【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.126「世界の美景『インド』~TAMAKI’s view(MONO)」

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旅とは元来特別なもの。だが、新型コロナウイルスの出現によって世界は一変し、多くの国々が次々とロックダウンされる中、ここ日本でも自粛という名の強制軟禁生活月間に突入し、旅に出るどころか、外出することもままならない状況に陥ってしまった。殊に海外旅行に至ってはこれまでとは違った意味でより贅沢なものへと格上げされてしまい、もともと高いハードルがさらにグンと上がってしまった。

自由に空を飛び、自分の目で見て世界を知ることが難しい今、ワールドツアーで世界を渡りゆくアーティストに訪れたことのある国にまつわる話を聞かせてもらい、読者の皆さんと共に旅気分を味わいたいと考えて、ひとりのアーティストに「あなたの撮ったスナップ写真を交えながら、旅の話を聞かせてくれませんか?」と提案をしてみた。それを快諾してくれたのは、日本人バンドとして世界で最も多くのオーディエンスを獲得したバンドのひとつであるMONOのベーシスト、TAMAKIさんだ。


▲撮影◎Yoko Hiramatsu

■TAMAKI(MONO)
東京出身4人組インストゥルメンタル・ロック・バンドMONOのベーシスト。イギリスの音楽誌NMEで“This Is Music For The Gods.(神の音楽)”と賞賛されたMONOサウンドにおいて、ピアノ、鉄琴なども操る他、20周年を迎えてリリースした最新アルバム『NOWHERE NOW HERE』に収録の「Breathe」ではヴォーカルを初披露。これがバンド初の歌入り作品となって話題に。ライブでは華奢に映るその容姿からは想像もつかないような男前な弾きっぷりと美脚に魅了されるファン多数。

今回TAMAKIさんが話を聞かせてくれた国は「インド」。1999年のバンド結成以降、59か国もの国々を渡り歩き、文字通りに世界を舞台にしてきた正真正銘のライブバンドのメンバーであるTAMAKIさんが、2018年に開催されたインド最大級の音楽フェスティバル<Ziro Festival of Music>に出演したときのことを中心に、文化の違いや現地の人とのふれあいについて語ってくれた内容を当時のライブの映像やTAMAKIさん撮影のスナップ写真とともにお届けする。

   ◆   ◆   ◆

■「インド」基本情報



正式国名 インド共和国(Republic of India/Bharat Ganarajya)
首都 ニューデリー
面積 約329万km2(世界第7位)
人口 約13億5140万人(2018年推計)
民族 7種
国旗 サフランと白、緑の3色の横じま。サフラン色は勇気と犠牲、白色は真理と平和、緑色は大地と誠実を表す。中央の法輪は古代文明を象徴している。
(出展:地球の歩き方)

   ◆   ◆   ◆

──最初にインドを訪れたのはいつですか?

TAMAKI:2018年に<Ziro Festival of Music>に呼ばれて行ったのが初めて。インドからのオファーはずっと前からあったんだけど応えられてなくてやっと行けたの。

──ヘッドライナーとして参加されたインドでも最高との呼び声高いフェス。この時はどこからインドへ入られました?

TAMAKI:日本から直行便でデリーへ。

──8~10時間位ですね。フェス会場までのトータル移動時間は?

TAMAKI:3日半。1週間いたけど、ショーは1本で移動にほとんどの時間がかかったんだよね。

──強烈だなぁ…。そんなに移動に時間がかかるのはインドくらいですか?

TAMAKI:そうね、他にはない。メキシコやブラジルもそれなりにかかるけど、それでも1日半とかじゃない? デリーで一泊して、翌朝、飛行機で2時間くらい飛んでアッサム地方のグワハティ空港へ。そこから1、2時間走ったところにある駅から夜行列車に8時間乗ってナハーラガンに着いたらまた車に乗って。山道をガタガタと4時間かけて山越えして、ようやくジロっていう町に着いたのよ。ドライバーの運転も荒いから車酔いが酷かった。




▲グワハティ空港




▲ナハーラガン駅

──テレビで見る秘境の旅みたいですね。この機材を頭にのせている人は誰ですか?

TAMAKI:駅のホームにいる運び屋さんで「荷物運ぶよ」って声かけてくるんだよ。海外の空港だとトランポさんはいることが多いよね。このときはまだ電車から降りてすぐだったから、外で待つプロモーターに会うまでは自分たちでどうにかしなきゃいけない状況で。でも構内にあった急な階段を見てさすがにこれは楽器を持って運べないってことになって、ツアーマネージャーのジェフがお金を払って運んでもらったんだけど、いきなり頭に乗っけたからびっくりしちゃって。フラフラなりながらも駅のホームから外に出るまで、階段もこれで上っていくのよ。これはインドだなって思った(笑)。



──機材落とされたらどうするんだろう…。

TAMAKI:YODAのペダルケースなんて23kgあるからねえ。それを頭にのせるなんて他の国ではなかったなあ。

──こちらの車の上に人が乗っている写真は?



TAMAKI:最後に降り立った駅から会場までの移動用に機材車が2台来たの。写真の現地スタッフがこの車の上に機材を積んで運ぼうとしていて。しかも雨がザアザア降ってるのにブルーシートをかけて走るって言うもんだから「それは絶対やめてくれ」って。私たちはギュウギュウでもいいから、とにかく楽器は中に入れてくれ」って。こんなに雨ふってんのにそれは絶対やめてくれ!って(笑)。」って伝えて。結局みんなしてギュウギュウで行ったの(笑)。

──機材を扱う感覚が違うのでしょうね。ちなみにステレオタイプなイメージですが、電車の上にも人が乗っていたりしました?

TAMAKI:私たちが乗ったものでは見なかったよ。用意された列車はすべて最上級クラスだったんだけど日本のそれとは同じクオリティではないし、ネズミが走るのを見ちゃったスタッフもいたりしてね。2等車、3等車になると人だらけのすし詰め状態。「これでみんな朝まで行くわけ?」って思っちゃうくらい、ただ椅子に座っていく感じだから。

──寝台列車は高い値段のわりに快適ではない印象しかないですね。

TAMAKI:そうなんだよね。狭いし。ロシアもさ、今でこそ超特急サプサン号になったけど初期の頃はサンクトペテルブルクとモスクワ間はどちらかで初日をやったらその夜のうちに寝台列車へ飛び乗って移動してたな。あれも結構キツかったけど、インドのほうが抜群にひどかったね(笑)。往きの列車では人数的に私が一人余っちゃって、なぜか見ず知らずのインド人夫婦と同じコンパートメントになっちゃったりもして。

──1部屋にベッドが2つあるということ?

TAMAKI:そう。タイプにもよるんだけど、その部屋は上のベッドが私で下がインド人の奥さん、おまけにその旦那様も後から合流して3人で仲良く8時間移動したっていう(笑)。「別の部屋にいる旦那をここに呼んでいい?」って聞かれて不安は感じながらも優しそうな人だったし、断るのもなあと。旅も慣れてくると全然知らない人も平気になってくるのかな。いや、でもここインドだよなって寝ながら考えてた(笑)。最後は「まぁ、いっか」って。

──(笑)。長い移動中、食事はどうされたんですか?

TAMAKI:音楽ともフェスともまったく関係ない駅近くにあるご家庭で、電車が来るまでの空き時間を食事付きでステイさせてもらったときに手料理をふるまわれました。



──美味しそう! でも日本的な感覚で言えば、カフェや居酒屋、ホテルなどで時間をつぶしますよね。それは誰が手配を?

TAMAKI:現地のプロモーターですね。店があれば行くんだろうけどないから。都心ならともかく、田舎の方だとホテルとかもそんなにないんじゃないかなあ。デリーで泊まったホテルは世界的チェーンだったから違和感なく過ごしていたんだけど、アッサムに着いたあたりから「あれれ?」って。

──こちらは牛ですか?

TAMAKI:うん。寄ってくるし、危害は加えてこなそうだったから触ってみた。牛も犬も鶏も普通に歩いてたよ。



──さすがシヴァ神の乗り物。ちなみに動物が歩いている国、他にありました?

TAMAKI:最初にルーマニアに行った時は野良犬があちこちいて驚いた。以前はマレーシアでも野良犬がいたけど今はいないね。



──<Ziro Festival of Music>についてお訊きします。1年半前にインド北東部アルナーチャル・プラデーシュ州における有名なフェスにヘッドライナーとして出演されました。その他の出演者は覚えていますか?



TAMAKI:申し訳ないですが覚えていません…。インドのバンドが多かったことは覚えている。このフェスね、ダモ鈴木さんが出演したことがあったみたいで、ドイツにいらっしゃるのでヨーロッパツアーのときにお会いしたときに<ジロフェス>の話をしたような気がする。「すごいとこだったよね」って。

──やった人にしかわからない話ですね(※文末にライブ映像在り)。

TAMAKI:そうね。大自然の中に創り上げられているフェスで、ステージは竹で組まれていてね。本当に何もない農村だったんだけど、その風景を見て後藤さんは「出雲みたい」って。「俺の田舎にすっげえ似てる」って言ってたよ。




▲<Ziro Festival of Music>のメインステージ

──このでっかい鍋はケータリング?

TAMAKI:そう。そしてカレーなんですよ。間違いなくカレーなの。カレー。カレーばっかり(笑)。でも美味しいの! 向こうの人は手で食べるじゃない? だから他のメンバーと一緒に一回やってみようってことになって、ドライブインに立ち寄った時にやってみたらこれがまた美味しくて! ただ段々手が黄色くなってきちゃったからやめたんだけど(笑)。あと、鶏肉がさばきたてなのか新鮮ですっごく美味しくて。デリーのホテルで食べたカレーとはまったく違うもので混ざり物がなくて抜群に美味しかった。





──「カレー美味しかった」を3回いただきました(笑)。インドの人たちとのふれあいはありました?

TAMAKI:みんな優しいよね。たまたま電車で一緒になった夫婦も静かでジェントルだったし。フェスのお客さんもすごい盛り上がってたし。





──泊まりはどうでした?

TAMAKI:フェス会場の近くでは宿泊施設が1つだけあったんだけど、そこはスタッフが全部使っていて、アーティストは裕福なご家庭が提供してくれた部屋に泊まったの。私たちはその地区で校長先生をしている人のお宅にお世話になって。周りの家には高床式みたいなものがたくさんある中でこの家だけが妙に立派だったんだけど、私たちが泊まった日は温水器の電気系統が壊れて水しか出なくて。9月で朝晩はそこそこ寒かったから髪を洗ったら風邪をひくと思って、私は我慢して髪を1週間洗わなかったの。でも髪を洗ったYodaとDahmは風邪をひいて熱が出てフラフラになっちゃってね。その後、デリーからイギリスへ渡って、今からヨーロッパツアーだぞっていうのにイギリスに着いた時点でみんなすっかりヘトヘトで(笑)。その後、二人の調子がよくなってきたら今度は私が熱出ちゃったりして大変だったわ。

──秘境でのフェスに呼ばれるのも楽じゃないですね。

TAMAKI:でもね、<フジロック>と一緒で何にもないところに簡易トイレを組み立てたり、ケータリングのためにガスを持ってきたり、ステージを組み立てることをしなきゃいけないじゃない? あのガタガタ道で部材をすべて持ってきたのもすごいなあと思って。

──インフラを整備して、その日のためだけに街を作るわけですもんね。

TAMAKI:校長先生に話を聞いたら、水が溢れて道路が分断されちゃったりすると道が封鎖されて物資が1、2週間届かなくなっちゃうのもザラに起きるらしくて。



──フェスと言えば、新型コロナウイルスの影響で日本でも世界でもフェスやイベント、ライブの開催が中止になっていますが、MONOは影響を受けていますか?

TAMAKI:フランスの<Hellfest>と別のが来年へ延期になったけど、今年はもともと制作のためにフェスへの出演はセーブしていたの。もちろんワールドツアーの計画は立てていたけれど、それがどうなるのかは未定。海外のフェスは2年後じゃないとキツいんじゃないかっていう記事を読んだよ。早く再開されるといいですよね。

──4月にアメリカで行われた世論調査では新型コロナウイルスのワクチンが開発されるまではフェスに行かないと回答した人が40%という報道がありましたね。

TAMAKI:そうだよね。ワクチンが開発されたら出て行こうかなって思えるけど、ないと怖いよね。

──自分が罹患するのも避けたいけれど、周りに迷惑をかけるのはもっとイヤですし。

TAMAKI:そこなんだよね。

──一日も早く安心してライブを楽しめるようになることを願いつつ、話をインドに戻しまして。インドは初めて訪れた国だったこともあるとは思いますが、なかなかハードな旅でしたね。MONOは現在トータル59カ国でライブをされてきていますが、その中でもインドは思い出深い国になりましたか?


TAMAKI:これは強烈だったね(笑)。今ね、60カ国目がどこになるんだろうってみんなで話をしてるよ。インドなんて行く機会なんてなかなかないし行こうよって、未知の世界ではあったけど非常に良い体験でした。ヴェニューに辿り着くまでに3日もかかるとかもそうだけど、こんなにすごいとは思ってなかったのは確かね。でも旅は好きだから、それはそれで新鮮だったし。知らない国で電車に乗ったりするのって楽しいから。



──次にインドへ行く予定は?

TAMAKI:今のところはないですね(笑)。でも呼ばれれば、いつでもどこでも行きますよ。

写真◎TAMAKI
取材・文◎早乙女‘dorami’ゆうこ

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◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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