【インタビュー】ナノ「ベストアルバムは未来の自分につなげるためのマイルストーン」

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どこかミステリアスなベールに包まれたシンガー、ナノ。ボーカロイド楽曲のカバーで一躍その名を全国に広め、デビュー後はアニメ主題歌などが海外でも爆発的な人気となるなど、今や国内外からその活躍が注目されているニューヨーク出身のアーティストだ。そんなナノが、初のベストアルバム『I』をリリース。待望の新曲も収録された今作には、ナノのどんな思いが込められているのか。そして日々、どういう気持ちで音楽と向き合っているのか──。ベールの奥にあったのは、こちらの予想を遥かに上回るほどのアツい魂だった。

■ベストは過去を振り返るものでも決別するためでなく
■次の自分につなげるためのマイルストーン


―デビュー8年目。初のベストアルバム『I』が発売されるわけですが、このタイミングになったのは何かきっかけのようなものがあったのでしょうか?

ナノ:逆に言うと、今まで出せなかったからと言うか。今まで、本当に短いスパンでたくさんの作品を発表しながら突っ走ってきたんですね。でもこのままずっと突っ走っていけるわけじゃないし、どこかでちょっと切り替えたいなと考えていたところ、たまたま次のタイアップまでの間が空いて。そういういろんなタイミングが合って、今回リリースすることになりました。

――ベストアルバムと言ってもいろんなパターンがありますよね。単純にカタログ的なものだったり、コアな切り口だったり。

ナノ:そうなんですよね。だから最初は、自分の正解がわからなかったんです。でも今になってやっと、自分にとってのベストがどういう意味なのかが分かりました。自分にとってベストは、未来につなげるための扉。過去を振り返るものでも、過去と決別するためのものでなく、次の自分につなげるためのマイルストーンだなって思いました。

――なるほど。

ナノ:これまで作ってきたシングルの1曲1曲って、イメージですけど、みんなバラバラな状態で自分の池に浮いているような状態だったんですね。それを「みんな、一旦集合!」みたいな(笑)。去年から<ONE TEAM>って言葉をよく聞きますけど、まさにそうだなと思ったんですよ。すごく響いた。自分の曲達と“ONE TEAMになって次の試合に挑もう!行くよ!みんな力貸して!”そんな気持ちでしたね。もう一度一人一人の良さを見直して「君はここが強みだからフォワードだね」みたいな感じ。一人一人の役割を意識しながら次の自分につなげるっていうのが大事な一歩――今まで自分がやったことのない、大人になるための大事なステップだなってすごく感じました。


――ナノさんから、まさかこんなにスポ根精神溢れるワードを聞くことになるとは思っていませんでした(笑)。

ナノ:すごくアツい人間なんです(笑)。いろんな曲を発表してきましたが、中にはそんなに日の目を見ていない曲や、聴けば聴くほどっていうスルメ曲、陰で支えてくれている曲なんかもあるんですね。そういう楽曲も全部表に引っ張り出して、「お前達も輝けー!!」って気持ちで押し出しましたからね(笑)。ナノのファンはもちろんですが、このベストで初めて知ってくれる方への「はじめまして」にもなるようなアルバムになったと思います。

――アルバムタイトルの『I』には、ONE TEAMになったからこその自分自身みたいな意味もあるのでしょうか。

ナノ:そうですね。最初は「NANO BEST ALBUM」みたいな感じでシンプルに行こうって話も出ていたんですが、ある日自分の曲を全部並べて聴いてみたとき、直感で『I』にしたいと思ってしまったんです。それでディレクターさんにも「お願いします、これにしたいです。クサくてもいいから『I』にさせてください」って(笑)。ベストって自分自身を代表する曲でもあるし、『I』とつけることで、より背負うような気持ちになるなと思ったんですよね。あとは、今まで支えてくれたファンの皆さんへの愛情の“アイ”。日本語の愛という意味も込めたかったのでこのタイトルにしました。このベストはレコード会社の誰かがまとめたようなものじゃなく、もっとパーソナルなものにしたかったからこそ、自分が自分自身で表に出す一つの作品として愛を込めているし、これまでのアルバムと同じくらいーーいや、それ以上の重みがある作品になって欲しいなって思っているんですよね。

――オリジナルアルバムを出すことももちろん大変なことですが、ベストアルバムは、それこそ需要と供給のバランスじゃないですが、ここまで愛して支えてくださったファンの方がいてこそリリースできるものですからね。

ナノ:そう。そこが一番実感したことかもしれないです。ベストアルバムって出そうと思って出せるものじゃないし、出せるってことは、それだけ聴いてくれた人がいるから叶ったことなんですよね。そしてこれだけの曲があるからこそ出せるもの。今まで感じたことがないほどの感謝の気持ちを、いろんな方面に対して感じました。ファンだけでなく、これまで関わってきてくれたミュージシャンやスタッフさん、ディレクターさんやクリエイターさんなど全員に。でも、その感謝の気持ちを感じたとき、実は最初ちょっと怖いと思ったんです。

――怖いと思った?

ナノ:はい。これはあくまでも個人的な気持ちですが、ナノもベストアルバムが作れたねって、みんながちょっと安心というか満足しちゃうみたいなことになったら嫌だなって。まだまだこれから先もこの人達といろんなことをいっぱいやっていきたいという気持ちなのに、これで何かひとつ終わっちゃうというか、区切りみたいになってほしくないなっていう不安みたいなものが最初はあったんですよね。

――こっちは、これから行くぞっていう気持ちなわけですからね。

ナノ:そうなんです。今までありがとうじゃなくて、これからもありがとう!!って気持ちでいますからね。実際の作業としてのレコーディングはそんなにやっていないですが、オリジナルアルバムと何ら変わらない熱量がめちゃくちゃあると思っています。

――今回のベストアルバムには、新曲も収録されていますね。

ナノ:ベストアルバムであっても進化を感じてもらいたかったので、少なくとも1曲入れたいなと思っていたんです。新曲以外の収録曲に関してはきっと誰が考えても分かりやすいし、それに対して意見が分かれることもないだろうし、むしろみんなで作るのがベストアルバムでもあると思ったので、ディレクターさんたちと一緒に決めたんですね。でも新曲に関しては、今の自分や自分の色というものを全面に出せる部分ですから、しっかりと意見を言わせてもらいました。


――それが、新曲「INSIDE MY CORE」。

ナノ:自分でも、すごく納得がいっている曲です。ベストという、いわゆる代表曲が並ぶアルバムに入れてもちゃんと自信を持って送り出せる曲になりました。

――ナノさんはこれまでも、テレビアニメを中心にゲームや映画などのテーマソングをたくさん書き下ろされていますよね。そういうタイアップの機会は、創作面での刺激にもなっていたりしますか?

ナノ:今回ベストアルバムの楽曲を聴き返したときに「やっぱりそうだよな」と思うことがあって。作っている時は毎回、その作品に全面的に寄せながら作っているんです。自分のためと言うよりは、その作品のために作っている。毎回いい刺激をいただいています。でも結果的には、その時の自分の思いというものがすごく詰め込まれていて、「これはタイアップだから」みたいなものが一つもなかったんですよ。全部“自分”。運よく作品が紐づいてくれて、コラボレーションしているような感覚というか、一緒に生み出しているような感じなんです。きっかけはタイアップのお話をいただくところにあるんですが、タイアップだからどうとかではなく、この先10年とか20年とか経って振り返ったときにもきっと「自分の大切な一部分だな」と思えるような曲を作ってきたんだって、そういう感覚にもなりましたね。

――その時その時の変化や成長も刻み込まれているということですね。

ナノ:曲に関してはいろんな方に書いてもらっているので、曲調みたいな部分からの自分の進化はわかりづらいかもしれないけど、歌詞や歌い方に関しては、回を重ねるごとに変化して進化してきていると思います。もっとこうしたいというのも、毎回ありますしね。

――毎回!

ナノ:あります、あります。これは完成した曲に対して失礼になるような意味ではないんですが、自分は、今まで一度も納得したことがないんですよ。作品としては毎回ちゃんと成立しているし、すごく納得もしていますが、自分自身に納得したことは一度もないんです。過去の作品はどれも、もっとこうしたいっていうことを毎回感じさせてくれる。次はもっと、次はもっとって思うきっかけになっているんです。だから、一つ一つの作品に対して感謝しかないんですよね。

――しかし歌声が放つエネルギーや表現力などがどんどん成長し、前進していることはナノさんも自覚されていることではないかと思います。

ナノ:進化する要素があることに対してはすごく満足していますし、時間がかかったとしても、クリアしていっているなという実感はありますね。でもそれは過去を否定しているということではなく、今の自分だったらもっとこんな風にもできるとか、そういう意味ですけど。

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