【連載】フルカワユタカはこう語った 第32回『感性の死』

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▲2020.1.4@東京ドーム、堀君とタロティーと

僕が水道橋に着いたのは待ち合わせの10分前、15時20分だった。

◆フルカワユタカ 画像

改札を出て時間を見ようとスマホを取り出したら、ちょうどタロティー(DOPING PANDA)からLineが来ていた。「今から新宿を出るので、ちょい遅れそうです。スンマセン」──新年は1月4日。ベボベ(Base Ball Bear)の堀君と東京ドームにプロレスを観に行く約束をしていてタロティーも誘っていた。

堀君とは会場での合流予定で、僕はタロティーと水道橋駅で15時半に落ち合うことになっていた。ドーパン(DOPING PANDA)時代、ホテルのロビー集合などで見られた待ち合わせのルーティーン。まず集合時間の10分前に僕が来て、ハヤト(DOPING PANDA)がジャストに来て、そして10分遅刻でオオトリ、タロティーが登場。僕は自分が時間にタイトなだけでルーズな人に特段苛立ったりはしない。が、なぜきっちりと毎回10分遅れて“これる”のだろうかと、いつも不思議だった。きちんと10分だけ遅れられるのであれば、きちんと時間通りに来ることも可能なのではないかと。事実、一度タロティーにだけ集合時間を10分早めて伝えたらジャストに来た、ということがあった。嘘じゃなく。

ちなみにこの日のタロティーは15時50分着。遅れてくることは想定内だからまあいいけど、20分遅れるのに「ちょい遅れそうです」はないだろ。それに新宿から水道橋まで30分もかからんわけで、「今から新宿出るので」の時のあなたはどういう状態だったのかと。普通、電車発車してからの表現でしょ、「今から新宿出るので」は。三つ子の魂百まで。幼い頃の性格は一生変わらないということわざだけれど、これって脳科学的にも検証ずみだとか。僕は子供の頃から数えても両手で足りない回数の遅刻はしていないのである。えへん。



▲<モルタルレコードpresents~ソングイズライフ冬の特別編~『サイレントでも無いしホーリーでも無い夜のスペシャル2マン』>2019.12.7@熊谷モルタルレコード

最近面白い記事を目にした。なにやら“我々の音楽の好みは14歳の時に聴いた音楽で形成されている”という研究結果が出たそうだ。記事の内容をもう少し詳しく書くと、男性の場合は13歳~16歳(平均14歳)、女性の場合は11歳~14歳(平均13歳)の間によく聴いた曲が大人になってからの音楽の好みに大きく影響しているようだとのこと。さらには、20歳の時に聴く音楽は14歳の時のそれの半分ほどの影響しか与えられないとのこと。なんだか凄く納得。もちろんこの歳まで色んな音楽を沢山聴いてきたが、なんだかんだといまだにインタビューとかで口にする機会が多いのはユニコーン、ヴァン・ヘイレン、レッド・ツェッペリン、後は10代ギリギリで出会ったオール / ディセンデンツといったところか。仕事柄、今も新しい音楽に触れる機会は多いものの、趣向を変えてしまうほどの出会いは2000年代初頭のダフト・パンクやファレル・ウィリアムスあたりを知った時以降はない気もする。

加えて、この研究結果は別の視点からも興味深い。それは平均14歳という年齢。いわゆる中二病の年代だ。中二病はみんなもご存知の“たかが”ネットスラングではあるが、その中身は偏見や誇張ではなく(各々の実体験を含め)、様々な見知から実証済みだと言っても過言ではない。その多感な時期に、音楽や、もしかしたら好きな映画や小説や漫画やゲームやお笑いなどの趣向さえも決まっているかもしれないというのは、なるほど頷ける。シナプスが広範囲で活動して性格を形作るといわれている1歳~3歳。と同様、この時期にも人間の脳では人格形成上、なにかしら重要な出来事の“仕上げ”が起きている可能性があるというのだ。



▲<MASTER OF MUSIC 2019>12.13@TSUATAYA O-EAST 撮影◎上坂和也

“27クラブ”という言葉を聞いたことがあるだろうか。ジミヘン、ジャニス・ジョップリン、ジム・モリスン、カート・コバーン、エイミー・ワインハウス等々、“27歳で命を落とすミュージシャンが多い”といういわゆる都市伝説で、これ自体は海外の研究チームが単なる偶然と既に結論づけている。が、その研究では同時に、“27というのは偶然であるが、20代と30代でのミュージシャンの死亡率が他の年代に対して非常に高いのは事実だ”ともしている。“命を落とす”なんてことは全く僕には当てはまらなかったが、この20代後半というのが僕にとってもある種、異様な時期だったのは間違いない。

僕が27歳だったのは、今から15年前の2005年。ちょうどドーパンがメジャーデビューした歳だ。それから2007年くらいまでの3年間、僕なりにではあるが、僕は人生の喧噪の真っ直中にいた。山口の片田舎でれっきとした中二病患者だった僕は、悶々とした高校時代を経て、憧れだった東京でバンドを始め、いつの間にか音楽で飯を食うようになっていた。メジャーデビュー。全国ツアー完売。フェスの入場規制。周囲の騒がしさに浮かれていた。なんだか気分が良かった。その程度の事で勝手に人生の答え合わせができた気になっていた。僕でさえそうだったのだから、いわんや前述のスター達なんて、どれだけの変化に適応していかなければならなかったのだろう。想像を絶する。しかしながら20代後半にブレイクするミュージシャンが多いのは偶然だろうか。もちろんもっと早く売れる人もいるし、遅咲きの人もいる。では言い換えたとして、20代後半に生み出された作品に傑作が多いのは偶然だろうか。女性シンガーは二十歳(ハタチ)デビューが良いなどというジンクスもある。年齢差別とか男女差別とかではなくてひょっとするとクリエイティブのピークを迎える時期というものが実は僕たちにはあるのかもしれない。感性のピーク年齢というものが。


▲<MASTER OF MUSIC 2019>12.13@TSUATAYA O-EAST 撮影◎上坂和也

真偽は不明だが、もうひとつ最近目にしたネットニュースを紹介したい。それは“人間は33歳から新しい音楽を聴かなくなり、35歳を超えると音楽自体を聴かなくなる”という説である。例えば年配の人が演歌や歌謡曲以外を聴かないように、33歳までに出会えなかった音楽ジャンルは脳が受け付けないといったところか。年齢がピンポイントなのは27クラブ同様、多少の疑義が残るが、個人的見解として腑に落ちるところもある。僕はミュージシャンなので当然35歳を超えても音楽を聴く。しかも沢山聴く。だが、明らかに10代20代の時と今とでは摂取の仕方が違うと感じている。いつの頃から変わったのか。

2019年は解散や活動休止や脱退が多かった一年だった気がする。近いところでは僕のライブサポートをしてくれているウニちゃんが所属していたSawagiの解散があったし、他にも去年知り合ったたなしんがいるグッドモーニングアメリカの活動休止発表なんかもあった。どちらも30代半ば。その他、去年の脱退や解散、活動休止のバンドを眺めると30代半ばな人が結構多い事に驚く。もちろんこの年代は、親やパートナーあるいは子供、などと人生の決断を迫られる機会が多いのも事実。が、“(ちょっと飛躍) 人間は33歳から感性に訴える新しいものを探さなくなり、35歳を超えると完全に興味を失う”という“感性の死期説”は無関係なのだろうか。僕も34歳でバンドを失った。33歳の頃、『YELLOW FUNK』(※DOPING PANDA 4thアルバム)を作っていた頃、作風を激変させたり、ヨーロッパツアーに行ったり、スタジオを作って自分でレコーディングやミックスをしていた頃。あれはひょっとすると感性の延命を必死にしていたのかもしれない。

2019年、僕は本厄だったが、終わってみればソロ活動が始まって以来の最多動員ツアーを含め、本当に充実した一年だった。10代半ば、洋楽に出会った僕は(あの青いソニーの)CDウォークマンを通して無我夢中でロックを漁った。20代後半、とにかくCDを買って音楽を聴いてがむしゃらに飲み込んでがむしゃらに吐き出した。30歳を越えて誰かの斬新さや挑戦を心の底から新しいとは感じられなくなっていった。自然に出てきてくれなくなった“新しいもの”を考え込むようになった。


▲<MASTER OF MUSIC 2019>12.13@TSUATAYA O-EAST 撮影◎上坂和也

最近は若い日本のバンドを聴くのも好きだ。過去の知識から分析や分類をしてしまって、あまり“新しい”と感じることが出来ないのは依然残念だが、素直にそのスキルの高さやメロディーの良さに驚いたり、アレンジや歌詞の奔放さに感動できるようになった。これは数年前までの僕には出来なかったことだ。ストリーミングになって古い音楽を堀り直すようになるかと思ったけど全く逆で、むしろ説のとおり、33歳までに出会わなかった音楽にはどうやら脳が反応しないらしい。ザ・ローリング・ストーンズもボブ・ディランも聴いてみたけど、僕には響かなかった。無性にツェッペリンが聴きたくなるときはあるというのに。

僕の感性はこれ以上変わらないのだろうか。もう挑戦や革新は僕には出来ないのだろうか。でも、不思議とあの頃のような失望や焦燥感はない。これが40代の境地というものか。さておき、まだまだ書いてないメロディーや歌詞が僕には沢山残っていて、あの頃、表現出来なかったそいつらを絞り出すだけのギターと歌声が今はあるわけで。まずはそれからやってみようではないか。

フルカワユタカはこう語った。



■<フルカワユタカ × 須藤寿 SEITANSAIIV>


2020年2月28日(金) 吉祥寺STAR PINE’S CAFE
open18:30 / start19:30
▼出演
フルカワユタカ、須藤寿(髭)
▼チケット
3,900円(税込)
一般発売:1月25日(土)
(問)吉祥寺STAR PINE’S CAFE https://mandala.gr.jp/SPC/
【オフィシャル先行受付 (抽選)】
受付URL:https://eplus.jp/furukawayutaka/
受付期間:1/10(金)12:00~1/13(月・祝)23:59

■<フルカワユタカ Play with tour 2020 “with mellow fellows”>

※全日程the band apartとのツーマン公演
3月21日(土) 大阪・梅田Shangri-La
open18:00 / start18:30
3月22日(日) 愛知・名古屋JAMMIN’
open16:30 / start17:00
3月27日(金) 東京・新宿LOFT
open18:00 / start18:30
▼チケット
4,300円(税込/Drink別)
一般発売:1月25日(土)


▲the band apart

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