【インタビュー】小川紗綾佳、一年半かけて制作したデビューアルバム「いつも一つに繋がっているよ」

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ソングライター、ピアニストの小川紗綾佳が6月3日より三カ月連続で三部作のデビューアルバム『百徳鍵盤』をリリースする。

◆インタビュー動画、撮り下ろし画像(10枚)

自宅で音楽教室をしていた母の弾くクラッシックピアノで音楽と出会い、10代初めからオリジナル曲を制作し始めた小川紗綾佳。『百徳鍵盤』はそんな彼女の「音楽人生をすべて詰め込んだベストアルバム」だという。その言葉通り、『百徳鍵盤』は3部作として3カ月連続でリリースされるという豪華な作品だ。今回、小川紗綾佳に本作について、詳しく語ってもらった。

  ◆  ◆  ◆

■悲しい時も苦しい時もどんな時も美しい

──『百徳鍵盤』はデジタルアルバムが3枚と、3枚のデジタルアルバムを2枚組のCDにした計4種類でリリースされるということですが、それぞれの違いと思い入れを聞かせて下さい。

小川紗綾佳(以下小川):デジタルアルバムは『百徳鍵盤』sideA、B、Cと3カ月連続でリリースします。『sideA -どんな時も美しくて-』はインストルメンタルを集めたピアノソロ作品です。自然をイメージして作曲した曲や、生活の中に溶け込むような音を集めて、力を抜いて深呼吸できるようなアルバムをイメージしました。


──『sideB -花が咲いたなら-』はどんなイメージでしょうか。

小川:『sideB -花が咲いたなら-』と『sideC -everywhere-』は歌ものを集めました。『sideB』は陰と陽に例えて言うのなら、陰の部分をクローズアップしている曲達が多いと思います。でも、陰を悪いものとは捉えていないんです。一見暗いテイストだけど、陰の中にも必ず光はあるので、陰の中からしか見えない光やその中だからこそ見つけられる希望を感じてもらえるような歌詞やメロディーにしました。

──では、『sideC -everywhere-』は?

小川:『sideC』の方は、明るいテイストなんですが、ただ明るいだけではなくて、明るくなるまでの辛い時期があったからこそ前向きになろうと思えたり、悲しいことがあったからこそ喜びを感じられたり……寂しさや心の痛みを感じたりするところから光が溢れて、強くなっていけるような曲を集めました。CDは歌ものとピアノソロに分けています。曲順は、ピアノソロは一枚を通してリラックスしてもらえるような、整体でいうと身体を揉みほぐしてあげるような感じにしました。歌ものは通して聴いた時に、最初はダークな気分でも、ちょっとずつ前向きになっていけるような流れにしたいと思って作りました。


── CDを買う人は、コンセプトポエムとセルフライナーノートを読むことができるんですよね。

小川:そうなんです、CDを手に取った方だけが読めるんです(笑)。各曲に対してポエトリーな感じの言葉が欲しいと言われて……普通は音楽に全部込めて蓋をするから、そこにさらに言葉をってどうなのかなって思ったんですけど、結果的にわたしから曲に向けてのラブレターのようなものになりました。CDという“カタチ”にするから出来た遊びだと思いますし、そこも表現の一つとしてお楽しみ頂けたら嬉しいです。

──初めて書いてみたのとのことですが、いかがでしたか。

小川:コンセプトポエムも、最初はうーん、書けるかなぁと思ったんです(笑)。コンセプトポエムが付いているCDって記憶に無くて。でも、どんな文章が出てくるかなぁと思いながら眠った翌朝、言葉が聴こえてきて、何故か泣きながら文章を紡ぎました。悲しいのではなくて、心の奥が震えているというか……曲も、いつもそんな風によく泣きながら作るんです。“悲しい時も苦しい時もどんな時も美しいよ……昔も素敵だったし、これからも素敵だから、今を感じよう”っていう気持ちはアルバムのどの曲にも込めたかったことだと思います。


──コンセプトポエムもセルフライナーノートも、文学的な香りを感じました。本が大好きだと伺っているんですが、好きな作家について教えてください。

小川:特に好きな作家は二人います。川端康成さんと石牟礼道子さんです。両親も本がすごく好きで、家に山積みになってたんです。自由に読み放題でした。漢字が読めない幼稚園の頃は大人が楽しむ様な漫画をこそこそ読んでいたり、初めて読んだ小説が村上龍さんの『限りなく透明に近いブルー』だったり。当時の私にはなかなかファンキーな内容でしたが、ドラッグや性や差別といった強烈なものの中に、グッと読む人を入り込ませるような村上さんの言葉に強い力を感じました。そういった刺激的なもの、官能的なものが元々好きだったんですが、川端康成さんの『美しさと哀しみと』を読んだ時に、なんて美しいんだと衝撃を受けました。同じ官能的な描写でも、これまでは肉感的でドロッとした赤黒さを感じていたものが何だかとてもキラキラしていて、どこのどの文を読んでも儚くて、美しいんです。儚いって綺麗なんだと教えてくれた川端康成先生、大好きです。

──石牟礼道子さんについては?

小川:石牟礼道子さんの文章は凄まじすぎて、一行読んだら次になかなか進めないくらいパワーが強烈なんです。万物の真理を隠さず書いてしまうと言うか、もう、圧倒的なんですよね。森も滝も、地球の全ての自然の中に一人きりで入っていってその声を全身全霊で聞いている……そんな文章を書かれるんです。石牟礼さんとは数年前にご縁があって、亡くなる前に2回お会いできました。石牟礼さんの詩に曲を書かせていただいたことがあって、それをご本人に聴いていただいた時に「綺麗な曲ねぇ」と笑顔で何度も言って下さり、とても幸せな気持ちになったのを覚えています。幼少期から、友達と話すより本の世界に入っていたい子でした。図書館は今でもずっと大好きな場所で、小学校に入る前から気に入った作家さんの本は全部読んでいましたし、落ち込んでいた時期も本に救われたりする本好きな子どもでした。


──歌詞は何歳から、どのようにして書かれているんですか? 書く時に気を付けていることはなんでしょうか。

小川:歌詞は曲を書き始めるよりも早く、12歳から書き始めました。普段過ごしている中でハッと言葉が浮かんできて、そこから編むようにして作っていきます。曲にする時はやはり音に乗った時のことを考えますし、聴いた方の生活に寄り添えたら嬉しいので、思わず口ずさめるような……。特にサビは難しい言葉は出来るだけ使わないようにしています。あとは曲が進んでいく中で、聴いている方の気持ちが置いてきぼりにならないように気を付けています。例えばマイナー調の曲だと、曲を書いている人が悲しみに没頭してしまうと自己満足で終わってしまうので、聴いている人がちょっとずつでも気持ちが明るくなるような、垂れさがっていた首が15度でもいい、ちょっとでも上がればいいなと思って書いています。

──今回アルバムをつくるのに一年半かかったそうですね。その中で、特に印象に残っているエピソードを教えてください。

小川:ひとつは、アルバムを作ろうと決心した瞬間です。15年間、ソロアルバムを作りたいとずっと思い続けてきました。でも、一番大事な夢って叶うのが怖いじゃないですか。叶えられないかもしれないという怖さと、叶ってしまったら何が先にあるのかっていう怖さ。自分の頭に鳴っているままの音を、誰にも気を使わずに作りたいっていう思いはずっとあったんですけど、なかなか自信が持てなくて……曲はずっと作っていましたが、人から頼まれたことに時間を使ってしまったり人の希望に合わせてしまったりという環境のせいにして、自分から逃げていたんだと思います。でも逃げている自分と叶えたい心が引っ張りあって線がピンって切れた時に、“ああもう自分の好きにしていいんだな”って思い切ることができた瞬間に「everywhere」(『sideC -everywhere-』に収録)が頭の中に流れました。今までの自分とバイバイして、新しい自分……新しいというか、元々のやりたかった自分、に戻るぞ! という決断ができた瞬間は思い出深いです。


──素敵なエピソードです。

小川:ふたつめはレコーディングです。今までもレコーディングをした経験はありましたが、セルフプロデュースは初めてで、これがいいとか悪いとか、あと何回テイクを録りたいといった、全てを自己責任でしたことが初めてでした。知らなかったことも、自分の改善点もたくさん見つかりました。そして、集中してレコーディングできる環境を頂けたからこそ、日に日に自分の出せる音が幅広くなってどんどん変わっていくのが感じられました。ああやっぱり、やりたいことって早くやった方が成長が早いし、もっと早く挑戦すればよかったのかなって思いました(笑)。でもね、逃げている時期も必要だったし、その時期に出会えた大事な経験も人達も沢山あるし、やっぱり、きっと自分自身がその時間も含めて経験したかったんだと思います。

──台風19号をきっかけにYouTubeやFacebookでのライブ配信を始めたそうですが、生のライブと違うと感じることはありますか。

小川:最初はすごく困りました。生のライブって客席のお客さんとのやりとりで出来上がっていると思うんです。ステージからエネルギーを投げるとお客さんからエネルギーがかえってきてそのエネルギーの循環を楽しむ、みたいな。でも配信ってそういう感覚をどこに向けていいのかがわからなくてエネルギー迷子になりました(笑)。始めた頃に、プロデューサーから“初めて水槽に放たれたイルカのようだ”と言われました。「ずっと大海原を泳いでいたのに突然水槽に入れられて、さあ泳いでご覧、って言われた感じだったよ」って(笑)。同じように演奏している様に見えるんですけど、それだけ生と違うんです。感覚を掴むまでに配信を10回やって、やっと落ち着いた気がします。でも、遠方のファンの方々に見ていただけたり、ファンの方同士でコミュニケーションが取れたり、観る側の気楽さだったりと、配信ライブならではの良さも沢山あると思いました。


──配信でも生でも、ライブを拝見しているとファンの方との交流が盛んだなと思います。これまでの交流で、印象に残っていることを教えてください。

小川:私の話し方と声が眠くなるってよく言われるので敢えて夜に配信して最後に「おやすみなさい。」(『sideC -everywhere-』に収録)という曲を唄っていたんですが、この曲をきいて「今の自分の状況に当てはまりすぎて、自分に唄ってくれている様で涙が出ました」という感想を沢山いただいたことが嬉しかったです。この曲ができた時、今回のアルバムで一番言いたかったことはこれだったんだなって思えたんです。歌詞の中にも出てくる、“ただいるだけでいいよ”っていう気持ちは、きっと私が自分に対して一番思いたかったことでもあって。 物や情報が溢れる中で、これが良いとか誰が悪いとか、これをしないとダメとかあれが出来たら凄いとか。人に対しても自分に対しても、何だかみんな疲れちゃって、本当はしなくちゃいけないことなんてないのに「なんでしてくれないの」とか「なんでそうなるの」とか……身近な人にほど思ってしまうけど、本当は自分も相手も“ただ、いるだけでいいよ”って。みんなが会えない状況の中で、離れていても「いてくれて有難う」って想い合う気持ちを共感しあえたのは凄く嬉しかったです。

──アルバムで表現したかったことに、共感する映画を昨年ご覧になったとか。

小川:新海誠監督の『天気の子』です。私が表現したかったことの一つに「祈り」というテーマがあるのですが、ちょうどアルバムの制作を始めた頃、もともと好きだった新海監督の最新作が公開されていたので見に行きました。劇中、主人公がずっと祈りの気持ちを届けている姿を真っすぐに描いていて。祈る、という言葉は現代だと少し大げさに感じてしまうような社会風潮があるような気がするんですが、憚られることではなくむしろとても自然なことだと思っています。祈りの気持ちって、純粋で誰にでも湧いてくるものだと思うんですよね。祈っているときって、自分の体も心も越えて、気持ちが飛んでゆく感じ。その時って、体がなくなっていくような、どこまでも想いが広がっていくような感じがあると思っています。私は今回のアルバムで“みんなどこにでも行けるし、どんなこともできる、いつも一つに繋がっているよ”っていう気持ちを表現したいと思っていたので、『天気の子』で新海誠監督が伝えたい世界観にすごく共感しましたし、祈りという姿をあれだけ真っすぐ観客に届けていることに感動しました。とても、美しいと思いました。


──最後に、これからアルバムを聴く方々に向けてメッセージをお願いします。

小川:本当にいろんな種類の曲が入っているので、元気になりたいなとか、リラックスしてボーッとしたいなとか、不安な気持ちを落ち着けたいなとか、聴いてくれる人のその時々の気分に、アルバムの中の曲どれかがヒットして、寄り添うことができたらと思っています。曲は聴いてくれる人と一緒に育てて行くものだと思うんです。どんな風に聴くかは私が決められることではないから聴いてくれる人に託します。ぜひ好きに聴いてください!まるでDJ になったつもりで「この時にはこれが合うんだよな~」とか、好きに楽しんでもらえたらいいなって思います。聴いてくれた人から生まれた気持ちは、きっと私にも届いて感じられると思います。そうすることで私は、もっともっと曲を生み出していきたいって思えるんです。

取材・文◎宮﨑千尋
撮影◎藤原雪

『百徳鍵盤』


DIGITAL:3部作・3カ月連続リリース

■タイトル:百徳鍵盤-どんな時も美しくて-
配信開始日:6月3日(水)

1 どんな時も美しくて
2 北から風が吹き南の海が香る為の旋律
3 ある夜の音
4 あの星に帰りたい
5 never ending road or...
6The Candle Light In The Darkness ~あなたの夜が穏やかでありますように~
7 灯る
8 支笏湖の化石


■タイトル:百徳鍵盤-花が咲いたなら-
配信開始日:7月1日(水)予定

1 花が咲いたなら
2 憩いの園
3 empty
4 白い朝


■タイトル:百徳鍵盤-everywhere-
配信開始日:8月5日(水)予定

1 everywhere
2 sparkling
3 おやすみなさい。
4 あるいてく
5 Good Luck, ○○


■百徳鍵盤 ※3部作を2枚組としてパッケージ
発売日:7月1日(水)予定
品番:hOmEAU-004~5
価格:¥3,000(税別)
レーベル:hOmEAU

DISC1
SIDE-A
1 どんな時も美しくて
2 北から風が吹き南の海が香る為の旋律
3 ある夜の音
4 あの星に帰りたい
5 never ending road or...
6The Candle Light In The Darkness ~あなたの夜が穏やかでありますように~
7 灯る
8 支笏湖の化石

DISC2
SIDE-B
1 花が咲いたなら
2 憩いの園
3 empty
4 白い朝
SIDE-C
5 everywhere
6 sparkling
7 おやすみなさい。
8 あるいてく
9 Good Luck, ○○


◆小川紗綾佳 オフィシャルFacebook
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