【インタビュー】川口レイジ、半端ない未知なる可能性の埋蔵量を持つシンガーの1st single「I'm a slave for you」

■今日の自分より明日の自分のほうが良くなりたい
■日々音楽できることに感謝しながらやっています

──そろそろ曲の話に行きますね。「I'm a slave for you」はドラマ「この男は人生最大の過ちです」の主題歌で、多くの人が関わっていて、たぶんお題や注文があったと思うんですけど、どういうふうに向き合って作っていったのでしょう。

川口：タイアップ自体初めてなので、どうすればいいのかわからず。とにかく原作をスマホで読んで気になったところのスクショを撮って溜めて、そこからキーワード出しをしたりとか、自分のフレーズを出したりとか。紙に書き出して、それを持ってコライトに行ってという感じでしたね。でも、やりたいことを制限されるようなお題はなかったので、「ただ良い曲を作ればいいんだ」という気持ちで作業しました。

──それは良かった。

川口：それでも気を使うというか、やはり邦楽のフォーマットにきちんと収まってるほうがドラマの主題歌としてはマッチするかな？というので、そういう曲も作ったし。何曲か作って、結果、「I'm a slave for you」と「STOP」がいいと言ってもらえて、初めは主題歌だけのお話だったんですけど、エンディングテーマになることも急遽決まったんです。



──おお。すごい。

川口：ドラマの物語と自分の中にあるものとの共通項を探して、それを広げていく作業だったので、すごく頭を使うセッションでした。ドラマがなかったら成立しないよね、という曲にはしたくないし、逆にドラマとまったく関係ないよね、という曲にもできないので。全部を良い感じに共通項をふくらませながら書けたなと思います。

──「slave」って、かなりダーティーな言葉でしょう。使いようによってはどぎつく聞こえるし。

川口：原作にはめちゃくちゃ強い言葉が多いんですよ。「このインパクトに負けちゃダメだ」と思って、サビの頭にドン！と持ってきたのと、タイトルにガン！と添えることによって「曲も強いな」と思われたいというのもあって。


──確かに。ミュージックビデオもそうだけど、退廃的、官能的な要素も強い。こういうハードな曲がドラマの主題歌になるって、ある意味日本のテレビってすごいなと思ったりしました。

川口：こういう流れっていいですよね。今までなんとなく縛りがきついというイメージがあったんですけど、ドラマと音楽との関係の中で、いろんな人が関わって比較的に自由にコラボさせてもらって。そういうふうに良い意味でカルチャーを耕していけば、そういう時代になればいいなと思います。

──うんうん。

川口：合うもので行くより、たまには合わなそうなものを合わせてみた時の楽しさとか、そういうのもあるといいですよね。「このレストランにはいつもジャズが流れている」というより、意外とラテンとかかかってると違う雰囲気でご飯食べられるかもしれないとか。そういう面白さはあったらいいなと思います。

──ですね。

川口：やっぱり、合うものを求められてはいるんですけど、それだけでもつまんないなと思うようになってきたんですよね。僕の知っている魚料理が中心の居酒屋に行くと、絶対80年代のJ-POPがかかってるんですよ。もっといろいろかければいいのになとか、いろんなことを思いながら生活しています(笑)。

──そこは川口レイジの音楽を語る面白いテーマかもしれない。共通項と意外性のバランス。

川口：良い意味で、時代がそっちに向いてきていると思うんですよ。何かをセットで見られることも少なくなって、いろんなフォーマットが誕生していけば面白くなるだろうなと思います。

──この「I'm a slave for you」。どういうシチュエーションで、どういう人に聴かれるとうれしいですか。

川口：自分ではクルマの中で聴くのが一番いい感じで聴けましたね。年末に田舎に帰ったんですけど、クルマの中で聴いていると違った風景が見えると思ったり。家のスピーカーの前で聴くと、アラが聴こえちゃうんですよ。でもクルマだとリラックスして聴けて良い気づきがあったりして。通勤中とかに聴いてノリながら歌ってもらえたらいいなと思います。クルマの中で歌うのって、その音楽がすごく好きなんだなって思いません？　すごい歌ってる人とすれ違った時に「好きなんだろうなー」って思う(笑)。あれぐらい好きになってくれたらいいなと思います。


──「STOP」にも、「奴隷」というワードが出て来る。

川口：そうなんです。ドラマに向けて4曲ぐらい作ったんですけど、半分ぐらいには「slave」「奴隷」という単語を入れようと決めて作っていました。その、入った2曲が使われたということです。たぶん、どっちかが使われなかったら、お蔵入りになったと思うんですよ。ドラマがなくても、どっちの曲も成立すると思うんですけど、題材的にかぶってるんで、どっちかを出したらどっちかを出さない可能性が高い。このタイミングで2曲ともリリースされることはうれしいし、2曲も採用されることはなかなかないらしいので、とても光栄です。

──では、最後に。どういうアーティストになりたいという、近未来のイメージがあれば。

川口：最終的な目標は設定していないですけど、パフォーマンスの面でもソングライターとしても、今日の自分より明日の自分のほうが良くならないと、年も25なんで、ゆっくりはしてられないというか。日々音楽できることに感謝しながらやっています。どういうアーティストになりたいかというと…あんまりいないんですよね。僕はこういう感じで、音楽もちょっと違うじゃないですか。そもそもどういう考え方でやっていくのか？とか、全然ない状態でやっているので、先のことが見えないんですよ。やってみて「これは自分に合ってる、合ってない」って、一個一個ジャッジして決めていくしかない。ちゃんとビジネスとしての折り合いがつくかというところもあるし、そこの難しさを感じながら頑張っております。この調子で行きたいです。

──やりがいある仕事ですよ。何はともあれ、楽しそうだし。

川口：楽しいですね。自分でも、よくやってるなと思います。ミュージシャン自体、よくやるなっていうところがあるじゃないですか。先が不安定で成功してもずっと食っていけるわけでもない。そこに飛び込む人ってちょっと変だろと思うんですけど、その中でも僕みたいなやり方は、もっと頭がおかしくないと、たぶん不安でつぶれちゃうと思うんですよ。という意味では、意外とのほほんとしているんで。

──うん。全然不安そうに見えない(笑)。

川口：こういう生き方ができる人間で良かったなと思いますね。

──生のパフォーマンスが見たいです。

川口：3月27日（金）に初ワンマンなんですよ。場所はTSUTAYA O-nest。パフォーマンスでいうと、今は何種類かやっていて、ストリートライブもしているんです。そこではギター弾き語りをやっていて、ネットでライブ配信する時はピアノで弾き語りをしていて、イベントライブは、マニピュレイターさんと一緒に出たりとか、オケを持って行って一人で歌うとか。そしてワンマンはバンドで、マニピュレイターとドラムとギターも入れようと思っています。もともとオケだけで成立しているんですけど、なんでドラムやギターを入れたいかというと、グルーヴを強化したいのと臨場感がほしいんですよね。生のキックの音のほうがぐっと来るので、それを感じてほしいし、より生き生きさせるためにバンドにしてるので。メンバーにはあまり指示せず、余白を持たせて本番でお客さんが来ることによって生まれる何かでその余白が埋まっていく。そうすると僕自身も楽しめるし鳴ってる音の上でどう遊べるか。3月27日（金）は、ぜひみなさん来てほしいです。

取材・文●宮本英夫


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