【インタビュー】コロンえりか、タフでポジティブな希望のスピリットを持つソプラノシンガー

ツイート

■世の中には争いがあるし人が絶望することもあるけれど
■音楽がある限りそこには絶対希望があるし、音楽がある


──中でも特に「被爆のマリアに捧ぐアヴェマリア」は、とても大切な曲だと思います。長崎の浦上天主堂に現存する「被爆のマリア像」をモチーフにした曲で、作曲はお父様のエリック・コロンさん。

えりか:この曲を最初に歌った時のことはよく覚えています。私の長崎の教会との出会いは、学生時代に自分の人生の意味を探して、親に内緒でヒッチハイクで九州まで行って、長崎の教会を回ったことがきっかけになっています。寝袋を持って野宿もしたんですよ。けっこうワイルドな子だったんです(笑)。

──なんと。すごい行動力。

えりか:当時、被爆者の方々の問題はまだ解決していないという意識があって、「どうしてこんなに悲しいことが世の中にはいっぱいあるのだろう?」と思っていた時に出会ったのが、「被爆のマリア像」だったのです。最初に見た時にはすごくショックを受けました。そのあと原爆資料館に行った時に、被爆した樫の木を見たのですが、木の中にガラスの破片がたくさん入っているんです。なぜ木の真ん中にガラスの破片があるのかな?と思ったら、その木が若い時に被爆して、飛んできたガラスの破片が刺さったまま年輪を重ねるうちにガラスを包み込んで大きくなったということを知って。そこで「被爆のマリア像」と、被爆者のお話と、私の音楽の原点となった阪神淡路大震災というものが一本の線で繋がったんです。この世の中には争いがたくさんあるし、人が絶望することもあるけれど、音楽がある限りそこには絶対希望があるし、音楽があるということはそこに命があって、その日その日を生きている営みがある証拠なので、歌を歌い続けることは希望を紡いでいく仕事なんだなということを、この「被爆のマリアに捧ぐアヴェマリア」を通して、私が逆に教えてもらったという気がしています。

──その思いを、お父様が曲にしてくれた。

えりか:帰ってきて、こういうマリア像があったことと、長崎の教会で感じたことを親に話したんです。私は東京の大学にいて、一緒に住んではいなかったのですが。それからしばらくたったある日の朝に電話がかかってきて、「アベマリアを書いたよ」と。それが「被爆のマリアに捧ぐアヴェマリア」で、その年の9月23日に浦上天主堂で初演だったのですが、その二週間前に9.11があったんですね。


──2001年ですね。

えりか:それにも大きなショックを受けました。何年かあとにニューヨークのグラウンドゼロに行って、そこでも「被爆のマリアに捧ぐアヴェマリア」を歌いました。今年が原爆投下75年なので、ニューヨークの国連総本部で平和コンサートに参加することになっていたのですが、延期になってしまったので。また来年以降にやるということになっています。

──ずっと歌い続けてほしい曲です。コロナがあり、人種差別への反対運動がある、今だからこそ。

えりか:毎年8月9日に浦上天主堂でこの曲を歌わせていただいているんですけれども、その場所でこの歌を歌う時は、特にダイレクトなコンタクトを感じます。音楽というものは、議論しなくてもいいし、その瞬間だけでも自分自身のシンプルな場所に戻って、大事なことを確認できるものだと思うので、素晴らしいですよね。

──祈りの歌が続く中で、異色だなと思ったのが9曲目「マリア・ラ・オー」ですね。リズミックなラテン調の曲ですけど、作曲のレクオーナという人は?

えりか:レクオーナはキューバ人です。何年か前に「ラ・フォル・ジュルネ」(1995年初開催、世界的クラシック音楽祭)でリサイタルを頼まれた時に、テーマが「踊り」でした。ラテン歌曲でプログラムを組んだのですが、日本に楽譜がなかったので、ベネズエラの友人たちに相談をして、楽譜をたくさん送ってもらった中の一つが「マリア・ラ・オー」でした。パーカッションが入っていて、とても好きな歌です。

──ラテン調といえば、ボーナストラックの「ア・エ・ミ・バナナ」も、リズミックで賑やかな曲ですね。

えりか:「ア・エ・ミ・バナナ」は、カリプソというリズムですね。「この曲の意味は何です?」とよく聞かれるのですが、これは本当にただのお祭りソングです(笑)。タイトルも「アー、エー、私のバナナ」みたいなことで、本当に意味はないんです。ほかの曲調と全然違うんですけれど、笑って終われるCDしたかった!最後にハッピーな気持ちになれるということですね。この曲には17か国の大使夫人が参加してくださって、最後の笑い声は大使夫人たちの笑い声なんです。楽しかったですね。「みんな入って!」って、スタッフの方も全員巻き添えになって(笑)。手拍子とか、巻き添えになった感がちゃんと残っていますね。


──ベネズエラ民謡ってそんな感じなんですね。カリブ海のリズムというか、とても開放的。

えりか:とにかく明るいんですよ。お葬式に行っても、♪あなたが好きだった~みたいに、明るく歌って終わる文化ですね。もっともっと、そういう曲もやりたいなと思います。落ち込んでいる日本に、ちょっとでも南米の空気を持って来られたらいいですね。

──正直、ベネズエラと聞いてパッとイメージが浮かぶ人は、日本にはあんまりいないかもしれないので。これをきっかけに、いろいろ知ってほしいですよね。

えりか:そうですね。ベネズエラは最近、悪いニュースしかないですし、政治的社会的にはすごく大変で、たとえば今、コロナになってから停電が続いているんですね。でも音楽仲間が、めちゃくちゃかっこいいリモートの映像を作ったり、クラシックのオーケストラがクラブ系の人たちとタッグを組んで映像作品を作ったり、みんなすっごいエネルギーを持って発信を続けているんです。インスタライブも、「〇月〇日〇時から」という告知の上に、「電気が通ったら」って書いてあるんですけど(笑)。電気が通った瞬間にわーっとアクセスして、みんなでそのライブを見るという感じで、本当に落ち込まないんですよね。私も元気をもらってます。

──タフでポジティブで、エネルギッシュな人たち。素晴らしいです。

えりか:もともと日常生活にラテンのリズムがあって、朝5時でも6時でも熱いサルサの音楽をかけて、朝ご飯を踊りながら作るような人たちの国なので(笑)。クラシックの人にもリズム感があって、それがどんどん混ざったものがいっぱい出てきているので、私もこれからキューバ音楽や南米音楽もどんどんやっていきたいなと思っています。今度、CDの発売記念に東京オペラシティでコンサートをするのですが(10月2日)、そのテーマが「オペラ・ラティーナ」なんですね。このCDで歌った曲を前半に持って来て、後半はまったく違うノリノリのもので行こうと思っていて、プログラムもだいぶ固まってきました。ぜひいらしてください。

──最後にあらためて。このアルバムに『BRIDGE』というタイトルを付けた理由は?

えりか:音楽自体が「橋」だなと私は思っています。ここに入っているすべての曲に共通するテーマというものが、私にとっては「BRIDGE」だなと思うんですね。たとえば「アヴェ・マリア」は祈りの世界に行く橋で、「子守唄」は眠りの世界に行く橋で、「ピエ・イエス(『レクイエム』より)」は亡くなった人と心が繋がる橋で、「平和」もそうですし、知らない国へ行ける橋でもあり、離れた人を結び付ける橋でもある。そういう気持ちで、このCDが「橋」になってくれたらいいなという願いを込めて付けました。

──少し先ですが。コンサート、楽しみにしています。

えりか:今はなかなかコンサート活動ができないのですが、それとは別に、オンラインサロンを最近始めました。コンサートにお客様が戻ってきてくださる時のために、もっと楽しんでいただけるように、舞台裏で何が起きているか?というお話をしています(https://community.camp-fire.jp/projects/view/252455)。お客様は普段は舞台の上を見に来るけれども、裏で働いている人がどういう仕事をしているか?とか、どんなふうにリハーサルを準備するのか?とか、あとは外交の舞台裏とか、「舞台裏」をテーマにお話ししていこうと思っています。

──興味津々ですけど、外交の舞台裏とか、しゃべっちゃっていいんですか(笑)。

えりか:そこで話したことは、外に出してはいけないというルールになっています(笑)。でもそんなに隠すことはないですよ。あとは、CDを買っていただいた方と触れ合う場所でもありますし、コミュニティとして育てばと思います。今は、私を応援してくださる方が最初に申し込んでくれているので、その人たちと、音楽を絡めていろんなイベントやムーブメントができたらいいなと思っています。今「音楽で橋を架ける」ことを目標にクラウドファンディングも実施しているのでぜひ応援ください!(https://camp-fire.jp/mypage/projects/199499)。

──また仕事、増やしちゃいましたね。

えりか:そうなんですよ! 私、暇になれない病気なんです。「歌うマグロ」とか言われていて、止まるとすぐ病気になっちゃう(笑)。周りが迷惑ですけどね。

──そんなことないです(笑)。いつまでも活動的でいてください。

えりか:どっちかというと、マネージャーもそういうタイプなんです(笑)。私の周りには、そういう人が多いのかもしれないですね。

取材・文●宮本英夫

リリース情報

『BRIDGE』
2020.5.13 Release
¥3,000+tax / KICC-1516
01.無言歌(アザラシヴィリ)
02.アヴェ・マリア(バッハ/グノー)
03.ねむの木の子守唄(山本正美)
04.ピエ・イエス~『レクイエム』(フォー レ)
05.被爆のマリアに捧ぐアヴェマリア(エリック・コロン)
06.平和(アーン)
07.アヴェ・マリア(サン=サーンス)
08.おお眠りよ、なぜ私を置いていく の?~『セメレ』(ヘンデル)
09.マリア・ラ・オー(レクオーナ)
10.子守唄(ラウロ)
11.アヴェ・マリア(ヴァヴィロフ/伝カッチーニ)
12.私を泣かせてください~『リナルド』(ヘンデル)
13.よるのみち(上田真樹)
14.ダニー・ボーイ(アイルランド民謡)
15.マイ・ホームタウン(大島ミチル)
Bonus track
16.ア・エ・ミ・バナナ(ベネズエラ民謡)

ライブ・イベント情報

■2020年10月2日 (金) 東京オペラシティコンサートホール

■2020年5月16日(土)稲城市立iプラザホール
⇒「2020年10月11日(日)18:00開演」に延期

■2020年6月6日(土)ザ・シンフォニーホール
⇒「2021年2月13日(土)19:00開演」に延期
http://www.tvumd.com/artist/detail/?artist_code=colon

◆インタビュー(1)へ戻る
この記事をツイート

この記事の関連情報