【インタビュー】米倉利紀、『pink ELEPHANT』のコンセプトは「どこにも着地しない」

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■言葉はちゃんと選ばなければいけない
■最高のコミュニケーションツールですから

──そうして生まれたアルバムは「merry-go-round」「see EYE to EYE」と冒頭からサウンドも歌詞も遊び心満載な楽曲からスタート。前作とは違って心地よい、軽やかな幕開け感ですね。

米倉:まず、アルバムを制作するときに、“全体的にどんなサウンド感にするか”ということをスタッフさんと話すんです。毎回そこで言われるのが、「米倉さんのギターサウンドが聴きたい」ということなんですね。実は昨年秋のライブのとき、9年ぶりぐらいにうちのバンドにギタリストを入れたんです。アルバムのなかには必ずギターが入っているんですが、その音をクローズアップした音作りはあまりしていない。そういったことも含めて、「なにか新しい曲作りのチャレンジはできないですか?」と言われたので、僕なりの新しいチャレンジをいくつかしました。

──なるほど。

米倉:加えて、レコード会社のスタッフから「所謂ジャパニーズポップスにあるAメロ→Bメロ→サビっていう一般的な曲構成があるじゃないですか。それ、必要なくないですか?」と言われたんです。僕は日本のPOPSとR&Bを融合させるために、その曲構成は絶対条件だと思って、意識した曲作りでデビュー当時からやってきたわけですけど、「なくてもいいんじゃないですか?」と。そう言われたことで、僕のなかでひとつ扉が開いたんです。それで出来上がったのが「merry-go-round」と「see EYE to EYE」。ただ、日本のPOPSではないものを作ろうと、奇をてらったわけではなくて。だって、曲を書いているのは僕ですから、日本のPOPSからはどうあがいたって抜けられない。そこをアレンジャーの柿崎(洋一郎)さんと呉服(隆一)君にうまく料理してもらえたかなって思ってます。


──長年のパートナーである柿崎さんが仕上げた「see EYE to EYE」の、'80sの流れをおさえたエレポップなソウルとかオシャレでしたね。

米倉:柿崎さんはどんなものを投げてもソウルになるんです。そこが好きですね。“僕はこれ”というハンコを持っている方。そういう方とお仕事するのが楽しいし、やりがいがあるんです。“こういうメロディを投げたら柿崎さんはどういうアレンジをしてくださるんだろう”と思っても、毎回ソウルになって返ってくる。僕にとって柿崎さんは敵ではないですけど、打っても打っても倒れない敵がいるみたい感じで、とっても楽しいんです。

──安心感のあって、なおかつ挑みがいのある存在というわけですね。優しい気持ちに包まれるオーセンティックなバラード「愛日」は、“想う”を“おもっふ〜”と歌ってますよね。ここにはどんなマジックが?

米倉:ははは。これも真面目に生きすぎないにつながってるんですよ。僕、“い”を“ひ”に近いニュアンスで発声するんですけど、以前、久保田利伸さんに「米倉くんって、“もう、いいじゃない”を“もう、ひぃ〜じゃない”って歌うよね(笑)」って言われたことがあるんです。褒めてもらったって今でも思っています(笑)。僕たちは歌手ですから、日本語だろうが英語だろうがちゃんと歌詞が伝わらなきゃいけない。それが仕事ですからね。だから、日本語的には“おもっう〜”が正解。そうなんだけど、今回僕は、感情のままに歌ったら“う”が“ふ”になっていたんです。例えが正しいか分からないですけど、寝起きで脳みそがまだ寝てるときって、口元が緩くならないですか? その感じに近い。あとは、歌詞の主人公の心情の表れでもありますね。あんまり力強く“ただ君を想う!!”と言われるとちょっと怖いから(笑)。

──気持ちが重たすぎて。

米倉:“ただ君を想う”って柔らかい声色で歌うと口元が緩んで“う”が“ふ”になった。真面目に生きすぎない感じと、主人公の気持ちが緩んだ優しい状態が、たぶんそういう発音にしたんだと思います。

──2番の歌詞に出てくる映画館のエピソードが、またキュンとするんです。

米倉:日常の心模様はこういったことの積み重ねでできるじゃないですか。例えば、「この映画館のシチュエーションで別の歌詞を書いて」って言われたら、僕はあと10曲ぐらい歌詞を書くことができますね(笑)。“そういえば、2人の間にはポップコーンがあったな。じゃあ、ポップコーンから恋物語を広げてみよう”とかね。それぐらい歌詞に関しても、あまり深く作り込みすぎないほうがいいんじゃないかなって、いまは思っています。

──「LOVE GEAR」の“少し無謀なくらい”の“くらい”を英語的にCRYと歌っているのは?

米倉:音遊びです。僕の過去の作品にも“〇〇くらい”っていう歌詞がたくさん出てきます。それを英語っぽく歌うことでグルーヴを作ってます。

──米倉さんのファルセットヴォイスに魅了される「光芒」は、2番に“キスしたい”というダイレクトな言葉があって、その後の“アーン”がたまらなくセクシーです。

米倉:歌ったときに思わず言ってしまったものを、そのまま活かしちゃった感じです。計算して着地してないんですよ。

──“キスしたい”という感情の赴くまま歌ったらああなったと。

米倉:SNSというツールもそうですけど、感情が見えなくなればなるほど、作為的に伝えようとしがちじゃないですか? “どういう文章を書いたら伝わるだろう?”って考えるのは素敵なことだとは思うんです。でも、それを考えすぎると作為的になって、相手の気持ちを逆なでてしまったりもする。だから、言葉はちゃんと選ばなければいけない。言葉って最高のコミュニケーションツールのひとつですからね!!

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