【インタビュー】DIMENSION、増崎孝司が語る新体制の『31』「“楽しくフュージョンを”という今までにない感覚」

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DIMENSIONが5月6日、約2年半ぶり31thオリジナルアルバム『31』をリリースした。AMAZONのJ-JAZZ、J-FUSION、FUSIONチャート(5/4付)といった3部門にて1位を獲得、iTunesジャズチャートでも1位に輝くなど、増崎孝司(G)と勝田一樹(Sax)を中心とした新生DIMENSIONのより力強くバリエーションに富んだサウンド進化が各方面から高評価を得ている。

◆DIMENSION 画像

2020年2月に小野塚晃(Key)が脱退。2人組となった最新アルバム『31』にはプログラミングやキーボードに安部潤と大島こうすけを起用。リズム隊には則竹裕之(Dr)、川崎哲平(B)、二家本亮介(B)が参加した。これまでどおりの音楽的深みと超絶技巧を残しつつ、アレンジ面では“ツートップ”による旋律をフィーチャーしたトライアルがDIMENSIONの新たなフェイズを感じさせる仕上がりだ。

コロナ禍のリリース、2人体制による新展開、アルバム『31』収録曲構築法、フュージョンとポップス、充実したギターサウンドの秘訣について、増崎孝司に語ってもらったロングインタビューをお届けしたい。なお、DIMENSIONは6月14日、生配信ライヴ<DIMENSIONチャンネル開局記念スペシャル&アルバム『31』発売記念生配信Live Vol.01>を実施するなど精力的だ。

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■ラーメンで例えるなら麺とスープで勝負
■ポップス的な作り方をしたわけです

──最新作『31』は図らずも緊急事態宣言中のリリースとなってしまいましたが、iTunesジャズチャート1位、amazonのJ-JAZZ、J-FUSION、FUSIONチャートの1位、そしてオリコン発売日デイリー10位という素晴らしい結果となりましたね。

増崎:録音自体は2月いっぱいで終わっていて、例年の流れでいうと、ゴールデンウィーク期間中にリリースツアーというスケジュールで動いていたところ、世界的にこういう状況になってしまって。正直、リリースタイミングは考えました。ただ、世の中が混沌としている中で、優しい言葉や励ます言葉もあるとは思いますけど、やっぱり音楽は必要だし、僕らは音を届けて、みなさんにも音でいろんなものを感じて欲しいという気持ちが強かったんです。それに僕らの音楽の届け方として、これまでもCDというフィジカルなパッケージを手に取ってもらうというやり方だけに頼ってこなかったし、しかもDIMENSIONはインストゥルメンタルで、言葉で売るという部分とはちょっと違いますから。そうした面も含めて、これからはオンラインでの売り方になっていくんだよという提示もしようと、挑戦的ではありましたけど、CDショップが休業している状況でしたが、あえて予定通りにリリースしました。

▲増崎孝司(G)

──“挑戦”というと、増崎さんも個人でYouTubeチャンネルを開設されたりと、アクティヴに活動を展開されていますね。

増崎:結果的にそうなってしまったことは、嬉しくもあり、ちょっとやり過ぎかなと思うところもあるんですけど(笑)、とにかく僕は、受動態でいるのが好きではないんです。何かしら前に進んでいきたいタイプなので、ついついやってしまいました(笑)。

──そうした中でリリースされた最新作『31』は、2人体制となった新生DIMENSIONでもありつつ、同時にギタリストとして原点回帰された作品でもあったのではないかと感じました。

増崎:文字にすると、“新体制”や“新しい変化”といった見え方をするだろうとは思うんですけど、実のところ、2人体制になったからこうしようとか、そんなに意識はしていないんです。先ほども話したように「音を届けたい」という想いがまずあって、その中で、右にいく道と左にいく道があった時に、たまたま同じ方向を向いた2人で作っていったというシンプルな考え方だったんですね。ただ、今まで自分の居場所が33.333%だったところから50%になったわけで、当然、それだけ責任は重くなるし、その分、もっとこうしたいということをきちんと出したアルバムにはなったとは思っています。そういう意味では、“原点回帰”という言葉が正しいのか分かりませんが、イクイップメントも含めて、自分の初心に立ち返った面はあるかと思います。

──なるほど。“初心”ですか。

増崎:はい。今まで以上に、ギタリストとしてより面白いと思うもの、自分がこれまでに聴いてきたものを色濃く出していった制作でした。その中で、今回ゲストプレイヤーになったキーボードには縁の下の力持ちになってもらって、表に出るのはサックスとギターにしようということは強く考えました。

──だからなのか、増崎さんのギターと勝田さんのサックス、この“ツートップ感”がとても鮮明に伝わってきました。

増崎:昔からDIMENSIONって、バランスよくバランスを崩すユニットだと思っていて、これまでも、3人だから遠慮したり、譲り合ったりしたことはないんですよ。ただ無意識のうちに、「ここはキーボードのほうがいいのかな」とか、そう考えていた部分はあったかもしれません。それによって、色と色の間が少し滲んでいた部分が、今回は、より色のコントラストをはっきり出せたのかもしれませんね。

▲31thオリジナルアルバム『31』

──音楽的には、全体的に今まで以上にメロディアスで、かつ音像的にも隙間が感じられる、余白を楽しめる作品だと感じました。

増崎:たくさんの方から同じような感想をいただいて、そこは狙い通りにできたなと感じています。今までは、白いキャンバスの上にいろんなメッセージを音符として描いていたんですが、その色があまりに濃すぎたり、余白を残さずに埋めていたんです。それが失敗だとは思いたくないんですけど、音もリズムも、常にパンパンに入っていた。それを今回は、音符の後ろが透けて見えるものを作ろうと考えたんです。そういう意味では、安部(潤)くんと大島(こうすけ)くんというキーボーディスト/プログラマーの力は大きかったですね。彼らは、僕、そして勝田くんと対等でありながら、一歩引いてくれるんです。それがスペースになって音楽に山や谷、あるいは平地というコントラストを生み出せました。その結果、メロディであったり、個々のプレイをより前に押し出せました。それまでは率直に言うと100%の完成形から、さらに塩や胡椒をかけていた面もあって。それが今回は、ラーメンで例えるなら、本当に麺とスープで勝負したような感覚はありますね。

──そこは最初から意識しての曲作りだったのですか?

増崎:はい、意識していました。だから、少し誤解を生む言い方かもしれませんけど、ソロはどうでもいいかな、っていう感覚で(笑)。つまり、ポップス的な作り方をしたわけです。プレイヤーの技量で作り上げていくのがジャズやフュージョンで、その良さもわかっているんですけど、今回の制作は、下地となるリズムのループと簡単なコード進行があって、そこにメロディを乗せてみて、「このままでいいかな」というところから作っていきました。飾り付けを考えてから最後に真ん中に何かを乗せるのではなく、まず真ん中のメインディッシュを作って、その周囲を飾っていく作り方でした。要するに、プレイヤーのテクニックや、自分の手癖に頼らない作り方をしたんです。派手はリックや複雑なコードのテンション感というものは、もう今までに散々やってきましたから。ただ、あまりポップスになりすぎないようには考えました。

──アルバムを聴いた時に、歌はないけど、“歌モノ”のようなインストゥルメンタルだなと感じたんです。今のお話しを伺って、その感想もあながち的外れではなかったのかなと思いました。

増崎:そう感じてくださったのであれば、それが一番心地よく聴ける感覚なんだと思います。何ていうのかな、すごく楽しくフュージョンを作ったっていう、今までにない感覚でしたね。でもそれって、「トーンを聴いて欲しい」というDIMENSIONのファーストコンセプトそのままでもあるんです。今って、日々みなさんが抱えていくフラストレーションが大きくなっていって、あまり楽しいことがないという世の中になってしまいましたけど、その中に僕らのトーンが心のプラスとして届いたのかなって。リスナーの反応を見て、そんな気がしています。

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