【コラム】満月を堪能する~BARKS編集部の「おうち時間」Vol.040

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19歳でギターを買ってからバンドとバイト(と麻雀)三昧の生活だったけれど、29歳のときにくるっと方向転換して、会社人として規則正しき仕事を始めた。それが音楽メディア編集のスタートなんだけど、音楽は好きだったので触れるたびに多くの興味や疑問が湧き起こり、その思いをミュージシャンに直接ぶつけて「ほうほうなるほど」「まじかすげーな」という感銘をそのまま記事や企画にしてきた。次々と色んな音楽が出てくるし、面白いミュージシャンも続々と登場してくるので、30年経つものの刺激や興奮は途切れることはなかった。


こと1990年代の邦楽ロックシーンは非常にエキサイティングで、日本独自のバンド文化がものすごい勢いで芽吹いていた。90年代初頭には様々なシーンが閃光のような爆発的産声を上げ、J(S)Wのひたむきさ、UNICORNの多様性、スライダーズのストイックさ、ヒリヒリとしたブランキーの生き様、純朴なパンクシーン、ナゴム界隈の歪なバウンド感、美学を結晶化させたV系アーティスト群…と、邦楽シーンはまさに玉手箱のような多面性の輝きを放っていたものだ。


その頃私は、J(S)W、プライベーツ、ブランキー、スライダーズ、ユニコーン、リンドバーグ、ブルハ、マドカプ、The ピーズ、マルコシアス、ラフィン、コブラ、ジッタリン・ジン、jaco-neko、SHOW-YA、聖飢魔II、爆風、BARBEE BOYS、布袋寅泰、De-LAX、ラウドネス、X、筋少、ZIGGY、すかんち、T-BOLAN、WANDS、B'z、人間椅子、B-T、LUNA SEAなどのアーティストを担当していた。これまでになかった世界や価値観に触れるのは刺激的だったし、その時の空気を吸いながらアーティストの目線を追うことによって、お金では買えない貴重な経験をたくさん重ねることができたのはラッキーだった。特筆すれば、音楽にまつわる自分の価値観に多大な刺激を与えたアーティストに、BUCK-TICK、LUNA SEA、X JAPANあたりがいる。

奇しくも今なお現役で活躍し続けているバケモノ(天賦の才)群だけれども、当時から彼らのサウンドは煌めきに満ちており、例えばB-Tなどは超一級の機材を使ってクソのような潰れた音を出していた(笑)。「ギターサウンドは美しいほうがいい」と信じて疑わない私の価値観を土足で蹴散らかして、“高品質な汚ったねぇ音”でアルバムを組み上げていたわけだが、結果それは居心地悪くも狂おしいほどにカッコよく、私はこの矛盾をすぐには消化できなかった。でも今はわかる。あれはグランジだった。当時はデカダンスなゴシック・ロックみたいな言われ方をしていたけれど、そんな『悪の華』の誕生は1990年、ニルヴァーナ『ネヴァーマインド』のリリースよりも1年半も前のことなのである。BUCK-TICKこそがオリジネーター、世界で最先鋭のグランジサウンドを体言していた先駆者であると、私は信じて疑わない。


一方でLUNA SEAもまた刺激的だった。メンバー5人ともフロントマンになれる素養を持ち合わせていたため、やりたいこととやれることが普通のバンドとは桁違いだった。いわば5枚のソロアルバムを1枚のバンドアルバムに収めないといけないのだから、軋轢や歪や衝突も生まれる。才能が渋滞している状況のままストレスを受け売れ、その代わり何かにおいては絶対に譲らないというメンバー間のタイトロープなバランスが常に緊張を生み出してしまう…そんなバンドがLUNA SEAだった。結果、いつのアルバムもドラマティックではありながら、ひとつひとつを分析していくと、常に実験的で常にチャレンジな音構築が施されていた。構成が曲の真ん中から線対称になった回文のような構成になっていたり、聴こえるか聴こえないかのフレーズが幾重にも隠されていたり、遊びと本気を同一線上に配置してみたりと、完成された作品以前に“制作行為自体がアートである”という稀有なバンドがLUNA SEAの本質となっていた。


1989年にLUNACYが誕生し、2019年には最新作『CROSS』が登場した。しかも30年のキャリアを経て、初めて外部プロデューサー…しかもスティーヴ・リリーホワイトがプロデュースするという世界の頂点スペックを有した作品の誕生である。だからこそ、そんな名匠によるサウンドを隅から隅まで吸い尽くし味わうことのできる手段が、2020年の技術の粋を持ってひとつだけ用意されていることはご存知だろうか。

マニアしか知らないものだろうし敷居の高い話かもしれないが、2020年3月にハイエンドプレイヤーの雄であるAstell&Kernから『SA700 LUNA SEA 30th Anniversary Edition』が発売となっている。“究極のLUNA SEAサウンドを全ての音楽リスナーへ届ける”というスローガンを持って、ここには96kHz/24bitの『CROSS』がプリインストールされているのだ。オリジナル音源から劣化してしまっている配信/CD音源と違い、このスペックこそがメンバー&スティーヴ・リリーホワイトがスタジオで耳にしていた音そのものであり、本来LUNA SEAが完成させた音世界は、まさしくこれなのである。


『SA700 LUNA SEA 30th Anniversary Edition』はスペシャルエディションゆえに17万円近くもするし、そもそも500台しか生産されていないため、この世界を享受できる人は500人しかいない。とはいえ『CROSS』の真実はこれだ。限りない透明感とエネルギーあふれるパワー感が共存するえげつないほどのダイナミックレンジがあってこそ、CDや配信データには収まりきらなかったい5人の才能のすべてが解き放たれるというもの。LUNA SEAが表現したかった音世界は、研ぎ澄まされた曇りなきスペックをもって初めて実体化する。世界トップのエンジニアリングに裏打ちされた完成音源と、それを素直に出力してくれるハイエンド環境からは、濃淡のグラデーションと深みやずっしりとした重さを感じさせながらも、スマートに駆け抜けていく図太いトルクで30年の音の年輪を描き出される。至福にして究極だ。


ということで、私は『SA700 LUNA SEA 30th Anniversary Edition』で至高のひとときを堪能した。もちろんそれは5月8日の夜。そう、満月の夜ですね。『CROSS』のツアー再開を指折り祈りながら、自分のヘッドホンの中は極上ピュアな『CROSS』のめくるめくライブ会場の香り。SLAVEにとって、こんなわがままで贅沢なstayhome、あります?


文◎烏丸哲也(BARKS / JMN統括編集長)


▲Astell&Kern製SA700のスペシャルエディション『SA700 LUNA SEA 30th Anniversary Edition』。限定生産500台のハイレゾプレイヤー。起動時にはこのようなロゴが光り、24bitファイル再生時にはボリュームホイール部が月光をイメージさせるアンバーカラーが点灯するのも、このモデルだけの特別仕様。リアパネルには「LUNA SEA結成30周年記念ロゴ」がレーザーマーキングされている。

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