【インタビュー】葉月(lynch.)、ライブハウス支援企画への想いを語る 収録曲も決定

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lynch.のフロントマンである葉月。彼がツイッター上にて、<#ライブハウスを守ろう>というハッシュタグとともにひとつの意思表明をしたのは去る3月30日のこと。新型コロナウィルスの猛威により数多くのライブハウスが営業不能な状況に追い込まれ、それ自体が好ましくない場所であるかのごとく取り沙汰される理不尽な風潮が強まるなか、彼らは新曲を作って販売し、その収益全額を各ライブハウスに分配・寄付するとの決意を下したのだった。以下は同日に彼が発信したメッセージの要約である。

「今回この騒動を受けて、何かできることはないかと考え、ひとつ行動を起こすことにしました。まず今、新曲を作っています。その曲は完成次第、すぐに販売します。そしてその利益すべてを、lynch.が今までに出演したすべてのライブハウスに寄付します。販売形態や利益の分配方法等は現在、事務所、レコード会社と協議中です。詳細は決まり次第、発表します。ファンの人はもちろん、そうではない人も、ライブハウスに救われた皆さん、どうか力を貸してください。僕たちの大切な場所を、守ろう」

その3日後にあたる4月2日、葉月に話を聞いた。もちろん取材活動は“不要不急の外出”にはカウントされないはずだが、この状況を鑑み、今回のインタビューは電話を通じて実施することになった。取材当日までのわずかな時間経過の間にも変化はあり、筆者の手元にはごく初期段階のものと思われるデモ音源が送られてきていた。一言も歌詞の載っていないその曲には“DON’T GIVE UP”というタイトルが冠せられていた。この記事が読者の目に届く頃には、それからさらに1週間以上が経過しているわけだが、今回はあくまでその時点での彼の想いをお届けしようと思う。その後の作業の進行状況などについては引き続き彼自身がツイッター等を通じて発信しているはずだが、これがまさしく、この楽曲誕生に伴う初の公式インタビューということになる。

#ライブハウスを守ろう

――さっそく話を聞かせてください。同じ国内にいながらの電話インタビューというのもなかなか不思議な感覚ではありますが。

葉月:ですよね。なんか外タレ気分な感じで(笑)。

――まず3月30日にツイッター上で最初の情報発信がありました。当然ながらそこに至るまでに話し合いの機会などを経ていたわけですよね?

葉月:そうですね。金曜日(3月27日)のお昼に、たまたまスタッフと2人で会うタイミングがあって、そこで当然のように「思ってた以上にコロナ、ヤバいですね」「こんなことになるなんて思ってもみなかったですよね」みたいなやり取りになって、「そろそろコロナに対する曲でも作るか」みたいな話が出てきて。というのも今、基本的に暇なんで(笑)。

――そ、そんな(笑)。とはいえ実際、ライブができない状況ではあるわけですもんね。

葉月:ええ。どんどんスケジュールが飛んでっちゃってて。他にやるべきこともないし、だったら今しか作れないような曲でも作ろうか、と。そこで、その売り上げを医療対策とかマスク配布のために役立ててもらうことはできるのか、という話になったんですね。ただ、それならば僕らとしては、もっと身近なところにあるライブハウスのために何かできないものか、と。実はそういう言葉が、スタッフの口から出てきたんですよ。そこでピンときて、こういった動きをすることにしたんです。新曲をひとつ作ってレコーディングするぐらいならたいして労力もかからないし、曲のアイデアがまったくないわけでもなかったんで。

――新作の『ULTIMA』が3月に出たばかりですけど、あのアルバム完成後、空っぽの状態にはなっていなかったということですね?

葉月:そうなんです。次に作るのはこんな感じかな、というのは頭のなかにあったんで。じゃあそれを形にして収益を全額寄付というふうに動けば……。僕らだけがそういうことをしても厳しいですけど、「ああ、そういうやり方もあるよな」って他のアーティストたちが気付いてくれればいいかな、とも思って。たとえば僕の場合、今は<#ライブハウスを守ろう>ってハッシュタグを付けてツイートしたりしてますけど、全然その流れだけにこだわる必要はないわけだし。

――ひとつの流れだけじゃなく、同じような目的のためにさまざまな動きがあっていいはずだ、ということですよね?

葉月:うん。それによって結果、ライブハウスが助かる方向に物事が進んでいけばいいと思うし、当然、僕ら自身も助かることになるわけなんで。この事態が終息してライブがやれるようになった時に会場がないなんてことになったら、どうしようもないじゃないですか。

――確かに。lynch.の場合、まず3月中に組まれていた3公演がキャンセルになりました。そして次のツアーは4月18日に始まることになっていたわけですが……

葉月:4月のスケジュールは全部、飛びました。5月以降の日程についても、すべて飛んでしまい兼ねないという覚悟はしてます。ただ、もちろんツアーに向けての準備はしていて、今、まさに他のメンバーたちはリハーサルに入ってるんですよ。だから、いつでもライブ活動を再開できる状態ではあるんです。


――そうして準備を整えつつあるなか、敢えてこうして新たな制作に取り組むことにした、というわけですね。正直なところ、決断するにあたって周囲からの雑音は気になりませんでしたか? あまりこういう言い方はしたくありませんが、こうした行動についてはいろいろな見方をする人がいるものです。どんな事態になろうと黙って何もせずに待つことがいちばん賢明だ、という判断をする人もいるでしょうし。

葉月:そうですよね。でも、そこで何もせずに状況が落ち着くのを待っていたくはなかったし、幸いにもバッシングみたいなものは今のところないみたいで(笑)。実際、あのツイートには何千ものリプライをいただきましたけど、ちょっとネガティヴな感じなのはそのうち二件くらいだったかな(笑)。そういうのを気にしてたら、何も始められないし。確かに僕らには驚異的な数のコア・ファンがいるわけじゃないし、あくまで仲間意識みたいなもので繋がれた狭い世界での話ではあるんです。でも、そこにいる人たちの賛同がすぐさま得られたことが僕としては何より嬉しかったし、雑音みたいなものは恐れるまでもないというか、気にしたくないというか(笑)。実際問題、どういう形でのリリースになるかについてはまだ完全にはプランが固まってないんですけど、僕としてはとにかく「lynch.としてこういうことをやるよ!」というのを早く発表したかったんです。そこでみんなに、ちょっとでも希望を持ってもらえたらいいな、と。しかも曲ができる前の段階からそうやって告知することで、ここから先の過程が面白くなっていくんじゃないかと思ったんです。「おお、デモが上がったな!」とか「いよいよレコーディングに入ったんだな!」とか、そういう過程も一緒に楽しんで、テンションを上げていけたらいいな、というのもあったんで。

――なるほど。実際にリリースされるまでのプロセスについて逐一発信していくことで、進行形のドキュメンタリーとして楽しめるというか。

葉月:そうですね。そうやって、みんなを巻き込んでいきたかったんで、とにかく早く発表したかった。ただ、それでも心を決めてから発表まで、3日くらい待たなきゃならなかったんですけどね(笑)。

――その3日間、さぞかし焦れったかったことでしょう(笑)。そして、さきほどの発言にもありましたけど、これはlynch.だけの話ではなく、「みんなも何かやってみては?」という呼びかけでもある、というのも重要なところだと思います。

葉月:うん。僕らだけでは寄付できる収益も微々たるものでしかないし。賛同してくれる人たち、何か行動を起こそうとする人たちが増えて欲しいですね。

――実際、協力したいという申し出がすでに届き始めているそうじゃないですか。

葉月:そうなんですよ。エンジニアとか、カメラマンとか、レコーディング・スタジオの方とか。皆さん「無料で携わらせてくれ!」と言ってくださっていて。ホントにありがたいことですよね。アーティストからも何人か申し出がありました。ただ、今回は制作現場が名古屋になるんで、それが結果的にどうなるかはまだわからないんですけど。

――とはいえ今の世の中、ネット上でのデータのやり取りで済むこともあるわけですし。

葉月:そうですね。そういう形での誰かの参加、というのもあるかもしれない。まだ確定的なことは言えないですけど。

――そういったことも含め、実際に完成した曲を耳にするまでの間に、その曲自体がどう育っていくかがリアルタイムで発信されていくことになる。そして僕自身、さっそくこの取材をするうえでの役得ということで、デモを聴かせていただきました。ツイッターで公言していた通り、「みんながひとつになれるようなバラード」とかではなく、むしろその真逆の曲ですね!

葉月:ははは! こういう時って“ウィ・アー・ザ・ワールド”みたいな感じのほうがいいのかな、とも思ったんですけど(笑)。なんか、そういうものになりがちじゃないですか。だけどまあ僕らがやることなんだし、潔く、気持ちいいぐらい激しいやつで行こうかな、と。

――デモには“DON’T GIVE UP”というタイトルが付けられていました。当然ながら「諦めるな!」というメッセージの込められた歌詞になるわけですねよね?

葉月:そうですね。歌詞自体はまだ書いてないんですけど、そろそろ書かなきゃな、とは思っていて(笑)。今、いろんな意味で大変な状況にある人がたくさんいるはずですけど、そこでの共通語になるものというか、すべての人に向けて発信できる言葉としてはこれが一番じゃないかなと思えたし、ホントにパッと浮かんできたんです。いつもメッセージ性とは無縁のlynch.としては、めずらしいことなんですけど(笑)。普段はあんまり、歌詞を通じて言いたいことというのがないほうなんで。

――そんな葉月さんが敢えて声を上げたくなるような事態になっている、ということなんだと思います。で、今現在は、まさにこの曲に伴う作業を進めているわけですか?

葉月:リアルな話をすると、“DON’T GIVE UP”のデモが昨日上がったんで、今は別の曲に取り掛かってます。実は今回、これ1曲だけじゃなくてあと2曲入るんですよ。そのうちのひとつが“A GLEAM IN EYE”で、今はそっちのほうのデータを整理してました。

――再レコーディングするんですね? かなり形が変わることになろうですか?

葉月:いや、むしろ変わんないと思います。ただ、もう10年前の曲ですから、やっぱり今聴くと音質的にもちょっと寂しいものがあるんで。そこはかなり良くなると思いますけど、アレンジは一切変えないつもりですよ。この曲は発表してからずっと、ライブで重要な位置を占めてきた“強い光”を持つ曲なので、今回の騒動ですっかり暗くなってしまったファンの人たちの心に投げかけたくなったんです。そういう思い入れもあるので、なるべくそのままの形で録り直したいなと。

――曲の形は変えないまま2020年度版にアップデートする、というわけですね。そしてもう1曲は未発表曲ということになるんでしょうか?

葉月:ええ。元々『ULTIMA』に入れる予定だった悠介君の曲があって、それを入れることになりました。当初は“DON’T GIVE UP”だけでいいかなあと思ってたんですけど、悠介君から、1曲だけだと値段も安くせざるを得ないし、収益を上げにくいんじゃないかということで「僕のやつ、使いませんか?」という提案があって、なるほどな、と思わされて。それで、その曲と“A GLEAM IN EYE”を入れようということになったんです。

――1曲だけじゃなく、普通にシングルとして楽しめるものになるわけですね。今後、どんな過程を経ながらその3曲が完成していくのかに注目していきたいと思います。ところで葉月さんはツイッター上でのメッセージのなかで「ライブハウスに救われた皆さん」という呼び掛け方をしていましたけど、葉月さん自身にもライブハウスに救われたという感覚があるんでしょうか?

葉月:正直、「十代の頃、ライブハウスだけが自分を受け入れてくれた」とか、そんなふうにカッコ良く言える感じではないんですけどね(笑)。言ってしまえば、僕らにとってそこは職場でもあるわけじゃないですか。ライブをやるのは仕事でもあるわけなんで。ただ、どんなバンドにも“売れないバンドマン時代”というのがあるものだし、僕らの場合も、なんとかここまでやってきたわけですけど、そういう過程のすべてをライブハウスで過ごしてきたようなところがあるわけで。だから自分たちにとっての“今”はライブハウス無くしてあり得ないものだし、当然、それを失くしてしまうわけにはいかない。そのために何かができるんであれば、やらないままではありたくない。単純に、そういうことなんです。

取材・文●増田勇一

リリース情報

lynch.ライブハウス支援企画シングル
タイトル:未定(全3曲収録)
1.DON’T GIVE UP(新曲)
2.WALTZ(新曲)
3.A GLEAM IN EYE(再録音)
*その他、発売日等は後日発表
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