし筆者は彼のことをまがうことなきロックスターだと思っている。


そもそも彼の代表曲が「rockstar」である。ドアーズのジム・モリソンやAC/DCのボン・スコットの名前を挙げつつ「ホテルの窓からテレビを投げ捨て、ドラッグを吸ってグルーピーと戯れる。まるで気分はロックスター」とラップするこの曲は、全米1位を8週間にわたって独占するスマッシュヒットとなった。この曲が収録されたアルバム『beerbongs and bentleys』とデビュー作の『Stoney』は、上記の2010年代ヒットチャートでも5位、6位にランクインしている。さらに、今年リリースされた『Hollywood's Bleeding』も、年を代表するメガヒット作となっている。文字通りシーンを“制圧”したのが2019年のポスト・マローンだった。

そして、筆者はポスト・マローンの音楽性自体も「新時代のロック」だと思っている。もちろん、ひとつのジャンルに収められるような存在ではない。肩書き自体、ラッパーと言われたりシンガーソングライターと言われたりもする。ヒップホップシーンの中で注目を集めたキャリアの持ち主でもある。それでも、メタルやパンクを聴いて育った彼の音楽的なスタイルには、確実にロックの系譜を引き継ぐものがある。


それを最も象徴するのが、『Hollywood's Bleeding』に収録された「Take What You Want」だろう。当代一の人気ラッパーであるトラヴィス・スコットと共に「メタルの帝王」オジー・オズボーンをフィーチャリングしたこの曲。ダークな曲調も、オジーが歌い上げるメロディラインも、主張の激しいギターソロも、まさにハードロックの再定義を思わせるナンバーだ。ちなみに、オジーにとってはこの曲が30年ぶりの全米トップ10ヒットとなった。

ポスト・マローンとオジー・オズボーンには、世代やジャンルを超えた共通項がある。それは、まさしく「破天荒で、常識外れで、でもどこか憎めない」アイコンであるということ。つまりは、それがロックスターである、ということだ。

今後もポスト・マローンの活躍は続くだろう。そして彼に憧れ、その後に続こうと考える次世代のアーティストも登場してくるはずだ。こうした新たな才能によって、ロックの「リバイバル」ではなく「再定義」が行われるようになる。そんな2020年代が訪れる予感がしている。

文:柴 那典

ポスト・マローン『ハリウッズ・ブリーディング』

https://umj.lnk.to/PostMalone_NewAL
デジタル:配信中
UICU-1313 2,200円(+税)
2019年10月9日発売
1.ハリウッズ・ブリーディング
2.サントロペ
3.エネミーズ feat.ダベイビー
4.アレジック
5.ア・サウザンド・バッド・タイムズ
6.サークルズ
7.ダイ・フォー・ミー feat.フューチャー、ホールジー
8.オン・ザ・ロード feat.ミーク・ミル、リル・ベイビー
9.テイク・ホワット・ユー・ウォント feat.オジー・オズボーン、トラヴィス・スコット
10.アイム・ゴナ・ビー
11.ステアリング・アット・ザ・サン feat.シザ
12.サンフラワー(スパイダーマン:スパイダーバース)with スウェイ・リー
13.インターネット
14.グッバイズ feat.ヤング・サグ
15.マイセルフ
16.アイ・ノウ
17.Wow.
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