【イベントレポート】<AMNESTY JAPAN CONCERT>、人権のことを“音楽をからめて”柔らかく伝える

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“人権について考える”──と聞いて柔らかな印象を持つ人はそう多くはないだろう。じゃあそこに音楽をからめたらどうなのか? それは未だ音楽に思想を絡めることに抵抗のある日本でも有効なのか?

◆<AMNESTY JAPAN CONCERT> 画像

12月6日、そんな設問への答えを見つけに下北沢に向かった。昨年につづき人権週間に開催される<AMNESTY JAPAN CONCERT>があの街のライヴハウス・風知空知で行われることになったのだ。

当日は3部構成。最初のセクションはムービーの上映だった。大観衆を前に、まだ髪が肩まであるスティングやボノが歌っている。1986年、アメリカのジャイアンツ・スタジアムで行われた<The HUMAN RIGHTS Concerts>の映像だ。このタイミングでこれを見ることには大きな感慨があった。この10月にスティングが、12月にはU2が来日したわけで。その際、スティングはライヴ会場にアムネスティがブースを出すことを許可した。U2はオーディエンスに向けては中村医師を追悼し、アムネスティ日本のスタッフに対しては日頃の活動への感謝の意を込めてスペシャルシートを用意した、とも聞いた。

30年以上も前から今日にいたるまで、世界の音楽シーンではその頂点を極めた人々が率先して人権に注視してきた。この系譜を再確認したところで第2部、トークセッションがスタートした。登場したのはアムネスティ日本の中川事務局長とジョー横溝。音楽イベントの司会やインターFMのDJとして日本の音楽ファンにはおなじみのジョー氏は一方で、死刑制度や原発問題に関しても一家言持つ人物。人権のことを音楽がらみで柔らかく伝える、というイベントには最適な人選だろう。

案の定、まずジョー氏は中川事務局長の雰囲気から「実は音楽好きでは?」と振って中川氏はギターを弾くことを吐露。一気に場がなごむ。日本では死刑制度の廃止、LGBTの権利について特に活動の主眼にしている、とも聞いた。また今や気候変動も人権問題としてとりあげられることが多く、日本は天災で一番被害が大きい国、という見方もあるのだそうだ。ちなみに日本と同じように台風が多いフィリピンでは、今から6年前の台風で失われた家々がまだ10万戸ほども建て替えられていない。その状況をフィリピン政府に改善してもらうべくアムネスティでは世界中で署名活動をおこなっており、先日のU2の来日公演でも1000人以上の署名が集まった。という所で話題はきれいに音楽に帰結していった。


第3部はいとうせいこうis the poetのライヴ。ダブとポエトリーリーディングの融合、といえば1970年代のリントン・クウェシ・ジョンソンにまで遡る。いとうせいこうis the poetのメンバーでもあるミキサーのDUB MASTER Xとドラマーの屋敷豪太も1980年代初頭に現れたダブバンド、MUTE BEATのオリジナルメンバーだ。

ライヴによって様々な形態をとる彼ら。この日はいとうせいこう(Words)、Watusi(B)、會田茂一(G)、龍山一平(key)、代打のSUGIヤーマン(Dub Mix)という布陣だった。

最初はキーボードとギターのみによるアンビエントなナンバー。“花を摘み 風を‥”という詩にふさわしい情景だった。つづいて最初の7インチシングルになった「直にして次に渡す」。打ち込みマスターともいえるWatusiがベースを弾くかたわら、ドラムマシーンを巧みにあやつり活きたビートを作り出す。そこへ足尾銅山の惨状を明治天皇に直訴して有名になった政治家・田中正造や同時代の社会主義者・幸徳秋水の言葉が投げ込まれていく。3曲目「浜辺」では“〇〇の浜辺”の〇〇の部分に当てはめられる様々な言葉によって、自然の風景としてのビーチが見えたり修辞的な意味になったり。その変幻が実におもしろい。

MC。いとうせいこうは「つい先日、パリに行った」という話題を取り上げた。カルティエ現代美術館で『Trees』という樹木をテーマにした展覧会が行われている。そこで、かつては物事を斜に構えて見ていたフランス人たちが真っ正面から自然について考えている姿を見てインパクトを受けた、と語った彼。そんな話がごく自然な流れに聞こえたのは、音楽の部分にも同質の視線が込められているからだろう。

4曲目、このメローなコード進行にしてこのタイトルという「TOKYO DUB STORY」。『東京ラブストーリー』はバブル時代のトレンディードラマだったが、ここでは藤原定家から与謝蕪村までの詩が引用されていた。5曲目は即興を思わせるファンク。しかし素晴らしいノリで、いったんドラムマシーンを止めて、生演奏だけになり再びマシーンが入るという繋ぎも最高だった。本編最後は新作7インチの曲「iuai」。まるでシーケンサーのような龍山のプレイも含め、“え、もう最後?”という出来だった。

アンコールはドラムマシーンもなしで、しかし生のグルーヴだけで聴かせててしまうナンバー。“ダブは現実に抗議するもの” “人間は未来を変えられる動物”というリフレインが強く耳に残った。

もしこれが純粋な朗読であったのなら、その一言ひとことは直裁(ちょくせつ)に人権問題と結びつけられていたかもしれない。でも音楽に載せて、ということで解釈の自由さが加わっていた。人が自由であるための権利が人権でもあることを考えれば、自由に解釈できる、というのもとても大切な部分。日本の風土にも合っている。それでいてミュージシャンとしての主張は見間違いもなくらいハッキリしている。そういう意味でもいとうせいこうis the poetという選択はイベントの趣旨を体現していた。


ちなみに、今回のイベントにも物販コーナーがあった。ボクはそこで人権パスポートというものを購入。せいこうさんのサイン入り、というのも惹かれたのだけど、このパスポート自体が定価300円というのが信じられない出来だったのだ。フルカラーで各ページは使い古した感を出した紙。そこに人権宣言が印刷されているのだが、これがフォロンの挿絵付きで、かつ条文はお堅い原文を谷川俊太郎さんが優しく意訳したものが掲載されているのだ。

例えば第一条「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心を授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない」が「わたしたちはみな、生まれながらにして自由です。ひとりひとりがかけがいのない人間であり、その値打ちも同じです。だからたがいによく考え、助けあわねばなりません」といった具合に。

この意訳といい、ジョー横溝やいとうせいこうを起用したことといい、大事なことを分かりやすく伝えるための歩み寄りはすでにちゃんと行われている。だとしたらまず、その努力を伝えるのがジャーナリストの役割では?と思いレポートしてみたしだいです。

取材・文◎今津 甲


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