【インタビュー】インヘイラー「とりあえずなんでもやってみるのが楽しい」

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平均年齢20歳のアイルランドの4人組インヘイラーが、アルバムも出していない段階で実現させた初来日公演は、チケット完売の満員となっていた。洋楽離れ・ロック離れなど嘘のようだ。その晴れ舞台で彼らが見せつけたのは、若さに任せたパッションやアグレッションではなく、熱を帯びながらも肝が据わった屈強なパフォーマンスだった。海外でロードを重ねているだけに、さすがに鍛え抜かれている。そして何より楽曲がことごとく素晴らしい。もしかしたら、ボノの息子のバンドという話題ありきの盛況ぶりだったのかもしれないが、ライヴを体験した誰もが、そんなことはどうでもよくなったはず。可能性と未来しか感じさせないロックの超新星に、話を聞いた。


──イライジャ、ライアン、ロバートは学校の友達ということですが、ジョシュはどういう経緯で参加したのですか?

イライジャ:他のバンドから彼を引き抜いたんだ。友達のバンドと一緒にライヴをよくしていて、ジョシュはReflectivesというバンドにいたんだ。当時の僕たちのバンドのギタリストだったサム・ハディガンは、友達としては最高だったけどギターがてんで弾けなかった(笑)。昔の話だから怒らないと思うけど。で、上手いギタリストを入れなきゃダメだってなって、たまたま遊びに行ったパーティーでジョシュに会って、そこで彼にザ・ストーン・ローゼズの「アイ・ウォナ・ビー・アドアード」をかけて「一緒にバンドをやらないか」って誘ったら「いいよ」って言ってくれて。

ジョシュ:自分たちの曲をfacebook messengerで何曲か送ってくれたりもしたよね。

イライジャ:あの時のチャットはまだ残っているはずだよ。

ライアン:彼が気に入ってくれたことに驚いたよ。

ロバート:ジョシュが入ったことでバンドも奮起して、楽器の上達に身を入れるようになった。バンドをやっていく上で絶対に必要なことだから良かった。

──そもそも、バンドをやろうって最初に言ったのは、誰だったのですか?

イライジャ:バンドにはもういないメンバーだよ(笑)。

──え?

イライジャ:本当は、僕とライアンと抜けてしまった友達のサムの3人で、モーターヘッドのカバーとかをやろうってことになったんだ。当時録音した音源は今も残っているけど、聴けたものじゃない。最初に言い出したのはライアンだった。

ライアン:あの頃の音源は、いつかこのバンドのドキュメンタリーの中で使う予定だよ。

イライジャ:それはどうかな。

ロバート:おそらくカットされるだろうね。

ライアン:まあ、嬉しい偶然の類だったよ。僕とイーライが当時聴いてた音楽は、周りで流行っていたものからちょっと浮いててね。12~13歳の頃で、電子楽器の代わりにギター音楽ばかり聴いていた。その数ヶ月後にロブが加わって、そのさらに数年後にジョシュが加わった。ごく自然な流れでこうなった。「バンドやろうぜ」って一大決心したっていうより、「みんな一緒に音楽を鳴らしてみて、どうなるかやってみようぜ」って調子でここまで来たって感じだよ。


▲イライジャ・ヒューソン(Vo、G)

──それぞれの音楽の趣味とか志向性みたいなものは、共通しているのですか? けっこう違ったりも?

ジョシュ:答えになってないかもしれないけど、どっちもだね。

イライジャ:それぞれの持ち味をバンドに持ち込んでいると思う。ジョシュはゴリラズが好きで、他は…。

ジョシュ:ラップも好きだし、クラシックも好きだし、あらゆる音楽が好きだよ。

ロバート:僕らは学校でクラシック音楽を勉強したけど、イーライは全く縁がなかっただろうね。

ライアン:みんなそれぞれ音楽的背景はバラバラだけど、幅広くいろんなジャンルの音楽を聴いて育った。ザ・ビートルズやデヴィッド・ボウイのように、当たり前のように家でかかっていた音楽がまずあって、ジョシュはゴリラズが元々大好きだったけど、僕はもっと後で好きになった。ラップもみんな好きで。

ロバート:本当に幅広いんだ。

イライジャ:今の時代ならではだと思う。昔は音楽を自分から見つけなきゃいけなかったけど、今は音楽のほうから自分を見つけてくれる。SpotifyやApple Musicのおかげで、なんでも気軽に聴くことができる。昔はパンク・ファンとかロック・ファンって棲み分けが明確にあったけど、今はどんな音楽も自由に聴けて、どこかひとつのグループに属さないといけないわけじゃない。

ライアン:それがそのまま、僕たちのサウンドに反映されていると思う。いろんな音楽の影響が混在しているんだ。

──曲は基本的にイライジャが書いているのですか?それともバンドで?

イライジャ:どっちもある。曲作りの決まった形というのはないんだ。何処からともなく曲が降ってきて、アレンジもすぐに決まってあっという間に形になることもあれば、何年もかかるものもある。


▲ロバート・キーティング(B)

ロバート:単体では物足りないと感じる曲を、ふたつ組み合わせてひとつの曲にすることもあって、それはそれで楽しい。これはやらないってことはないんだ。スタジオで「これはやっちゃダメ」とか「これは不可能だ」って思わないことが大事なんだよ。まだアルバムを出していないわけだから、とりあえずなんでもやってみるのが楽しい。

イライジャ:なんだってありなんだ。

ロバート:なんだってありだね。

──「アイスクリーム・サンデー(Ice Cream Sundae)」について、その想いを聞かせてください。

イライジャ:バンドとして初めて、みんなで書いた曲のひとつなんだ。16歳の時にギター・ショップで書いたんだよ。Verse(Aメロ)はひとつしかなくて、2番でも同じverseを繰り返している。すごくピュアなポップ・ソングのようで、実は幸せと悲しみや、完璧と不完全との対比を歌っている。当時まだ10代だったから、何かと自問したり本当の自分を探していたりして、それが大きなテーマとしてあった。

ロバート:あの曲は確かにポップで、自分たちからしてもソフトな曲で「このサウンドでいいのか」という迷いもあったけど、一番大切なのは、それぞれの曲の物語をきちんと伝えることだった。アルバムを作る上で今直面しているのは、本当にいろいろな曲調の曲でそれを実践しようとしていること。「この曲はノリノリのダンス・トラックが一番合っている」「これは静かな物悲しい曲」という具合にね。それら全部をひとつの作品にどうまとめるかが面白いと思う。

イライジャ:一貫性を持たせてね。


──「ウィ・ハフ・トゥ・ムーヴ・オン(We Have To Move On)」についても聞かせてください。

イライジャ:「My Honest Face」はテンポが速い曲だったけど、「Ice Cream Sundae」の後、ああいう疾走感のある曲をやりたいなと思っていたんだ。この曲を最初に書いた時は、全編にオルガンが鳴っているようなちょっと変わった曲で、今とは全く違うゆったりとした雰囲気だった。それがスタジオに入ってガラっと変わったんだ。内容に関しては、犯した間違いだったり、古いしきたりを断ち切って前に進むというもので、バンドとしても今まさにキャリアの大きな岐路に立っているわけで、自分たちに発破をかけるという思いもある。「やってやろうぜ」ってね。

ロバート:人によって捉え方は違うと思う。どう解釈するかは聴き手次第だから。恋愛で次に進むでもいいし、世の中のあり方に対して思うことでもいい。人それぞれ受け取り方が違っていていいと思う。


──インヘイラーの音楽はシンセが絶妙なエッセンスになっていますが、メンバー間でシンセは重要という認識を共有しているのですか?

イライジャ:曲ができ上がっていく中で、はっきりしてくるものだと思う。全編シンセやドラム・マシンの電子楽器で曲を作ることだってやろうと思ったらできるわけで、スタジオで制作している時は一切のルールを持たないから。

ライアン:曲を最良の形で仕上げることに、ミュージシャンとしてできる限りを尽くす、という以外はね。

ロバート:やっていく中で学ぶことも多い。シンセの採り入れ方にしても、まだ学校にいた頃に録音した最初の2枚のシングル「I Want You」と「Is She My Girl」には、一切シンセが入っていなかった。その後で「It Won't Always Be Like This」を出した時、「ああ、ここでシンセと出会ったんだな」っていうのは明白だ。その最初の頃は、シンセを入れすぎてたくらいだった。あまりに夢中になり過ぎてね。今は、バランスが大事だってわかってきた。シンセに限らずドラム・マシンにしても、いろんな楽器の音を制限することなく必要に応じて採り入れていくつもりだよ。

イライジャ:シンセの音で得られる甘さや軽快さと、本物のドラムやベースから得られる迫力の対比が好きなんだ。そういう音に魅力を感じる。


▲ライアン・マクマホン(Dr)

──ボノ(U2)を父に持つイライジャは、どういう音楽環境で育ったのですか?子供の頃から音楽が教育の一環として組み込まれていたのでしょうか。

イライジャ:むしろ母親のほうが熱心で、小さい頃に無理やりピアノを習わされたりした。四六時中、音楽に囲まれていたお陰で、音楽が嫌になるくらいだった。全然興味が持てなかったよ。今でも覚えているんだけど、子供の頃に名付け親から『ジギー・スターダスト』のアルバムをプレゼントされた時に「あんまり好きじゃない」って言ったんだ。「そもそも音楽とか好きじゃないし」と言ったのを覚えている。周りの大人はみんな驚愕していたよ。「誰の子だ?」って顔でね。その後でスマッシング・パンプキンズを発見したのをきっかけに、自分で音楽を開拓するようになった。今の仲間を通して音楽を知っていった感じだったんだ。

ライアン:どういたしまして(笑)。

──お父さんたちから、インヘイラーに対して何かアドバイスはありましたか?

イライジャ:ツアーに行く時、下着を何枚持っていくかというのが唯一のアドバイスだったね。

バート:しかも間違った情報だった。お陰で途中で足りなくなったよ(笑)。


▲ジョシュ・ジェンキンソン(G)

──これから、どういうバンドになっていきたいですか?

イライジャ:どんなバンドになるか決めずに、2~3年やってみようと思う。そのほうが面白いと思うしね。シンセを採り入れたのも、バンドとして色彩のパレットを増やしたかったから。サウンドの引き出しが多ければ多いほど、将来自由に音楽が作れると思うからね。バンドとして具体的な目標を掲げたことはないんだ。たまたまみんなで一緒に音楽をやるようになって、ここまでこられただけで。

ライアン:自分たちの音楽がこの先ずっと、大勢の人たちに愛され続けてくれたらいい。それか、思い切り嫌われるか。そのどっちかだね。

ロバート:自分たちが好きなことを、できるだけ長い間続けられたらいいな。

──無人島に一枚しかアルバムを持っていけなかったら、何を持っていきますか?

ライアン:一番苦手な質問だ!

イライジャ:ひとりひとり? それともバンドで1枚?

―――ひとりひとりでお願いします。

イライジャ:じゃあ、ジョシュから。

ジョシュ:考えたいからあと1分、考える時間がほしい。

ロバート:じゃあ、僕から。ピンク・フロイドの『狂気』。

ライアン:ザ・ストロークスの『イズ・ディス・イット』。

イライジャ:安易な答えになっちゃうけど、ザ・ビートルズのホワイト・アルバムだな。

ライアン:全然安易な答えじゃないよ。音楽史に残る大傑作アルバムだよ。

ロバート:バンドとしてザ・ビートルズは入れておかなきゃいけなかったから、良かったよ。

ライアン:安直な答えと前振りしてから、大傑作アルバムを言うとかどうなの(笑)?

イライジャ:みんなが挙げるじゃん。

ロバート:大傑作だからだよ。

ライアン:ジョシュは?

ジョシュ:デヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』で行くよ。

ロバート:イーライが嫌いだって言ったやつね。



──初めてCDを買った時のことを覚えていたら、いつ何を買ったか教えてください。

ロバート:初めてCDを買ったのは、ダブリンにあるタワーレコードで…渋谷にもタワーレコードがあるよね。あとで絶対に行かないと。で、最初に買ったのはニルヴァーナの『イン・ユーテロ』だった。初めてのCDにしては、ものすごく怖いアルバムだった。「セントレス・アプレンティス」という絶叫だけの曲があって、数日夜眠れなかったよ。

イライジャ:13歳の時にメタリカの「ヒット・ザ・ライツ」が入っている『キル・エム・オール』を買った。

ライアン:父親とタワーレコードに行って、アリス・クーパーのベスト盤と『スリラー』(マイケル・ジャクソン)という両極端な2枚を買った(笑)。

ロバート:ライアンらしいね。

ライアン:まさにインヘイラーそのものさ。正反対の音楽の共存。

ジョシュ:ゴリラズの『プラスティック・ビーチ』を、母親と一緒に買いに行った。

ライアン:かっこいい最初の1枚だ。

取材・文:鈴木宏和
編集:BARKS編集部


インヘイラー「We Have To Move On」
配信中
https://umj.lnk.to/Inhaler_MoveOn


インヘイラー「アイスクリーム・サンデー(Ice Cream Sundae)」
配信中
https://umj.lnk.to/Inhaler_Single

◆インヘイラー・レーベルサイト
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