【インタビュー】RED ORCAの「始まり」

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■徳川家康と討幕する、みたいな

──ところで先ほど、全員がリズムで重なっているという話になりましたが、PABLOさんがこの場でギターについていちばん意識しているのも、やっぱりそこですか?

PABLO:うーん、なんだろう。僕はこのバンドにおいては、あんまりギターっていう意識はなくて。僕の役割はギターサウンド云々ではないところにあるんじゃないか、と。実際、あんまりギターを弾いてる意識がないんですよ、このバンドでは。なんかむしろ、じゃあここで京太郎をどうするかとか、来門をどうするか、このバンドをどう見せるかみたいな、そういうことばっか考えてるというか。

──面白いですね。これまでの流れやバンド誕生の経緯を考えると、金子さんとPABLOさんが前面に立つものと見えがちだと思うんですよ。しかし実際には来門さんと葛城さんを押し出すための体制になっている。

PABLO:それはあると思います。僕はそういうふうに考えてるところが結構あって。なんか、この場で自分が起こせるマジックはそこだという気がしてるというか。ギターを弾くことでマジックを起こすんではなく、この2人とかこのバンドに、僕の視点が加わることによって何かが起きるんじゃないかなっていう気がしてますね。音楽的にどうこうっていうのは、もう各自にお任せというか。そこは逆に、自分にとって初めての体験でもあるんですけどね。

──要するに、音楽的な舵を取る必要がないということですね?

PABLO:そうそうそう。舵取りをしなくていい。今までの僕は、95%くらい自分が舵を取るようなことしかやってこなかったんだけど、ここまでそれがゼロに近いというか、舵取りをしなくていい状態というのはほぼ初めてではあるんで、もうそれでいいというか。それが新鮮とか楽しめてるということ以上に、単純に京太郎のベースがカッコいいなと思ってるんで、それをカッコいいものとして伝えたいんです。自分の立場がどうっていうよりは、そっちが大きいんですよね。

──だからプロデューサー的視点というのともまた少し違う。ただ、舵取り役をずっと務めてきた人って、自分でハンドルを握らないと落ち着かなかったり気が済まなかったりすることがありそうなものだと思うんですよ。

PABLO:それはありがちですよね。でも、そうじゃないんです、ここでは。それはやっぱり、あっくんのソロの延長線上という流れがあったからでもあるはずだけど。まあ正直、やっぱ京太郎のベースが入るまで、ギターにはやることねえなと思ってたくらいなんで。京太郎のベースが入ることによって、初めて……。

来門:そこでバンド感がグッと上がったよね?

PABLO:そう。そこで初めて“ああ、ここではこんなギター弾いたらいいんだ”というのがやっとわかったというのがあるから。


──近年ありがちなのが、多弦ギターでしかもチューニングを下げることで低音が賄えてしまい、ベースの役割が見えにくくなるケース。それとは逆に、ここではベースが大活躍する音像のなかでギターがその後ろ盾に回れるというか。

PABLO:うん。そこに乗っかれる。そこで結果的にギターも映えるものにしてくれてる、という感じが僕のなかにはあって。だから僕がそこでケミストリーとかっていうことを考えることよりも、京太郎にライヴでどういいベースを弾いてもらうかとか、来門の言葉をどうやってお客さんに届けるかってことを、ギター以外のところで考えてサポートできるっていう考え方のほうが、今の僕にはしっくりきてます。

──葛城さん、主役じゃないですか!

葛城京太郎:いやー……。ありがとうございます(笑)!!

PABLO:いやいや、こちらこそありがとうございます(笑)。一瞬の謙遜からの、全力の……。

来門:満更でもない感でしたね、今の京太郎の反応は(笑)。

葛城京太郎:僕としては、自分が入らせてもらう前の音源を聴かせてもらった時に、これはもう60点ぐらいのベースを弾くわけにいかないな、と思って。そこで遠慮がちに “ベースだったらこうですかねえ”みたいなのじゃなくて“これしかないでしょ!”っていう120%、200%のベースじゃないとまず太刀打ちできないし、それくらいのものを出さないと……。それに、それくらいのものが引っ張り出されるというか、引き出してもらえるものがあったというか。それぞれが100%というよりも、5人で500%という状態になれてる感じが僕はしてて。すでに皆さんが何周か走ってて流れができてるところに、途中から飛び乗るような感じで僕は参加したわけですけど、イメージとしては、徳川家康と討幕する、みたいな感じで。

全員:…………?

来門:何? どういうこと?

葛城京太郎:みんなが築いてきたもの、築いてきたバンドシーンから、まったく新しい音楽、全部ぶっ壊すような新しいものを作ろうとしてて、そこに参加させてもらってるという感覚なんです。そういうことを言いたかったんですけど。


PABLO:そこで徳川家康がどうしたの?

葛城京太郎:幕末に徳川家康が来た、みたいな?

PABLO:幕末に徳川家康が現れて世を専制、みたいなこと?

葛城京太郎:ちょっとそこまで考えてなかったですね……(笑)。

金子ノブアキ:ははは! “言ってみた主義”というか(笑)。

PABLO:このバンド、賑やかでしょ? マジうるさいですよ、ホントに。

草間敬:……織田信長のほうが好きかな、僕は。

葛城京太郎:ああ、わかります。

来門:でも結構、乱世に戻りますね。幕末には。

葛城京太郎:僕としてはそんなイメージですね。皆さんが築いてきたものを自らぶっ壊そうとしてる、みたいな。その段階から僕は参加させてもらってるというか。

──これまで築き上げてきたものをぶっ壊すほどのものを作るためには、すべての要素のグレードを上げるだけではなく、やっぱり真新しい何かが必要ということになるわけですよね。

金子ノブアキ:そういうことです。

PABLO:まさにそうだと思う。ただ、今の話を聞いててやっぱり合点がいったというか。60点のものじゃ駄目、自分自身が200%を目指さなくちゃ駄目だっていう京太郎の言葉は、間違いなく彼のベースにそのまんま反映されてるし、それがわかってるから僕もそう思えるわけであって。ある種、すべての流れを無視して“俺はこれがカッコいいと思ったからこう弾く!”みたいなところで柱になれてるというのは、彼のそういう気持ちがあるからこそなんだろうな、と合点がいくわけです。討幕の喩えはよく意味がわからないけども(笑)。

──そんな状態のなかにあって、これはRED ORCAに限ったことではないと思うんですが、マニピュレーターである草間さんの役割というのは音の交通整理というようなことになってくるはずですよね。RED ORCAならではの関与のあり方の違いというようなものは何かあるんでしょうか?

草間敬:そこについては、僕はソロの時からの延長線上で考えてるんですけど、やっぱり、あっくんがイメージしてきたものとか、そういうのって今までのラウド系とかそういったものを飛び越えてるような世界でもあって。すごく音楽的なところで言うと僕は元々、ジャズとかが大好きだったんで、そういった世界の方法論とかを組み合わせていったりしてるところもあるんです。で、そこに結構みんな共感してくれた。だから「beast test」とかで使ってるコード進行なんかも、あんまり他のバンドではないものになっていて。で、京太郎君もやっぱり新しい提案をしてくれるし、それによってさらに拡がってる感じはありますね。



PABLO:ある意味、それぞれの音すべてが草間さんを通って完成するので。来門が歌を録れば、草間さんがそのデータを管理して送ってくる。あっくんがドラムを録ったら草間さんを経由して僕のところに来るし、僕がギターを録ればそれも草間さんを経由してみんなに届けられる。だから、すべての道は草間敬に通ず、じゃないけども(笑)、そういう感じがこのバンドにはあるんです。

金子ノブアキ:草間さんは灯台、管制塔だよね。

PABLO:なんだか討幕って言葉が出た以降、喩え話ばかりになってるけども。

葛城京太郎:比喩フィーバーですね(笑)。

──それはともかく、聴きどころが多いというか、暴れてる要素も多いはずなのに、意外なくらい聴きやすいところがあると思うんです。誤解を恐れずに言うと、変にガチャガチャとうるさい感じにはなっていない。それは灯台の存在ゆえなのかな、と思います。

金子ノブアキ:うん、そうですね。

PABLO:確かにそれはあると思う。


──ともすればお互い衝突するし、そのぶつかり合いが面白いということにもなるかもしれませんけど、むしろここには機能美があるというか。

葛城京太郎:さっき来門さんが言ってた“全員がリズムで重なってる”という話とかって、言語を共有してるってことだと思うんです。その同じ言語を喋ってるなかで、草間さんクオリティを経て音が構築されていくというか。プレイ自体は皆さん結構、弾かないところはホント弾かないから隙間もあるし、そこで草間さんの灯台が導いてくれて……。でもなんか、喋ってる言語はみんな一緒だから、そこでワチャッとなるような過程は経てないイメージではあるんです。弾かないっていう美学を良いプレイヤーって持ってるものじゃないですか。皆さんそういうものを持っているので。

金子ノブアキ:綺麗にまとめようとはしてないし、基本的には楽しんでるだけなんですけどね。その結果でしかない、というか。

来門:あっくんの作ってくるトラックが、もう突拍子もなさ過ぎて、全力で楽しんでる感がめちゃくちゃあるんですよ。「Phantom Skate」って曲があるんですけど、夜中の3時ぐらいに「できたよ!」ってそれが送られてきて。ツービートがスタスタっていうパンクの後で4つ打ちのめちゃくちゃお洒落な展開になって、最後はまたツービートに戻してぐっちゃぐちゃにして終わる。それを聴いて、“めちゃくちゃだな、この人”と思って(笑)。そういうパンク感みたいなのもすごく好きなんです。荒れてんなーって感じが(笑)。

金子ノブアキ:「あんた何考えてんだ!」って返信をくれたもんね。

来門:俺、寝ようとしてた時にそのトラックが来て、目え覚めちゃって。“どういうことだよ、これ?”って思って。

金子ノブアキ:理想的なリアクションでしたね(笑)。でもまあ、来門と京ちゃんがいなかったら、あんなトラックできないですよ。

PABLO:形にならないよね。

──トラックを作っていくうえでの最初の発信源は金子さんなんですよね?

金子ノブアキ:そうではあるんだけど、やっぱり相手ありきじゃないですか。この人たちがいるわけだから、もう絶対面白いことになるよって。で、やっぱり歌を録れば最高だし、ベースも最高だし。

──それこそ来門さんとしても、そこに60点のラップを乗せるわけにはいかなくなってくる。

来門:そうですね。

金子ノブアキ:しかもみんな、楽しめてるんですよ。だからレコーディングとかやってても、ホントにずーっと爆笑してるし。ずーっとくだらない話をしてるんだけどカッコいいのができてる、という。

──音源制作については、それぞれが自宅などで作業してそれをまとめていく形が近年は主流じゃないですか。このバンドの場合もそうですか?

金子ノブアキ:録音はパラ(個別)ですね。こんなにもカタマリみたいな音になってるけど。そこは途中でライヴをやったりしたことも大きかったと思う。途中からは、全員でやってるところを想像しながらできたしね。あとはまあ物理的というか時間的な理由からそういう録り方になるわけですけど、みんなやっぱ早いんで。京ちゃんとか1日で6曲ぐらいベース録ってたし。

来門:あっくんも1日で8曲くらい、しかも4時間くらいで録っちゃったと言ってて。“めちゃくちゃだな、金子ノブアキは”って思った(笑)。ほぼ一発録りだしね。

金子ノブアキ:時給が稼げない。実働時間が短いから(笑)。

草間敬:歩合制じゃないとまずいね(笑)。

金子ノブアキ:うん。でも実際、ライヴ感はありましたね、作ってる過程でも。それは逆算ができてるからだと思う。完成図が描けていて、そこから引いていく。良いものってだいたいそういうもんだと思う。絵でも、写真でも、映像でも。逆算できてる時は絶対に良くなりますね。逆に完成図が描けないまま迷っちゃうと、変に足したりしちゃうことがあるんだけど、そういうことにはなってないから。

──制作中、同じスタジオに全員が集まるというようなことは?

金子ノブアキ:それはなかったですね。

来門:ライヴのリハの時だけですね。

金子ノブアキ:こういうやり方って15年前とかにはあり得なかったものだけど、テクノロジー使ってても楽しいですしね。単純に楽しいんですよ、そうやって作るのとかも。ラップトップで作るのも楽しいし、スタジオで演奏するのも楽しいし、それをライヴでやるのはもっと楽しいし。

──そういうやり方しか知らないわけではない人たちが、他のメンバーたちのことを想像しながらやれているからこそ、そうなり得るんでしょうね。

金子ノブアキ:まあ動物的な部分というのが絶対的にあったうえで、そういう形でやれてるのがデカいのかな。それは僕が今までやってきたことの、ある種、総決算というか。この何年かの間に、草間塾に入って教えてもらったことの集大成でもある(笑)。この4~5年でだいぶ僕も自分のシステムを使えるようになったんで。

来門:俺は逆に全然、システム持ってないんですね。TASCAMの8チャンのMTRぐらいしかない。草間さん、今度俺の機材も見てください。

PABLO:まさかカセットテープのMTRじゃないよね?

来門:いやいや、CDのやつ。

葛城京太郎:僕はずっとTASCAMのSDカードのやつ使ってました。

来門:俺はそれを抱えながらスタジオに行くっていうありさまなんで。でもiPhoneにGarageBandが入ってるから、それで練習できるようにはなったんですけど。あ、なんか話が逸れちゃった(笑)。

──それぞれに草間塾でそうした知識もアップデートされていくことになるわけですね。しかし草間さんとしては、企業秘密的な領域というのもあるんじゃないですか?

草間敬:いや、ないです。なんか使ってナンボのものだし、出してくる音は千差万別なんで。逆にみんなでいろいろ作れるようになったほうがいいですからね。

▲RED ORCA/『WILD TOKYO』

──言語の種類がさらに増えることになるわけですね。そしてこの先、4月にはライヴが控えているわけですけど、やっぱりワンマンとなると気持ちというか、やりたいことも変わってくるんじゃないかと思うんですが。

金子ノブアキ:やっぱり、お客さんが曲を知ってるうえでやるライヴというのは、もう全然違うんですよね。そこから曲が育っていくんです。お客さんが曲を知ってて、ここでこう来るぞ、というのがわかってて身構えてるところを先回りして、こちらはさらにプッシュしていく。そういうことが起きてくるとホントに奇跡的なくらいのことが起こる瞬間があるんですよね。僕には人生の経験のなかで、それを上回るものがないんですよ。やっぱりライヴが世界で最高の場所。ステージとフロアで起こることが。だから4月がむちゃくちゃ楽しみでしかないんですけど、あとはもう新型コロナウィルス問題の収束を願うばかりですね。こんな時代ですけど、やっぱりいい未来に繋げていかなきゃいけないし。

──その問題は無視できませんけど、もちろん今は無事にできることだけをイメージしながら。

金子ノブアキ:当然やることしかイメージしてないし、実際やるつもりでいるから。でもライヴはホントにそうですよ。そこでの相互作用が生まれてくるってことが、また次の流れが始まる。そこから2、3枚と作品が増えていくとさらに柔軟になるっていくし。

──このバンドが継続的なものであることが今の一言でさらっと認められましたね。

金子ノブアキ:もうワンマンに向けて新曲を用意してたりもするくらいなんで。新曲がないと単純に尺が足りないというのもあるんだけど(笑)。そういう意味ではすごくいいペースではあるし、僕も止まらない状態にあるというか、確実にそういうゾーンに入らせてもらってるから。だからやっぱりありがたいよな、と思うんです。これはもう、恵みでしかないというか。

来門:なんか、大事なことは全部あっくんに言われちゃいましたね(笑)。でも実際、みんなで踊れるんだけどモッシュもできるようなライヴが、うちらにはできると思うんで。なんか、物事を発動することは簡単だと思うんですよ。大切なのはそれを継続させていって、それを育てていくってことだと思うから。俺も、あっくんとの出会いは古いけど、みんなとこうして同じ船に乗ってようやく1年。みんなでもっともっと同じ現場を体験していって信頼感がさらに増した時に生まれるものというのもあると思うんで。そういうところを大切にして、みんなで騒げればいいですよね。この国を元気づけられればいいな、と。(ここでいきなり声を大にして)この国というか、この世界を!

葛城京太郎:そうだ!

PABLO:また騒々しくなってきた(笑)。

草間敬:まあでも、楽しく進めたいというか、エンターテインメントという部分もここではすごく重要視してるところだし、特にワンマンではそこも大事になってくると思うんで。実際に何をやるのかは、僕の口からは言えないですけど(笑)。

葛城京太郎:なんか皆さんのキャラクターとか性格が、このバンドをRED ORCAたらしめてると思うんですね。いつも楽屋でも最高に楽しいし、常にこの場のこういう雰囲気のままなんです。

来門:下手したらステージでもこの感じになっちゃう(笑)。

葛城京太郎:こうしてメンバーと一緒にいる時間というのもすごい宝物だし、そういう前向きなヴァイブスをライヴで出せたらな、と思うんで。なんか、どんどんドラマができてくるのが嬉しいです。ストーリーができていくのが。

PABLO:それがバンドだからね。

葛城京太郎:しかも初バンドなんで、自分にはRED ORCAが。ここでみんなと築いていけるのが嬉しくて。

──ここから始められるというのもすごい話ですよね。

葛城京太郎:もう、大贅沢ですよ。

PABLO:僕らは踏み台にされるんだと思いますよ(笑)。

葛城京太郎:いや、一緒に行きましょうよ(笑)。

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