【インタビュー】ACIDMAN、大木伸夫が語る新曲「灰色の街」と現在「世界は歌に成っていく」

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■偶然であり皮肉な感じですけど
■このタイミングで呼ばれたと思う

──大事に温めながら形にしてきた曲でもあるんですね。それがなぜ、<ACIDMAN LIVE TOUR“創、再現”>で初御披露目になったんですか?

大木:音源をリリースして、みんなに作品を聴いてもらってからライブで披露するという流れが、僕らにとって当たり前になっていて。でも、レコードとかの記録媒体がない時代は、ライブステージはその日その場所でしか観られないもので、そこからレコードが発明されて、そのライブを持って帰れるというか、音を持って帰れるようになったという純粋な始まりだった。にも関わらず、なぜか逆転して、音源ありきのライブになっていた。それが良くないというよりは、変えていきたいと思っていたんです。

──なるほど。

大木:CDやレコードはコアアイテムというか物販のような扱いで、ライブありきなんじゃないかなっていう。それはかねてから思っていたことで。同時に、1stアルバム『創』のアナログ盤リリース企画があったので、“じゃあリリースライブをやりたい”と。だったら、ただの『創』再現ライブではなくて、新曲をサプライズ的にみんなに聴いてもらえれば、音楽の純粋な発表の仕方に戻ると思っていたんですね。

▲<ACIDMAN LIVE TOUR “創、再現”>2019年12月12日@東京・新木場STUDIO COAST

──“創、再現”の場だったというのがまたよかったですね。ACIDMANが、1stアルバムから「灰色の街」までつながっていることが見える曲だなとも感じましたから。ただ、発表当時の状況と、今の状況では曲の捉え方もだいぶ変わってくる感じもあって。その時々で、人が心を寄せられる曲にもなっていますね。

大木:印象はどんどん変わってきていますね、僕自身も。最初にライブで表現するときは究極の不安の中でのトライアルなんですよ、自己満足の中で生まれた楽曲だったりするわけですから。でも、そこでファンの方に受け入れてもらうことができれば、それが力になったり自信になったりするんです。それでも作者としてはその曲が“本当に受け入れてもらえているのか”って不安のまま過ごすんだけど。ただ、今回の「灰色の街」はみんなに先に聴いてもらって、“みんながいいと言ってくれるだろう”という、ちょっとした自信があったんです。だから堂々とリリースできるというか、早く届けたいという思いが強いですね。

──奇しくもというか、緊急事態宣言が発出されて、街から人が消え、世の中の様子が一変した今の状況ともシンクロする内容になってしまいましたね。

大木:そうですね。偶然であり皮肉な感じですけど、このタイミングで呼ばれたと思うんです。ミュージックビデオの撮影も、緊急事態宣言が出る前のギリギリのタイミングだったんですよ。数日ずれていたら多分撮れていなかった。チャンスなんだかピンチなんだかわからないなって思いながら撮影しましたね(笑)。

──この曲を今、シングルとしてリリースするのは、何が大きかったんでしょう?

大木:さっき少し話しましたが、1年前にやろうとしていた企画が流れてしまったのがデカいかな。悔しかった。“負けたくなかった”という歌詞はそこにも通じるものがあって。“よし、これは時間をかけろってことだな、神様”って受け止めて、“時間をかけてもっといいものにしてから発表しよう”っていうのはありました。

──そこから曲としての変遷があるんですか?

大木:かなり変わったと思いますね。メロディ自体はほとんど同じなんですけど、言葉とかは結構変わっています。サビの主題となる“こうしてまた 僕らは生きていくんだよ”とかは変えずに、“明けてゆく夜空を信じたら 世界は歌に成っていく”とかは後から付けたところですね。

──そのフレーズがあるからこそ、この先というものを思い描けたり、見える曲になってますよね。

大木:そういう意味では、1年前に発表していたら違う言葉だったし、答えが出ないままだったと思うんです。今回、すごくまとまったので、このタイミングでリリースできて本当に良かったなと。

──それは、曲が持っていた景色がだんだん見えてくる感覚なんですか?

大木:そう。時間がないと手探りなまま、真っ暗ななかで触ってみて、“うーん、これはダチョウの卵だ。たぶん合ってるよな”って世に出したら、“結果、石だった!”みたいなこともね(笑)。ちゃんと調べて、音も調べて、それにはすごく時間がかかるんです。

▲<ACIDMAN LIVE TOUR “創、再現”>2019年12月12日@東京・新木場STUDIO COAST

──曲の景色をより引き立てるストリングスアレンジが美しいですが、ストリングスを入れようというのは、どの段階からだったんですか?

大木:結構、後々でしたね。最初は必要性を感じていなかったんですけど、“世界は歌に成っていく”というワードがピースとして僕のなかでビシッとハマったときに浮かんだのが、協奏曲で。ワールドシンフォニーというか、世界はあらゆる生命との協奏曲であり、奏で合っているんだという。ならば、これはストリングスが必要だなと。

──全編に入っていることが曲の高揚感を生んでいますね。

大木:ストリングスに関しては、四家(卯大)さんに雰囲気だけを伝えて、すべて一任したんです。「抜き差しは全部、大木くんやっていいよ」って言われたんですけど、すべて素晴らしかったので全部入れちゃおうと。

──四家さんにお伝えしたイメージとは?

大木:基本的にはいつも一緒なんですけど、僕は白玉系の音が好きなので、「伸びていく音をドラマティックにしてください」と。歌詞も一緒に渡して、「夜空から星が降ってくるイメージなんです。星が彩り豊かで、その星が地上に降れば降るほど色がついていくんです」という話をしましたね。

──そういったドラマティックなストリングスとギターとの兼ね合いは難しそうですが?

大木:作ったデモをお渡ししたので、そこは四家さんがうまくやってくれましたね、音がぶつからないようにとか。

▲<ACIDMAN LIVE TOUR “創、再現”>2019年12月12日@東京・新木場STUDIO COAST

──アコースティックギターの空間を感じさせるようなイントロから、サビでは歪んだエレキギターが音壁をつくるわけですが、そのダイナミックレンジの広さも、曲の持つストーリーや感情を増幅させています。

大木:そのイメージは最初の頃からありましたね。イントロのコード進行からサビでギュンと飛び立つときに、これはやっぱりディストーションを踏むべきだなって。この曲は転がっていくから、その盛り上がりに準じようというサウンドメイクです。

──メロディーの感情をなぞるようなアレンジやアプローチという意味では、1番はBメロがあるのに対して、2番はBメロがないという楽曲構成ですが、そこも流れがスムーズで。

大木:落ちサビにしたかったので、あえて2番はBメロをはずして、流れるようにDメロへ行けるようにしたかったんですね。

──その流れるような楽曲の最後を締めくくる和音の白玉が、シンフォニック的で壮大ですし。

大木:ありがとうございます。これはライブを意識したアレンジで。何パターンも考えて、そのなかから一番ライブ感があるものを活かしたんです。まさにクラシックな感じをイメージました。

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