【現地レポート】ベルリン流ミュージシャンのコロナ危機の乗り越え方

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先日、ベルリン音楽シーンのコロナ危機(https://www.barks.jp/news/?id=1000180441)について寄稿させていただいた。その後のベルリン音楽シーンについてレポートする。

コロナ危機下のドイツで起こった出来事は全て暗いニュース、というわけではなかった。
・3月11日 モニカ・グリュッタース文化大臣は「フリーランスの芸術家への無制限の支援」を言明。
・3月18日 歴史に残るアンゲラ・メルケル首相の演説で「フリーランサーも含めた全ての人がこの危機を乗り越えられるように、必要なものをすべて投入する」と彼女は国民に約束。
・3月25日 総額7500億ユーロの助成金・援助金パッケージがドイツ連邦議会で承認。モニカ・グリュッタース文化大臣は「アーティストは今、生命維持に必要不可欠な存在」と断言。
・3月27日 インターネットで助成金/援助金申請受付が開始。

50万人以上(3月30日時点の自分の受付番号より推定。今はもっと多いはず)のフリーランサーが殺到したため、何度かシステムダウンが発生しているが、申請後1~3日で、申請者の銀行口座に返却不要の助成金として5千ユーロ(約60万円)が振り込まれる。オプションとして無利子の援助金も加えて支給可能だ。

Webページで手続きは完結。個人情報、納税者番号など、必要最小限な情報を入力するだけ。日本の中小企業援助金申請のように膨大な書類の準備、判子は不要。この首相の約束どおりのスピーディーな対応に、多くのミュージシャン/アーティストは驚きを隠せなかった。Twitterには「申請した翌日には振り込まれていた」「ドイツは私たちアーティストを必要としてくれている。嬉しい」などの書き込みがなされた。

不幸な失業を一時的に凌ぐことができたドイツのミュージシャンたちではあるが、ライブ活動は不可能、3人以上の集会は禁止というロックダウン状況は依然として続いている。そんな状況のなかで、インターネット上で様々な試みが行われている。

まずロックダウン後のFacebookなどのSNSで多く見られたのは、「#StayHome」のハッシュタグで投稿されたミュージシャンの自撮り動画。コロナ危機に関する新曲を発表するシンガーソングライターの動画がいくつか投稿された。そして、週末には自宅、あるいは閉鎖されたライブハウス/バーからの無観客ライブ配信。3人以上の集会が禁止されているので、バンドは2人だけの少人数編成での演奏が多い。

ベルリン出身のパンクバンド、ディ・エルツテ(Die Ärzte)は自宅待機中の3人のメンバーの自撮り3動画をミックスするリモート・セッション・ビデオを発表した。その後、ベルリンの様々なジャンルのミュージシャン間で、この手法(まず1ミュージシャンが基礎トラックを録音、録画して他のメンバーに送付、他のミュージシャンはそれを聴きながら演奏して録音、録画して、最後に取りまとめて全てをミキシングする)が流行り始めている。もちろん、実際に「濃厚接触」で演奏するアンサンブルの喜びは味わえないが、ベルリンのミュージシャンたちは”StayHome”擬似セッションを楽しんでいる。


そのほか、ライブ活動による収益に変わる収益源を見つけようと、YouTubeにて「#FollowYouFollowMe」運動を行なっているミュージシャンたちもいる。YouTubeでフォロワー1000人を突破すると、収益化が可能なため、失業したミュージシャン同士でフォローしあって、1000フォロワーを実現しようとするものである。だが、「そもそも音楽の嗜好って、とても個人の繊細な部分にあるものなのに、自分の好みでもないものを義務感でフォローするってどうなんだろう?」と筆者は違和感を感じてしまう。実際、1000フォロワーをこの運動で達成した知らせを筆者はまだ聞いていない。

そんなミュージシャンたちの試みのなか、ベルリンのホラー・パンク・バンド、サーカス・ラプソディ(Circus Rhapsody)の試みは面白い。このバンドはドイツの数多くのパンクバンドとコネクションを持っているのだが、自分たちの楽曲では無く、知り合いの別のバンドの曲を演奏、自撮りして、お互いにトリビュートし合おう、という試み。ハッシュタグ「#Quarantänesession」、「#SingMeinLiedMeinLieberFreund」(ドイツ語)、あるいは「#quarantinesession」、「#singmysongmydearfriend」(英語)などでドイツのパンクバンドのメンバーから様々な自撮り演奏動画が投稿されている。この試みを始めた、サーカス・ラプソディのメイン・ヴォーカルとベースを担当するミヒャエル・マルテンス・シュタイン(Michael Martens-Stein)に話を聞いた。

「現在、SNSを利用することはミュージシャンとして必須ですが、(コロナ危機のため)コンサートがキャンセルされたとか、悪いニュースばかりになってます。悪い情報を見るよりも、ファンはお気に入りのミュージシャンから、クリエイティヴなアウトプットを、絶対求めていると思います。

コロナ危機は私たちのバンド活動、コンサート活動を強制的に中断させた。でも、その中断時間を、もっと自分自身の音楽に向き合うために、自分が一緒に演奏してきたミュージシャンたちのことを考え敬意を表するために、ポジティヴに使うこともできると思いました。すぐに他のミュージシャンたちから反応がありました。簡単に新しいクリエイティヴな試みが出来ているのが、嬉しいです」

しかし、日本の状況と同じく、閉鎖中のコンサート会場について、ミヒャエルは心配する。閉鎖期間中の家賃は助成金で何とかなる額ではない。

「コロナ危機のあと、コンサート会場が存続しているかどうか…多くのバーやクラブが閉鎖中の家賃のやりくりで悩んでいるので、寄付呼びかけを音楽雑誌と一緒に行なっています。コンサート会場存続のためのストリームライブを配信したり、BandcampやiTunesなどでの収益も直接寄付しています」

コロナ危機に対するベルリンのミュージシャンたちの闘いは続く。

文:Masataka Koduka


◆3/11 ドイツ文化大臣「フリーランスの芸術家への無制限の支援」を言明
◆ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」大規模支援
◆CircusRhapsody(Facebook)
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