【インタビュー】ファンキー加藤、「古いと言われようが、オンボロと言われようが、続けていくしかない」

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ファンキー加藤が4月1日に4thアルバム『F』を発売する。

◆撮り下ろし画像(14枚)

2年ぶりのアルバムとなる本作は、まさに“ファンキー加藤”らしさの詰まったものに仕上がっている。先行してミュージックビデオが公開されている表題曲「終われない歌」に代表されるように、ファンキー加藤が生身でぶつかってくるような楽曲が揃っている。

素直に気持ちを表現するアルバムだと言えるが、『F』を制作するにあたってファンキー加藤にはどのような思いがあったのだろうか。それを探るために実施した今回のインタビューでも、ファンキー加藤は着飾ることなくありのままの言葉で語ってくれた。なお、そのありのままの姿を捉えたインタビューカットもたっぷり公開、併せてチェックを。

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■“ファンキー加藤らしくあろう”という思いに火が点いた

──新しいアルバムの制作はいつ頃から、どんなふうに始まったのでしょう?

ファンキー加藤:制作に入ったのは、去年の秋くらいでした。去年の8月31日に<OUR MIC FES>という僕が初めて主催したイベントがあって、そこに注いだ労力がすごかったんですよ。新木場STUDIO COASTにステージを4つ組んで、アーティスト21組を迎え入れるというのは本当に大変なことだった。なので、しばらくは<OUR MIC FES>に集中していて、それが無事に成功して終わって、それから新しいアルバム作りというか、次のステージに向けて歩き始めましょうということになりました。

──イベントをやり遂げた後、休むことなく次のアクションを起こされたんですね。では、アルバムを作るにあたってテーマや構想などはありましたか?

ファンキー加藤:そういったものは、特になかったです。制作を進めていく中で方向性とか、アルバムの全体像とかが徐々に見えてくるだろうなというのがあって、最初のうちは特に考えていなかった。ただ、あまり長ったらしいアルバムにはしたくないというのはありましたね。サブスクがメインの今の時代にちゃんとフィットした楽曲であり、アルバムでありたいと思っていたんです。


──昨今そこは押さえておきたいポイントですよね。

ファンキー加藤:それに、最近はアルバムという盤をリリースさせてもらえることが当たり前ではなくなってきたというのがあって。それこそ10年前とかは1年にシングルを3枚くらい出して、アルバムを切って、ツアーをするというのがルーティンとしてあったけど、今の時代はそれが当たり前ではなくなってきている。そういう中で、2年ぶりのアルバムをリリースできるというのは僕の中ですごく大きな喜びがあって、今まで以上に丁寧に作り込んでいきました。だから1曲1曲にかける時間や労力は、これまでとはちょっと違っていましたね。今回の『F』は、そういう作り方をしたアルバムです。

──たしかに、1曲1曲がより立った作品になっています。それに、爽やかかつキャッチーな楽曲が揃っていて、加藤さんの王道の最新形という印象を受けました。

ファンキー加藤:そこに関しては<OUR MIC FES>の影響がデカかったですね。あのフェスの出演者は、ほとんどが後輩だったんですよ。1人だけSEAMOさんが先輩でいたけど、あとは同期と後輩ばかりだった。後輩ミュージシャン達の純粋に上を目指していく姿勢だったりライブのMCだったりが、すごく僕の胸に響いたというか、尻を叩かれた感覚があったんですよね。いろんなジャンル、いろんなスタイルがある中で、自分は“ファンキー加藤らしくあろう”という思いに火が点いたんです。

──『F』は歌詞の面でも“自分らしくあれ”ということがテーマのひとつになっていますね。それも、開き直りや仕方がないからといった後ろ向きな視点ではなくて、前向きな自己肯定を歌った歌詞が並んでいます。

ファンキー加藤:最初は、後ろ向きになっていた時もありました。去年の年末に事務所の社長と2人だけでご飯を食べる機会があって、僕はそこで弱音を吐いたんですよ。「最近はオシャレで、カッコいい新人が出てきていますよね。彼らは本当にカッコよくて、そりゃあ若い子に支持されますよね。そんな彼らに対して、俺はオールドスクールですよね」と。そうしたら社長は慰めてもくれもせず、「うん、お前はオールドスクールだ」と言ったんですよ(笑)。


──な、なるほど……。

ファンキー加藤:それで、“ああ、慰めてもくれないし、否定もしないんだ。普通に肯定したぞ”みたいな(笑)。でも「じゃあ、お前はどうするの? 音楽やめる?」と言われて、「いや、やめないです」と答えて。「歌いたいの? 歌いたくないの?」「歌いたいです」「バンド組むの?」「いや、そういう気持ちはないです」「だろ? だったら、ファンキー加藤を貫き通すしかないじゃん」と言われたんです。古いと言われようが、オンボロと言われようが、続けていくしかないだろうと。僕は明るくて、前向きな男だと思われているみたいだけど、実はちょっと後ろ向きというか、ネガティブなところがあったりするんですよ。そういう中で、どうしようもない自分達を拾ってくれた人生の恩人である社長の一言というのは大きくて、ファンキー加藤を貫こうと思った。そこからは、もう迷うことはなかったです。

──アルバムを聴いて、加藤さんの“俺はこれしかできないし、古びている音楽かもしれない。でも、こういう音楽は本当にいいと思うんだ”という気持ちが感じられて、そこでも前向きな気持ちになれました。

ファンキー加藤:さっき話したように最近はオシャレなシティポップやカッコいいヒップホップとかが沢山あって、自分もリスナーとして純粋にいいなと思うんですよ。でも、やっぱり自分はずっとやってきているエールを込めたJ-POPが好きだなと作りながら思ったんです。だったらグラついて変化球でかわしたりせずに、ストレートで勝負しようという気持ちになりました。

──それがいい結果につながりましたね。もうひとつ、楽曲は明るくて、爽やかでいながら、歌詞に自身の弱さや葛藤、落ち込んだ気持ちなどを包み隠さず書いていることも印象的です。

ファンキー加藤:それも社長の言葉が大きかったですね。さらけ出しちゃいなよと言われたんです。年末に食事をしてから少し経ったときに、「そういえば、この間俺に弱音を吐いていたじゃん。そういうのも全部歌詞にしちゃえば? お前の話は、俺にとって面白かったよ」と言われて、なるほどと思ったんです。


──自身の内面をさらけ出すことに、怖さや抵抗感はなかったですか?

ファンキー加藤:それは、曲だからできたことかな。加藤俊介の弱さを、ファンキー加藤に託したというか。自分の内面をTwitterとかブログとかに何のフィルターもなくさらけ出すのは正直嫌だし、怖い。でもそこはやっぱり音楽のすごいところで、内面の弱さだったり、普段言えない両親への感謝の言葉、恥ずかしくて口に出せない大切な人への想いといったことも込めることができる。音楽だから、ファンキー加藤だから、というところを活かして自分の内面もさらけ出しました。

──その結果、より響く音楽になっていますし、加藤さんの曲を歌うことで、普段は言えないことを誰かに伝えられるリスナーが沢山いると思います。

ファンキー加藤:そう言ってもらえると嬉しいです。歌詞を書いているときは、本当に泣きそうになったんですよ。それくらいツラいことではあった。「終われない歌」の“「最近調子どう?」と聞かれても うまく返せないよ”という歌詞を書いているときとかも、実際そうなんだよなと思ったし。でも1曲を通してネガティブなことを歌うわけではなくて、必ずサビでそれを引っ繰り返す歌詞になっているから。そういうことを表現できるのも音楽の素晴らしいところですよね。ツラい日々の中でも“夢を見ようぜ、明るく笑って暮らそうぜ”と歌うことができて、そう歌うことで気持ちを上げられるのが音楽のいいところだと思います。

──同感ですし、リアルな加藤さんに触れられることも本作の大きな魅力になっています。リアルといえば、八王子愛の強い加藤さんにふさわしく、『F』には地元で過ごした青春時代を描いた「八王子キッド」という曲も収録されてますね。

ファンキー加藤:「八王子キッド」は、かなり赤裸々というか。音楽仲間と過ごした20才の頃の思い出を、そのまま書きました。歌詞を書きながらいろんなことを思い出して、懐かしい気持ちになりましたね。


──“バンドマンあるある”の歌詞という意味でも楽しめます。そういえば、加藤さんは昨年の12月16日、17日に、台風19号の復興支援チャリティーイベント<八王子エイド>も主催されていましたよね。

ファンキー加藤:はい。八王子は災害に強い街という印象があったし、実際に多摩地区は、地盤が硬いことで有名なんです。東日本大震災のときも都心部が“グワッ”と揺れたのに対して、僕の八王子の実家は写真立てが1個倒れたくらいだった。それくらい地盤が強固だし、八王子でひどい災害を受けたというのはあまり聞いたことがなかったんです。だけど、台風19号のときは浅川という八王子の真ん中を流れている河が氾濫するギリギリの水量になったし、幹線道路の橋が落ちたり、高尾のほうの川が氾濫して町中が土砂や汚物まみれになってしまったりしたんです。ニュースには自分が生まれ育った場所が被災している映像がバンバン流れるわけですよ。マンホールから水が噴き出ているのも八王子だったし、道路が川のようになっていますというのが高尾駅だったりした。八王子は災害とは無縁という印象があったから、もうビックリしてしまって。それで、事務所のスタッフに何かやれることはないかなと相談して、八王子の仲良くさせてもらっているライブハウスの店長さんとお話しさせてもらって、チャリティーイベントをすることにしました。ミュージシャンで一番最初に声をかけたのは誰だったかな……多分KICK THE CAN CREWのLITTLE君だったと思う。そこからどんどん輪を広げていって、みんな無償でライブをすることを快諾してくれました。

──八王子は地元愛が強い方が多いですよね。

ファンキー加藤:そうなんですよ。地元愛が異常に強い(笑)。それに<OUR MIC FES>もそうだったけど、<八王子エイド>では同じ志を持ったミュージシャンが集まるとこんなにすごいパワーが生まれるんだということを肌で感じました。<OUR MIC FES>は同じようなスタイルでがんばっている人達が集まって、最終的にはすごいエネルギーが生まれたんですよ。<八王子エイド>はより濃密に同じ思いを共有できる場だったから、どのアーティストのステージもすごかった。ニューロティカさんもさすがだなと思ったし、後輩のフラチナリズムも最高にカッコよかったし、もちろんLITTLE君もタイトなラップでカッコよかったし、モン吉も燃えていたし。全員が全員、地元への愛だとか来てくれた人への感謝の思いとかが見事に爆発したイベントだった。義援金も無事八王子市と日本赤十字社に届けられましたし、やって本当に良かったなと思いますね。

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