【インタビュー】キャンディス・スプリングス、ジャズの未来へ愛を込めた贈り物『私をつくる歌 ~ザ・ウィメン・フー・レイズド・ミー』

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ジャズ・ボーカルの偉大な歴史とスピリットは、この女性によって後世に引き継がれることになるだろう。彼女の名はキャンディス・スプリングス。デビュー前にあのプリンスに歌声を絶賛されたエピソードを持つ輝かしい才能の持ち主は、ブルーノート・レーベルから2016年に『ソウル・アイズ』でデビュー。瞬く間にジャズ・ファンのハートをがっちり掴み、大ブレイクの期待高まる最新作が、この春日本でリリースされる『私をつくる歌 ~ザ・ウィメン・フー・レイズド・ミー』だ。これは彼女が影響を受けた女性ボーカリストに捧げるカバー集であり、同時にジャズの未来へ愛を込めた贈り物。BARKSでは彼女の単独インタビューと共に、日本盤ボーナス・トラック「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」(キャロル・キング)をデュエットした山崎まさよしとの対談という二本立てで、キャンディスの魅力を掘り下げてみる。

■第一部 キャディス・スプリングス+山崎まさよし
■対談インタビュー


──お二人は、何度目ですか。

キャディス・スプリングス(以下、キャンディス):お会いするのは2回めですね。

山崎まさよし(以下、山崎):昨日レコーディングで。それで初めて一緒に歌いました。で、今日です。

──日本盤ボーナス・トラックに収録されている「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」のデュエット。素晴らしかったです。

キャンディス:ありがとう!

──あの曲を選んだのは…。

キャンディス:私です。キャロル・キングに捧げました。

──思い入れのある曲なのかしら。

キャンディス:思い入れはもちろんあります。今回のアルバムはトリビュート・アルバムで、今まで自分が聴いていた曲をカバーしていますが、キャロル・キングも影響を受けた一人です。

──山崎さんは、キャロル・キングは。

山崎:大好き。ジャケットも好きだし。自分のスタジオに飾っていますよ、アナログ盤の『タペストリー』を。

──この曲は、今まで歌ったことは…。

山崎:あります。ライブでやっていました。でもこうやって音源にしたのは今回が初めてです。この曲は、ダニー・ハザウェイのライブアルバムでも歌われているし、アメリカ人だったらだいたい歌える。お客さんに歌わせていますから。それくらいの曲なので、うれしかったです。一緒にハモると。

キャンディス:レーベルからの提案で「日本人のアーティストとコラボを」ということで、山崎さんとのコラボレーションが実現しました。山崎さん自身がレジェンドなので尊敬しています。こうやってアルバムに参加してもらったことは、私にとっても嬉しいことです。彼は才能がある人なので、いろんなアイディアが膨らんで、やっていくごとに良くなっていきました。

山崎:プロデューサーと彼女のアイディアがすごくて、こっちはもう、ついていくだけ(笑)。声もエモーショナルだし、楽だった。テイクもすごく少なかったですし。

キャンディス:セッション自体がすごく楽で自然でした。声もすごく上手く合わせやすかったし、ハーモニーのアイディアも彼から出してもらったものが良かったし、すごく良い絵が描けたという感覚でした。

山崎:彼女、本当に絵がうまいんですよ。

キャンディス:実際にスタジオで絵を描いたんです。本当は山崎さんの絵を描こうと思ったんだけど…(笑)。ギターを持っている絵です。


──いい雰囲気ですね。楽しそう。

キャンディス:今回のコラボはとても素晴らしかったので、私自身ももっと素晴らしいものにならなければと思わせてくれました。曲の解釈の仕方も素晴らしかった。日本のスタジオで、こうしてトップレベルの人とやれたのは非常に良い経験でした。

──彼はブルースマン。古いアメリカの音楽に詳しいんです。

キャンディス:それは、彼の歌声から感じていました。父がブルースシンガーで、私もブルースやR&Bをずっと聴いて育ってきたんです。だから、二人の声がうまく合わさったんじゃないかな。そういう意味で、この組み合わせを選んだ人も、二人の声を聴いて同じように感じたんじゃないかなと思います。

──逆に、山崎さんは彼女の声にブルース的なものを感じたり?

山崎:最初にアルバムを聴いた時、アメリカのトラディショナルというか、そういったものに造詣が深いなと感じました。しかも、クラシックもけっこう聴くらしくて。

キャンディス:ショパンとか、すごく好き。

山崎:彼女の中で、そういったもののミクスチャーができているんですよね。ルーツ的なものの。それでいいと思うんです。音楽を長く聴いていく中で、ブルース一辺倒だったりジャズ一辺倒だったりすると、アプローチの仕方が決まってきてしまう。でも雑食で、いろんなもののミクスチャーが彼女の中に備わっているから。声も歌い方も。そういったものって大事だと思う。音楽は根性論じゃないから、そうやってドンドン好きなものを取り入れて、それを彼女なりに若いけれど消化できている。なかなか日本人にはできないことというか、ジャンルにこだわる人も多いけど、でも彼女はノンジャンルというか。

キャンディス:ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい


──キャンディスさん、ナッシュビルの生まれですよね。ミュージックシティとして有名な。

キャンディス:はい。カントリーの街として知られていますが、いろんな音楽がナッシュビルから発信されています。私の父は、アレサ・フランクリンのバックで歌ったり、フェイス・ヒルやガース・ブルックス、ヴィンス・ギル、エイミー・グラントとやったり。チャカ・カーンとかも。

山崎:ガース・ブルックスってナッシュビル?

キャンディス:ナッシュビル出身かどうかわかりませんが、ナッシュビルでよくやっていました。父はよくガース・ブルックスと一緒に仕事をしていましたね。父はシンガーで、ローカルのカントリー・ミュージックのバックで歌ったり、R&B的なものもやっていましたし。

──山崎さん、ナッシュビルも行ったことありましたっけ。

山崎:ナッシュビルね…行ったことあるかないか…ギターをたぶん、ナッシュビルで買ったような。

キャンディス:あまりにもいろんな所に行っているから、覚えていないんじゃない?

──彼はトラベリンマンだから(笑)。

キャンディス:でも、どこの街に行ったか忘れちゃくらいの人は、きっと上手い人ですよね。

山崎:行ったら覚えていると思うんだけど。あのギターどこで買ったんやろ…。

キャンディス:今度ナッシュビルに来ることがあったら、ホットチキンを一緒に食べましょう。美味しいですよ。

──そうそう、彼はポール・マッカートニーの目の前で歌ったことがあるんです。

山崎:いやいや…。

キャンディス:すごい。緊張したでしょうね。

──キャンディスさんは、緊張した相手っています?

キャンディス:もちろん。プリンス、ノラ・ジョーンズ、ほかにもたくさん…ちょっと忘れちゃった。思い出したら言いますね(笑)。

──一つ、聞いてみたいことがあるんですね。日本には「温故知新」ということわざがあって、古いものを学び直すことで新しいものを発見する、というような意味です。このアルバムに似合うような気がするんですが、どうでしょう?

キャンディス:そうですね。今回のアルバムの曲は数年間温めてきた楽曲です。実は明日(1月18日)31歳になるんですが、ずっと私の曲として大事にしてきたものです。これらの曲を世の中の人達とシェアできることが嬉しいですし、山崎さんにこのアルバムの一部になっていただけたのはとても光栄です。

山崎:自分が影響を受けたり、過去に世間を席巻した曲は、オリジナルだったら勝てないと思うんです。でも今、自分がそれをカバーすることで、歌というものは人に広まっていく。それが正しい伝わり方だったわけですよね、昔は。トラディショナルなものは大体そうですけど、口伝えだったりするわけです。それは、今だったらネットやテレビ、ラジオがありますけど、「こういう歌だよ」っていう媒体になることで人々に広まっていく。温故知新というのは正しいと思うんですね、音楽のあり方として。今は、原曲というかマスターが簡単に聴ける時代ですけど、実際それを人間が伝える、人間が身体を通してその歌を伝えるほうが、浸透の仕方が深いんじゃないかな?と。新しく何かを作ることではなく。

──カバーの力ですね。

山崎:カバーしてきたんですよね。過去の作品をみんながコピーしたりカバーしたり、それを大衆に聴いてもらう。演奏会は、そういう使命をある程度になっているのではないかと思います。カバーの重要なのはそういうところ。

キャンディス:コピーやカバーにそういう使命があるということには深くうなずきます。山崎さんも、良いカバーをされていると思います。

山崎:ありがとうございます。

──いつかステージで共演するのが見たいですね。

キャンディス:素敵ね。今度ブルーノートで歌うんですが、もしかしたら…(笑)。

山崎:照明やります(笑)。

キャンディス:謙虚な人ですね(笑)。

──では、山崎さんはここまで。ありがとうございました!

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