【インタビュー】DのASAGIが語る、コロナ禍を超えた先の音楽「誰かのため、なにかのために」

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■たとえどんな小さなことだったとしても、“自分はただ、自分に出来ることをするだけ”

──新しいチャリティーのシステムを発案し、それをこうして次々に形にしていくのって、実際に思いついても、それを行動に移すのってとてつもなくエネルギーがいるじゃないですか? ASAGIさんをそこまで突き動かしている“原動力”ってなんなんですか?

ASAGI:一番は僕らを理解してくれる“ファンの応援”ですね。バンドとしても結成当初は、全員でメジャーデビューを目指してやって。メジャーで10周年を迎えた後に、改めて自分たち、自分の目標を考えたとき「誰かのため、なにかのためになる音楽を作りたい」といままでよりも強く思うようになったんですね。それで、なにかできないかなと考えているなかで、オーストラリアの森林火災があったんですよ。

──森が燃え続けているニュースは日本でも日々報道されてましたもんね。

ASAGI:僕はもともと森や動物が大好きだから、ニュースを見ていたらなんともいえない悲しい気持ちになって。小さなことでもいいからなにかやりたいなと思ってたときに、焼けてしまった黒い木から新しい芽が生えてきている画像を見たんですよ。それを見たときにすごい希望を感じて。その時感じた想いを曲と歌詞にできないかなと思って「ACACIA〜Pray For Australia〜」ができたんですね。これを聴いてもらったみんなの想いも一緒にオーストラリアに届けたいと思っていたので、ダウンロードやサブスクで曲を聴けば聴くほど自動的にWWWFジャパンに寄付され続けるシステムは、自分が思い描いていたイメージ通りなんです。


──この曲は、目の前に大自然の景色が広がり、温かい人間味あふれる壮大なバラードでしたね。対してもう1曲の「Hard Koala」。こちらは“ハードコア×コアラ”というアイデアに爆笑しました。

ASAGI:はははっ。「ACACIA〜Pray For Australia〜」を作るとき、普段おとなしいコアラが喧嘩してる動画をたまたま見つけちゃって。それで思いついちゃったんですよね(笑)。コアラが環境破壊に対する怒りを感情として持ったら…?という感じで、思いついたのが「Hard Koala」だったんです。

──単なる言葉遊びだけではなく、社会的メッセージが根本にはあったんですね。これはASAGIさんがKoalaに扮して歌うんですか?

ASAGI:ええ、「Hard Koala」になって(笑)。自分でイメージキャラクターも描いたんですよ(笑)。

──ハードコアでヘヴィな楽曲なのに“Hard Koala”“We are H.K.”と叫ぶ掛け声がなんともお茶目で、そこも笑えました。

ASAGI:ははっ。ですね!


──オーストラリア森林火災のチャリティーソング2曲の“#あなたの1再生が自然と命を救う”プロジェクトと並行して、日本ユニセフ協会へも自動寄付できる“#あなたの1再生が子どもたちを守る”プロジェクトがスタート。その対象となる曲に、Dが2011年に期間限定発売したシングル「鳥籠御殿〜L’Oiseau blue〜」を選んだのはなんでだったんですか?

ASAGI:曲を聴き返してみて、このシングルの歌詞が一番合ってるなと思ったんですよね。「小さな子らが眠る扉を叩け」とか。ファンの想いも乗せて、沢山の青い鳥が世界中の子どもたちの元へと飛び立っていくイメージにぴったりでした。


──さらに、D Official YouTube channelを通して、コロナウイルスと戦う全世界の人たちにエールを送るために、メンバー全員「#StayHome」のなか、自宅でレコーディングを行なって制作した新曲「Hang in there」も発表されました。“抱き締めることができなくても 心の距離は離れない”、そして“痛みさえ希望に変えて僕らは誓う 生きて逢おう”というメッセージがたまらなかったですね。

ASAGI:ありがとうございます。そこは、僕らのファンに一番届けたかったところです。

──Dからファンに向けた未来の約束ですね。

ASAGI:そうですね。僕はこれまでどうしようもなく辛い時もあって、沢山ファンに心配をかけてきてしまった。でも、Dは20周年へ向けて最大領域を目指すことを約束していますから、何があっても今ここで倒れるわけにはいかないんです。言いたくても上手く伝えれないこともあるし、それはこれからもそうかもしれないけど…。でもこのコロナ禍はバンドだけのピンチじゃなくて、ファンも含めた世界中の人のピンチなんですよね。だからこれはホント、強がりかもしれないけど…僕らの考えとしては、この時期に自分たちバンド側からのヘルプのメッセージはなるべく出したくなかったんです。ファンは自分自身を大事にして欲しかったし、あまり心配をかけたくなかった。なので、この新曲や様々な活動を打ち出したのも、僕らは大丈夫だから自分自身を大切にしてねって事を伝えたかったというのもありますね。やはり普段応援してもらっている分、音楽でファンに想いを伝えるのが一番望まれているバンドの姿だと思うので。それにしても…ライヴが出来なくなって、改めて同じ空間で同じ時間を過ごす事がどんなに幸せな事だったのか、如何にストレス発散に有効だったのか、とかメンタル面でのバランスや日々の活力の為にこんなにも必要なものだったのか、とか色々考えさせられますよね。やっぱり当たり前に音楽がある毎日が一番幸せなんだって思いますし。だからこそ自分達やファンのみんなが少しでもポジティブになる為に、本当に小さな事だとしても出来る事をしないとなって思って頑張っています。だから、“一緒に頑張ろうね、そして必ず生きてまた逢おうね”っていうメッセージ、それが「Hang in there」なんです。


──これらすべて、先ほどASAGIさんがおっしゃった誰かのため、なにかのためになる音楽を作りたいという思いが形になったものですけど。有名人やアーティストがボランティアやチャリティー活動を積極的に行なうことが日常の中に浸透している欧米諸国とは違って、日本でまだ誰もやってないシステムを使ってチャリティー活動を行なうのは、相当な覚悟もいったんじゃないですか?

ASAGI:そうですね。特に日本ではチャリティーは売名だとか、必ず心無い批判をする人が一定数出てくると言われていますからデリケートな問題ですよね。でも今回の企画は特に、1再生、1ダウンロード毎に寄付先が自動的にレポートをデータで弊社と同時に知ることができるので、これ以上ないぐらい透明度が高いんですよね。それと、もちろん自分自身は微力だとはわかっているけど、自分を誰かと比べたところでどうしようもないなって。批判があろうとも、たとえどんな小さなことだったとしても、“自分はただ、自分に出来ることをするだけ”なんですよね。コロナ禍の自分の活動をする上で、勇気付けてくれたのが南米に伝わる寓話「ハチドリのひとしずく」なのですが、昔は自分なんかがやってもなあ…と少し悩んだ時もありましたが、これは本当に僕が共感できた良いお話なので是非この記事を読んでいる皆さんにも知ってほしいですね。色んな考えの方がいらっしゃると思うのでこういう発言の場があるのは有り難いですね。特にチャリティーソングとして作っていない曲達の、ライヴハウスへのパーセンテージは凄く悩みました。大きすぎるとやはりファンにも心配をかけてしまうし自分たちの活動にも影響が出てしまうかもしれない。反対に少なすぎるとあまり助けにはならなくなってしまいます。一般的な印税計算で考えると、作詞作曲印税は約5〜6%、歌唱印税は約1%。原盤印税は約12 〜15%。Dは自社なので、これらを踏まえて色々考えた結果、最終的にライヴハウスは一律10%にしました。だからできる範囲で寄付はしつつも、バンドとして大きい部分での実益が減収されるわけではないんです。自分の発案から生まれたものですし会社としても全体的に大きな影響を与えたくはなかったので。ライヴハウスの力になりたいという思いと、このバランスがとても難しかった。とはいえ、どんなジャンルでも物事の数だけ賛否両論はありますし、一定数の批判は起こりやすいものですから、もはやこれ以上考えてもどうしようもないことですよね。(笑)

──それなら、心の思うままに動こうと。

ASAGI:そうです。信じてくれる人の応援を支えに、自分の心の中の正義を貫くだけです。いまはみんながみんなストレスを抱えてて、エンタメ業界もそうですけど、多くの人が下を向いる状態じゃないですか? 

──希望が見出せない状態ですからね。

ASAGI:それでも、そういった人たちに少しでも前を向いてもらうためには、希望を見出した人が「こっちに新しい道があるよ」とか「こっちにきたほうが笑顔になれるよ」と大きな声を出して、旗を振らないと気づいてもらえないわけですよね。自分がこっちにいったらいいと信じた道があるのならば、自分だけではなくてたくさんの人に知らせなきゃいけない。そういう想いでやってますし、そういう人が増えてくれればいいなとも思います。

──だから「#LiveHouseNeverDie」のマップは航海図になっていて、Dの「Night-ship“D”」のフラッグが描かれているんですね。

ASAGI:おっしゃる通りです。この時期、改めてリーダーというものについて考えさせられました。自分はバンドのリーダーで会社の代表をやってるからかもしれないですけど、リーダーというのはこのコロナ禍を含めたいまの時代に適応していくにあたって、先頭に立って舵をとらなきゃいけないわけじゃないですか。船のキャプテンに例えて話すと、いまの状況は霧がかかっていて前が見えない、明日どこから風が吹いてくるのかも分からないような状態で舵をとっているんですよ。だから、刻一刻と変わるいま目の前に見えている景色と最新情報を仲間で持ち寄って未来の為の判断をして、乗組員たち全員の命を守る方向へと舵をきり、導いていかなきゃいけない。時には突然レーダーに映らない危険が現れて、急に舵を切らなければいけないこともあるでしょう。いまはそこをみんなで理解して、お互いに支え合うべきだと思うんですよね。


──そこには信頼関係も必要ですよね。

ASAGI:そうですね。僕らDはもう17年やってるんで、メンバーもスタッフも僕のことを理解して信用くれているので、すごく舵をきりやすい状態でやれてます。船長の持つべき単眼鏡も毎日ちゃんと磨いていますし。

──だから、ASAGIさんがまだ誰もやったことがないことに挑戦しても、みなさんリーダーを信じてついてきてくれる訳ですね。

ASAGI:だと思いますね。時代に適応するためには挑戦していくしかないですから。例えば、バンドを飲食店に例えて話すと、自分たちが生み出す音楽が材料だとしたら、その材料を届けるためにいまはいくつもの手段を持たなきゃいけないんです。いままではお店にお客さんが来てくれて、目の前で材料を調理して料理を提供することができましたけど、いまはその材料は変えず、料理の届け方をいろいろ考えなきゃいけない時代なんですね。

──そこは音楽もまったく同じ。

ASAGI:そうなんです。それを「変わった」と考えてしまうと、時代に適応できないですから。なので、材料はなにも変わらない、その提供の仕方、届け方が違う形になっただけなんだよということをみんなで理解していくことが本当に大事だと思うんです。こういうことこそ、声を大にして旗を振って伝えていかなきゃいけないことだと思いますね。

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