【レポート】J、初の無観客配信ライヴ完全ドキュメント「成功例を積み重ねて進んでいかなきゃいけない」

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ピンチをチャンスに。ポジティヴ・シンキングの象徴のようだったそんな言葉も、いまや慣用句みたいになり過ぎてしまい、あまり説得力を持たなくなりつつある気がするが、考え方ひとつ、ヴィジョンの持ち方ひとつでネガティヴな状態にある何かを逆方向に変換することは不可能ではない。新型コロナ禍の影響により従来通りの活動がなかなかできずにいるミュージシャンたちのなかには、こうしたご時世だからこそ割り切って地下作業に打ち込む向きもあれば、今日的なテクノロジーを用いながらファンとの繋がりを保とうとする人たちもいる。もちろん、ライヴができないことでモチヴェーションが上がらず何もする気が起こらない、という人たちも。そうしたすべてがリアルな現実であり、いずれかひとつが模範解答だというわけではない。

◆J 画像

6月27日、土曜日の夜、Jは都内の某スタジオにいた。レコーディングでもリハーサルでもなく、ライヴ演奏のためだ。この夜、本来であれば彼は新宿BLAZEにて<F.C.Pyro.NIGHT.vol.17>と銘打たれたファンクラブ会員限定のライヴを実施しているはずだった。ただ、ライヴ開催についての自粛ムードが解けつつある流れにあるとはいえ、残念ながら従来と同じ形で心おきなく熱く濃密なライヴを楽しめる状況にはまだない。そして彼が選んだのは、いわゆる生配信によるライヴの実施だった。題して<J LIVE STREAMING -Online Late Show->。その名の通り、演奏開始は通常のライヴが終演を迎える時刻に近い、午後9時に設定されている。

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■無観客配信ライヴ開演直前に語った
■「待ってるばかりじゃ何も始まらない」

午後8時、すでにサウンドチェックなどを済ませ、あとは開演を待つばかりの状態にあったJのもとを訪ねた。何ヵ月か対面せずにいた間にすっかり長髪になっていた彼にそのことを指摘すると、「なんか、ちょっと70年代風になってますよね。もしくはレイドバックしちゃってるのかもしれない」と言って笑う。そして彼は、この試みに踏み切った経緯や心情を語ってくれた。


「配信とはいえ、ライヴはライヴ。だけどやっぱり勝手が違いますよね。演奏するっていう意味では同じだけど、目の前にみんなが居ないわけで、当然ながらいつものライヴとは呼吸感が違ってくるはずだし。ただ、自分の頭のなかでは、全国からこのライヴに向けてアクセスしてくれてるみんなの姿が見えるはずだという気がしていて。だからなんか、精神状態というか心持ちみたいなものはいつものライヴの時とあまり変わらないかな」

「LUNA SEAもツアーがほぼ丸々と言っていいほど延期になり、僕のソロのライヴも同じように延期になって。このコロナ禍の影響がいろんな形で出ているなかで、みんなが得体の知れないものと対峙してる、という現実があるじゃないですか。ただ、そこで自分がやるべきことというのは、やっぱり音楽をやってる人間として、その音楽を鳴らし続けていくこと。それが僕自身の考えなんです。ただ、直接的なライヴをいつものように会場でやることは現時点では難しい。そこでどういう形をとるべきかが問題になってくるわけですけど、結局は、変わっていく状況のなかで、その時なりのベストな形を模索していくしかないというか」

「オンラインでのライヴ配信というのは、言ってしまえば、この状況下だからこその選択ではあるわけだけど、同時に、その形だからこそできることっていうのもあるはずじゃないですか。たとえば今日のライヴは夜の9時から始まるわけですけど、ホントはもっと遅くてもいいんじゃないかと思ってた。というのも、誰も帰りの時間を気にしなくていいわけだし(笑)、家でどんな観方をしてても構わないわけだから。ベッドに寝転がってたっていいし、日常のいろんなことを全部片付けてから、お酒でも飲みながら観てもらってもいい。オンラインだったらそういう“大人の時間”にライヴをやっても問題ないし(笑)、そうやってこの状況をポジティヴに捉えてみると、なんかすごく楽しいことができるんじゃないかという気がしてきて。オンラインという状況を逆に楽しむ、というかね。待ってるばかりじゃ何も始まらないし、とにかくやってみよう、と。そんな気持ちの表れですね、この試みは」

「もちろんライヴハウスでやれるに越したことはないけど、今それをやるとなるといろんな問題が伴ってくるし、いろんなことを考えないとならなくなってくる。それについては今、各ライヴハウスの人たちが一歩一歩、従来通りのライヴができるように対応を進めていってるわけじゃないですか。素晴らしいことだと思うんです。ライヴハウスの人たちこそが、今、世の中の誰よりもソーシャル・ディスタンスってものを気にかけながら模索して、力を尽くしてくれてるんじゃないかと思うところもある。そんななか、自分としては、こんな状況下でも可能なアクションのひとつとしてカウントしてもらえるようなことをやっていきたいな、と思ってるわけなんです」


Jの口調はいつものようにきっぱりとしていて、そこに迷いは感じられなかった。配信ライヴという選択を“せざるを得ない”のではなく、今現在なりのベストなチョイスとして捉え、そうした手法ならではの特別な何かをそこに盛り込もうという強い意思が、言葉のひとつひとつから伝わってきた。もちろん、ステージの上で、オーディエンスを前に繰り広げられるライヴこそが最上の形ではあるはずだ。が、それを実施するのに無理がある状況ならば、その次にベストに近い手段を選び、そこに付加価値となる何かを補っていけばいい。そうした心意気を、ライヴというものをこよなく愛するこの人物の言葉から感じられたことが僕は嬉しかった。

「確かに通常のライヴとは違いますよ。だけど、メンバーたちもみんなうずうずしてたはずだし、さっきリハーサルで久しぶりに一緒に音を出してたんだけど、みんな変わんないしね(笑)。ある意味、僕らのなかに本能的にあるものが、画面を通して観てくれる皆さんにも伝わるはずだと思う。しかもこういう機会だから、初めて観てくれる人たちも多いはずだしね。外国からのアクセスも多いみたいなんです。そういう意味では、ひとつの会場でやるライヴとはまた違った視野の伴ったものになるんじゃないかと思うし、このやり方は、新しい形の選択肢のひとつとして今後も存続していくことになるような気がしていて……。なんか、こんなふうに考えるのはポジティヴすぎるんですかね(笑)? でもこの状況下、これもアリだって気付かせてもらえたのは確かだし、その楽しみ方を自分たちで生み出すことができたら、勝ちだと思うしね。もっと言うと、本当のライヴの良さってものを知ってる自分たちが、ストリーミング・ライヴの楽しさってものを自分たちなりに掴めたなら、それは素晴らしく価値のあることだと思うし。それこそ世界中でこういうことが定着していったなら、『今日はポルトガルでやってるこのバンドのライヴをリアルタイムで観ちゃおうか?』なんてことも自宅に居ながらできるようになるわけで」

事実、さまざまな国や地域の、さまざまなアーティストたちがライヴ配信を実施するようになっている。当初は“STAY HOME”を強いられる状況下に対応すべくアーカイヴ映像などが無料開放になるケースが目立っていたが、配信を目的とするライヴが実施される例も増えてきているのだ。コロナ禍の影響によりエンターテインメント産業が大きな打撃を喰らっているという現実は、世界共通のもの。ライヴを観に行くことに飢えた音楽ファンも、人目に触れる形で演奏する機会に飢えている演者も、地域を問わず世界中に存在するのだ。

もちろん誰もが望んでいるのは従来通りにライヴが開催できるようになる環境の復活だろうが、そのためにある程度以上の時間を要することは明白だし、こうした状況下なりの手段として配信ライヴが定着していく可能性は充分にある。同時に、その実施の機会が重ねられていくなかで、今はまだ実験的ともいえる配信ライヴというもの自体が洗練/熟成されていくことになるわけで、いわゆる実際のライヴと配信ライヴの双方を効果的に使い分けながら活動していくことが、アーティスト自身にも求められるようになってくるのかもしれない。もちろんそれは受け手側にとっても魅力的なことであるはずだし、極端な言い方をすれば、配信も含めて年間365本以上のライヴをリアルタイムで鑑賞することも不可能ではなくなるかもしれないのだ。そしてJもまた、新常識というやつが求められる現状に対応すべく、彼なりのやり方での新たな試みへと乗り出したというわけだ。

午後9時、モニター画面には薄暗いスタジオの空間が映し出されていた。その映像の上に、開演を待ち焦がれるメッセージが次々と流れてくる。実際にライヴ会場に出掛ける時と同じように、わざわざ着替えて待ち構えている人たちも少なくないようだ。「お腹の子と一緒に観ます」「遠距離から参加してます」といった書き込みも見られる。ふと目に飛び込んできた「ライター、用意した?」といった言葉にドキッとさせられた。もちろんそれは「PYROMANIA」のあの場面で一緒に炎を掲げようという呼びかけに他ならないわけだが、そのスタジオの片隅に潜んでレポートする態勢を整えている“ライター”としては、自分の存在に勘付かれてしまったかのような錯覚をおぼえてしまったのだ。

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