【コラム】フレディ・マーキュリー不在のクイーンはクイーンと言えるのか?

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▲Photo by 岸田哲平

フレディ・マーキュリーとジョン・ディーコンのいないクイーンはクイーンと言えるのか。いやいや、フレディもジョンも、見えないだけで、ちゃんとステージに立っている。2020年1月25日・26日、埼玉・さいたまスーパーアリーナにて行われた来日公演で、クイーン+アダム・ランバート(以下QAL)はそんな結論を観客へと叩きつけた。

2019年に<ラプソディ・ツアー>が始まった時、旧来のファンの多くは、そのセットリストに驚愕した。これまでのツアーと比べて演奏曲の幅がめちゃめちゃ広がっている。絶対入らないと思ってた曲がある。これは映画『ボヘミアン・ラプソディ』のヒットによって新規のファンが増えた分、以前からのファンにもサービスしまくった選曲だ。やっぱり女王陛下のファンで良かった。そう思った。

しかし同時に、多くのファンは「このセットリストで来日するのは厳しいだろうな」とも考えた。日本公演では他所で演奏されない「手をとりあって」と「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」がある。これを入れるために、私が1番好きなアノ曲と、2番目に好きなコノ曲は削られるだろうなと予想していた。そしたらどうだ。蓋を開けてみたらほぼ全曲やってくれたじゃないか。やっぱり女王陛下のファンで良かった。そう思った。

ところで、本コラムには多量の“ネタバレ”が含まれているのでご注意願いたい。

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今回のツアーの見所をひとつに絞ることは難しいが、敢えて挙げるならば最新技術を駆使した舞台装置の美しさだろう。開演前は舞台上に巨大な王冠が置かれているだけに見えるが、序曲が鳴り渡ると共にステージセットが組み上がり、全貌が明らかになる様はまるで魔法だ。バックスクリーンも超高画質かつタイムラグがほぼ無いので、没入感が凄まじい。“オペラ座”というテーマ選択も良く、ステージ上に「桟敷席」のイメージで置かれた特別シートの観客すら演出のひとつとなって存在している様子には感心した。あまりにも違和感なく居るものだから、「最近のCGって立体的なんだなあ」と思っていたら、生身の観客だった。そろそろ眼鏡の換えどきかもしれない。

それにしても、冒頭が「イニュエンドウ」というのはなかなかの衝撃である。正直、QALで(というよりもライブで)聴けるとは思っていなかった曲だ。しかもこれがド派手なオーケストラアレンジ。管弦楽の雑多なチューニング音や、指揮棒が譜面台を叩く音が聞こえた時には心底ビビった。

どうして今回の冒頭曲は「イニュエンドウ」だったのか。単に派手でオーケストラ映えし、“オペラ座”というテーマに合うからかもしれない。あるいは、フレディの生前最後のアルバム『イニュエンドウ』(1991年)から表題曲を持ってきて、彼の存在をより強く意識させているのかもしれない。敢えて原曲版を用いないことにより、“フレディ亡き後のクイーン”を演出しているようにも思える。何はともあれ、アラビア風の荘厳な行進曲とともに“オペラ座”が出現していく様子は、言葉を失うほどにカッコいい。

「ナウ・アイム・ヒア」でスタートした本編は、まさに音楽と光の洪水だった。“New man”ことアダム・ランバートの喉は絶好調。ばっちりとしたアイメイクも、グラマラスなファッションもバリバリにキマってる。ブライアン・メイとロジャー・テイラーを中心とするバンドのサウンドも調子が良く、そこから繰り出される「地獄へ道づれ」「ドント・ストップ・ミー・ナウ」「愛という名の欲望」といったヒット曲の数々には興奮しないわけがない。初日と2日目では曲順が異なっていたが、どちらも曲と曲の繋がりに深いこだわりが感じられて、公演全体がまるでひとつのオペラ作品のようだった。

眩い照明と大仕掛けを背負って躍動するクイーンの姿は、“1970年代にヒットしたバンド”というよりも、“2020年最先端のバンド”という感じ。若いころよりも元気そうなブライアンや、年相応の渋さを身に着けてカッコよさが増したロジャーは衰え知らず。アダムは若々しく(とはいってもアラフォーである)エネルギーに満ち溢れており、ニール・フェアクロー(B)やスパイク・エドニー(Key)、タイラー・ウォーレン(Per)らサポートメンバーはコーラスも巧みにこなしながら、バックを強力に支えてくれる。

アダムによる演劇的なパフォーマンスは、2016年の来日公演より“全年齢向け”と感じないでもないが、それでも相変わらずのセクシーっぷりだった。「キラー・クイーン」ではグランドピアノに腰かけ、ド派手な扇子をパタパタしつつメロドラマを演じ、かと思えば悲劇的な「愛にすべてを」では微笑みながらも深い孤独を謳い上げる。ロブ・ハルフォード風の衣装に着替えて登場した「バイシクル・レース」では“自転車”へのまたがり方すらセクシーだ。というかアダムさん、それ“自転車”じゃないですよね? エンジンついてますよね?

そんなアダムが歌う「リヴ・フォーエヴァー」は、QAL最大の目玉曲のひとつ。音域・声量・声質の全てがパーフェクトなアダムは、豊かな表現力を活かしたバラードがめちゃめちゃ上手い。その中でも「リヴ・フォーエヴァー」は旧来のファンから“フレディ超えてるんじゃないか?”と噂されるほどの仕上がりだ。歓声を上げるのも忘れて立ち尽くし、歌声に聴き入る観客の姿は、アーティストにとって最大級の賛辞となるだろう。

ところで、今回のライブでは「リヴ・フォーエヴァー」の前に、『華麗なるレース』(1977年)の収録曲「テイク・マイ・ブレス・アウェイ」の音源が挿入された。同曲は映画でも未使用、タイアップの印象も薄いので、知らない観客も数多くいたことだろう。以前からのファンにとって、フレディの歌声が響き渡るこの曲の使用は「イニュエンドウ」並みのサプライズだった。

だが、同曲の使用はサプライズであるとともに、胸が裂かれるような演出でもあった。「テイク・マイ・ブレス・アウェイ」は本来、バンドにとって特別な意味合いを持つ楽曲ではない。しかし「フレディの死、残されたクイーン、舞台を去ったひとり、歩み続けるふたり」を意識すると、“僕の全てを持って行って”という歌詞はあまりにも痛切だ。

それに呼応するかの如く、アダムはひとり舞台に立ち“あなたが私の世界に触れたから、私たちは永遠に生きていける”と「リヴ・フォーエヴァー」を歌う。これはフレディへの敬意や愛であるとともに、クイーンを背負うアダムの宣誓にも聞こえた。

今回の公演では「イニュエンドウ」「テイク・マイ・ブレス・アウェイ」の他にもサプライズが用意されていた。バンドメンバーの紹介を交えた「ドラゴン・アタック」に、ロジャーが歌う「アイム・イン・ラブ・ウィズ・マイ・カー」。“愛車”では女性ファンの歓声が大きかったけれど、ハスキーな歌声の迫力に圧倒される者も多かった。それにしても、「ハァイ」と一言しゃべるだけ、サングラスを外すだけで黄色い悲鳴が上がるロジャー・テイラーって凄い。いや、私も「キャー!」って言ったけど。

ただ、いちばんのサプライズはアコースティックコーナーでブライアンが歌った「'39」だったかもしれない。近年のライブで彼が歌うのは「ラブ・オブ・マイ・ライフ」を含めた1~2曲。日本公演では「手をとりあって」を演奏するから、他の曲は聴けない。多くの人はそう思っていた。だから上記の2曲が終わり、「もう1曲歌いたい?」とブライアンに問いかけられたときは耳を疑った。海外のファンに「日本ばっかりズルい」と言われる理由がよく理解できた。

そうして始まった「'39」。同曲はかつて、クイーンの4人が横一列に並んで歌う、素朴ながら明るく賑やかな楽曲だった。しかし2020年の今では、ブライアンがひとり、花道の端で歌っている。その光景は寂しいようでいて、けれど満員の観客がスマートフォンのライトでステージを照らす様は、「'39」の歌詞に描かれた“乳白色の海”の風景そのものに見えた。

旧来のファンからは「演出・演奏・セットリストすべてが過去最高」、新規ファンからは「これまでの人生で最高」と評される東京(埼玉)2公演は、日常に帰るのが惜しくなるほどの贅沢な時間だった。始まる前に起こったあらゆる論争は、大音量でかき鳴らされる音楽の前に消えて行く。アンコールの頃には、誰もが“クイーン+アダム・ランバート”のファンになっていたことだろう。

フレディ亡き後も“クイーン”として活動を続けるブライアンとロジャーには、ときに激しい批判が投げつけられる。フレディとは似ても似つかないアダムに拒否反応を示すファンも多い。まあ、それに関しては“批判者なんていて当然”というやつだ。ごはんが嫌いな日本人も、紅茶が嫌いな英国人もいる。

だが、QALのライブはそもそも「フレディとジョンのいないクイーンのライブ」ではない。彼らのライブは、楽曲そのものに込められたアーティストの記憶や魂を世界中の人々に伝え、その栄光を讃えるための「祝祭」だ。アダムはステージの上で必ずフレディへの愛とリスペクトを語り、自らが“フレディの代役”ではないことを表明する。演出の随所には「過去のクイーン」と「現在のクイーン」を繋げる仕掛けが施されており、表舞台を去ったジョンが遠ざけられることも無い。むしろふたりは今でもそこにいて、共に演奏しているような錯覚すら感じられる。

「いないはずのふたりも、そこにいるような気がしてくる」なんて、言葉にすると陳腐で、嘘みたいだ。けれど、行けばわかる。スタジアムの中で、舞台から漏れ出す照明を浴び、降り注ぐ音楽に包まれれば、“フレディの魂はこの世界に今でも存在している”と確信する。そしてクイーンが、アダム・ランバートが大好きになる。続く大阪、名古屋公演。ぜひ、あなただけの“クイーン”と出会ってほしい。

文◎安藤さやか(BARKS編集部)

■<QUEEN + ADAM LAMBERT - THE RHAPSODY TOUR>

2020年
1月25日(土)東京・さいたまスーパーアリーナ ※公演終了
1月26日(日)東京・さいたまスーパーアリーナ ※公演終了
1月28日(火)大阪・京セラドーム大阪
1月30日(木)愛知・ナゴヤドーム
詳細: https://sp.universal-music.co.jp/queen/
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