【インタビュー】デイヴィッド・カヴァデールが語る、コロナ禍の現実と最新作の背景、そしてホワイトスネイクの定義

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去る6月19日にリリースされたホワイトスネイクの『ザ・ロック・アルバム』が、ここ日本でも快調な動きを見せている。この作品は純然たるニュー・アルバムではなく、デイヴィッド・カヴァデール自身の意向により企画された新編成のベスト・アルバム・シリーズの第一弾にあたるもので、そのタイトルが示す通り、このバンドの輝かしい歴史のなかからロック・トラックばかりが厳選されたものとなっている。このシリーズは『レッド・ホワイト・アンド・ブルース・トリロジー』と銘打たれており、この先にはラヴソングばかりを集めたもの、ブルースを基調としたコレクションも登場することになっているのだという。

◆デイヴィッド・カヴァデール (ホワイトスネイク) 画像 / 動画

今回は、この『ザ・ロック・アルバム』の発売を前に行なわれたカヴァデール御大のインタビューをお届けする。この9月には69歳になる彼は、作品に関してはもちろんのこと、新型コロナ禍の影響に振り回されている世の現状も踏まえながら、今現在の心境を包み隠すことなく語ってくれた。以下は去る5月下旬の某日、国際電話を通じての彼とのやりとりである。

   ◆   ◆   ◆

■かつて平常だったものは今や存在しない
■我々は学び直さねばならないんだ

──ご家族の皆様も含め、お元気でしょうか?

デイヴィッド・カヴァデール(以下デイヴィッド):みんな元気にしているよ。この現状にとても感謝している。日本ツアーを実現させることができなかったのは残念としか言いようがないが、本当にうまくいっている。日本のみんなが『フレッシュ・アンド・ブラッド』を支持してくれているのはわかっていたし、我々も3月に日本に行けることをとても楽しみにしていたんだが、あの恐ろしい新型コロナ・ウィルスが全世界を感染させてしまった。本当に心が痛むよ。筆舌に尽くしがたい。実は公演先のシンガポールからロサンゼルスに戻る際に、アシスタントと私は乗り継ぎのために成田空港に立ち寄らねばならなかった。そこには1時間もいなかったんだが、全員が検温されたし、関係者はみんな手袋とマスクを着用していた。あれは、まったくもって適切な対応だったといえる。塵ひとつ落ちていなかったからね。ところがロサンゼルスに到着してみると、誰もマスクや手袋などしていなかった。私は思わずつぶやいたよ。「これはマズいことになるぞ」とね。なにしろロサンゼルス到着時には「おかえりなさい、ミスター・カヴァデール」と言われただけだったんだ。幸いにもアシスタントともども、誰も感染せずに済んだがね。それはありがたいことなんだが、他の国と同様、ここアメリカはとても病んだ状態にある。悲しいことだがね。

──コロナ・ウィルスの問題もありますが、あなたがヘルニアの手術を受けるとのニュースもありました。そちらの具合はどうなのでしょう?

デイヴィッド:私は比較的小さなコミュニティのなかで暮らしていてね。警官や医療従事者といった地方自治体の人たちともとても近しい付き合いをしているんだ。で、医者に言われてしまったんだ。「なんということだ。こんなにも酷い両側鼠径ヘルニアは見たことがない。これはなんとかしないといけない」とね。声を出すだけでとても痛んだんだよ。大きな声を出す時、私は全身を使う。するとひどく痛んだんだ。それで医者は私のビジネス・マネージメントに連絡して、「彼にツアーは無理だ。キャンセルしないといけない」と通達した。そして、それから12時間後に、世界中が閉鎖され始めたんだ。私を診てくれることになっていた外科医も含めてね。彼はリノ (=ネバダ州の都市)の公衆衛生局長官でね。いわゆる大物なんだ。で、突然、命に関わらない手術は延期になってしまったんだよ。コロナ・ウィルス関連の病院だけが指定された。そして、今のようなパンデミックになってしまったんだ。だから、誰もツアーに出られない。本当に興味深い時代だ。もちろん悲劇ではあるが、自然は妨げられることなく回復している。自然界は美しい季節を迎えているよね。今、我が家の庭には、これまでになく多くの動物がやって来るんだよ(笑)! だが、いまだに危険な状況は続いているし、多くの国のリーダーたちの判断力には疑わしいものがある。私はよくニュースを見ているんだ。主にBBCだが、首長たちにはリーダーシップの欠如がうかがえるし、そのために事態がさらに悪化しているのがわかる。私の第二の祖国では、人々が仕事に復帰することに対してかなりのプレッシャーがかけられている。私が話をしている医者の多くは、かなりたちの悪い第二波が訪れるだろうと予見している。もうかれこれ2ヵ月にわたり (注:5月下旬現在)こんな生活を強いられているから、人々は退屈している。だが、そんなことは何の言い訳にもならない。

そんななか、私は「Masks And Gloves」(マスクと手袋)という曲を書いてSNSで発信したんだ。「これが今の時代のnew sexyなんだよ、ベイビー! みんな、ビキニを着るのをやめてトライキニ (注:ビキニとマスクのおそろいセット)を着ているんだから」というやつさ。もはや平常通りのものなど何もない。「早く平常に戻りたい」と言う人がいるが、かつて平常だったものは今や存在しない。我々は学び直さねばならないんだ。より集中したコミュニティになる必要がある。自分たちの暮らす街や都市だけでなく、世界中がね。世界全体に影響が及んでいる。それを政治や対立の口実として使うのではなく、今こそみんなでひとつにならなければならないんだ。日本も、ドイツも、ロシアも、中国も、一丸となって人類を守らねばならない。だからこそ、各国の首長たちのリーダーシップの欠如は、私にとっては脅威でしかない。恐ろしいよ。彼らは、選挙で代償を支払うことになる。政府は通常、人民の手により、人民のために選ばれるべきものだが、今は決してそんなことになっていない! こんな世界的パンデミックのさなかに人々を仕事に復帰させようとするなんて、ぞっとするよ。……それはともかく、肝心の話をしなければならないね。ごめんよ。


──いえいえ、とんでもない。そうした不安定な状況にあるとはいえ、ご自宅で過ごされる時間が長くなっていることで、クリエイティヴになれる部分もあるんじゃないですか? 曲作りのための時間がたっぷりともたらされたわけですから。

デイヴィッド:その通りだ! そういえば、日本にはNETFLIXがあるのかな?

──ええ、もちろん。

デイヴィッド:ロックダウンになった以降、NETFLIXやDisney + (ディズニープラス)といったストリーミング会社への加入者は、1,500万人も増えたんだ。みんな、自宅で楽しめるエンターテインメントが欲しいんだな。当初、私はワーナーにこう言っていたんだ。「これはいわゆる流行りのアルバムではないんだから、リリースを来年まで待たないか? 様子を見てから決めるべきじゃないか?」とね。しかしそうした事態を鑑みた時に気付かされたんだ。「待てよ。みんなは視覚ばかりじゃなく、聴覚的にも心地好いものを求めてるんじゃないか?」ということにね。家事をしている時にはテレビを観られない。だけどヘッドフォンを付けてホワイトスネイクのアルバムを聴けば、決して寂しい思いをせずに済むじゃないか、ベイビー! それが今作の目的とするところだったんだ。同時にこれは長年にわたってやりたかったことでもあり、私自身にとってとてもエキサイティングなことなんだよ。早くみんなに聴いてもらいたくて仕方がない。

まもなく、「エニシング・ユー・ウォント」の新しいビデオが公開される。これは私のお気に入りのアルバム『レストレス・ハート』からの曲だ。リミックスが施されていて、現在のギタリスト、ジョエル・ホークストラがフィーチュアされているし、超ホットなオルガンはデレク・シェレニアンが弾いている。これはデイヴィッド・カヴァデールの中途半端なソロ・アルバムではなく、まさしくホワイトスネイクのアルバムなんだ! エキサイティングだよ。ホワイトスネイクという家は同じままだが、新しい塗装が施され、家具を並べ替えて部屋を模様替えし、素敵な鉢植えを買ったというわけさ。はっはっは!



──えーっと、要するに、すべての楽曲がリミックスされているということでしょうか?

デイヴィッド:そうだ。『スライド・イット・イン』収録曲の最近のミックスもそうで、「ラヴ・エイント・ノー・ストレンジャー」は微調整してギターをさらに入れたし、「オール・オア・ナッシング」ではジョン・ロードとコージー・パウエルの音量レベルを上げた。というわけで、これは実にユニークな作品になっているよ。『フォーエヴァーモア』からの「テル・ミー・ハウ」などは、まったく新鮮で楽しいアレンジになっているしね。私は、リミックスを聴くのが大好きなんだ。有名な曲を誰かがリミックスする、というのが好きなんだよ。デイヴィド・ボウイの曲とか、シールのデビュー・アルバムは素晴らしいけども、私はオリジナルよりもリミックス盤のほうが気に入っているんだ。だが、そうしたリミックスがロックの領域で行なわれることは稀だろう? だったら私がやってやろうじゃないか、と考えたんだ。作業も楽しかったし、実際にクリス・コリア―が手際良くリミックスしてくれたものを聴いてみた時にも「これはイケるじゃないか!」と思ったね。正直なところ、過去の作品のなかには、高名な人物が手掛けたものでありながらミックスに満足できていなかったものもあったからな。

■要は、誰が歌っているか
■ということなんだ

──時代に即した音、というのは変化していくものでもありますしね。

デイヴィッド:そう。私がどれだけ長い間、これをやってきたのかを考えてみて欲しい。ホワイトスネイクってものを45~47年にもわたりやってきたんだ。アルバムを作るたびに我々はさまざまなテクノロジーを駆使してきた。だが、なかにはまるでその時代に埋めたタイムカプセルから取り出したかのようなサウンドの曲もあるわけだ。人によってはそれがすごくいいんだろうけどね。私は、DJになり損ねた人間なんだ。カセットテープが登場した当時、あれは私にはまさにうってつけだった。プレイリストが、ムード・テープが、ミックス・テープが作れたんだからね。今ではもちろん、iPhoneやiPad、ノート・パソコンに、2テラバイト相当の音楽が入っている。私は大の音楽ファンなんだ。でも、首尾一貫したホワイトスネイクのプレイリストを作るのはとても難しかった。サウンド面での食い違いがかなりあったからだ。80年代にレコーディングしたもののサウンドは、楽曲の魅力を損ねていた。楽曲そのものは素晴らしかったんだがね。そして、90年代にはまたその時代なりのテクノロジーがあり、それが反映されている。もちろん、いずれもホワイトスネイクという家であることに変わりはないんだが、今回はそこに新たな塗装が美しく施され、見事な鉢植えが飾られていて、それもまたホワイトスネイクの家として成立している。そこが肝心なんだよ。こうして一貫性のある音でひとつのアルバムにまとめられたことが、ホワイトスネイクのメイン・ソングライターでありメンバーである私にはものすごく心地好いんだ。時間と資源を惜しみなく費やしながら、そういうことに頑張って取り組んでいこうと心に決めたわけなんだ。いずれその全貌が明らかになるよ、この先に登場するもののことも含めてね。

健康なり何なり、なんらかの理由でたとえ私がツアーに出られなくなったとしても、今現在の契約先であるワーナー・ブラザーズと企画していることはこの先5年後まで続いていくし、同社を通じてホワイトスネイクの音楽が届けられていくことになる。世界がどんな状況になろうとも、デイヴィッド・カヴァデールの音楽を聴きたいと思ってくれている人々のために、私は変わらず音楽を作り続けていくことになる。そのための素晴らしいプランが組まれているんだ。


──この『ザ・ロック・アルバム』には、あなたのソロ作品である『イントゥ・ザ・ライト』から選曲された「シー・ギヴ・ミー」も収録されています。あなたご自身のなかではホワイトスネイクの作品もソロ名義での作品も分け隔てないということでしょうか? それとも今回の新ヴァージョンをもってこの曲が“ホワイトスネイク化”されたと解釈すべきなんでしょうか?

デイヴィッド:要は、誰が歌っているか、ということなんだ。結局のところ「この歌声はデイヴィッド・カヴァデールか。つまり、ホワイトスネイクだな」と受け取られるわけだよ(笑)。実は、このことを言うのは君が初めてなんだが、実はワーナー側と話し合ったんだ。『イントゥ・ザ・ライト』の新たなミックスの仕上がりがあまりにも強力だったんで、この作品に参加したミュージシャンたちと話をして、これをホワイトスネイク名義の作品にすることにしたんだ。だからいずれボックス・セットなどにこのアルバムの曲を入れる場合には、ホワイトスネイクの『イントゥ・ザ・ライト』からの選曲として入れる、とね。だからこのアルバムに参加していたミュージシャンたちは、当時のホワイトスネイクのメンバーとしてクレジットされることになる。何故かって? 私にはそれが可能だからだ。ふふふっ。私にはそれができるんだよ。私の声が載っていなかったら、あのアルバムはホワイトスネイクには聴こえない。とはいえカヴァデール・ペイジみたいだと言う人もいたけどね。レッド・スネイクやらホワイト・ツェッペリンやらと揶揄する向きもあった(笑)。しかしそれは、私の歌声が載っていることによってホワイトスネイクの作品として認識され得るものになっているんだ。

──さて、そろそろ時間のようです。今回のリリースについてはとても嬉しく思いますが、同時に、この状況が落ち着いて来日公演が近い将来実施されることを願っていますよ。

デイヴィッド:私も同じ気持ちだ。実を言うと今年のツアーはチケットがこれまでになかったほどよく売れていて、それを中止にするのはとんでもないことだった。誰かが体調を崩して、ライヴを1回でも中止しないとならなくなれば、どれほど人々をガッカリさせることになるのかを私はよく知っている。なにしろ世界中から人が来てくれるんだから。仮にロンドンのウェンブリー・アリーナとかでライヴをやると、日本からだって観に来てくれる人たちがいる。高い交通費を払って、世界各地から来てくれるんだ。それを、私の胃の調子が悪いとか、具合が悪くて食欲がないとか、そんな理由で中止にするわけにはいかない。もちろん今回のことについては、それどころじゃない理由があったわけだが、一公演だろうと中止にせざるを得ない状況になるのは心が痛むことだ。だから次回は、69歳になった私が日本に行くことになるはずだし、その機会を楽しみにしていて欲しい。ちなみに先頃、「69歳で引退する」と言ったのは単なる冗談だ(笑)。単純に、私みたいな人間が引退するのに、それ以上に相応しい年齢があるとは思えなかったからそう言っただけのことなんだ。意味は分かるよね(笑)? だから、それは気にせずにいて欲しい(笑)。

取材・文◎増田勇一


■WHITESNAKE『The ROCK Album』

2020年6月19日(金)リリース
WPCR-18347 ¥2,500+税
01. スティル・オブ・ザ・ナイト
02. ベスト・イヤーズ
03. テル・ミー・ハウ
04. ラヴ・エイント・ノー・ストレンジャー
05. オール・オア・ナッシング
06. ギヴ・ミー・オール・ユア・ラヴ
07. キャン・ユー・ヒア・ザ・ウィンド・ブロウ
08. レストレス・ハート
09. エニシング・ユー・ウォント
10. ヒア・アイ・ゴー・アゲイン
11. ジャッジメント・デイ
12. シー・ギヴ・ミー
13. クライング
14. キャント・ストップ・ナウ
15. オールウェイズ・ザ・セイム
16. フォーエヴァーモア
▼日本盤特典
・日本盤のみSHM-CD仕様
・デイヴィッド・カヴァデール直筆メッセージ付き特製フォトカード(封入)

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